表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
362/390

0361.砂像職人

 折角、海の国に居るので、海に連れて来て貰った。か、風が強い……。ビュオーッと唸っております。それに、波も少し高いな。


「冬になったから風が少し冷たいね。崖に立っていても寒いし、砂浜で結界を作って中で遊ぼう」


「はい!」


 シン様が巨大な結界を作ってくれたので、快適温度で遊び放題だ。


「砂で何か作ろうか」

「クマちゃん作る」

「おぉ、良いね。賛成!」


 シン様が砂と海水を混ぜ合わせて水分を適度に抜き、僕達の身長より少し小さい、円柱状の砂の柱を二本作ってくれる。その間に金属のヘラをカハルちゃんが作り出す。どっから金属を出したんですか? この親子はツッコミ所が満載だ。でも、凄く便利。


 ヴァンちゃんと共に、クマちゃんを頭の中に浮かべて削っていく。


「――わぁっ、耳が!」


 ざっくりと耳を削ってしまった。中の窪みを作りたかったのに……。


「穴が開いちゃったね。でも、また砂で埋めればいいよ」


 シン様が手を翳すと穴が塞がれていく。最近はこんな風に魔法を使う人が側に居なかった。やっぱり魔力量が圧倒的に違うのだろう。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 今度は慎重に削り、両耳が完成する。次は丸くて可愛らしいお目目を作らねば。額を削り出し鼻の形も大体作った所で目を掘っていく。あんまり掘ると目が飛び出て怖くなるので要注意だ。


「ん~、なんかバランスが悪いかも。目の位置が違いますよね?」


「そうだね。ちょっと斜めっているかな。まぁ、これはこれで味があっていいんじゃないかな」


 シン様がそう言うならいいか。クマちゃんが見たら、「こんなんじゃないキュ! もっとカッコよく、可愛く、スタイリッシュにでキュ!」とか言うかな?


 騒ぎながら作っている僕とは違い、ヴァンちゃんは黙々と作業をしている。こういう時は声を掛けちゃいけないのだ。細かい部分は後なのか、全体をざっと削り出している。凄い、ちゃんとクマちゃんだと分かる! あのぽっこりお腹にキュートなお尻。首のリボンまで作ってある。


「ヴァンちゃんて職人が向いていそうだよね」

「そうですね。集中できる作業が好きなんだそうですよ」


 カハルちゃんは僕達の会話中にヴァンちゃんの後ろ姿をじーっと見ると、砂に手を翳している。するとモコモコと五センチ位に盛り上がって、写し取ったかのような後ろ姿が出来上がる。


「力作なの。題名『ヴァンちゃんの渋い後ろ姿』」


 シン様が口元をムズムズとさせながらしゃがみ、砂のシッポをそっと触る。


「シッポがピンとしているのまでそっくりだよ」


 そこまでで耐え切れなくなったのか、膝に顔を埋めて声を殺して笑っている。ヴァンちゃんの邪魔にならないように配慮してくれているんだな。


「……はぁ、笑った。じゃあ僕も何か作ろうかな。ん~……ああ、そうだ。あれにしよう」


 シン様も手を翳すと砂が盛り上がっていく。ヴァンちゃんは作業が一段落したのか、その様子を不思議そうに眺めている。


 徐々に縦に線が入り、横にも線が入って行く。そこに高低差をつけたら完成らしい。


「完成。題名『セイのお腹』」

「ぶほっ」


 珍しくヴァンちゃんが噴き出した。どうやらツボに入ったらしく、後ろを向いて肩を揺らしている。


「ふふふ、やったね。ヴァンちゃんの爆笑を頂いたよ」

「セイが見たら目を吊り上げて怒りそう」

「ムキムキ具合が足りないって? 脇腹にも線を入れなきゃ駄目かな?」


 いや、そういう意味じゃないと思う。俺の腹を笑いに使うなって事だよね?


 そう言いつつも、カハルちゃんが棒を拾って脇腹に斜めの線を入れている。真ん中だけリアルで、周りが子供の落書きのようだから、更に変な作品になった。


「……壊そうか」

「うん……」


 セイさんの殺気でも感じたのか、一瞬でただの砂浜に戻った。息子のお腹で遊んじゃいけないって事ですね。勿論、僕のお腹は作らせませんよ。


「ニコちゃん、駄目なの?」

「カハルちゃん、そんな可愛く首を傾げても作らせませんよ」

「じゃあ後ろ姿をもう一個作る」


 ヴァンちゃんの横に僕の後ろ姿が並び、手を繋いでいる。


「題名は……『仲良しな二人』にしよう」

「カハルちゃんも手を繋ぎましょうよ」

「私はフワフワな手を触りたいな」


 喜んで右手を差し出すと、両手で握って左右に振っている。


「えへへ、嬉しいな。やっぱり、ぬいぐるみさんの手じゃ駄目なの」

「巨大熊さんですか?」


「うん。包まれていると確かに嬉しいけど、ニコちゃんとヴァンちゃんに抱き付かれている方が、もっと幸せ」


 寂しそうに微笑む姿に胸が締め付けられる。僕だって、いつも隣に寄り添っていたい。ヴァンちゃんもいつの間にか作業を止めて、カハルちゃんをじっと見ている。何故、僕達はこの手を何度も離さなければならないのだろう……。


「……しんみりしちゃったね。私もくまちん作ろうかな」


 スコップを手に出すと、半円形の山をペタペタと作っていく。


 寂しいと口に出すのは簡単だ。でも、それは双方を苦しめる。一緒に居る間は出来るだけ楽しく過ごそう。


 シン様はそんな僕達を見守りながら、新たに何かを作っている。僕も負けないように可愛いクマちゃんを作るのだ。


 結果――。歪なクマちゃんが出来上がった。おかしいな、こんな筈ではなかったのに……。腕の長さが違い、修正を繰り返していたら短くなり過ぎた。足は逆に細長くなって、まるで違う生き物のようだ。


「足長クマちゃんになったね」


 シン様が水晶で撮影している。大変だ、阻止しなければ!


「見せちゃ駄目ですよ! クマちゃんに絶交されちゃいます!」

「そう? 足が長いって喜ぶと思うよ」

「腕が短すぎるじゃないですか。顔もイマイチですよ」


 シン様が全体を眺めて足に手を翳すと、だるま落としのように足が短くなっていく。


「こんな感じかな。でも、体が大きいかな? ……いや、これ以上いじらない方がいいか」


 諦めたようだ。さっきよりクマちゃんに近付いた気がするので、いいと思います。


「――出来た」


 ヴァンちゃんは息を吐き出すと、ヘラを下ろす。その姿はまるで、全てを出し切った職人のようだ。


「うわぁ、ヴァンちゃん上手だね」

「うん、凄いよ。今にも動き出しそうだね」


 親子が絶賛だ。表面はつるっとしているが、クマちゃんをそのまま大きくしたような外見だ。半円形のお耳に、ぽっこりとしたお腹。首のリボンも細かい所までよく作り込まれている。


「ぬいぐるみのフリをしているみたいですね」


「そうだね。日本に居る時のクマちゃんは、ピタッと止まっているのが本当に上手なんだよ」


 シン様が太鼓判を押す位だから、未だに誰も気付いていないという事だ。凄いスキルだよね。


「こっちも写して見せてあげよう」

「シン様、僕のは絶対に見せちゃ駄目ですからね」

「一生懸命さが出ていて可愛いよ」


 そう言われると反論が出て来ない。一生懸命作ったのは本当の事だ。


「皆で僕が作ったクジラの前に立ってくれる? 記念撮影しよう」


 背中から霧のような細かい水が噴き出している。あれなら近寄ってもびしょ濡れにはならないだろう。


「もっとくっついて。はい、ピース」


 胸の前で作ったが、両隣のお二人さんは僕の頭の後ろに出している。


「鹿」

「えへへ、鹿~」


 じゃあ、僕はダブルピースしておくか。にへっと笑うとシン様がすかさず撮影する。


「戻って来ていいよー」


 側に戻ると写真をコピーさせて貰う。うん、僕達の楽しいがきちんと詰まった一枚だ。


「これはどうしようか?」

「崩す。うりゃー」


 クマちゃんの足元にスコップをグサッと刺して倒すと、平らにならしていく。ヴァンちゃんて、あっさり……。


 シン様がクジラを壊して砂浜をならすと、結界を解く。


「――寒っ」


 こんなに風が強かったのか。暖を求めてカハルちゃんにくっつく。


「えへへ。ニコちゃん、あったかい」

「僕もです。あれ? ヴァンちゃん?」

「ここ」


 ちゃっかりシン様の上着の中に入って顔だけ出している。


「ふふふ。寒いから家に帰ってご飯にしよう」


 一瞬で懐かしの場所に戻って来る。何も変わっていない事にホッとしながら家に入ると、ふわりと漂うイグサの匂い。……ああ、帰って来たんだなと実感する。


「きつねうどんにしようか」

「キツネ⁉」

「ビャッコちゃん……いただきます」


 ヴァンちゃんが手を合わせる。そんな、まさか……。


「ふふふ、ニコちゃんは相変わらず良い反応だね。きつねは油揚げの事だよ。ビャッコちゃんじゃないから安心してね」


「はぁ、良かった……」


 ヴァンちゃんがニヤリと僕を見る。どうやら知っていてからかっていたらしい。


「もうっ、酷いよ、ヴァンちゃん」

「ふっふっふ。シン様がそんな事する訳ない」

「あ、そうか」


 冷静に考えると答えはすぐに出るんだな。ちょっと恥ずかしい……。


 眠ってしまったカハルちゃんを抱っこして囲炉裏の前に行く。冬だから木が赤々と燃えている。


「あったかいね~」

「うむ。眠くなりそう」


 ぼーっと暖を取っていると、シン様が器を運んで来てくれる。


「はい、お食べ。熱いから気を付けるんだよ」

「はーい」


 カハルちゃんがお出汁の匂いに気付いたのか、薄っすらと目を開ける。


「ごーはーんー……」


 眠気が勝ったらしく、それだけ言うと目を閉じてしまった。


「カハルは座布団に寝せていいよ。抱っこしたままだと食べられないでしょう」


 ずっとこうしていたいけど、火傷させてしまうのは嫌だ。そっと寝せると、ヴァンちゃんが毛布を持って来て掛ける。


「ありがとう。さぁ、食べるよ。いただきます」


 ずずっと汁を飲む。――はぁ、おいしい……。久し振りの出汁は体の隅々まで広がるようだ。次はモチモチの麺を一本掴んで端から食べていく。


「シン様、おいしいです。油揚げも汁をたっぷり吸って最高ですよ」

「良かった。夜はお米にしてあげるね。村にも今度届けてあげるよ」

「お願いします。お米が食べたくて仕方なかったんです」


「そうでしょう。二人共、お米を気に入っていたもんね。おかかずは何がいい?」


「沢庵」


 シン様は予想通りだったのか、朗らかに笑ってヴァンちゃんを撫でる。


「ニコちゃんは卵かけご飯かな?」

「はい!」

「じゃあ、食べ終わったら二人でニワトリ達に貰いに行って来てね」


 ニワトリさん達にまた会えるとは嬉しい。森の皆にも会って来よう。


 器を傾けて最後の一滴まで飲み干す。――ぷはぁ、満足。お腹も心もシン様のあったか料理で満たされたので、元気にお外へ行くとしよう。


砂像って凄く細かい所までこだわって作っていますよね。あれはやはり壊すのでしょうか? ヴァンちゃんみたいに、あっさりと? だとしたら一瞬の傑作ですね。作者は壊せそうにありません……。


次話は、皆で遊びます。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ