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0376.ちょーこ、ちょーこ、ちょーこ♪

 その後は特に騒動も無く、デザートまでを完食する。あ~、食べた。今ならクマちゃんも風船で飛んで行かないだろうと持たせてみたら、――――浮いた⁉ 慌てて抱っこしていると、ダーク様に笑われてしまう。


「元々軽い上に軽減の札を持っているんだ。重さなど無いようなものだぞ」


「だって、こんなにお腹へ詰めこんだんですよ。重くなっていると思うじゃないですか」


「クマの食べられる量など、大したものではないだろう」


 凄く膨らんでいるお腹を納得がいかずに撫でる。クマちゃんは満腹で眠いのか、僕へ完全に体を預けている。


「くまちん、無防備ね~」


「いいのキュよ~。ニコちゃんなら安心して全てを委ねられるでキュ~。にゃちんだってそうでキュ?」


「勿論。全幅の信頼なの~」


 あっさりと交わされる会話が僕の心を喜ばせてくれる。本人達にはただの会話でも、僕にとっては最高の賛辞だ。


「カハルちゃん、俺も?」

「勿論だよ。ヴァンちゃん、最高~」

「でキュ~」


 ヴァンちゃんは風船を片手に、喜びで空まで飛んで行けそうだ。階段を下りる足取りが非常に軽い。セイさんは踏み外さないか心配なようで、後ろをぴったりと付いて行っている。優しきお兄様である。


 一階に着くと、マルコさんが厨房から飛び出ようとして、周りの人達に一斉に止められている。きっと逃がすなとフィナンさんの指示があったのだろう。


 会計は上でして貰ったので、フィナンさんを始めとした人達に、にこやかに送り出される。


「またいらして下さいね」


「うん。気に入ったから、またうちの子達と来るよ。個室は予約なしでも使えるの?」


「貴族の方達で埋まってしまう事が多いので、予約をして頂いた方がよろしいかと思います」


「そうなんだ、気を付けるよ。ごちそうさま」


 皆で口々に「おいしかった」や「また来ます」を伝え、最後にカハルちゃんが寝そうになりながら口を開く。


「……ふわぁぁ~……。お兄しゃん、バイバイ……。厨房のお兄しゃんもバイバイ……」


 全てを振り切って出て来たマルコさんが、その言葉で両手を天に突き上げる。叫ばないのは眠ってしまったからだろうな。一方のフィナンさんは優しく目を細めて、柔らかい笑みを浮かべている。ほんのりと頬が色付いているので、照れているのかもしれない。


 また船に乗り込んで店を離れる。マルコさんがいつまでも大きく手を振っているので、厨房の人が二人がかりで中に引きずっていった。


 その光景を眺めていると、船頭さんと観光プランをたてていたシン様が、僕達の顔を覗き込む。


「皆はどこに行きたい?」


「僕は『ブーシェ・ボヌール』というお店に行きたいです。濃厚なチョコレートケーキをカハルちゃんに食べさせてあげたいんです」


 魔国のお城で食べさせて貰ったお気に入りのケーキを、カハルちゃんと一緒に食べようと決めていたのだ。この日の為に、ケーキ一箱のお値段である三千圓をちゃんと貯めてある。


「それは僕も食べてみたいな。船頭さんは知っている?」


「知ってますぜ。さっきお薦めした通りにあるんでさぁ。ただ数量に限りがあるんで、この時間だと売り切れている可能性が高いですね」


 そんなに人気の品なのか。でも、あの味なら納得だ。買えなかった時の為に、別のお店も聞いておこうかな。


「他においしいチョコレートケーキのお店ってありますか?」


「エトワール通りにある店なら外れ無しと言われているんで、ビビッと来た店に入るのも手ですぜ。個人的に気に入っているのは、チョコレートのドームの中にアイスや果物が入っているやつですかね」


 ヴァンちゃんのシッポがビーンとなった。物凄く興味を持ったようだ。


「なんていう店?」


「『妖精の羽根』って店なんですがね、持ち帰りは出来ずに店内でしか食べられないんですよ」


 カハルちゃんもいつの間にか起きていて、「ふんふん」と興味深げに頷いている。そして、ビャッコちゃんはいつ手に入れたのか、通りの地図を広げて探している。うちはチョコレート好きが多いようです。


「甘い菓子しかないのか?」


「じゃがいもと小麦粉を混ぜて焼いた『キリキリ』っていう固くて細い菓子がありますぜ。店によってチーズや人参などを混ぜて、色々と工夫がされているんで、楽しめると思いますぜ」


 甘い物が苦手なダーク様も楽しめるお菓子があるようだ。じゃがいも好きな僕としても気になるお菓子である。


「――はい、到着。観光を楽しんで来て下さいね」

「ありがとう。はい、皆おいで」


 シン様を先頭にぞろぞろと船を降りる。


 水の国の城は川に囲まれていて、横に広い橋だけが唯一の入城手段だ。エトワール通りは、その橋から真っ直ぐに伸びる通りである。観光に来た人は必ず行くと言っても過言ではない位に人気の場所で、お菓子に服や宝飾品などの店が立ち並んでいる。


 通りを歩く人が多いので、下を歩く事は早々に諦め、ダーク様の腕の中に収まっている。


「ダーク様はここへ来た事があるんですか?」

「あるぞ。気に入っている靴屋がある」


 王様なのに自分で買い物しているのか。クマちゃんも首を傾げつつ問うている。


「お城に商人さんが来るんじゃないのキュ?」


「そうだな。だが、俺は出掛けるのが好きだし、自分で好みの品を探す方が面白いと思う性質(たち)だからな」


 実にダーク様らしい行動だ。土の国の王様も外食しているし、イザルトって自由な王様が多いよね。


「初代の王様って誰が決めた?」

「一応、創造主だな。創造主を信じて一緒に戦っていた奴らが立候補した」

「ダーク様達の事?」


「俺達ではないな。カハルと共に記憶を持ち越している者は、その子孫となる事が多い」


 ダーク様達の居ない時代も魔物と戦っていたのか。それは随分と苦戦した事だろう。


「初代の王様の魂はどうなってる?」

「ちゃんと転生しているよ。記憶は持ち越していないけどね」


 次々と質問していたヴァンちゃんは知的欲求が満たされたのか、やりきった顔で頷く。こういう時はヴァンちゃんに任せておけば、僕の知りたい事まで、ばっちり聞いてくれるので大助かりだ。


 それにしても、シン様は元が誰の魂か見抜けてしまうようだ。凄い人数が暮らしているのに分かるとは、神様という存在は人間の限界など最低ラインなのかもしれない。そもそも比べる事自体に意味が無い気がしてくる。


「シン様ってどのくらい前の事まで覚えているんですか?」


「全部覚えているよ。普段は記憶の引き出しに入れてあるけど、引き出そうと思えば引き出せるよ。何か話そうか?」


「あがっ⁉」


 ――驚き過ぎて顎が外れるかと思った……。ダーク様が大きく開いた口を閉じてくれている間に、まじまじと顔を見つめる。千年以上という膨大な時の記憶が、その頭の中にひしめいているんですか? 僕とは根本的に頭の構造が違うようだ。


「ふふふ。でも、よく買い物し忘れたりするから、ニコちゃん達とあまり変わらないと思うよ」


 抜けている所もあるなら、そこまで遠い存在だと思わなくてもいいか。だって、手が届かないような人だと思うと寂しいもんね。


「ニコ、お目当ての店だぞ」


 楽しそうな顔で僕達の会話を聞いていたダーク様が教えてくれる。人が三十人は並んでいるだろうか? どうか、売り切れていませんように! と指を組んで祈る。


「眩しい! 何、あの美形とちびっこ集団!」

「可愛い~。こっち向いて~」


 列に並んでいるお姉様達が手を振ってくれる。一応、手を振り返した方がいいだろうか? と悩んでいたら、眠っていたカハルちゃんが飛び起きる。


「――ふにゅ⁉ ん? んん?」


 近くから聞こえた大きな歓声に、目をぱちくりさせて見まわしている。何事だと、僕もダーク様の腕の中で伸び上がる。


「――どうやら面倒事が近付いて来たようだ。シン、離れるぞ」

「了解」


 他の人は何が起きているか正確に理解しているようだ。足早にメイン通りを離れて裏路地に向かって行く。


「すまん、今日はケーキを諦めてくれ」

「それはいいですけど、どうしたんですか?」


「水の国の王が近くに居る。時々、町を練り歩く事で、観光の目玉の一つになっている。会うと巻き込まれて面倒だ」


「はぁ、成程。僕、あの方は冷たい感じがして苦手です」

「そうか。だが、ある人物が関わると雰囲気がガラリと変わるぞ」


 それは怖い方にだろうか? ニヤリとしているから面白い方だと思いたい。


 カハルちゃんは楽しみにしていたのか、振り返って「ケーキ……」と聞こえない位の声で呟いている。こんなにしょんぼりとさせたまま帰るのは忍びない。


「シン様、船頭さんに教わったお店へ行きませんか? 王様も店の中までは入ってこないですよね?」


「んー……そうだね。でも、並んでいたら他の店で持ち帰れるお菓子を買って帰ろうね」


「はい! カハルちゃん、チョコですよ~」

「うん! ちょーこ、ちょーこ、ちょーこ♪」


 カハルちゃんの嬉しそうな声に、クマちゃんも「キューミ、キューミ」と合わせて拳を突き上げている。


「そんなに嬉しいのか?」

「うん、甘い物大好きなの。ダークはしょっぱいもの大好き?」

「そうだな。食の好みが違う男は嫌いか?」


「嫌いまではいかないけど、ちょっと悩むの……。うーんとね、取り合いっこしないで済むのが良い所なの。でも、全然違い過ぎてもお店選びとか、日々の食事で困っちゃうの」


 ダーク様は甘い物もなんとか食べられるし、それ以外はあまり好き嫌いも無い人なので、そんなに困る事は無い筈だ。


「俺は甘い物以外なら、カハルの好みに合わせられるぞ。俺達なら素晴らしい生活、っと」


 セイさんがそれ以上言わせまいと、ダーク様の靴の横を蹴ろうとするが、ひょいっと避けられている。


「ダーク、大丈夫?」

「ああ。少し躓いただけだ」

「そっか。気を付けてね」

「そうする。カハルは優しいな。どこかの心の狭い奴とは違って」


 口の端をピクッとさせたセイさんが、更に蹴りを入れる。シン様は笑いながら先頭へ行き、カハルちゃんの目に映さないようにしている。それぞれの腕に居る僕とヴァンちゃんは、「それ行けー」、「そこだー」と小さな声で二人を応援する。


「二人はどっちの味方なのキュ?」


 ビャッコちゃんと共にドラちゃんに乗っているクマちゃんが、ふよふよと横を漂いながら質問してくる。


「どっちでもない。残った方を倒して、カハルちゃんと仲良く生活」

「僕も協力は惜しみません」


 争いを止めたお二人が、「この裏切者」と同時に頭を小突いて来る。へっへっへ、仲良しさんめ。じゃれているだけなのはお見通しなのだ。


 セイさんは本気で阻止したいと思っているのだろうが、カハルちゃんにこうしたいと言われたら、渋々ながらも受け入れるだろう。何よりもカハルちゃんの幸せを願っている人だからね。


「皆、早くおいで。お店が見えたよー」


 シン様が良いタイミングで、手招きながら声を掛けてくれる。


「ふんっ。その口にチョコレートを詰め込んでやる」

「拗ねるな、お兄様。俺は心が広いから、結婚しても定期的に会わせてやるぞ」

「誰がお兄様だ! いいか、ヴァン。ダークの様に駄目な大人にはなるなよ」

「ん。独り占めする人は俺の敵」

「ヴァン、良い子だ!」


 感激するセイさんを横目に見ながら、ダーク様が「暑苦しいのは嫌われるから気を付けるんだぞ」とニヤニヤしながら話し掛けて来る。僕は曖昧に笑って返答を避けながら、早く行きましょうと促す。僕の予想では、このままの関係が続くと思う。だって、カハルちゃんは誰も選びそうにないから。


どの国も王様が個性豊かですね。その人達を纏め上げるヒョウキは凄いんですが、ニコちゃんには残念な印象しか残せていません。頑張って、一番偉い人(笑)。

更新が中々出来ず、申し訳ありません。今日はもう少し更新出来ると思いますので、よろしくお願いします。

お読み頂きありがとうございます。


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