0389.うへあーいっ!
「言うのが長いから、ぽんだけでもいいか?」
「ああ。私もその方が言いやすい」
じゃんけんの勝敗は、五分五分な感じだ。良かった……。ダーク様は思考が読めないみたいだと、つくづく安堵する。
「「ぽん」」
バシッ!
「「ぽん。ぽん」」
バシッ!
……終わりが見えないんですけど。二人は無表情で黙々と叩いて被ってを繰り返している。まるで、頭叩き合い人形のようだなと思っていたら、「くっ」と呻いた二人の動きが乱れる。
二人は息を吐くと、「……ニコだからな……。やり直そう」と頷き合う。はて? 僕が何かしたっけ?
「「――ぽん」」
バシッ!
眺めていると眠くなって来るなぁ。うーん、考え事をすれば目が覚めるかな?
「「ぽん」」
バシッ!
『やるわね、あなたも』、『そちらこそ』と小さい声で呟くと、ヴァンちゃんが「俺もやる」と加わってくれる。
「「ぽん」」
バシッ!
『ほーほっほっほ。どうかしら? わたくしのハリセンの威力!』
『ほほほ。鳥の瞬きほどの威力もございませんわ!』
ペルソナさんは手が滑ってしまったのか、カコーンとボウルが転がって来る。拾って届けてあげてから、ヴァンちゃんに質問してみる。
「ねぇ、鳥さんって瞬きするの?」
「うむ。森の鳥さんしてた」
「そうなんだ~。今度見せて貰おうっと」
「「……ぽん」」
バシッ!
『こなくそいっ!』と動きに合わせて言ってみる。んー、ちょっとずれたかな?
「「…………ぽん」」
バシッ!
「うへあーいっ!」
ヴァンちゃんが珍しくテンション高めで、楽し気に言い放つ。
「ぶっ! ヴァンちゃん、何その『うへあーいっ!』って」
「ん? 気分。特に意味は無い」
「「………………ぽん」」
バシッ!
「へーっキュしゅっ!」
「おー、クマちゃん、豪快なくしゃみですね~」
「ずずっ。凄くムズムズしたのキュ。はぁ、すっきりしたでキュ~」
「次は私の番だね。何を言おうかな?」
期待に胸を膨らませているカハルちゃんが、ヴァンちゃんに相談している。
「『悪い子にはおしおきよ?』が俺のお薦め。ハートをいっぱい飛ばして言って欲しい」
「じゃあ幻影の魔法で作るね」
「ん。期待大」
盛り上がっていた会話が途切れた事で、音が止んでいる事に気付く。視線を向けると、困ったような目をしたペルソナさんとダーク様がこちらを見ていて、シン様とファード様、モモ様はお腹を抱えて声無く爆笑している。カエン様もさっきから膝が揺れているけど、おトイレでも我慢しているのだろうか?
「――おい、ちびっこ軍団」
はい? と全員で首を傾げると、「マジやべぇ……」と言いながら、ホノオ様が鼻を押さえる。くしゃみかな?
「退場」
戸口を指さすダーク様に厳かな声で言われてしまった。身に覚えが無くて困惑し、頭を寄せ合う。カエン様の足は、ただいまモフモフ会議が貸切中です。
「ねぇねぇ、ヴァンちゃん。何がいけなかったの?」
「掛け声のタイミングが合ってなかった所為?」
「ああ! 僕もずれた自覚はあったんだよね」
「ダークは求めるレベルが高いの。はぁ……次は私の番だったのに……」
「クマだってくしゃみしただけで言っていないのキュよ!」
「この無自覚集団め!」
大股で近付いて来たダーク様が、押し潰すような勢いで僕達の頭を撫でて来る。
「わーっ! カエン様の足と一体化しちゃいますよ!」
「しておけ! お前らの天然を少し吸い取って貰え!」
「カエン様、元々天然入ってる。もっといる?」
ヴァンちゃんの言葉でダーク様が手を止めてカエン様を見る。今の内に逃げたい所だが、気付かれて小脇に抱えられてしまった。残念……。
「私に自覚は無いのだけれど、そうらしいよ。ねぇ、ファード?」
「はい。とても可愛らしい一面ですね」
「お前はカエンなら何でもいいのだろうが。まったく、ここは天然の巣窟か」
ナデナデ攻撃が止んだので、天井を仰いでいるダーク様に聞いてみる。
「それで、どちらが勝ったんですか?」
「お前らの所為で勝負つかずだ。力が抜けるような事ばかりするんじゃない」
そんな事をしたつもりはないけど、ダーク様がそう感じたのなら一応謝っておこう。
「ダーク様、すみません。今度はもっと力が入る掛け声を考えますね」
「ん。タイミングバッチリを目指す」
「何も分かっていないのは、この頭か!」
何故かまた頭を乱暴に撫で繰り回される。もうっ、はっきり言ってくれないと分からないよね! と顔を見合わせる。カハルちゃんが水晶を向けて来たので、ぼさぼさ頭の後ろに右手の平を当て、「てへっ☆」という感じで舌を出す。
「二人共、良い感じなの~。次はダンスのホールドをお願いしまーす」
ちゃんとまだ覚えていたので組んで見せると、手を叩いて喜んでくれた。
「自覚がない者に反省を促すのは無理か?」
「いいじゃない。僕は最高に面白かったよ」
「やっている俺達の身にもなれ。なぁ、ペルソナ」
「……段々と、この子達が楽しいなら良いと思えてきた」
「……天然に毒されたか……」
ダーク様がお手上げだという感じで、顔を手の平で覆う。あー、こういう姿が様になるなぁ。カッコイイ……。
「――どうキュ?」
真似したクマちゃんは、視力検査の時に片目を隠しているようにしか見えない。
「い、いいんじゃないでしょうか」
「渋いでキュ~、カッコイイでキュ~?」
「は、ははっ、は。えっと、そうですね……」
まずい、目を逸らしてしまった。
「ニコちゃん、嘘はいけないのキュー。正直に答えるのキュ」
「だ、だって、カッコイイって言って貰いたい気持ちは凄く良く分かるんです! だから、視力検査にしか見えなくてもですね、あっ……」
勢い余って言ってしまった……。諦めの笑顔を僕が浮かべると、クマちゃんが「良いっキュよ。それでこそニコちゃんでキュ」と慰めてくれる。
「ポロリ~♪」
「ポロポロ~♪」
「「もひとつ、ポロポロ~♪」」
カハルちゃんとヴァンちゃんが口ずさむ。即席なのに綺麗にハモってますね……。へ、へへ……。僕も混ぜて貰おうかな、なんて……。うぅっ、自分のお馬鹿! うっかりさん!
「可哀想な奴だな。不憫さに免じて先程の事は許してやろう」
「うぅっ、ダーク様が優しい……。抉られた心の傷が癒えるまで胸を貸して下さい!」
「しょうがない奴だな。ほら、来い」
苦笑しつつも抱っこしてくれたので遠慮なくひっつく。こういう時に快く受け入れてくれるから、揶揄われても憎めないんだろうな。本当に味方となって欲しい時は、いつだって味方でいてくれる気前の良いお方なのである。
ダークとペルソナは耐えに耐えましたね~。シン達は早い段階で陥落しました。「うへあーいっ!」の威力は絶大です(笑)。
結局、ニコちゃんは揶揄われてもダークが大好きですね。姿を見るとつい駆け寄ってしまう懐きようです。
お読み頂きありがとうございました。
 




