0038.ミルンさん登場
「ニコ、どうしたんだ? 具合が悪いのか?」
会議が終わったらしいダーク様が、心配そうに僕を覗き込む。
「魔力を流す練習中に、私に大量供給しちゃったんだよ。今、少しずつ戻している所」
「そうか……。ニコもヴァンも徐々に慣れてくれ。戦いに間に合わないようなら魔法具を強化する事も出来るからな」
頷くヴァンちゃんと僕の頭を撫でたダーク様がフェイさんを呼ぶ。
「フェイには魔法粉の調合を頼みたいんだが、出来るか?」
「はい。材料はございますか?」
「フォレストが用意してくれている。武器に塗る用の毒と材料を受け取って来てくれるか。話は通してあるから」
「では、行って参ります」
そう言うと、小さなドラゴンの姿になり凄い速さで飛んで行く。あっという間に見えなくなってしまった。
「大きさが変えられるんですね」
「うん。皆が背に乗った姿よりも、本当はずっと大きいんだよ。その大きさまでだったら自由自在だよ」
「そうなんですか。僕ももっと大きくなれたらいいのにな」
「大きいニコちゃん……うーん、私は今の大きさの方が好きだよ」
好き⁉ 思わずもじもじする僕をダーク様がニヤニヤしながら見ている。うぅ、後で絶対揶揄われる。
「パチンコ部隊はこっちに来てくれるか? 話がある」
どうしたんだろうと皆が駆け寄ってくる。
「仕掛けを造ろうと思う。お前達には、それを作動させる事と攻撃の援護の両方を行って欲しい。命中率が高い者を中心に作動させる班を作る」
次々とダーク様が班に分けていく。あの組み合わせは、僕達の事を知り尽くしていないと出来ない。本当に優秀な方だ。白族が仕えたい人のトップに輝き続けているのは伊達じゃない。
「こんな感じか。後はミルンが一人、凄腕を連れて来る予定だ。――ちょうど来たな」
ミルンさんがお城の人に案内されながら姿を現す。村から離れるなんて初めて見た。
ミルンさんは村への仕事の依頼を全て管理している。誰を向かわせるか、どの仕事を引き受けるか、報酬に関する事など多岐に渡る。
海千山千の商人や国の中枢に関わる人達を相手に、堂々と渡り合えるミルンさんは宰相になれるぐらい有能だ。ミルンさん無しでは村は立ち行かない。
それが今回は自ら謝罪に来た。ドガの処分は、かなり重いものになるだろう。相手がダーク様じゃなかったら、僕達も今頃、真っ青になっていただろう。それに、カハルちゃんが取り成してくれた事も大きな安心感に繋がっている。
今回の事は白族の信用に大きく関わる。今後一切、誰からも仕事が貰えなくなる可能性だってあった。もっと酷ければ村ごと潰されていてもおかしくない。
「ダーク様、この度は私の教育不行き届きでご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません。今後このような――」
「もう、謝るな。許すと伝えただろう。今後も俺の力になってくれればいい」
「はい、お約束致します。白族の全てをもってお応え致します」
「相変わらず真面目だな。毛が抜けるぞ?」
苦笑するミルンさんの肩を叩くと、ダーク様が兵士さんに預けていた、気絶したままのドガをミルンさんに渡す。
「こいつはクビだ。――お前達、こちらに来い」
村に帰る選択をした子達もミルンさんに預けられる。
「今日までご苦労だったな。怖い思いをさせてすまない。こんな物しか用意できなかったんだが、皆で食べてくれ。せめてもの詫びだ」
あれは、超高級で有名なチョコレート! 数ヶ月先まで予約で埋まっていた筈じゃ⁉
「こんなに高価なものは頂けません。お詫びのしようがないほどのご迷惑をお掛け致しましたのに……」
ミルンさんが悲しそうに首を振っている横で、帰る子達が切ない顔をしている。分かる! 分かるよっ。ミルンさんが言っている事が正しいのは痛いほど分かるけど、これを逃したら二度と食べられない超高級チョコレートだもんね!
「それとこれは別だ。俺の詫びの気持ちは受け取れないと?」
ダーク様が冷たい声で圧力を掛ける。さすがに、ああ言われたらミルンさんが断れないと分かった上でだ。
「いいえ、その様な事は……有り難く頂戴いたします」
「あぁ、そうしてくれ」
ミルンさんが頭を下げている間に、ダーク様が口パクで「これで食べられるぞ」と言ってくる。思わず頬を引き攣らせた僕達を見て、ダーク様が笑いを堪えている。お、恐ろしい、全てお見通しだ……。
「後は凄腕を待つばかりか。もうそろそろ来るのか?」
「順調に依頼がこなせているようでしたら、そろそろかと」
「ダーク様、失礼致します。白族の者が面会を求めております。如何致しましょう?」
「直ぐに連れて来てくれるか」
「ハッ、畏まりました」
兵士さんがキビキビとこの場を後にする。誰が来るんだろう?
ミルンさんは、村から出ずにひたすらお仕事しています。
運動不足な所為か、少しぽっちゃりしています。
数ヶ月先まで予約で埋まっているなどの情報は、主にメイドさん情報です。
ニコちゃん達は、あまり外に出られないので、よく休み時間にお話に来てくれます。
次話は、凄腕が登場です。
お読み頂きありがとうございました。
 




