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0374.お揃い

 十分の休憩を挟み、ドキドキハラハラの綱渡りや、猫さん達の大縄跳びの回数を会場の皆で声を揃えて数えたりする。そして、約二時間のショーのクライマックスは空中ブランコだ。


 下に網が張ってあるが、高い所からの落下って相当怖そうだよね。左側の男の人は足を引っかけてブランコにぶら下がり、右側の人は手で掴んで勢いをつけていく。そして、直前に足でぶら下がり、左側の人が腕を掴む。危なげなく終わった事にホッとしていると、まだ終わりじゃなかった。腕を掴んで貰っていた人が振り返ると、揺れている無人のブランコに飛び移り、元の場所に戻って行く。


 ほぁ~、これが一連の流れって事かな? 一つミスしただけで全てが成り立たなくなってしまう。訓練の積み重ねなしには出来ない技だろう。


 その後も空中で回転をしたりと難易度が上がっていく。だが、その全てが成功した。大きな拍手が起こり、僕も夢中で手を叩く。


「ヴァンちゃん、凄かったね!」

「うむ、素晴らしい。俺も網でピョンピョンしたい」


 それは僕も気になっていた。団員さんが上から下りて来る時に、落下した時の為に張られた網に飛び込んで跳ねていた。僕の勘が、あれは絶対に楽しいと囁いている。


 まだ続く拍手の中、団長さんと団員さんが手を繋いで舞台の外周に沿って並び、一斉にお辞儀する。後は音楽に合わせて踊ったり、手を振りながら、一人また一人と消えて行く。


 照明と音楽が消えて静寂が訪れると、『ああ、良いショーだったな……』と満足した空気が会場中に満ちる。そんな中、再び照明が付くと、また全員戻って来て深くお辞儀する。


「これにて、ポルポル一座がお届けする夢のひと時は終わりです。皆様、また夢を見たくなったら、ここへ足を運んで下さい。いつでも我々がお待ちしております。今日はどうもありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 唱和した団員さんが再度頭を下げると、観客は総立ちで拍手を送る。口々に「良かったよ~」や「また来る!」など声が飛ぶ。僕もまた来たいなぁ。


 夢の終わりをちょっと寂しく思いながら出口へと向かう。


「楽しかったか?」

「はい、とっても。ダーク様はどうでしたか?」

「俺も楽しかった。さて、グッズを見に行くか」


 ダーク様はカハルちゃんを抱っこすると、売り場に向かって行く。お目当ては勿論、ノーブさんのグッズだ。


「さぁさぁ、新鮮なマグロは如何ですか? 今なら希少な部位も揃っていますよ。皆さん、もっと近寄って見て行って下さい」


 ノーブさんは黒いつばの帽子を被り、青いエプロン、黒い長靴という出で立ちで売り場に居る。でも、呼び込まなくてもいいんじゃないかなという勢いで、お客様が殺到する。あぁ、ノーブさんが見えなくなった……。


「猫さん、見えない……」


 カハルちゃんが凹んだので、慌ててダーク様の足を叩く。


「ダーク様、肩車してあげて下さい」

「いや、スカートだからまずいだろう。肩に座れ」


 支えて貰いながら右肩に座ったカハルちゃんが目を輝かす。頭にしがみついても許されるなんて、ダーク様を良く知っている人からしたら有り得ない光景だ。この中に知り合いが居たら、別人だと断定しているだろう。


「見えたよ! もうマグロが無くなっちゃうよ」


 そんなに早く⁉ 五分も経っていないんじゃないの? ホクホクとした顔の人と、悔しそうな顔の人が思い思いの方向へ歩いて行く。相当気合を入れないと、マグロはゲット出来ないらしい。


 ノーブさんはマグロ売りが終わると、一旦奥に戻って舞台衣装に着替えて出て来た。すると、他の売り場に居た人が一斉に移動して来る。


「あっ、出遅れちゃった……。売り切れちゃうかな?」


「それなりに数は用意してあるだろう。カハルは弾き飛ばされるから行くなよ?」


「うん、我慢するの」


 ダーク様の足に抱き付いて、じっと我慢するカハルちゃんに抱き付く。こんな良い子には僕が何か買ってあげなければ。


「カハルちゃんはぬいぐるみさんが欲しいですか?」


「うーんとね、見てから決めようと思ってたの。それにね、ノーブちゃんを近くで見たいな」


「じゃあ人が少なくなったら突撃。俺とニコで道を作る」

「カハルちゃん、任せて下さい!」

「道なら僕達が作ってあげるから、大人しく抱っこされていてね」


 シン様にとっては、僕やヴァンちゃんも守るべき対象らしい。カハルちゃんと同じ扱いで喜ぶべきか、僕達だって出来ると主張するべきかが難しい。


「――空いて来たから行くか」


 セイさんが先頭で進んで行くと、女性客がさっと道を開けてくれる。


「どうぞ、どうぞ」

「あ、ああ、すまないな。感謝する」


 さっきまで「邪魔よ!」とか「見えない~」と叫んでいたのに、すっかり大人しくなっている。セイさんは変貌ぶりにたじろぎつつ、カハルちゃんの為にという思いだけで突き進んでいく。お姉さん方、まだまだ超ド級の美形が行きますよ~。


「嘘、今日で運を使い果たした⁉」

「えっ、何が起こっているの⁉」


 ザワザワが止まらない中を進むので、シン様の胸に顔を伏せておく。「僕は一般市民です、注目しないで下さい」と心の中でブツブツと呟く。ヴァンちゃんも同じように顔を伏せながら、「俺はコアラ」と言っている。


「――っ」


 おっと、シン様がヴァンちゃんの発言で笑いそうになっている。必死でお澄まし顔をしているが、腹筋が大活躍しているので、手に取るように心境が理解できる。


「いらっしゃいませ、可愛いらしいお客様」


 声が間近で聞こえて顔を上げると、すぐ下に居た。売り場の台の前で売り子をしているノーブさんが、カハルちゃんに手を差し出し、輝くばかりの笑顔を向ける。


「握手して頂けませんか?」

「え、私⁉」

「はい、可愛らしい姫君。私に貴女と握手出来る幸運を授けて下さい」


 カハルちゃんが戸惑いながらも手を差し出すと、ノーブさんは優しく両手で包む。


「ありがとうございます。もう私は姫の虜だ。望みをなんなりと仰って下さい」


 これもサービスの一つなのだろうかと思っていると、急いで下りたコアラ、じゃなくてヴァンちゃんがズイッと間に割って入る。


「姫君は俺の。横取り禁止」


「おや、ライバル出現ですか。だが、それしきの事で姫を簡単に諦めはしませんよ」


 すかさず他の団員さんがサーベルを投げて来る。パシッと二人で受け取ると、突いたり薙ぎ払ったりしながら、人波の中にぽっかり出来た円で戦う。


「中々やりますね。ですが、姫は私がお守りしますよ!」

「断る。俺が一生守るって誓った」


 ヴァンちゃんは淡々と相手のサーベルを弾いて迫って行く。実力的にはヴァンちゃんの方が上だな。でも、ノーブさんは猫の獣族だけあって俊敏で、時々鋭い攻撃を繰り出してくるので油断できない。


 ガキンとサーベルが斜めに混じり合い、両者が力を込める。ノーブさんが上なので体重を掛けてくるが、ヴァンちゃんは「ふっ!」と力を込めると、サーベルを弾き飛ばす。


「――勝負付いた。姫は俺のもの」


「悔しいですが私の負けです。だからといって、たった一度の負けで私は諦めたりしませんよ。姫、必ずや貴女を手に入れてみせます」


 そう言ってパチンとウィンクする。カハルちゃんは反応に困ったのか、駆け寄って来るヴァンちゃんに抱き付く。


「手出し禁止。他の姫君を見付ける」

「ふふふ、今日の所は引きましょう。さらば!」


 マントを翻すと姿が消えてしまった。集まった人がキョロキョロと探すが、発見できない。うーん、やるな、ノーブさん。


「カハルがモテモテだね」

「そうだな。だが、本命は俺だろう?」

「またダークは揶揄うんだから。私は白ちゃん達と契約したもんね~」

「ね~。本命は僕達ですよ~」


 ダーク様って本気なのかどうかが分かり難いんだよね。本気だとしたら、また振られたか……って内心思っている筈だよね。表情をじっと見ても、落ち込んでいる様子は微塵もない。


「なんだ、ニコ? 俺の顔に何か付いているか?」

「グッズを買わなくてもいいんですか? 無くなっちゃいそうですよ」


 正直に言う訳にもいかないので、当たり障りのない答えを返すと、さっきとは逆に見つめられて居心地が悪い。


「ニコの考えている事は大体予想が付くが、突っ込むのは止しておくか」


 呟くと団員さんに声を掛けている。……僕ってそんなに分かり易いの? いや、ダーク様が異様に鋭いに決まっている。……そう思いたい。セイさん、慰めるように頭をくしゃくしゃと撫でてくれて、ありがとうございます。少しの間、その胸板を貸して下さい。うぅ、兄貴……。


「グッズはここにあるだけか?」

「はい。ノーブのグッズはこれで終了です」

「そうか。カハル、どれがいい? 全種類にするか?」


「えっ⁉ 一つでいいよ。またここへ来た時の楽しみがあった方がいいでしょう?」


「そうか。一番人気はどれだ?」


 ダーク様があっさり引いた。カハルちゃんの言葉は素直に聞くよね。


「キーホルダーが一番人気ですね」


 舞台衣装のノーブさんと銀色のお魚さんがぶら下がったキーホルダーだ。大きさは小さいが、マグロに違いない。


「カハル、これにするか?」

「ダーク、急かし過ぎだよ。もうちょっと待ってあげて」


 急いでキョロキョロしていたカハルちゃんが、シン様の言葉で気を緩めたのが分かる。カハルちゃんは急いで決めるのが苦手なんだな。


「すまない。次から次に売れるから気が急いていた」

「ううん、いいの。遅くてごめんね」

「気にするな。カハルはあまり買い物をした事が無いから当然だ」


 ダーク様は見やすいように抱っこしてしてあげて、ゆっくりと見守っている。その間に、ドラちゃんとビャッコちゃんとクマちゃんは、風船を買いに行っている。青か赤で迷っていたが、赤にしたようだ。クマちゃんが受け取ると、すかさずビャッコちゃんが抱っこする。はしゃぎながら戻って来る姿を見て、思わず頬が緩む。僕も後で抱っこしちゃおう。


「……決めたの。ハンカチにする」


 四隅に猫の顔、お魚、ナイフ、風船が刺繍されたハンカチだ。白、水色、黄色が有り、カハルちゃんは白を指さす。


「白だな。すまな――」

「あっ、ダーク、待って」

「どうした? 他にも欲しい物があるのか?」

「違うの。白ちゃん達とお揃いにしたいなぁって思って……」


 僕とヴァンちゃんへ恐る恐るという感じで視線を送って来るので、僕は黄色、ヴァンちゃんは水色をガシッと掴んで団員さんに突き出す。


「「これ下さい!」」


「はい、ありがとうございま~す」


 お財布から五百圓をむんずと掴んで差し出そうとすると、ダーク様に止められる。


「俺がまとめて買ってやる。専属おめでとう」

「おお、ダーク様、太っ腹」

「ダーク様、最高! 素敵!」


 ヴァンちゃんと僕の反応に苦笑しつつ、三枚買っている。


「千五百圓、ちょうど頂きます。ありがとうございました!」


 僕達にそれぞれ差し出してくれたので、手に持って顔を見合わせる。


「えへへ、お揃いなの~」

「ふっふっふ、仲良しの証」

「僕、一生大事にします!」


 そして、三人でダーク様の足に抱き付き、「ありがとうございます」を連発する。


「そこまで喜んで貰えるなら買った甲斐がある。クマ達も欲しい物はあるか?」


 良かったねという感じで拍手してくれていたクマちゃん達が首を振る。


「食べ物を買って欲しいキュ。お腹がペコペコなのキュ」

「ああ、そろそろ昼か。シンは予定している店はあるか?」

「ううん。ブラブラしながら探すつもりだよ」


 人もまばらになった会場前から歩き出そうとすると、「すみません」と声を掛けられる。


投稿の間が開いてすみませんm(__)m これからも不定期投稿となりますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。


カハルのナイトは、やはりヴァンちゃんですね。無事に守り抜きました。

サーカスも楽しみ、お揃いも手に入れて大満足の白ちゃん達です。使わずに毎日ニコニコと眺めていそうですね。


お読み頂きありがとうございました。

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