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0364.海の国の城

 野宿を繰り返し、深い森の中を進んでいく。王都が近付いて来て治安が良くなったお蔭か、悪い奴等もここの所は見ていない。


 海の国と言いつつ森しか視界に入って来ない。町は海の方に多くあるので、善良な一般人にも行き会わない。葉の隙間から零れ落ちて来る日の光を眺めていると、カラフルな鳥が飛んで行く。首から上は黄色、胴体は青、羽根は赤色だ。


「ポンポコさん、あの鳥、何て言うんですか?」

「あれはインコだのぉ。という事は、王都がもうすぐ見えて来るぞ」


 何でそんな事が分かるのかと思ったら、ポンポコさんがカーブを曲がった所で、「ほら、あれだ」と指さす。


 街道の右側に大きく枝を伸ばした木があり、びっしりとインコが止まっている。色が鮮やか過ぎて、目がチカチカする程だ。


「何ですか、あれ⁉」

「海の国の名物、『カラフルツリー』じゃよ。二百羽くらい居るかのぉ?」


 ほへぇ、凄いな~。よく枝が折れないものだ。じっと見ていると、次々に「海の国へようこそ!」と喋り出す。全員が言うので、『ありがとう』ではなく、『うるさい』と感じてしまう。


「……あれ? あのインコの言葉、ポンポコさんも分かりますか?」


「ああ、分かるよ。他にも『魚食ってけ』だの、『海は見たか?』だのを繰り返す。儂は何度もここを通っているから、すっかりお馴染みの光景だのぉ」


「へぇ~、そうなんですか。僕達と会話も出来るんですか?」


「そこまでは出来ないのぉ。知っている言葉を繰り返す程度だ。だが、何度も繰り返し聞かせると喋るそうだ。いま話している言葉は、海の国の者が教え込んだらしい」


 話している間に森が開け、坂道を上りきった所で王都『マリナ』が眼下に広がる。人口は百四十万人近く居るらしいが、どこまでも続く大きな都市だと感じるだけで、人数を聞いてもピンと来ない。


 屋根は茶色、壁は白で統一されていて、都市全体にまとまりがある。森から出たばかりの所は平屋が多く、都市の中に入って行くと高い建物が増えてくる。


「似た様な建物ばかりで、一人で歩いたら迷子になりそうです」


「そうだのぉ。観光客はよく迷うから、ああやって兵士が見回りを兼ねて案内しとるようだ」


 今も次から次に道を聞かれている。でも、道しるべになるような建物があまりない。何軒目を右とか教えるのだろうか?


「その点、儂等は迷わんよ。ほれ、海の国の高い塔が見えるだろう? あれを目指して行けば自然と着く」


 どこに居ても必ず目に入るくらい高い塔だ。飴細工のような質感で、白の間に、竹の節のように青がサンドされている。青の部分は透明感があってキラキラとしているけど、ガラスで出来ているのだろうか? 天辺には黄色の丸い巨大な玉が付いていて、灯台のようだ。


「あれは光るんですか?」


「その通りだ。夜になると光り、塔もライトアップされて、とても綺麗なのだよ」


 残念ながら僕達は見られないな。夜になる前に魔法道で帰ってしまう。


 塔を正面に見ながら、突き固められた茶色の道を進んでいく。通りを行く人が増え、城が近くなってきたので、お店が途切れることなく続く。


「お腹が空いたのぉ」

「そうですね。あー、パン屋さん……」


 匂いがお腹を刺激し、身を乗り出してずっと目で追ってしまう。でも、帰ってからご飯なので、ここはひたすら我慢だ。その後もタルト、カステラ、サブレなどが目に飛び込んで来て、ポンポコさんと一緒にお腹を撫でて宥める。


「そんなに腹が空いたなら、買って来てやるぞ」


 隊長さんのありがたい言葉に首を横に振る。


「一個食べたら、満足するまで手が伸びちゃいますよ」


「儂もニコと同じだ。あんなに良い匂いの菓子を一口食べたら……。おぉ、考えるのも止めだ、止め」


 似ていると周りの人達が笑っている。僕とポンポコさんは食べる事が大好きですからね~。身を乗り出して後ろの馬車に居るヴァンちゃんを見ると、僕の予想に反して眠そうに通りを見ている。僕と同じように「サブレ……」って目で追っていると思ったのに。睡眠が足りなかったのかな?


「城への入口が見えて来たのぉ。ここから石畳で少し上り坂になるぞ」


 城は丘に建っていて、城壁で囲まれている。城の正面には五階建てくらいの建物が幾つも並び、城内へ入る道は右側の城壁内に沿って伸びている。徒歩の人は階段で登るか、無料で乗れる馬車に乗る。でも、距離があるので、徒歩で行く人は少ない。


 塔は城の真ん中にあり、それを囲むように白い建物が作られている。長さの違う長方形の積み木を並べたような見た目で、太い塔の集合体みたいな感じだ。


「不思議な形のお城ですね」


「そうじゃのぉ。増改築を繰り返して今のような形になったらしい。中は迷路のようになっているかもしれないのぉ」


 書類配達で中を移動した事はあるけど、迷子にはならなかった。でも、上の階にはほとんど行っていないので、真偽は分からない。外側から見るのも今日が初めてだ。


「真ん中の塔は何メートルあるんですかね?」


「二百メートルだったかのぉ? あの塔は創造主様が作ったらしい。中にはデラボニアが何十本もあるそうだ」


「人間のですか?」


「そうらしいのぉ。床は土で満たされ、あの青い所から光が入って綺麗だと聞いた事がある。警備が厳重で、子供を願う海の国の住人以外は入れないから、儂等は見られんがのぉ」


 僕も是非とも見学したかった。カハルちゃんはあんな大きな建物も創れるんだな。


「元々は周りに建物がなかったんですかね?」

「代々の王族が建てたと聞いたのぉ。あの規模だと町では管理しきれまい」


 イザルトでは三階以下の建物が多いが、この城は三十階建てくらいのものがボコボコと建っている。僕は書類配達の時に、ほんの一部しか移動していなかったんだな。でも、こんなに部屋が必要なのかは疑問である。大きな都市の城だと、これくらい必要なのだろうか?


 石の門を三度ほど潜って天辺に着けば、すぐ右横に魔法道の建物がある。続々と人が入口に吸い込まれて行くから、順番待ちの時間が長そうだ。


「少し降りて手足を伸ばすかのぉ」

「そうですね。城の正面にある広場からは、下の景色が見られそうですよ」


 観光客が下を覗いて、記録用水晶で撮影している姿が多く見られる。ヴァンちゃんと隊長さんも誘って、僕達も建物の際に歩いて行く。


「――うわぁ、町が一望できますよ!」


 都市を巡る道は縦横の間隔が均等で、その中へ綺麗に建物が収まっている。下から見た時は似た様な建物ばかりだと思っていたが、こうして見ると、同じ色合いでも本を開いて伏せた様な形や、四面傾斜していたりと、バリエーションが豊かな屋根だ。建物は真ん中にある庭を囲む形が多く、緑溢れる都市となっている。


「ここは色々と統一されていますね」


「創造主様が最初に道を少し作っていたそうだ。それを真似してここまで大きくなったらしい。そのような事から、建物も統一性があった方が良いと考えたのかもしれないのぉ」


 カハルちゃんの影響が大きい国なんだな。ヴァンちゃんもそれを聞いてようやく興味を持ったのか、景色を眺め始める。


「ヴァンちゃん、どうしたの? 疲れちゃった?」

「うーん、だるい。疲れが出たのかも」

「そこの段差に座る?」


 手を引こうとして熱いことに気付く。


「ヴァンちゃん、熱があるんじゃないの? 手が熱いよ」

「ん? そう?」


 自分ではよく分かっていないらしい。村に帰ったらすぐに寝て貰おう。


「大丈夫か?」

「意識ははっきりしているので大丈夫な筈?」

「疑問形では大丈夫と言えないだろう」


 隊長さんが苦笑してヴァンちゃんを抱き上げる。


「お前は毛布に包まって寝ていろ。俺が村まで送ってやる。いいですよね?」


「ああ、構わんよ。ニコとヴァンを連れて村に直行するといい。フルクスを一頭連れて行っていいからのぉ」


「了解です。ニコは自分たちの荷物を持って来てくれ」


 隊長さんは馬車からフルクスを外す為に足早に去って行く。


「はい、ありがとうございます。ポンポコさんもお気遣い頂きありがとうございます。ここで任務達成のサインを頂いてもいいですか?」


「構わんよ。――ミルンによろしく伝えてくれるかのぉ。今度、儂と一緒に旅をする時は、元気いっぱいの顔を見せておくれ」


「はい。それでは失礼致します」


 その時はヴァンちゃんの事を言っているのかと思ったけど、村に帰って本格的に熱が上がったヴァンちゃんの看病をしている時に、僕達が落ち込んでいる事について言っていたのだと気付いた。


 いつも通りだと思っていたけど、滲み出てしまったようだ。やっぱり自分の気持ちをねじ伏せる事なんて出来ないんだな……。


 考え込んでいるとノックが響く。


「どうぞ」

「失礼するわね。ヴァンちゃんは眠っているのかしら?」

「はい。ぐっすり眠っています」


「それなら良かったわ。心配なのは分かるけど、ニコちゃんも寝た方がいいわ。長旅で疲れたでしょう? 私が見ているから大丈夫。ね?」


 それもあるけど、僕はきっと寂しいのだ。心にぽっかり穴が開いて、とても不安で悲しい。それが軽くなるのは、同じ感覚を共有しているヴァンちゃんと話している時だけだ。


「眠れないのかしら? ホットミルクを飲む?」

「いえ、大丈夫です」


「……何か悩み事かしら? 二人共、シン様の依頼を終えてから、何かを堪えている顔をしている時があるわ」


 口を開きかけて止める。フワリさんにまで背負わす事じゃない。これは僕達がどうにかしなくてはいけない。


「まだ村でのペースを取り戻せないだけですよ。徐々に調子を掴むので大丈夫です」


「そう? もし相談したい事があったら言ってね。私はいつでも二人の味方よ」


「はい……」


 思わず泣きそうになったのをぐっと堪え、後を託して静かに部屋を出る。僕はちゃんと平静な顔を出来ていただろうか? あまりフワリさんに心配を掛けたくない。


 フワリさんと村長は僕達を大事に慈しんで育ててくれた。それなのに、僕達はシン様をお父さんと呼びたいと思っている。裏切りのような気がして胸が痛む。僕はなんて身勝手なのだろう……。


 悲しく沈んだ気持ちを抱いて布団に潜り込む。その夜は中々眠りが訪れなかった。


ニコちゃんは真面目なので、ちょっと城の外観でも見ちゃおうかなという事もしていません。

魔法道から魔法道への移動なので、城の内部ばかり見ています。


次話は、クマちゃんの花屋に行きます。


お読み頂きありがとうございました。

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