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0360.僕達は犬じゃない!

 三日目、四日目もずーっと山の中の街道を進む。もう同じ景色は飽きたよ~。その思いが届いたのか、五日目の昼頃にようやく目的地のモリデイの町に着く。でも、山の中なのは変わらないな……。


 ポンポコさんの支店の倉庫に荷を運び入れ、また新たに荷を積むと、そのまま馬車を預かって貰う。


 帰り道は海の国の魔法道を使い、闇の国へと帰るルートだ。


「ここから少し行くと森の中に入るからのぉ。ただ、民間人が入ってはいけない森があるから半分位までは少し北寄りの道になる。そこからまた徐々に南の方へ街道が進む。だが、残念ながら海は見られんのぉ」


 肉まんを食べながらポンポコさんが教えてくれる。後半は森ばっかりという事か。入っちゃいけない森というのは、遺跡がある森の事だろう。


 予定通りに着いたので、一日半休める事になった。でも、警護は続けるので、僕達と護衛さん三人はポンポコさんと行動を共にする。


 お休みの護衛さん達は「お酒を飲むぞー」と町に繰り出して行き、残された僕達はゴマ団子を食べる。この町は海の国だけど、食も衣服も桃の国と同様だ。


「疲れたから宿で昼寝するかのぉ。二人はどうする?」

「僕達はのんびり本でも読んでます」

「そうか。では行こう」



 ベッドで気持ち良さげに寝ている、ポンポコさんのお腹が上下するのを時々眺めながら読書する。いま読んでいるのは、宿にあったお魚図鑑だ。鯛や秋刀魚は丸のまま食べたから外見も知っている。アジは漁港で見たような気が……。


「マグロ大きいね」

「うむ。サンドイッチに挟まっているのとは大違い。トロが美味いらしい」

「トロ? どこだろうね? 脂がのっているって書いてあるから、お腹かな?」


 二人で思わずポンポコさんのお腹を見る。


「トロ?」

「トロがいっぱいだよ、ヴァンちゃん。でも、僕も……」


 落ち込んでいるとポンと肩を叩かれる。取り敢えず、お菓子を控えよう……。


 更に読み進めると、一生泳ぎ続けると書いてある。マグロってすごいパワーを持っているんだな。


「寝ながら泳ぐのかな?」

「多分。そうしないと呼吸が出来ないらしい」

「お魚さんは大変なんだね。僕達は落ち着いて寝られて良かったよ」

「うむ。――ん? 誰か来た」


 ノックが響くと隊長さんが入って来る。


「交替しよう。二人も外を歩くといい」

「何か面白い物はありましたか?」

「特には無かったな。今までの町と似た様なものだ」


 なら見なくてもいいかなと思いつつ、折角の申し出なので頷く。


「宿の庭に居ます」

「ああ」


 宿の庭は大きな木があって、居心地が良さそうだった。お酒にも宝石にも興味がないので、木登りでもしようかな。


 庭に出ると先客が居た。


「わんわんだ」

「ねぇ。ゴールデンレトリバーだ」


 金色の長い毛が、緩やかな風にフワフワと揺れている。向こうも僕達に気が付いたのか、小走りで近付いて来た。


「ワンワン!」

「こんにちは。宿に住んでいるんですか?」

「ワフ(そうだよ)」

「この辺りで楽しい場所ってありますか?」

「ワンワン、ワン(ブランコあるよ)」


 犬さんの視線を追うと、高い木の枝に太めの縄で下げられている。横幅があるので、僕とヴァンちゃんなら二人で座れるかもしれない。


「乗ってもいいのでしょうか?」


 問題無いと頷くので、僕から先に座る。掴まる縄が遠い……。ヴァンちゃんが片方を持たせてくれたので、何とか準備完了だ。


「行くぞ」

「うん、お願いします」


 ヴァンちゃんの手が背中を優しく押してくれる。あんまり揺らすと落ちてしまいそうだもんね。


「んふふふ、楽しい」


 犬さんが僕の前に来て、揺れに合わせて僕を避けながら遊んでいる。


「もう少し強く押すぞ」

「うん。犬さん、気を付けて下さいね」

「ワン!」


 嬉し気に舌を出して「ヘッ、ヘッ」としている。避ける遊びが気に入ったようだ。


「とりゃ」


 斜めになりながら前に行く。僕が縄を変な風に掴んでいる所為かな? でも、犬さんは変化に動じず、少し後退りするだけで避けている。中々やりますな。


「ヴァンちゃん、交替するね」

「うむ」


 ヴァンちゃんは縄を掴まず、板に跨って乗る。ヴァンちゃん、考えたな。この方が安定しそうだ。板をがっしり掴んでいるので、落ちる心配もないだろう。


「行くよー」


 強めに押すと綺麗な弧を描いている。どうやら、この乗り方が正解のようだ。ヴァンちゃんは自分で左右に上体を動かし、更に大きく動かしている。


「ほっほっほ、楽しそうな事をしておるのぉ」


 お昼寝を終えたポンポコさんが隊長と一緒に庭へやって来た。


「乗りますか?」

「子供用だから儂が乗ると壊れてしまうわい」


 ふーむ、大人になると楽しめない物が増えるのか。でも、僕はこれ以上大きくならないから、いつまででも遊べる。小さい事がお得な時もあるものだ。


「この犬は宿の犬か?」

「はい。僕達と一緒に遊んでいたんですよ」

「ワフ!」


 犬さんが後ろ足で立ち上がり、隊長さんに抱き付くと、シッポをバサバサと振っている。うわぁ、立つと大きいなぁ。僕達ならペチャンコになっている所だ。


「人懐っこいな。どうした、遊んで欲しいのか?」

「ワフッ!」


 離れると白い布のボールを銜えて戻って来る。


「これを投げろという事か。よし、行くぞ。それっ!」


 庭の塀の辺りにコロコロと転がるのを銜えると、シッポを千切れんばかりに振って戻って来る。


「よーし、良い子だ。それっ!」


 もう一回投げると、ヴァンちゃんまで一緒に走り出し、先にボールを拾って戻って来る。


「対決か? よし、ニコも入れ」


 犬さんが楽しくて仕方ないと言うように、グルグルとその場を回っている。


「準備はいいか? それっ!」


 三人でダッと走り出す。塀に当たってコロコロと戻って来たのを、犬さんがサッと銜えてしまう。


「あー、負けた……」

「隊長さん、もう一回」


 その後もポンポコさんと交替で投げて貰い、心ゆくまで楽しんだ。結果はと言うと、犬さんの圧勝だった。次いでヴァンちゃん、僕の順である。


 これはボールへの執着心の違いだろうか? 犬さんがボールを離してくれない時に手を伸ばしたら、「ウーッ!」と凄まれて恐った。「横取りじゃないです。投げて貰えないですよ」と言ったら、「あ!」という感じで離していた。


 僕はそこまでボール好きにはなれそうにない。何があそこまで犬さんを惹き付けるのか? 取ってくると褒めて貰えるからだろうか?


「何でそんなにボールが好きなんですか?」


「ワフ? ワンワンワン! ワンワン――(え? 凄く楽しいじゃん。この楽しさが分からないなんて、まだまだだね)」


 ん? 僕達、犬だと思われている? まぁ、ちょっと犬っぽいかもしれないけど……。


「俺達、白族。犬じゃない」

「ワフッ⁉ ワンワン! ワワンワン! (えーっ、違うの⁉  信じられない!)」


 完全に犬だと思われていた。疑わし気に見られていると、宿の人がやって来る。


「うちの犬と遊んで頂き、ありがとうございました。夕食のご用意が出来ましたので、中へどうぞ」


「ありがとう。二人共、行くぞい」


 戻る間も僕達の周りをグルグルと回って見てくる。どれだけ見ても犬じゃありませんよ! 僕達は白族だー!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 次の日は、丸一日自由行動をしていいと言われたが、する事が無い。二人でブランコに座って小さく揺らしていると、通信の鏡が光る。


「――はい、ニコです」

「ニコちゃーん、カハルだよ」

「カハルちゃん! どうしたんですか⁉」


 ヴァンちゃんが慌てて覗き込み、鼻をぶつける。


「いてっ」

「どうしたの⁉ 鏡が一瞬真っ黒になったよ」

「勢いが良すぎて俺の鼻が当たった」

「怪我してない?」

「大丈夫。カハルちゃん、何かあった?」


 ヴァンちゃんが鼻を擦りつつ聞くと、今度はカハルちゃんが鏡に近付く。今日も可愛いなぁ。あのプクプクほっぺを触りたい。


「私ね、いま海の国の遺跡に居るんだ。白ちゃん達が側に居るってモモさんに聞いたから、そっちに行ってもいい?」


「是非! 僕達、今日一日お休みなんです」

「本当⁉ じゃあすぐ行くね」

「はい。モリ――」


 町の名前を言おうとしたら通信が切れてしまった。


「あー、切れちゃった。カハルちゃ――」

「――えいっ!」

「ふぅおわっ!」

「うぉっ」


 シッポをむにゅっとつままれて、体がビクッと跳ねる。この甘い匂いは!


「「カハルちゃん!」」

「えへへ、会いに来たよ~」


 僕達の顔を覗き込むカハルちゃんの笑顔に、胸がキュンとする。誰が何と言おうが、世界一の可愛さです! ブランコを降りて全員で抱き締め合っていると、聞きたくて堪らなかった声が聞こえる。


「――こら、カハル。一人で行っちゃ駄目だって言ったでしょう」

「お父さん、ごめんなさい。だって、嬉しかったんだもん」

「もう、しょうがないなぁ。ニコちゃん、ヴァンちゃん、元気かな?」


 柔らかな笑顔を浮かべて小さく手を振ってくれる姿を見て、胸の中でいくつもの感情が弾ける。


「「シン様!」」


 嬉しいのか、苦しいのか、戸惑っているのかすら分からなくなる。ただただ会いたかった。シン様の笑顔の前では何もかもが些末に思える。


 しゃがんで抱き締めてくれた胸に、無言で埋まるように顔を押し付ける。はぁ、シン様の匂いだ。今日は甘い匂いが混じっているな。


「息が出来なくなっちゃうよ? ほら、ヴァンちゃんも顔を上げて。折角来たんだから、二人の顔をよく見せて欲しいな」


「……ぐしゃぐしゃの顔でもいいんですか?」

「ふふふ、じゃあもう少しこのままね」


 カハルちゃんの小さな手が後頭部を撫でてくれる。はぁ、数日会わなかっただけで、これだもんね。もうすぐ訪れてしまうであろう別れの恐怖で、既に心が極限まで膨らみ破裂しそうだ。


「――シン殿⁉」


 お茶を片手に庭へ出て来たポンポコさんが、裏返ったような声を上げる。


「僕もポンポコと呼んだ方がいいのかな? うちの子達を指名してくれたんだってね。どうもありがとう」


「い、いえ。いつも商隊の護衛は彼等にお願いしておりましてのぉ。儂は世話になってばかりですわい」


「そう。今後も良い関係を期待するよ」


 ポンポコさんの肌ツヤの良い顔が青白くなっていく。立ちくらみかな?


「わ、儂は部屋におりますので、ごゆるりとお過ごし下さい。二人も遠慮せずに、ゆっくり休んでおくれ」


 庭に出ている椅子やテーブルにぶつかりながら部屋に戻って行く。旅の疲れが出て、ふらついてしまっているのだろう。後でマッサージしてあげようかな。


 シン様は僕達の顔をハンカチで拭うと、眩しい笑顔を向けてくれる。


「今日は何しようか?」


ヴァンちゃんが喜んでボールを拾いに行った辺りで、犬だと確信されてしまったのでしょうね。

マンリョウには別の言葉が聞こえていそうです。

「うちの子達を護衛に使うだなんて良い度胸じゃない。ちゃんと報酬ははずむんだろうね?」

「い、いえ。いつも商隊の護衛は彼等にお願いしておりましてのぉ。儂は世話になってばかりですわい(心の中の叫びはこんな感じでしょうか? →払います! 払いますから、どうかご勘弁を!)」

「何かしたらただじゃおかない。大事にしなかったら分かっているだろうな?」

みたいな(笑)。


次話は、遊び倒します。


お読み頂きありがとうございました。

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