表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/390

0380.羽根つき対決

 シン様が丸めて千切ってくれたお餅を、きな粉、あんこ、大根おろし、黒ごまの担当に別れてまぶしていく。僕はきな粉と黒ごまなので、白い所が見えなくなるように満遍なく付ける。


「納豆もいる?」

「納豆ですか? そっか、お米だから合いますよね」

「うん。少しだけ作ろうか」


 シン様が手早く用意してくれる。いつ見ても手際がいいよね。


「卵かけお餅もおいしいですかね?」

「んー、どうだろう? やってみる?」

「はい」


 シン様の提案で黄身だけにして、醤油と少量の出汁を入れて混ぜる。まぶしたら、海苔の細切りをパラパラと掛ければ完成だ。


「黄色いお餅になったね」

「はい。なんだかおめでたい感じがします」

「ふふふ、そうだね。お餅は焼いてもおいしいんだよ」

「へぇ、色々な食べ方があるんですね」

「うん。焼いてお醤油を浸けて海苔で巻くとおいしいよ。チーズも合うしね」


 いっぱいあるから色々と試してみなければ。だが、今はお腹が空いているので、目の前のお餅をたらふく食べたいと思います。いただきますをして、きな粉から頂く。


「――おぉ~、伸びる~」


 噛み切ろうとすると、箸と口の間でお餅が伸びる。柔らかなのに弾力もあって、きな粉が香ばしくておいしい。難点は口周りの毛へ大量に粉が付く事だろうか。今も咀嚼する度に、ポロポロとお皿へ落ちていく。汚してごめんなさいと慌てていると、セイさんが気にするなというように背を撫でてくれる。


「これは、こぼれるものだから気にするな」

「そうそう。はい、緑茶」

「シン様、ありがとうございます」


 ごっくりと飲み下して息を一つ吐く。緑茶は心が和む気がするな。お次は卵餅にしてみよう。


「はむっ。――うん、濃厚でおいしいです」

「卵のやつ? 味は薄くない?」

「はい、丁度良いです。海苔がもっと多くてもいいかもしれません」


 この辺は好みの問題かな? シン様が一口頂戴と言うので差し出す。


「――これもいいけど、僕は卵かけご飯の方が好きかな」

「僕はどちらも好きですよ」

「ニコは卵なら、なんでも好き」


 ヴァンちゃんの言葉に、「あ~、そうかも」と頷く。オムライスにスクランブルエッグ、ゆで卵。頭の中が黄色で埋め尽くされる。


「ニワトリさんが居なくなったら大変ね」

「そうですよ、カハルちゃん。なので、僕はお豆を貢いでいるんです!」

「ぶっ⁉」


 戸口の方から盛大に噴く音がする。慌てて振り返ると、ヒョウキ様が立っていた。あれ? 忙しいんじゃなかったの?


「ニコ、言葉の選択が間違ってるから!」


 何が駄目だったんだろう? 進呈するが正解かな? まっ、いいか。一人で納得していると、手荒く頭を撫でられる。


「ニコのそういう所は今に始まった事じゃないけどな。シン、言われた通りに餅を貰いに来たぞ」


「ヒョウキ、まずは挨拶でしょう。まったく……」


 やれやれとシン様が立ち上がる。シン様が限定的に許可を出したから来られたんだな。


「おっ、悪いな。おめでとさん」

「おめでとうなの。今年もよろしくね」

「カハル! 相変わらず可愛いな~」


 抱き締めようとすると、セイさんが腕を払いのける。


「何だよ、いいじゃんか」

「待て。餅を喉に詰まらせるだろう」


 そうだよね。カハルちゃんはあんこのお餅を一生懸命に噛んでいる最中だ。あぁ、可愛い……。口元に付いたあんこを拭ってあげよう。フキフキっと。


「カハル、うまいか?」

「うん! ヒョウキも食べる?」

「勿論! カハル、あーん。――ふがほっ⁉」


 戻って来たシン様が、剥いたミカンをずぼっと口に突っ込む。


「うちの可愛い娘に、そんな事させる訳がないでしょう。ほら、お餅。さっさと帰る」


 ビシッと戸口を指さすシン様を、ヒョウキ様が忙しく咀嚼しながら、恨めし気な目で見る。


「――ごくっ。あのなぁ、シン。新年の始まりぐらい、良い事あったっていいじゃんかよ。俺はこれからまた見たくもない顔のオンパレードなんだぞ」


「そう、頑張って。早く帰らないとミナモが激怒するよ」


 その言葉に合わせたように、ヒョウキ様のポケットから光が漏れる。


「うわっ、通信来た! 餅サンキュ。皆、またな。良い年にしようぜ!」


 早口で言うと慌てて去って行く。ミナモ様、今年も大変ですね……。


「うだうだ言ったら蹴り飛ばしてでも帰らせて下さいって、ミナモに頼まれていたんだよね。結構すんなり帰って良かったよ」


 シン様にお願いしていたのか。ヒョウキ様は完全に行動が読まれているようだ。でも、新年くらいは休んで、羽目を外したいという気持ちは良く分かる。


 ヴァンちゃんに視線を移すと、ドタバタの間に全種類を制覇したようだ。


「ヴァンちゃんは、どれが一番好き?」

「俺はゴマが好き。二周目行く」


 ヴァンちゃんはゴマとモチモチの組み合わせが好きらしい。桃の国へ行くと必ずゴマ団子買うもんね。


 僕も全種類を制覇し、お茶を啜る。とても良き食事でした。


「この後は羽根つきでもする?」

「羽根をつくって、お餅みたいにですか? 何に加工するんでしょう?」


 シン様は予想外だったのか、目をパチパチとさせている。あれ? 意味が全然違うのかな?


「ニコ、羽根つきは新年にやる遊びだ。羽子板という物を使って、羽根の付いた球を打つんだ」


「あぁ! そうなんですか。やる時期が決まっている遊びだなんて面白いですね」


「女の子の厄払いや無病息災を願う遊びらしいよ。羽根を落とすと顔に墨を塗るんだけど、それも魔除けなんだって」


 おぅ、墨ですか……。ヴァンちゃんが僕の顔を見てワクワクしている。何を描こうかなと考えているんだな。でも、負けないからね!


「クマも参加できまキュか?」


「大丈夫だと思うよ。でも、クマちゃん用の羽子板が無いから、セイに作って貰おうか」


「任せろ。すぐ作る」


 セイさんに頼めば、あっという間に出来てしまうだろう。形は縦に長い台形の板に、持ち手が付いたシンプルな物だ。つく羽根は黒い種子が球になっており、緑の羽根が刺さっている。森の鳥さんから貰った羽根なのだろう。


「出来たぞ。調整が必要なら言ってくれ」


 宣言通りにすぐ戻って来た。クマちゃんは問題ないらしくブンブンと振っている。


「ばっちりなのキュ! クマの相手は誰でキュか⁉」

「勿論、私なの!」


 カハルちゃんがお相手するようだ。途中で寝てしまわないかハラハラする。


「魔法は無しなのキュよ」

「うん。頑張るの」


 余計に心配が増す。でも、あれも駄目、これも駄目じゃ楽しくないよね。ここは大人しく見守ろう。


「いくっキュよ~」

「おー」

「そーれでキュー」


 カコーンと良い音をさせてクマちゃんが打ち出す。あの黒い球は硬いようだ。


「えいっ」


 掛け声は勇ましかったが、スカッと見事に空振りし、頭に硬い球が当たる。


「ふぎゃっ」


 頭を抑えてしゃがむカハルちゃんに全員が駆け寄る。


「カハル、大丈夫?」

「にゃんちん、ごめんキュ~」


 シン様が大きな手で、よしよしと撫でてあげている。やっぱり魔法で身体強化しないと厳しいようだ。


「うぅ、当たらなかったよぉ……。くまちん、墨で描くの」

「にゃんちん、ラリーが続いてからでいいのキュ」

「本当? 頑張るの!」


 だが、その後もひたすら空振りが続く。五回目で完全にしゅんとしてしまった。


「うぅ、私のポンコツ……」

「そ、そんな事ないですよ。きっと練習が必要なんですよ。ね?」

「そう。きっと打てるようになる」


「カハル、羽根つきは一人でつく『つき羽根』っていうやり方があるから、それに挑戦してみようよ」


 シン様の提案に、カハルちゃんが顔を上げる。


「それなら私にも出来るかな?」

「うん。無理ならお父さんが補助してあげる」

「うん! その前に墨なの。くまちん、どうぞ」

「いいのキュ? じゃあ、描いちゃうのキュ」


 筆を持つと、右頬に丸を描いていく。あれ? 一つじゃないぞ。


「出来たキュ。可愛く仕上げてみたのキュ」

「え、どんなの? お父さん、鏡ある?」

「うん。どうぞ」


 僕の予想通り、カハルちゃんは見た途端に破顔する。


「わぁ、肉球だ。くまちん、流石なの」

「そうでキュ~。左頬にも描かれないように練習するのキュよ」

「うん! お父さん、あっちでやろう」


 僕達に当てない為なのか、少し離れた場所へ移動していく。


「さぁ、次は誰がクマに挑むでキュか⁉」

「では俺が胸を借ります」

「ヴァンちゃん、ドンと来いなのキュ!」


 クマちゃんは体格差で参加出来ない事が多いので、今日は張り切っているようだ。動き回らずに打てるよう、軌道には注意しなければ。


「そーれでキュ」


 今度はカコーン、カコーンと良い音が続き、思わずというように振り向くカハルちゃん。本当は、こんな音を響かせたかったんですよね? つき羽根もほとんど当たらなくて、八の字眉毛で練習している。


「羨ましそうにしているな」

「そうですね。カハルちゃんって、結構負けず嫌いですよね」

「そうだな。そういうニコも負けず嫌いだろう?」


「えへへ、ばれましたか。セイさん、よろしくお願いします。負けませんよ~」


「お手柔らかにな」


 最初は慣れる為に、ポーンと空に打ち上げて、緩やかなラリーを楽しむ。うん、この音がいいよね。


「そろそろ本気でいくか?」

「はい、お願いします」


 セイさんが足で地面にコートの線を描き、真ん中に結界でネットを作る。


「線の外に出たら駄目だからな」

「はい!」


 側で打ち合っていたヴァンちゃん達が見学にやって来る。


「楽しそう。後でコート貸して欲しい」

「ああ。俺達の後にやるといい」


 じゃんけんをして、勝ったほうが打ち始める。


「ニコ、いくぞ」


 サーブは緩やかに打つというルールにしたので、難なく受ける。


「ほりゃ」


 後ろの線ギリギリに落ちて行くのを追い掛けて、セイさんが少し強めに打つ。――おぅ、今までのスピードとは段違いだ。気を引き締めねば。


「そいやっ」


 ジャンプして打ち返すと、ネットの側に落ちて行く。


「――よっ、と」


 セイさんは走り込んで空に打ち上げる。今度は僕が「待て~」と後ろの線の方へ走って行く。打ち返した! と思ったら、ネットに当たって自分のコートに戻って来てしまった。


「あー……」

「俺の勝ちだな。さぁ、頬を差し出せ」

「うわ~ん、負けた~」


 少し悪いお顔をしたセイさんの前へ行くと、左頬にバツを描かれる。んん⁉ もしかしてワイルドさが出ているかも⁉ 鏡を貸して貰うと、欠片もワイルドさは無かった。残念……。


「剣豪みたいになっているかと思ったのに~」

「顔つきが可愛いから無理だろう。次は凛々しい眉毛でも描くか?」

「興味はありますけど、負けたくないんですよ~」

「ははっ、そうか。――見ろ。クマが猫のようになっているぞ」


 交替してコートを使っていた二人の勝負は、ヴァンちゃんが勝ったようで、クマちゃんは頬に髭を描かれている。


「……にゃーでキュ」


 憮然とした顔で鳴いている。分かります、悔しいですよね!


「わぁ、くまちん可愛いの!」

「嬉しくないのキューーーッ」


 魂の叫びが出た。だが、カハルちゃんはお構いなしに記録用水晶で撮影している。欲望に忠実だ。


「撮っちゃ駄目でキュ! 消去するのキュ~」


 二人で追いかけっこし始めた。だが、片方は魔法を使っていないカハルちゃん。もう片方は小さなクマちゃんなので、移動する範囲が狭く、スピード感が無い。いつでも受け止められるように、皆でさりげなく側に寄る。


「わっ!」


 思った通りにカハルちゃんがつんのめると、すかさずシン様が助けに入る。


「よっと。足は痛くない?」

「うん。ありがとう、お父さん」

「どういたしまして。クマちゃんは少し休憩しようね」


 ゼハゼハしているクマちゃんは大人しく頷く。代わりというように、アケビちゃんが参加する。託したという感じで握手する熊さん達の姿を、カハルちゃんがしっかりと撮影している。


 以前、『クマコレクション』と名付けられた、クマちゃん専用の記録用水晶を、「くまちんには秘密だよ」と見せてくれた事があった。きっと、あの水晶へ大事に保管される事だろう。お宝映像がぎっしり入っていたので、一枚ぐらい阻止しても意味が無い事をクマちゃんは知る由もない。そして、こっそり家族全員が映像提供している事も。


 永久保存版らしいので、何千年も受け継がれていきそうだ。いつの間にか歴史に残る事が決定している熊さんは、定位置であるカハルちゃんの頭上へ寝そべって息を整えながら、「消すっキュよ」と念を押している。それに対して「もう手遅れなんです、クマちゃん……」と心の中で呟き、新年を迎えて初となる、可愛い後ろ姿を撮った。



魔法を使わないカハルはポンコツとなっております(笑)。作者も球技はさっぱり当たらないので仲間ですね。でも、なぜか卓球だけは当てる事が出来る不思議。他のも当たってくれまいか(遠い目)……。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ