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0388.叩いて、被って、じゃんけんぽん

「誰からやる?」


 シン様が尋ねると、カハルちゃんとクマちゃんが「はい! はい!」といち早く手を挙げる。


「あー……却下」


 唇を噛んで切なそうな顔をした二人は、「いいんだ、いいんだ。いつも抜け者なんだー」といじけながら、熊さんのぬいぐるみに抱き付いている。シン様は物凄く気まずそうな顔だが、前言撤回はしないようである。


 カエン様と宰相様は、ぬいぐるみさんが気に入られている事を喜びながら、可愛いと笑い合っている。自分があげたものが大事にされているって嬉しいよね。


「――あー、ええと、ニコちゃんとヴァンちゃんからにしようか。体格差があると叩きにくいからね」


 ご指名を受けて座布団に座ると、既に気を取り直したカハルちゃん達が「頑張れー」と応援してくれる。復活が早いなぁと感心しながら手を振ると、熊さんの手をカハルちゃんがブオンブオンと動かして返してくれる。大きいから必死だなぁ。クマちゃんに至っては、頭に巨大熊の手を載せて上げ下げしている。


「……スクワット?」

「私には潰されそうになっているのを耐えているようにしか見えない」


 ヴァンちゃんとペルソナさんの感想に、シン様が噴き出している。僕も笑いを堪えていると、ダーク様が移動の魔法で背後に行き、巨大熊の手を下にクッと軽く押す。


「キュッ⁉ キュミ⁉ 急に重いでキュ~! モギュー!」


 踏ん張って押し返そうとしているが、絶妙な力加減でダーク様が押す。ニヤニヤが止まらない様子をペルソナさんが呆れた表情で見やり、止めに入ろうと足を前に出すと、ダーク様は即座に手を離す。


 ダーク様って揶揄うのが好きだけど憎まれないんだよね。引き際の正確さといい、才能と言ってもいいのではないだろうか?


「キュ~! ――あれ? 軽くなったのキュ」


 手の下から不思議そうに出て来たクマちゃんが、カハルちゃんを見て納得する。


「にゃんちんが斜めに寄り掛かって寝ているからでキュね。クマも座るのキュ」


 澄まし顔でこちらに戻って来ているダーク様に、ペルソナさんが声を潜めて話し掛ける。


「あれを見て心が痛まないのか?」

「ん? 素直過ぎて心配にはなるな」

「謝って来い」

「こっそりやった意味が無くなるだろう。俺は十分に楽しかった」

「本当にお前は自分に忠実だな」


「そうだろう。見習ってもいいんだぞ? まずは楽しく観戦から始めるか。ほら、ペルソナも座れ」


 ペルソナさんが苦笑する。自分の心を縛り付けてきた人だから、思う所があるのだろう。楽しいをご提供する為に、僕達頑張りますからね!


「ヴァンちゃん、いくよー。せーの、叩いて、被って、じゃんけんぽん!」


 僕がグー、ヴァンちゃんがチョキだ。二人で「えーと……」という感じで道具に手を伸ばす。


「――うりゃっ!」

「セーフ」


 ヴァンちゃんがボウルを頭にカポッと被ってガードする。


「耳は痛くない?」

「大丈夫。寝かせてある」


 僕も被る時は気を付けないと、耳がメシャッと潰れてしまう。


「獣族はそういう心配もしないといけないんだね。くまちんも耳を寝かせられる?」


「勿論出来るのキュ。――どうでキュ? 凄いでキュ~」


 自慢気にカハルちゃんに見せている。半円の耳が顔の方へパタリと倒れて、まるで桃の国で食べた水餃子のような形になる。


「おぉ、水餃子!」

「ヴァンちゃんもそう思う?」

「ん。ひだなし」

「ふふふ、ニコちゃん達も? 一緒で嬉しいな」


 見慣れているモモ様もそう思うのなら、間違いなしだ。カハルちゃんが「あーん」と言いながら、小さなお口を開ける。


「餃子のお耳を食べちゃうぞ~」

「駄目でキュ~。ていっ、でキュ!」


 カハルちゃんの膝をクマパンチで軽く叩くと、ぱかっとお耳を開いてヴァンちゃんの膝に逃げて来る。


「にゃんちんはニコちゃんの方に座るのキュ」

「うん!」

「これでやっているような気分になれるのキュ。どうキュ、にゃんちん?」

「くまちん、頭良い~」


 まだ諦めていなかったのか。虎視眈々とチャンスを狙っていたらしい。だが、喜ぶ二人には申し訳ないけれど、お断りを入れなければ。


「危ないので下りましょうね。これだとカハルちゃんにハリセンが当たっちゃいますよ」


「えー。……ふにゅ……分かったの。くまちん、行こう……」


 僕が真摯に目を見つめると分かってくれた。クマちゃんを抱っこして、トボトボと歩いて行く。後ろ姿が切な過ぎて、「戻っておいで~」と言いたくなるが、躾をする側にも我慢が必要なのだ。く~~~っ、ごめんね、二人共!


 カエン様がおいでと手招くと、カハルちゃんは大人しく胡坐の中に収まって俯く。


「残念だったね。でも、意地悪をしている訳ではないのだよ? 二人を危険に晒したくないという気持ちがあっての言動だからね」


 素直に頷く二人をカエン様が笑顔でギュッと抱き締める。


「ああ、なんて素直な子達なのだろう。シン様は良い子達を授かりましたね」

「そうでしょう。でも、その言い方だと散々ホノオに手を焼いたね?」


「分かりますか? 他の家庭でやんちゃと言われている子でも、私には大人しく見えますよ」


「苦労したんだねぇ」

「それはもう。言葉には表せません」


 深く頷きながらの言葉を聞かされて、ホノオ様が赤くなって頭を抱えている。僕達はそれを横目に見ながら、叩いて、被っての速度を上げている最中だ。


「俺や貴族の子供達がホノオの遊び相手として呼ばれて行っていたんだが、俺しか残らなかった」


「勝つまでやろうと駄々をこねるからね。あの運動量は大人でも音を上げる」


 ほぉ、昔から負けず嫌いなんだな。ぽん! あ、負けた。ボウル! よっし、防いだ!


「そうだったな。メイドや兵士達にも断られて、料理長と将軍だけが嬉々として遊んでくれていたな」


「そうだったね。ファードなんて一回で断って来たよ」


「当たり前です。あんなに走らされるなんて、まっぴらごめんです。二度目なんてあってたまるものですか!」


 ファード様、昔からズバッと物を言う性格らしい。相手が誰であろうが己を貫く覚悟がなければ出来ないよね。そして、それを聞き入れてくれるカエン様は、身分関係なく真摯に向き合う度量の広いお方である。


「じゃんけんぽん! あいこでしょ! わっ、わっ!」


 二人で掴む物を間違えそうになり、僅かの差でヴァンちゃんがハリセンを振り上げる。


「ニコ、覚悟!」

「わーーーっ!」


 思わず頭を手で覆うと、ポスッと僅かな衝撃が手の甲に走る。あれ? 痛くない。


「ふんわりアタックでキュ」

「ヴァンちゃん、優しい子なの~」


 目を輝かせながら見てくれていた二人が拍手を送ってくれる。ヴァンちゃんは照れ隠しなのか、ハリセンをブンブンとフルスイングしてみせる。怖っ! あれで叩かれなくて良かった……。


「勝負が付いたみたいだね。ホノオの昔話で盛り上がちゃったよ」

「僕達も聞いていましたよ。やんちゃの更に上を行く子供時代、ですよね?」

「ニコ! これ以上は勘弁してくれ!」


 やっと自分の恥ずかしい話から解放されたホノオ様が、手の平を合わせて僕を拝む。僕にも同じような苦い経験があるので、木のボウルを差し出す。


「次はホノオ様、どうぞ」

「へ? あ、ああ、サンキュ、ニコ」


 もっと揶揄われると思っていたのか、キョトンとした後に受け取ってくれる。ヴァンちゃんは誰にハリセンを渡したのかな?


「相手はホノオか。――叩き潰してやろう」


 ニヤリとそれはそれは悪い笑みをダーク様が浮かべる。僕だったら絶対に、あんな笑みをする人とは戦わない。ハリセンから飛び出る何かで精神まで削られそうだ。だが、ホノオ様は向かって行く。好戦的なのか、怖いもの知らずなのか。いずれにしろ、ダーク様は楽しむ事が出来そうだ。あーあー、更に笑みが深くなったよ……。


「いくぞ。準備はいいか?」

「「叩いて、被って、じゃんけんぽん」」


 電光石火でダーク様がパーンッ! と良い音を響かせる。


「え? もう勝負付いたの?」

「うむ。ダーク様の勝ち」


 目を開いて驚いていたホノオ様は、徐々に悔しそうに顔を歪める。


「もう一回!」

「いいぞ。先に三回叩いた方が勝ちだ」

「よしっ、受けた! 叩いて、被って、じゃんけんぽん!」


 その戦いは、夕暮れまで続く――ことはなく、一分すら掛からずに終わる。


「勝者、ダーク」


 ペルソナさんが告げると、ホノオ様が苛立たし気に立ち上がる。


「ちっくしょう! ストレート負けって何だよ! そもそも、じゃんけん強過ぎだろ!」


 そうなのだ。ダーク様は一回も負けなかった。考えが読めるのではないかと前から思っていたが、より真実味が増してきた。うぅっ、恐ろしや……。


「そうか? お前が弱過ぎる可能性だってあるだろう。――では、俺とペルソナでやってみるか」


「私か? 構わないが」


 おぉ、これは楽しくなってきたぞ。カエン様の膝に寄り掛からせて貰って、カハルちゃん達と一緒にワクワクと見守る。


ホノオ、羞恥ですね。子供時代の恥ずかし話は勘弁して欲しいですね。なんであんな事を、何故こちらの方法を思い付かなかった! という事が満載です。そう思えるのも成長したからですかね?

懐かしの叩いて、被ってです。ん? 最近の人達もやっているのかな?


お読み頂きありがとうございました。

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