表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
363/390

0362.野望達成

「ニワトリさ~ん」


  僕の呼び掛けで一斉に振り返る。ブンブンと手を振ると、飛ぼうとでもするかのように羽根を動かして応えてくれる。


「コケーーー!」


 羽根が舞う中、一羽のニワトリさんが走り寄り、ヴァンちゃんに抱き付く。


「オーラム・ガッスさん、久し振り。元気?」

「コケ、コケッ」


 やり取りをしている間に、僕とヴァンちゃんはニワトリさんに完全に包囲されていた。


「コケッコ、コケーコッコッコ(良かったね、また来られて)」


 その言葉を聞いた他のニワトリさんも、次々に「良かったね」と言ってくれる。


「カハルちゃんが会いに来てくれたんですよ。夜まで一緒に居られるので、遊びませんか?」


「コケー。コココ、コケッコ(勿論だよ。森の皆も誘わないとね)」

「はい。あ、そうだ。卵を下さい」


 次々と差し出されて焦る。誰から貰ったらいいの⁉ グイグイ寄って来るので後退するが、後ろにも居るので逃げられない。


 そこに頼もしい助けがやって来る。


「――ガーウ」


 空中にひょいっと持ち上げられ、フワフワで逞しい腕の中に収まる。


「ガウ、ガウウ、ガウー(シン様に聞いたんです。お帰りなさい)」

「ただいまです、アケビちゃん。誰の卵を貰えばいいんでしょうか?」

「ガーウー……。ガウ、ガウ、ガウ」


 悩んだ後に適当に指さすと、ニワトリさんも異論は無いらしく、ヴァンちゃんに渡している。


「ありがとう。これで卵かけご飯を食べられる」


 ヴァンちゃんが深々と頭を下げるのに合わせて、僕も腕の中で頭を下げる。


「コケッ」


 見事に揃った鳴き声でお返事してくれた。皆さん、チームワークが良いですね~。


「ガウ、ガウウー? (何をして遊ぶのですか?)」

「遊具で遊びたいです。回転木馬に皆で乗りませんか?」


 頷いてくれたので家に戻ると、既に森の皆が勢揃いしていた。


「ただいま」


 ヴァンちゃんが端から頭を撫でていく。僕も触れ合いに行ってこよう。


「アケビちゃん、降ろして貰ってもいいですか?」

「ガウ」


 狐さんとウサギさんにガバッと抱き付く。あ~、このフワフワで温かな手触り……。帰って来た事を実感するなぁ。


 ヴァンちゃんが僕の頭に鳥さんを乗せ、アケビちゃんが僕の背中に何かをくっつける。


「ん? 誰だろう……。この大きさという事は……リスさん!」


 よじ登って来ると、正解という感じで僕の顔を覗き込んでくれる。やった、当たったよ。


「ニコ、俺は卵を置いて来る」

「うん。カハルちゃんが起きていたら連れて来てね」

「うむ」


 アケビちゃんが僕をシーソーに乗せてくれる。片側は誰が乗るのかな?


「――よいしょ」


 シン様が乗ったよ。予想外の事に目をパチパチさせていると、ヴァンちゃんがやって来る。


「おー、ニコに加勢せねば。カハルちゃんも乗る」

「うん。うんしょー」

「うおりゃー」


 あれ? シン様が下がったままだ。壊れたのかな?


「皆、軽減のお札を持っているでしょう。……いや、全員足しても僕より軽いか。アケビちゃん、よろしく」


「ガウ」


 手でグーンと押してくれる。おー、楽しい~。シン様は足が長いので、持ち上がっても地面に届いている。もう嫉妬するのも馬鹿らしい程のおみ足でございます。……本当は羨ましいと思っていますけどね!


 その間にニワトリさん達は、回転木馬の床に全員が飛び乗っている。


「それは魔石を触らないと動かないよ。ほら、ジャンプ」


 シン様の声に従い、次々と中央の柱にある魔石を目掛け、ニワトリさんが床を強く蹴る。


「コケッ(乗せてっ)」

「コゲー! (重いー!)」


 ジャンプは上手くいかなかったので、背中に一人乗せて踏ん張っている。よし、後ちょっとだ。頑張れ~。


 翼で撫でると見事に床が回り始め、下のニワトリさんは力尽きて潰れる。


「ゴゲー」


 凄い鳴き声だけど大丈夫だろうか? 近付いて見守っていると、ヨレヨレと立ち上がる。そして、上下する木馬の真似なのか、羽根と足をゆっくり上下させながら床に運ばれて行く。


「楽しそうだね。モモが見たら喜びそう」

「そうですね。呼んで来ましょうか?」

「うーん……撮影を始めると面倒だから却下」


 面倒って言われていますよ、モモ様。でも、今日は家族水入らずで過ごせばいいか。


「ウサギさんも乗りたいの? うんしょ」


 カハルちゃんが持つと巨大に見えるウサギさんは、足が地面に付かないように自分で持ち上げている。


「よいしょ、よいしょ」


 右に行き、左に行きと、フラフラして危なっかしいので、シン様が更に持ち上げる。


「はい、どうぞ」


 木馬に跨ったウサギさんは、木の棒へ器用にしがみついている。どちらかというと、カハルちゃんの方が危険だ。


「ふわぁ……ふにゅ……」

「おっと、まずい。寝ちゃったよ」


 シン様が慌てて登って抱き上げている。ニワトリさんがシン様の動きに合わせて、波が引くように動く姿が面白い。


「ニコちゃん達は乗らないの? 遊んで来なよ」

「では遠慮なく」


 ヴァンちゃんと共に跨る。――うん、何度乗っても楽しい。こんな凄い物が家にあるなんて、贅沢だよね。


 しっかりと満喫してから降りると、シン様が手招いて来る。


「おいで、おやつにしよう」


 シン様は、ニワトリさんと森の皆にリンゴを配っている。僕も思わず口を開けると、笑いながら欠片を入れてくれる。あー、幸せだー。


 家に入ると、囲炉裏の周りに真っ赤なイチゴが入った器が並んでいる。


「おぉー、イチゴー」


 イチゴ大好きなヴァンちゃんは靴を脱ぐ事すらもどかしいのか、ブーツの紐を緩めると、四つん這いでブンブンと足を振っている。


「ヴァンちゃん、お行儀が悪いですよ」

「ニコ母さん、イチゴ、イチゴ!」

「ふふふ、ニコ母さん、ビシッと注意してあげてくれるかな」

「はーい。悪い子にはイチゴをあげませんからね」

「おぉ、悲しい……。すぐに揃えるから、ご勘弁を~」


 きっちり揃えたので、「よろしい」と頷いてあげる。


「やった。俺のイチゴ~」


 ヴァンちゃんも結構食いしん坊だよね。なのに、何故太らないのか。お腹の中にもう一人、小さなヴァンちゃんでも居るのだろうか?


「練乳いる?」

「このままでいい。食べていい?」

「どうぞ。クマちゃんが作ったイチゴは甘いよ」


 期待たっぷりという顔をしながらフォークで刺し、ポコッと丸ごと口に入れている。


「ふぅお~、あまあまジューシー」


 お気に召したようで、目を閉じて味わっている。僕も頂こうっと。――ん~、匂いも素晴らしい。飲み込むのが勿体無い程のおいしさなので、ゆっくりと噛んでいく。


「帰りに持たせてあげるよ。後はミカンと干し柿もあげる」

「ありがとうございます。馬車で食べますね」

「うん。あの商隊はどこまで行くの?」

「海の国の魔法道から闇の国へ戻ります」

「そうなんだ。あの位置だと、あと五日は掛かるね」

「はい。今度は森が続くと言っていましたよ」


 ヴァンちゃんがもう半分も食べてしまった。手が止まらない姿を見て、カハルちゃんが自分のイチゴを分けてあげている。


「おぉ、カハルちゃん、優しさの塊。俺に出来る事があったら何でも言って欲しい」


「じゃあねぇ、私が訪ねて行った時は、また遊んで欲しいな」

「お安い御用。他には?」

「まだいいの? ……うーん、貯金しておこうかな」

「貯金?」

「そう。して欲しい事があったら使うね」

「うむ。お任せ」



 晩御飯の時間になると、続々と帰って来る。


「あーっ! 白ちゃん達でキュ!」

「クマちゃん、ただいまです」

「ただいま」

「お帰りキュ。いつまで居られるのキュ?」

「ご飯を食べたら帰ります」

「――そんなに早く帰ってしまうのか? 俺は今やっと会えた所なのに」


 セイさんが僕達を纏めて抱き上げてくれる。そうそう、この腕の筋肉ですよ。頼もしいお兄様は今日もカッコイイな。


「もっと居るキュ~。クマもやっと会えたのキュ」

「ほら、困らせないの。また僕が何度だって連れて来てあげるから」


「キュー……。分かったのキュ。クマも果物を持って、白族の村に押し掛けちゃうのキュ」


「是非来て下さい。さっきもイチゴを食べさせて貰ったんです。とっても甘くておいしかったですよ」


「そうでキュ。ビャッコちゃんもよくつまんで食べているのキュ」


 見られてた! という感じで、気まずそうに目を逸らしている。ビャッコちゃんもそういう事をするんだなと意外に感じる。真面目さはほんの一面に過ぎないという事か。僕ももっと色々な姿を見てみたいな。



 囲炉裏の周りを囲み、食べたくてしょうがなかった卵かけご飯を頬張る。


「卵おいし~」

「沢庵最高」

「沢庵を村で食べていないの?」

「食べているけど、あんまり合わない」

「そっか。じゃあ、多めにお米を分けてあげるよ」


 ありがたいなと思いながら頷く。口の中にパンパンに詰め込んでいて喋れないのだ。ゆっくり噛んで、焼き鮭に箸を伸ばす。ほんのり塩味の欠片を口に放り込み、またご飯をパクリ。シンプルだけど、最高の贅沢に感じる。


 ほうれん草のおひたしもお味噌汁も僕の口に良く合う。塩加減がちょうど良いんだよね。あ、そうだ!


「シン様、お出汁も欲しいです。僕達の村にはコンソメしかないので、洋風な感じになってしまうんです」


「あー、そうだよね。鰹節と昆布と煮干しでいいかな。後は何か足りないものはある?」


「いま思い付くのはそれだけです」


「そう。遠慮せずにどんどん言ってね。僕もしょっちゅう会いに行く口実になるしね」


 シン様も遠慮していたんだな。村に前の依頼主がしょっちゅう来るなんて、今まで無かったから、村の皆がどうしたのかと思うよね。僕達のお父さんですなんて言えないし……。


「ニコちゃん達はいつ村に居るのキュ?」


「当分は居ない事が多いと思います。明日から五日くらいは、海の国で護衛仕事ですよ」


「そうなのキュか。突然行っても会えないキュね。詳しい予定が分かったら教えてキュ」


「はい。クマちゃんのお店はどうですか?」


「相変わらず、邪な人がよく吹き飛んでいるキュ。お触り禁止って言っているのに聞かないのキュ」


 その気持ちは分かる。僕達を触ろうとする人が、しょっちゅう居るのだ。だが、そのお蔭で気配を感じ取る感覚がより鋭くなった。


 海苔で一口残ったご飯を巻いて食べたらフィニッシュだ。シン様のご飯は満足度が違う。食べ終えた後も幸せな気分が湧き出て来るのだ。


「デザートはフルーツたっぷりのヨーグルトだよ。ゆっくりお食べ」


 ミカン、リンゴ、イチゴがゴロゴロと入っている。ひと口食べれば甘い匂いと果汁、ヨーグルトの酸味が口に広がる。ゆっくりと言われたけど、夢中で食べていたら、ペロッと平らげてしまった。


「はい、お茶。そろそろ帰る時間だね」


 思わずうつむいた僕達に、カハルちゃんやクマちゃんが抱き付いて来る。


「また来てね。絶対、ぜーったいだよ」

「そうキュよ。来ないと攫いに行くでキュよ」


 やっぱり来なければ良かったという考えが頭にちらつき、すぐに打ち消す。別れは寂しいけど、会うのを我慢する方がもっと寂しくて悲しい。


 ヴァンちゃんがカハルちゃんの手を握り、頬に持って行く。


「カハルちゃん補給。これで暫く頑張る」

「うん。私も補給するの」


 今度はカハルちゃんがヴァンちゃんの手を握って頬に付ける。僕はクマちゃんを補給だ。ぽっこりお腹を撫でていると、何か良い事が起こりそうな気がする。


「ニコちゃんばっかりずるいキュ。クマにもそのお腹を撫でさせるのキュ~」


 両手でわしゃわしゃと撫でたり、ポンポンと太鼓のように叩かれる。


「良いお腹なのキュ。叩きがいがあるのキュ」

「それは太ったって事ですか⁉」

「微妙にでキュかね。それとも冬で毛が多くなったんでキュかね?」


 毛であって欲しい……。今度、村の子達と真剣に遊ぶか。ハードなので、脂肪ともおさらば出来るだろう。


「僕の所にもおいで。――もうっ、可愛いな。鼻もお目目もシッポも全て可愛い」


 おぉ、照れます~。ギュッと抱き締められると、心まで守って貰えている気がする。また抱擁して貰えるのが、いつになるか分からないので、僕も服を握ってより密着する。


「――よし、ニコちゃん終了。次はヴァンちゃん、おいで」

「了解」


 ヴァンちゃんは首に腕を回してしがみついている。力が強いのか、シン様は少し苦しそうだが、何も言わずに抱き締めてあげている。僕達の気持ちをこれ程までに分かってくれる事に嬉しさが募る。やっぱり、シン様は最高のお父さんだ。


「――補給終了。シン様、ありがとう」

「どういたしまして。――ほら、カハル、泣かないの」


 カハルちゃんはセイさんにしがみ付いて泣いている。僕だって離れたくないけど、今回会った事で気持ちはピッタリ寄り添っているのを確信した。


「また来ます。だから、お顔を見せて下さい。僕の顔を覚えていて下さいね」


「うぅ~、忘れたりしないもん……。そんな可愛くて好みな顔、忘れる筈ないよ」


 シン様がハンカチで涙を拭いて頭を撫でる。


「泣き止んで偉いね。笑顔で見送ってあげようね」

「うん。宿まで付いて行っていい?」

「勿論。セイ達も行く?」

「ああ」


 外に出ると、ニワトリさんや森の皆が居た。今日は木の実を渡せると、次々に差し出される。えへへ、どんぐりがいっぱいだ。


 ニワトリさんは三列に並び、「コケコッコー」と勇ましく鳴くと、ビシッと敬礼してくれた。はわぁ~、僕の野望が達成されたよ~! 歓喜に浸りながら、ビシッと敬礼を返す。今日は何て良い一日なのだろう。


「ふふふ、良かったね。野望達成だね」

「はい! 僕の萎んだ心もこれでパンパンに膨らみました」


 シン様の足に掴まって手を振ると、すぐに皆の姿は見えなくなる。途端にプシューと萎み始める心に内心で苦笑する。思っていたよりずっと短いな……。


「別れたって何度でも会えるよ。あそこは二人の家なんだからね」

「はい……」


「ニコちゃん、元気出すキュ。出ないなら、クマがドラちゃんに乗って、すぐに行くでキュよ」


「俺も会いに行く。会いたいのはお前達だけじゃないんだぞ」


「「はい!」」


 そうだよね。両方が望んでいる事なら、叶うスピードも速いに違いない。


「またね、白ちゃん。私も頑張るね」

「はい。無理しちゃ駄目ですよ」

「そう。俺達に心配掛けちゃ駄目」

「はーい」


「それじゃあ、またね。誰かにいじめられたら、すぐに言うんだよ。僕がギッタギッタにしてやるからね。さぁ、カハル達、帰るよ」


 不穏な発言を残してシン様達が消える。その場に残る温もりが消えても、僕達の足は中々動いてくれなかった。


ついにニコちゃんの野望が達成されました。ですが、お見送りの敬礼なので、ニコちゃん個人には羽根で頭をナデナデのままです。敬礼への道は遠いぞ、ニコちゃん(笑)。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ