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0372.もう絶対に離れてあげません

 シン様の家に帰ると、森の皆とニワトリさんが一斉に僕達を囲んで来た。ずっと今か、今かと待っていたらしい。二人でアケビちゃんの胸に飛び付くと、しっかりと受け止めてくれた。口々に「良かったね~」と言って喜んでくれる姿に感謝が沸き上がる。ずっと僕達が帰って来ると信じてくれていたんだな。


「皆さん、ありがとうございます。ニコ、ただいま帰りました」

「皆、ただいま。これからもよろしく」


 拍手したり宙返りしたりと、それぞれが歓迎の意を示してくれる。


「遊んで来る? クマちゃんが帰って来るまでには戻って来てね」


 森の皆もカハルちゃんもワクワクとした顔で僕達の返答を待っているので、ビシッと敬礼してみせる。


「遊び倒して来ます!」

「ます!」


 ヴァンちゃんも敬礼を決めると、森の中へ走って行く。


「ヴァンちゃ~ん、待って~」


 慌ててカハルちゃんをおんぶして後を追う。テンションが上がっているのか、ヴァンちゃんは木に登ると、枝から枝へとジャンプしていく。それを鳥さんやリスさんが楽しそうに追って行く。


「見えなくなっちゃったね」

「そうですね。気が済めば戻って来ますよ。僕たちはのんびり行きましょう」


 アケビちゃんやキツネさん達と一緒に森を進む。ドングリがいっぱい落ちているから、今度拾いに来よう。塩で茹でるとおいしいんだよね。シン様達も気に入ってくれるといいな。


 考え事をしながら進んで行くと、ヴァンちゃんが戻って来た。


「久し振りの森、最高」


「ねぇ。この森の匂いを嗅いでいると心が安らぐよ。ヴァンちゃんは何して遊ぶか決めた?」


「隠れ鬼しよう。俺が鬼やる」


 隠れ鬼とは、かくれんぼと鬼ごっこをプラスした遊びだ。元々は僕のダイエットの為だったけど、僕達の間では大人気の遊びとなっている。


「よーし、逃げ切ってみせる!」

「ふっふっふ、逃さぬ」


 速攻で捕まるのは嫌なので、必死に逃げよう。決意を固めた所で、カハルちゃんがもぞもぞと背中から下りようとする。


「おんぶしたままでも大丈夫ですよ?」


「でも、本気のヴァンちゃんが相手だと苦しいと思うよ。私はアケビちゃんと仲良く待ってるね」


「そうですか? では、僕も本気で頑張ります」

「うん。皆、頑張れ~」


 声援を貰えたので力が漲って来る。今日こそはヴァンちゃんに勝つ!


 ――結果。笑顔で急接近してきたヴァンちゃんに、速攻で捕まりました……。ちゃんと草むらに隠れていたのに、何故ばれたのか? その答えはすぐに分かった。


「頭隠して尻、いやシッポ隠さず」

「ガーン……。今度は負けぬっ」

「受けて立とう!」


 ふんぞり返ったヴァンちゃんと睨み合う。バチバチバチ~。


 そこに上空から気配が迫って来る。見上げると小さなドラゴンさんのお腹だった。


「お帰りキュ~! ただいまキュ~」


 先に僕達へお帰りと言ってくれるだなんて嬉しい。ドラちゃんと共に胸へ飛び込んで来るので、ポスッと受け止める。


「もうどこへも行かないキュ? ずっと居るのキュ?」

「はい、どこにも行きませんよ。これからはずっと一緒です」

「やったキュー! ヴァンちゃん、痩せたキュ?」

「シン様のご飯を食べればすぐ元通り。沢庵でご飯をいっぱい食べる」

「モキュ。これでにゃんちんも寂しくないのキュ」


 カハルちゃんが慌ててクマちゃんに「シーッ」と言っている。隠さなくてもいいのに。僕だって物凄く寂しかった。でも、僕達の心の負担になりたくないと思っているんだろうな。これから毎日大丈夫だと言って安心させてあげないと。


「皆で帰るのキュ。シンしゃんがご飯だよって言っていたのキュ」

「はい、帰りましょう。今日のご飯は何ですかね?」

「クマも知らないのキュ。でも、ご馳走に違いないのキュ」


 皆で「今日のご飯は何だろうなー?」と歌いながら帰る。完全に浮かれているが、今日くらいは許されるだろう。やったよ、僕! めでたいぞ~。



 アケビちゃん達と森の入口で別れ、井戸で手を洗っていると、セイさんが帰って来た。


「お帰り」

「ただいまです。セイさん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 ヴァンちゃんはよじ登って耳元で「ただいま」と言っている。ヴァンちゃんて、セイさんに登るの好きだよね。一方のセイさんは、くすぐったそうな顔をしながらも、「お帰り」と頭をポンポンと優しく叩いている。うん、兄弟っていう感じがする。良い場面だから水晶で撮影しておこう。


「皆、お帰り。ご飯にするよ」

「はーい」


 囲炉裏の周りにはホカホカと湯気を上げるご飯が並んでいる。


「あーっ! 肉じゃがだー!」

「ふふふ。ほら、落ち着いて。お替りもいっぱいあるから、沢山食べてね」

「はい! あ~、おいしそう……」


 他にも茶碗蒸し、沢庵、ほうれん草のおひたしなどが並んでいる。肉じゃがを見ると、シン様と出会ったばかりの事を思い出す。あまりのおいしさに衝撃を受けたっけ。シン様も新生活の始まりには肉じゃがだって思ったのかな?


「ヴァンちゃん、デザートにはイチゴとメロンがあるからね」

「おぉ、贅沢。お腹に余裕を残さねば」


 メロンがあるの⁉ そうすると、肉じゃがを控えないといけないのか……。あ~、食べたい物ばかりで悩ましい!


「はい、食べるよ。いただきます」

「いただきます!」


 唱和して食べた肉じゃがは最高だった。うんうん、この味だよ。やっぱり、シン様の料理が僕にとっては世界一だ。はぁ~、お味噌汁もホッとする味だ……。


 フワリさんが作ってくれたのもおいしかったけど、どこか違っていたんだよね。うーん……。シン様の味付けの方が、甘さ控えめな気がする。 


 大事に味わって食べ、肉じゃがは一回お替りするだけに留めた。未練たっぷりだが、残りは明日の朝に食べよう。デザートを満喫し、隣に居るカハルちゃんの顔を覗き込む。


「どうしたの? デザートが足りないなら私の分を食べてもいいよ」


「いえ、もうお腹いっぱいです。カハルちゃんの明日のご予定を聞きたいなぁと思ったんです」


「白ちゃん達と過ごそうと思って、丸一日空けてあるよ」

「おぉ、何て良い子」


 ヴァンちゃんがカハルちゃんの頭を両手で撫で回す。明るい笑い声が響いて、セイさん達も優しい顔で見守っている。


「お風呂の中で相談してくるといいよ。セイは付いて行ってあげてね」

「ああ、分かった。行くぞ」



 クマちゃんとビャッコちゃんも一緒だったので、はしゃぎ過ぎてしまった。うぅ、熱い……。


「潜って息を止める対決をしていたの? それで全員のぼせたと……。おしおき!」


 痛くないデコピンに思わずニンマリしてしまう。もっとやってもいいですよと言ったら怒られそうなので、大人しくしておこう。


「こら、皆でニヤニヤしないの。遊ぶなとは言わないけど、体調には気を配る事。いいね?」


「はーい」


 シン様は、しょうがないなという顔をしながらも、魔法で冷たい風を送ってくれる。


 セイさんはカハルちゃんを抱っこしながら、「目を離さなければ良かった」と呟いている。「先に出るから、のぼせないように気を付けろよ」と言ってくれたのに、僕達は綺麗さっぱり忘れて遊ぶのに夢中だった。様子を見に来てくれなければ、お風呂でうつ伏せに浮いていたかもしれない。


「セイさんは悪くありませんよ。僕達が全面的に悪いんです」

「そうキュ。戻って来てくれなきゃ、もっと酷い状態だったでキュ」

「だが……」


 責任感が強い人だからなぁ。悪くもない自分を責めてしまっているのだろう。申し訳ない事をしてしまった。


「ほら、セイもおしおき」


 シン様がセイさんをデコピンしている。罰せられた事で気持ちが落ち着いたのか、表情が緩んでいく。


「セイさん、すみません。今度はちゃんと気を付けます」

「ああ、そうしてくれ」


 次々と謝る僕達を撫でながら、少し遠い目をする。何か記憶を探っているのだろうか?


「そう言えば、明日はどうするんだ? 決めたのか?」


 ハッと息を呑んだ僕達の様子で全てを悟ったらしい。はい、すみません。ノープランです。


「シンも俺もクマも休みだから、家族全員で出来る事がいいか?」

「はい! ミナモ様が水の国がお薦めだって言っていましたよ」

「水の国か。観光するには良い場所だな」

「――それなら良い物があるぞ」


 出た、ダーク様! 久し振りのタイミングバッチリのご登場に、胸のときめきが止まりません。……ビックリしただけとも言う。


「何で伸びているんだ?」

「のぼせたんだよ。それで良い物って?」

「ああ。サーカスのチケットがある。見に行かないか?」


 勿論、断る人なんて居る訳が無い。満場一致で見に行く事が決定した。今度はちゃんと胸がときめいております。初めてのサーカスに期待大だ。


「まだあるぞ。料理長にケーキを作って貰った。俺からのお祝いだ」


 箱を受け取って中を覗くと、ガトーショコラがワンホール入っていた。


「チョコ!」


 ヴァンちゃんが嬉しそうにフンフンと匂いを嗅いでいる。チョコ好きなカハルちゃんも箱を覗き込んで、ヴァンちゃんと笑い合っている。とても魅力的だけど、今はお腹がいっぱいなので明日だな。


「ダーク様、ありがとう。大事に食べる」

「ああ。三人共、良く頑張ったな。おめでとう」

「そんな事を……言われたら…………う……うっ、うわぁぁぁ~ん!」


 急に労われて感情が剥き出しになってしまった。ペタンと座り込み、声を上げて泣いてしまう。カハルちゃんとヴァンちゃんもグスグスと泣きながら、僕の手を握ってくれる。


 ダーク様は少し乱暴に僕達の頭を順々に撫でてくれる。優しい眼差しを受けて、涙が溢れて止まらなくなる。う~、いつものニヤリ顔じゃないなんて反則だ~。


「そんなに泣くと目が赤くなって、明日外に出られなくなるぞ」

「ごまりまず~~~、うっぐ、うぅぅ……」

「ダークが泣かせたんだから、責任を取ってね」

「俺の責任なのか? はぁ、しょうがない。困った奴だ」


 言葉とは裏腹に撫でてくれる手は優しくて、ささくれだった心まで撫でて貰っているような気分になる。その所為で無理矢理押し込めていたものが次々に溢れ出したので、更に大泣きした。


 僕のあまりの泣きっぷりに慌てた皆が必死に慰めてくれる。受け取った数々の温もりのお蔭で途中から嬉し涙に変わり、僕は笑顔のままスコンと眠りに落ちた。ただいま、僕の大好きな人達。もう絶対に離れてあげませんからね……。


ニコちゃんに派手に泣かれて、全員がワタワタしています。ヴァンちゃんとカハルも泣くのを忘れて必死に慰めます。自分より泣いている人が居ると冷静になっちゃうのかも?


ここで一旦完結となります。

お読み頂きありがとうございました。

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