0036.新しい武器
「次は宝石を用意しないとね。ヴァンちゃん、手を出してくれる?」
不思議そうなヴァンちゃんの手を握り、カハルちゃんが何かを目で追っていく。
「相性がいいのが火で、土が悪いかな……。ヴァンちゃん、ありがとう。もういいよ。次はニコちゃん、お願いします」
ヴァンちゃんと交替で、手を握られる。
「うん、バランスがいいね。どれでもいけそう。ありがとう、ニコちゃん」
不思議そうな僕達の前で、カハルちゃんが一生懸命に考えている。さっき、見ていたのは魔力なのだろうか? でも、前に魔法使いの人に見て貰った時は適性が無いって言われたけど。
「よし、決めた」
力強く頷いたカハルちゃんが手の平をお椀状にすると、ポコポコと何処からともなく綺麗にカットされた宝石が次々と出て来た。
手の平が小さいから、あっという間に零れ落ち始める。
「わぁ! 入れ物、入れ物」
慌てて供物用に多めに持って来ていた木の鉢を持ってくる。その中に勢いよく色とりどりの小さな宝石がざらざらと入っていく。
だけど、一向にとどまる気配がない。訝しく思ってカハルちゃんに目を向けると――。
「寝てるぅ⁉ カハルちゃん、起きて、起きて」
ゆさゆさしてみたけれど、こっくりしながら起きる気配がない。どうしよう、宝石が止まらない。
一際、がくんと大きく頭が傾いた瞬間、カハルちゃんの目が覚める。
「うわっ、わっ」
慌てた声を上げながら宝石の噴出を止めたカハルちゃんが、思いっきり八の字眉毛でこちらを見る。
その情けなそうな顔に思わずブハッと吹き出す。それに、つられるようにカハルちゃんの表情が徐々に笑顔に変わっていく。
皆でひとしきり笑うと、作業再開だ。
「ヴァンちゃんの手甲鉤には大きめの宝石を四つ。火を強化して、後は風と土を入れて、強力な結界が一度だけ発動出来るようにして……」
カハルちゃんが説明しながら宝石を握り、グッと力を込めてから次の宝石に手を伸ばす。置かれた宝石の中に魔法陣が見える。淡く光っていて綺麗だなぁ。
宝石の準備が終わると、いよいよ武器の制作だ。ヴァンちゃんの手の大きさなどを一通り確認すると、金属の加工となる。あんな小さな体で、どうやって鍛冶をするのだろう? しかも、道具も無い。
ワクワクと見つめる僕らの前で、カハルちゃんが目を閉じ、両手でボールを持っているように手の間に空間をつくる。
軽く息を吸うと始まった。まるで、ショーを見ているようだ。淡く光る白っぽい球体の中に手首、甲、鉤の順に徐々に形が作られていく。宝石がふわっと浮き球体の中に入ると、あるべき場所へ嵌っていく。
形が完成すると球体の中を炎と癒しの光が駆け巡る。破裂するのではないかと思うほど、魔法が武器に吸い込まれていき、突如ふっと光が消えた。
「完成。ヴァンちゃん、試しに嵌めてみてくれる? 合わなかったら、すぐに直すよ」
ヴァンちゃんは緊張した面持ちで受け取る。
「――凄い。こんなに手に馴染む武器は初めてかも」
そう言うと、武器を動かし始める。
「魔力を少し流せば、魔法も打ち出せるよ」
「俺、魔法の素質が無いって言われた。だから、魔力の使い方が分からない」
「あっ、僕もです」
「ヴァンちゃんとニコちゃんに素質がない? そんな事ないよ。ちゃんと、さっき確認できたし。確かに、訓練してないせいか魔力が少ないけど」
「俺も使えるようになる?」
「うん。魔力の流し方を二人に教えるね。それと、戦いまでに更に武器に魔力を込めていくから」
「まだ、入る? 楽しみ」
ヴァンちゃんが強い武器に喜んでいる。僕も手裏剣が楽しみだ。
カハルは何かの途中によく寝ます。
魔法を使っている時じゃなくて良かった……。
次話は、魔力の練習です。
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