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0379.あけましておめでとうございます

 この国では新年を迎えると、皆が一つ歳を取る。今年の最終日に生まれたばかりの子でも一歳になってしまうのだ。ちょっと損をしたような気分になる人も居ると思うけど、分かり易くて僕は好きだ。


 人の暮らしや考え方などは多種多様だけど、時を刻むことだけは平等に訪れる。この世界の理は、そうして目に見えない部分で、人と人を繋いでいる気がする。これからも、とても不思議で素敵な道を、僕の大事な人達と長く歩んでいきたいと思う。


「あけましておめでとう。今年もよろしくね」


「はい、よろしくお願いします。あの、『あけましておめでとう』ってなんですか?」


「ああ、そうか。こちらでは言わないんだっけ。カハルの居る日本では、新しい年を迎えると、こうやって挨拶するんだよ」


「へぇ~、そうなんですか。日本は独特なものがいっぱいありますね。では、改めまして。シン様、あけましておめでとうございます」


「うん。おめでとう、ニコちゃん。ヴァンちゃんもよろしくね」


 シン様はヴァンちゃんの両手を優しく取って、上下に揺らしている。新年早々に、ヴァンちゃんは幸せそうな表情だ。これは良い年になるに違いないと思わせてくれる光景に、セイさんと笑みを交わし合う。


「ん。シン様と更に仲良しになる」


「ふふふ、嬉しいな。じゃあ、もっと甘えてね。白ちゃん達は遠慮しない事を今年の目標の一つにしてね」


 頭を撫でられながらの言葉に、「もう十分に甘えているよね?」とヴァンちゃんと目で会話する。


「――二人共、甘いでキュ! 甘える時はこうでキュ。ベタ~なのキュ~」


 クマちゃんがお手本を見せてくれた。胸にベタッと張り付いて目を閉じている。全身で甘えろって事ですか?


「ふふっ。白ちゃん達もやる?」

「では失礼して」


 ヴァンちゃんが早速、真似をしている。手足を広げているので、一人ずつじゃないと無理だな。順番待ちしていると、背中に何かがベタッと張り付く。


「ニコちゃん、あけましておめでとう!」


「カハルちゃん! おめでとうございます。カハルちゃんが僕に甘えてくれるんですか?」


「そうなの。ニコちゃんが私に甘えてもいいの」

「えへへ、いいんですか? 遠慮しませんよ? とりゃ~」


 抱き合って頬をぺったりとくっつけ合う。あー、年明け早々に良い事が押し寄せていますよ~。よーし! ドンドンこ~い。


「くまちんも来るの」

「お誘いキュか? 遠慮せずに行くのキュ~」


 クマちゃんはカハルちゃんの頭に登って抱き付いている。


「んふふ♪ モフモフ塗れなの~」


 シン様に甘え終えたヴァンちゃんもくっつきたいのか、そわそわとしている。気付いたカハルちゃんが、「おいで~」と手招くと、素早い身のこなしで頬をくっつける。あー、カハルちゃんの柔らかほっぺの形が変わってしまった。


「ヴァンちゃん、強く押し付け過ぎだよ」

「ん? おぉ、ぶにゅっとし過ぎた。この感触が病みつき」


 指で軽く摘み、痛くないように横へ引っ張っている。カハルちゃんは完全に気を許していて、されるがままだ。こんな無防備な姿は僕達の前だけなので、今はその恩恵を心ゆくまで受け取ろうと思う。


「お餅みたいですよね」

「そうだね。いつでもつきたてだよ」


 シン様も指でツンツンと触る。どこもかしこもプニプニなので、僕は手を触っちゃおうかな。


「クマはあんこで食べたいのキュ」

「私のほっぺは食べ物じゃないのよ、くまちん」

「いいじゃないキュか。ちょっとくらい齧らせるでキュ」


「駄目なの。そういう事を言うくまちんは、大根おろしとお醤油で食べてやるんだから」


「ふふん、やれるものならやってみるでキュ」

「おにょれ、くまちんめ~」

「キューキュッキュッキュ」


 手の甲を口に当てて、高飛車なお嬢様のようにクマちゃんが高笑いすると、カハルちゃんが頬を膨らませている。すると、ぷっく~となった頬をヴァンちゃんがすかさず人差し指でつつく。


「ふにゅっ⁉ あ~、萎んじゃったよ~。もう一回膨れなきゃ」


 クマちゃんに抗議したいカハルちゃんがもう一度膨らませると、間髪入れずにヴァンちゃんがつつく。


「いいキュよ、ヴァンちゃん。その調子でキュ!」

「も~。ヴァンちゃん、悪い子なの」

「ふっふっふ。そこに膨れた頬がある限り、俺はつつく」


 僕もやりたかったけど、カハルちゃんが「何それ~」と笑い出したので、またの機会だ。


「カハルのほっぺもいいけど、今日は本物のお餅をつくよ」


 シン様の言葉に全員が一斉に手を挙げる。やります、やります!


「凄い気合だな」


「だって楽しみじゃないですか! おうどんに入っている四角いお餅を食べた事があるだけなんですよ」


「そうだったな。では、美味いのを食べて貰う為に、張り切ってつかないとな。――そうだ、後でペルソナにも届けないと」


 セイさんは腕まくりをして外へ出て行く。ペルソナさんにもあげるから気合十分なお顔だ。その後ろを追い掛けながら、餅つきって外でやるものなんだと興味津々だ。お庭ではアケビちゃんが待っていた。


「ガーウーガウウー(今年もよろしくお願いします)」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 挨拶した後に二人でキョロキョロと辺りを見回す。


「――ダーク様、出て来ませんね」

「ガウ。ガウウー? (はい。おかしいですね?)」


 こんな楽しそうな事に参加しないなんて珍しいな。


「ダークは新年の挨拶に貴族がいっぱい来るから、来られないんだって」

「そうなんですか。じゃあ、他の王様や宰相様も忙しいですね」

「うん。面倒臭いってヒョウキがこぼしていたよ」

「シン様とセイさんはいいんですか? 外交官と将軍じゃないですか」


「僕は家族との時間が最優先だからね。次から次へと来る貴族を眺めているなんて馬鹿らしいよ。ヒョウキも、その辺はきちんと理解してくれているから、餅くれって言われただけだよ」


 王様目当てだから、他の人は暇なんだな。……本当にそうなのかは考えないようにしよう。結果、一緒に過ごせているんだしね。セイさんにも目を向けると、心配するなという感じで頭を撫でてくれる。


「四日から行くんだ。土の国では三日まで王族もきっちり休むらしい」

「へぇ、そうなんですか。国によって違うんですね」


 王様だって休みたいよね。土の国の王様は嬉々として町に繰り出していそうだ。あー、でもお店がやっていないかな?


「クマちゃん、土の国のお店は何日位からやる事が多いですか?」

「八日からでキュ。一週間はお休みなのキュ」

「じゃあ王様が遊べないですね」

「いや、テラケル族の所に行って酒を飲むと言っていたぞ」

「へぇ、土の国にも住んでいるんですね」


 地下の大帝国なのだろうか? クマグマちゃんの所に入口があるそうだから、今度遊びに行ってみようかな。


 外では既に蒸し器でもち米が蒸されて、もうもうと湯気が出ている。冬に湯気を見ると近寄りたくなるよね。あー、あったまる~。


 シン様が蓋を開けると、ぶわはぁ~と湯気が空中に放たれ、ツヤツヤとした米粒たちがお目見えする。お米の甘い匂いに、クンカクンカとお鼻が大活躍だ。


 大きな臼と小さな臼の二つに熱々のもち米が手早く移される。ここからはスピード勝負なのだそうだ。


「さぁ、白ちゃん達、やるよ~。二人は小さい臼で協力してやってね」

「「はーい」」


 良いお返事をして杵を持つ。これはセイさんが僕達用に作ってくれたものだ。本当に何でも器用に作るよね。皆さん、この方が僕の自慢の兄ですと言って回りたい。


「まずはもち米を潰してね」


 時計回りに臼の周りを移動しながら潰すセイさん達の真似をして、ヴァンちゃんと共に杵へ力を載せて潰していく。時々、シン様が水を付けた手で底から返して、潰せていない所を表に出してくれる。ある程度潰せたら、つく作業に入るらしい。


「よし、いいかな。僕はこちらに入るから、セイはアケビちゃんと一緒にやってね」


「ああ」


 アケビちゃんが杵を持ち、セイさんが臼の側に控える。手順を勉強せねばと見ていると、アケビちゃんが杵を振り下ろしていく。熊さんだけあって力強いな。だが、徐々に杵へお餅がくっついてしまう。すると、セイさんが濡らした手で杵を綺麗にして、お餅を外から内へと返す。後はついて返しての連続だ。


「あんな感じでやるからね。まずはヴァンちゃんからやってみようか」

「ん。ぺったん、ぺったんする」


 ヴァンちゃんが杵の重さを利用して、垂直に振り下ろす。二回ほどつくと、シン様が返していく。まだ湯気が出ているから熱いだろうに、躊躇いも無く手を入れている。結界で手を覆っているのかな? でも、お水を手に付けているから、気合と慣れなのかもしれない。


「はい、ついて」

「おー」


 ヴァンちゃんが少し疲れてきたら僕と交替だ。早くお餅になれ~と念じながら振り下ろしていく。


「はい、そこでキープ」


 頭上まであげた所で杵をキープ。これ、結構怖いかも。シン様の頭や手を叩いてしまいそうだ。


「はい、いいよ」

「うおりゃー」


 その後も十分に注意してついていく。楽しいよりも緊張感の方が上かもしれない。


 段々と滑らかになり、艶が増して来た気がすると思っていたら声が掛かる。


「お父さん、私もお水やりたい」

「クマもなのキュ~」


 クマちゃんを抱っこしながら大人しく見ていたカハルちゃんの言葉に、僕の顔が引き攣る。あんな小さなお手々じゃ一発ですよ⁉


「うーん……。返すのは無理だろうから、濡らした手で表面を撫でようか」


 シン様が承諾してしまった。「わーい!」と喜んでいる二人に、「危ないから止めませんか?」とは言えない。餅つきって、こんなに神経が磨り減るものだったの?


 クマちゃんは手袋をすると、シン様に抱っこして貰い、手をペタッとお餅に触れさせる。得意気な顔で振り向くも、効果が全く感じられなかったのか、シン様が困ったように言葉を探す。


「……えーと、カハルも続けてお水をやろうか」

「うん! ぺたぺたするの」


 両手で何度も濡らしたから平気かな? 二人が満足気な顔で「ついていいよ」とお餅を示す。後ろのシン様をチラッと見ると、指で丸を作ってくれる。了解であります。


「では、ニコ、いきます! うおりゃー!」


 参加できて嬉しかったのか、二人が大きな歓声を上げる。


「くまちん、やったね!」

「モキュ。初餅つきキュー!」


 あー、緊張した……。もうシン様と交替かなと思っていたら、まだまだやる気のようで、二人で「どぶ~ん」と言いながら、水に手を入れている。


「……えーと、ヴァンちゃん。交替しない?」

「ニコ、疲れた? 俺やる」


 体よりも精神が疲れた……。カハルちゃん達はキャッキャッともう一度、手で濡らしていく。クマちゃん、そんなにはしゃいでジタバタ動くと、臼の縁から落ちて全身がお餅塗れになっちゃいますよ! そう思った側から体が傾ぐ。


「わーっ、クマちゃん⁉」


 僕が叫ぶと、シン様が慌てて腰を掴んだので、お餅で窒息は免れた。


「セーフ……。二人はこれでお終いね」

「キュー……」

「むー……」


 不満そうだが、僕達の安心の為にお願いします。渋々と椅子に戻って行く姿を見送ると、シン様が僕を見る。


「ニコちゃん、返すのをやってくれる?」

「はい、了解です」


 アケビちゃんがお疲れだもんね。セイさんは軽々と杵を振り上げると、ど真ん中へ垂直に下ろしていく。返しをするシン様とも息が合っていて、リズム感があるな。これは負けていられぬと、ヴァンちゃんと頷き合う。


「せーの!」

「うりゃ」

「とうっ!」


 間近に杵が落ちて来て怖いな。そして、段々とヴァンちゃんの勢いが増していく。


「――うりゃ、―うりゃ、うりゃ」


 ひぃーっ、ギリギリだよ~。サッと手を胸に抱き込む。


「ヴァンちゃん、速すぎだよ~(涙)」

「ん? ついつい」

「ついついで僕の手がぺっちゃんこになったら、どうするの⁉」

「横から叩く?」

「お手々粉々!」


 シン様がクスクス笑いながらやって来る。向こうはつき終わったようだ。


「うん、もういいかな。二人共、お疲れ様」


 やっと僕の恐怖の時間が終わった……。この後はシン様達がついた分を、セイさんが伸して四角に切り分けるらしい。僕達がやった分は、丸めて今日の昼食だ。


お正月です。ニコちゃんの手は粉々にならずに済みました(笑)。

現実でも近付いて来ていますね~。寒さが増してきたので、ニコちゃん達のように毛皮が欲しいこの頃。皆様も風邪など召されぬよう、毛皮の代わりに暖かい服をいっぱい着込んで下さいね。作者も着膨れます(笑)。

お読み頂きありがとうございました。


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