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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0356.大事な人達とのお別れ

「皆さんで集まって楽しそうですね。私も入れて下さい」


「ミナモ様! 今、カハルちゃんと順番にダンスしているんですよ。ミナモ様も踊りたいって仰っていましたよね」


「ええ。お願いできますか?」

「うん。ミナモさんとクルクル~」

「ふふふ、ありがとうございます」


 嬉しそうに抱っこするとフロアに向かって行く。凄い人とばかりだから、「あの女の子は何者だ?」と皆が囁き合っている。絡まれないように目を光らせていなければ。


 同じような曲とダンスなのに、人によって感じる雰囲気が違うんだな。シン様は華やかで優雅な感じだったけど、ミナモ様はふんわりと優しい感じがする。


 顔を見合わせてニコニコしている二人の姿を見た事で、周りの人にも自然と笑顔が広がっていく。そして、音楽が終わると温かい拍手が響く。その中をにこやかに通り抜けて、シン様へカハルちゃんを返す。


「ありがとうございました。カハルさん、とても楽しかったです」

「私もなの。ミナモさんといるとほんわかするよ」

「ふふふ、嬉しいです。踊りたくなったら、また誘って下さいね」

「うん。またね~」


 あいさつ回りなどで忙しいのか、僕達に会釈するとすぐに行ってしまった。


「お父さん、そろそろ王様たちのダンスが始まるってミナモさんが言っていたよ」


「そうなんだ。ダークはここでのんびりしていてもいいの?」


「出来ればさぼりたいんだがな。……はぁ、ヒョウキが睨んでいるから行って来るか」


 よっぽど嫌なのか動きが緩慢だ。ダーク様はなんだかんだ言いつつ、ダンスが上手だからいいとして、問題は桃の国の王様だ。女官長さんに素敵と言って貰えるだろうか?


「次は各国の王達が踊ります。皆様、拍手でお迎え下さい」


 ミナモ様の声に合わせて、フロアに円状に並ぶ。おぉー、王様が全員揃っているなんて豪華だなぁ。桃の国の王様と女官長さんはどこかな? いつものジャラジャラを探したが見付からない。


「あれ? モモ様、王様はどこですか?」

「楽団の近くに居るよ。緊張しているから目つきが余計に悪くなっているね」


 おー、居た。今日は一段と恐ろしい顔だが、僕はもう見慣れてしまった。でも、側に居る人達は緊張の所為だとは知らずに怯えて逃げて行くので、周りに誰も居なくなってしまった。


 王様はいつもの服ではなく、黒の燕尾服を着ている。女官長さんはスパンコールが散りばめられたピンクのドレスだけど、他の人達と違う感じだ。上着は透けて見える生地で、スカートも薄い生地が何枚も重なっているのかフンワリと広がり、胸の上まで引き上げられてリボンで留められている。膝下には桜の花と葉、散る花びらが刺繍されている。


 踊りが始まると、腕の間に渡してある薄い水色のショールが、ひらりと舞って綺麗だ。一方、王様は動きがぎこちないというか、躊躇っているというか……。


「モモ様、なんでもっとくっつかないんでしょう? あれじゃあ踊りにくいですよね?」


「恥ずかしがっているんだよ。見ていてご覧、そろそろ女官長がグイッと寄って行くから」


 練習の時からそうなのか。女官長さんは笑顔で寄ると、逃がさないという感じで手に力を込める。おぉ、王様の顔が一気に赤くなった。


「振り払えないから、いつも赤い顔で最後まで踊り続けるのだよ」

「へぇ~」


 ニヤニヤしながらヴァンちゃんと見つめる。なんとか平静を装っているけど、赤い顔は隠せない。あれじゃあ他の人達にも恋心がバレバレだろう。でも、そのお蔭で他の男性が近付かないかも。


 あの状態だと、今日は恋の進展は期待出来そうにないな。告白をこっそりみたかったのに、残念……。


 他の王様も見てみようっと。ホノオ様は動きが硬くてカクカクとしている感じだ。ダーク様は淡々とこなし、ヒョウキ様はやはり上手だ。普段を知っているので「詐欺だー」と叫びたい衝動に駆られる。土の国の王様はあまり得意じゃないみたいだけど、一番楽しそうに踊っている。その笑顔最高です。


 他の王様はよく知らないからいいか。笑顔でも雰囲気が怖いから近寄りたくない。目が合っただけで怒られそうだ。


 音楽が終わると皆でお料理を貰い、ヒョウキ様の部屋に行く。


「ニコ、そのカナッペ頂戴」

「どうぞ。ミナモ様もいかがですか?」

「ありがとうございます。やっとご飯が食べられます」


 幸せそうに頬張っているヒョウキ様に聞いてみる。


「一緒に踊られていた方はどなたですか?」


「ああ、いとこだよ。あいつ滅茶苦茶、気が強くてさぁ。ちょっとでもミスすると凄い剣幕で怒るんだぜ」


「そうなんですか。お見合い相手じゃなかったんですね」

「ふんげほっ、げほっ!」


 カナッペが変な所に入ったらしい。メイド長さんが水をサッと差し出す。


「――ごくっ、ごく、っはぁ~……。メイド長、助かった。ニコ、お前なぁ、なんてことを言うんだよ。見合い相手の誰か一人でも踊ったら、エンドレスに踊り続けなきゃならないだろうが。俺はな、あの群れの中じゃ獲物なの。みすみす命を差し出して堪るか」


 王様も女性の前では獲物なのか。可哀想になったので手を差し出す。せめて一度は楽しく踊ったっていいじゃないか。


「じゃあ僕と踊りましょう」

「レッツ、ダンシング」

「おっ、ヴァンもか? いいじゃん、そうこなくちゃな」


 僕達を抱っこしてターンをしている。機嫌が戻ったようで何よりだ。


「ペルソナは踊れたっけ?」

「知識にはあるが、やる機会が無かったな」

「そっか。あのさ、俺の話を聞きに来てくれてありがとな」


「ああ。ヒョウキの言葉で少し肩の荷が下りた気がする。魔物が一方的に悪かった訳ではないと人間に伝わったからな。犠牲になった魔物達の心も少しは救われただろう」


 ペルソナさん達がいくら真実を叫んでも、誰も聞いてくれなかったのだろう。常識や固定観念が間違っている事なんていっぱいある筈だ。でも、人は一度信じ切ってしまうと、違うという事を認めたくなくなる。だが、自分の信じる人が違うと言ったら、認めようかなという気持ちが起きたりする。


 ヒョウキ様を信じる民には、きっと少しずつ変化が訪れる筈だ。この人は皆が分かってくれるまで何回でも伝えていくだろうから。


 おいしい物をいっぱい食べて満足気なヒョウキ様の前に、ヴァンちゃんと共に立つ。


「うん? どうした、改まって」


「ヒョウキ様、ミナモ様、お世話になりました。僕たちはとても楽しくお仕事が出来ました。今までありがとうございました」


「お二人の元で働けて良かったです。ありがとうございました」

「そんな寂しい事を言うなよ。またすぐに会えるって。な?」


 ヒョウキ様がちょっと強く頭を撫でてくれる。この残念王様とも此処でサヨナラだ。でも、臨時の書類配達とか、お仕事を依頼してくれる可能性もあるよね。


「こちらこそありがとうございました。お二人が居なくなると寂しいですね。いつもお仕事を頑張って下さった事、非常に感謝しています。お仕事を依頼する時はお二人を指名するので、よろしくお願いしますね」


「「はい」」


 二人でミナモ様の足に抱き付く。はぁ、このほんわか癒される方ともお別れか。まったり……。


「俺にも抱き付いてくれよ。それ、来ーい」


 仕方ない。最後だから聞いてあげよう。


「とりゃっ」

「ガブ」


 えっ、ガブ⁉ と慌てて見る。何だ、顎の下に挟んでいるだけか。


「ヴァン、俺の足を食うなよ。――よっと」


 抱き上げられて頬擦りされる。ここまでサービスする気は無かったんだけどな。


「ぶーぶー、頬擦り、無許可」

「そうですよ。追加料金を頂きます」


「えっ、金取るのかよ⁉ いいじゃん、癒しをくれよ。王様らしくするって肩凝るんだよ」


 ミナモ様が溜息を吐いている。全く困った王様だ。そして、愛すべき偉大な王様だ。言うべきか迷っていたけど、この人なら大丈夫だよね?


「……お城へ遊びに行ってもいいですか?」

「当たり前だろ。お前達なら顔パスだから、執務室まで一直線に来い」

「「はい!」」


 今度は僕達から頬擦りのプレゼントだ。モフモフ好きだから長めにやってあげよう。


「うぉー、モフモフだぜ~。……タダか?」

「え、貰ってもいいんですか? それなら遠慮なく――」

「待った、待った。タダのうちにもう一回させろ~」

「わぁ~っ」


 遠慮なくされてしまった。本当に人懐っこい王様だ。絨毯に下ろされた僕達を見てシン様が申し訳なさそうに口を開く。


「ペルソナは明日も仕事だし、そろそろ帰ろうか」

「はーい」

「僕はペルソナを送って行くから、セイは皆を連れて帰ってね」

「ああ」


 ペルソナさんは最後に「またな」と握手してくれた。シン様達が移動の魔法で消える直前に扉が開かれる。


「皆様、お待ち下さい。お菓子をお持ち下さい」


 良かった、メイド長さんが戻って来た。お菓子を受け取ってペルソナさん達が消えると、僕達はメイド長さんに頭を下げる。


「メイド長さん、お世話になりました。今までありがとうございました」

「俺達、リリーちゃん大好き。今までありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました。私もお二人が大好きですよ。必ずまた会えると信じているので、お別れは言いません。お二人の素敵な笑顔をまた私に見せて下さいね」


「「はいっ」」


 僕達の頭をそっと撫でると足早に部屋を出て行く。片付けとかで忙しいのだろうに気遣ってくれた。本当に僕達は良い人達に出会えたな。


「――帰るか」


 もう一度皆に深くお辞儀してお家に帰った。



「ただいまー」


「帰って来たキュー! お帰りなのキュ。――あ、シンしゃんも帰って来たのキュ」


「ただいま。ちゃんとご飯を食べた?」

「モキュ。ちらし寿司、おいしかったのキュ」

「それなら良かった。はい、お土産」


 クマちゃんが袋を早速開ける。王宮で出たものだから期待しちゃうよね。


「マドレーヌがあるキュ。――カヌレもあるのキュ~。ビャッコちゃん、一緒に食べるキュ」


「はい。バターの良い香りですね」


 頷いて半分こして食べている。僕も貰ったのを食べようかな。


「お茶を淹れるね。皆、着替えておいで」

「はーい」


 シン様とメイドさんが作ってくれたこのタキシードは、またパーティーの警護の時に使える。んー、でも傷付くと嫌だから別に買おうかな?


「ニコ、どうした?」

「警護の時に着るのは止めようかなぁと思って」

「勿体無い。大事に保管」


 二人で頷き合っていると、シン様が僕達の頭に手をポンと載せる。


「使いにくかった?」

「違う。俺達の宝物。傷付けちゃったら俺達は立ち直れない」


「え? そんな理由なの? 僕がいくらでも作ってあげるよ。ちゃんと型紙も保管してあるしね」


「でも、俺達……」


「遠慮しないの。僕の楽しみを奪う気なの? 作って着て貰える楽しみを僕に頂戴ね」


 思わず頷いてしまった。シン様には一生頭が上がらない気がする。


「――おっと、お湯が沸いた。二人も紅茶でいいかな?」

「はい」


 遠ざかる背中を見つめる。明日が来たらこんな会話も出来ないんだな……。


 お菓子を食べてお風呂に入り、鞄に服などを詰めていく。その様子をカハルちゃんが寂しくて仕方がないという表情で見ている。はぁ、カハルちゃんもおんぶして連れて行きたい。もっと一緒に遊びたかったな……。


 準備が終わると皆で記念撮影をする。カハルちゃんの頭にクマちゃんが寝そべり、僕とヴァンちゃんの頬をカハルちゃんの頬にくっつける。


「はい、撮るよ。……んー、白ちゃん達、頬擦りしてくれる?」

「了解です」


 カハルちゃんが笑えなくなってしまっている。笑うまで頬擦りしちゃうぞ~。そーれ、スリスリスリ。


「う~、くすぐったいよぉ」

「にゃんちん、頭を振っちゃ駄目キュ! クマが落っこちちゃうキュよ!」

「だって~、あはは、くすぐったーい」


 チャンスだと水晶に視線を向ける。


「――よし、バッチリ撮れたよ。後は全員で撮らないとね」


 シン様は水晶を浮かせるとタイマーをセットする。


「はい、皆くっついて。セイ、眉間に皺が寄ってるよ。カハル、八の字眉毛だよ」


 シン様が指で皺を伸ばしたり、眉毛を吊り上げる。


「モキュキュ、にゃんちん面白い顔なのキュ」

「くまちん、酷いよ。もう~」


 思わず皆が笑顔になった所で見事に撮影される。さすが、シン様。タイミングがバッチリですね。


 記念撮影も無事に終わり、シン様に抱っこされながら皆でお話をする。


「二人共、土の国に来たらクマのお花屋さんに寄ってキュ。待ってるでキュからね」


「はい。クマちゃんも何かあったら白族を頼って下さいね。いつでも力になりますから」


「モキュ。ほら、にゃんちんもお話するのキュ」


 カハルちゃんはまた沈んだ顔になって床を見ている。こんなに別れを惜しんでくれるなんて、ありがたいな。僕も寂しい……。


「……うん。……あのね、いつも側に居てくれてありがとう。危険な事にいっぱい巻き込んでごめんね……」


「謝らないで下さい。僕達は嫌だと思った事なんて一回もありませんよ」

「そう。俺達はいつも幸せだった」


 それを聞くと、くしゃっと顔を歪ませて向きを変え、セイさんの服に顔を隠してしまう。


「寂しいね。ずっと雇えればいいんだけどね……」


 しんみりしてしまった。でも、僕とヴァンちゃんは笑顔でお別れしようと決めたのだ。


「同じイザルトに住んでいるんですから、いつでも会えますよ。カハルちゃんは僕達にまた会ってくれますか?」


「うんっ、絶対会う! 会えないなんて嫌だよ!」


 セイさんの膝から下りると僕達に抱き付いて来る。あー、こんなに泣く姿を見たら、僕まで泣いてしまいそうだ。


「一人で勝手に来たら駄目。俺達お説教する」

「う~」

「そうだよ、カハル。必ず誰かと行動してね」

「……はーい」


 頭を撫でてあげながら色々と思い出す。


 最初にここに来た時はびっくりしたっけなぁ。次元の間なんて、とんでもない場所にあるんだもん。見た事がないもの、食べた事がないものばかりだった。お箸の特訓もして、今では上手に使える。


 赤ちゃんのカハルちゃんは可愛かったな。そうだ、ハイハイが驚く速さだったっけ。バナナを潰して食べさせてあげると、本当に幸せそうな顔で食べてくれた。そして、いつも安心しきったように僕達の背中で寝ていた。


 夏も楽しかったな。スイカ割り、花火、流しそうめん。森の皆やダーク様達とだるまさんが転んだもした。あの時のウサギさんは強かったなぁ。


 バーベキューしたり、一緒にお買い物したり、遊具で遊んだ。ここで過ごした日々は本当に濃い時間だった。僕の一生の中で、いつが楽しかったかと聞かれたら、迷わずここに居た時だと答えるだろう。


 ここには僕の幸せがある。こんなに素晴らしい時間を味わってしまったから、この先の日々が色褪せて見えないか心配になる程だ。


「……カハルは寝ちゃったね。僕から大事なことを伝えるね。ニコちゃんとヴァンちゃんはどこに居ても、僕の大事な息子だよ。二人が望むなら僕がその手を掴むから、躊躇わずに伸ばしなさい。いいね?」


 セイさんがカハルちゃんを抱っこして寝室に向かう。そこまでで限界だった。僕達は泣きながらシン様に抱き付く。


「我慢し過ぎちゃ駄目だよ。二人の真面目さは良い所だけど、甘える事も頼る事もして良いんだからね。そして、二人が出来る事を精一杯やって返してくれればいいから。本当は返してくれなくてもいいんだけど、二人は納得しないのでしょう?」


 抱き付いたまま頷く。シン様は何でもお見通しだ。


「俺はお前達が居てくれて、より楽しい日々を送れた。頼りない兄貴かもしれないが、お前達が困った時は一番に助けに行く。忘れるなよ?」


「……は……い」

「ぐすっ……約束」

「ああ。約束だ」


 頭を撫でてくれる手があまりに優しくて、余計に涙が止まらない。おかしいな……僕の泣かない決意はどこに行ってしまったのだろう?


「今日は僕とセイで抱っこして寝ようか。僕がじゃんけんで勝ったらニコちゃん、負けたらヴァンちゃんね。はい、じゃんけんぽん」


「俺がヴァンだな」


「よし、決定だね。ちょっと早いけど寝ようか。ゆっくり寝て良い夢を見るんだよ」


 背中をポンポンされると眠気が押し寄せてくる。もっと話して離れたくない。明日なんて来ちゃ駄目だ。僕とこの人達を切り裂く時間なんて……嫌い……だ……。





「おはよう。卵を貰って来てくれるかな?」

「はい。今日は何個ですか?」

「十個でいいかな。ヴァンちゃんもお願いね」

「ふぅわぁ~い……」


 欠伸混じりに返事をして井戸へ向かって行くヴァンちゃんは、いつも通りに見える。――でも、違った。シン様達から見えなくなると、途端に耳とシッポがへにゃりと下がる。


「お別れ寂しい……」

「うん。もっと居たいね」

「うむ。でも、皆にちゃんとお別れ言う」

「うん、頑張ろう」


 いつものように卵を貰い、集まっているニワトリさんに頭を下げる。


「僕達の雇用期間が終了しました。今日で皆さんとはお別れです。今までありがとうございました」


「ニワトリさん、いつもおいしい卵をありがとうございました」


 動揺したように「コ、コ……コケー?」と鳴いている。でも、残念ながら嘘じゃないんです。


「嘘だったら良かったんですけど……。お世話になりました」


 二人で深々と頭を下げる。すると順番に手羽根で頭をポフポフと撫でてくれる。


「コケ、コケコココ。(二人共、これからも頑張って)」

「コケ、コケコーコケココ(二人共、待っているから、またおいでね)」


 最後にオーラム・ガッスという魔獣だったニワトリさんが、ヴァンちゃんの前に歩いて来る。


「ココ、コケコーコケコケ。コケコ――(また会えると信じています。お二人はシン様のご家族ですから)」


 思わず抱き付く。僕達は他の人から見ても、ちゃんと家族に見えていたんだ。教えてくれてありがとう。


「俺もバイバイしない。ニワトリさん、また来ます」

「皆さん、またお会いしましょう」


 ニワトリさんは僕達が見えなくなるまで手羽根を振ってくれた。次は森の皆にお別れを言わなきゃ。


「ガウー? ガウガウ? (どうしたんですか? 体操をしないのですか?)」


「今日は皆さんにお話があります。僕達は雇用期間が終了したので、村に戻る事になりました。今日で皆さんとはお別れです。今までありがとうございました」


「お世話になりました。ありがとうございます」


 誰も言葉を発しず戸惑ったように僕達を見ている。直前に言われてびっくりだよね。でも、どうしても言えなかったのだ。僕達も望みが捨てられなかったから……。


「朝ご飯を食べたら、さよならです。でも、『またね』って言ってもいいですか?」


 祈るように聞くと怒ったように僕達を囲み、「当たり前でしょう!」、「こんな直前じゃ木の実も渡せないじゃない!」、「僕達は友達なんだから水臭いことを言わないでよ!」と次々に鼻で小突かれる。


「うぅ、すみません。どうしても言いたくなかったんです。言った途端に別れが早く来ちゃう気がして……」


「皆、ごめん。俺達、臆病者……」


 下を向いて落ち込んでいると、沢山のモフモフに包まれ、肩に居る鳥さんも心配そうに頬を寄せてくれる。


「ガウガウ、ガウウー、ガウガウ――(臆病者じゃありません。お二人は離れたくないと強く思ってくれたのですよね? 私達はそれだけで十分です。それに、もう会えないと決めつけるのはおかしいです。強く願い、明るさを忘れなければ必ず良い事を引き寄せていける筈です。ここに居る皆は信じていますよ。またお二人とこうして暮らせる事が出来ると。どうか、お二人も強く望んで下さい。シン様はそういう人の手を必ず掴んでくれます。私達の手を掴んでくれた時のように)」


 ハッとして顔を上げると皆が大きく頷いてくれる。可能性は残されている? シン様はいつまでだって待ってくれるだろう。だったら細い糸のように願いを持ち続けよう。ヴァンちゃんと一緒なら出来る筈だ。


「俺、ここ好き。村の皆も好きだけど、俺は一番を見付けちゃった」

「僕もだよ。皆さん、ありがとうございます。僕達も粘ってみます」


 その意気だと、また鼻で小突かれる。僕達は本当に素敵な仲間と出会えた。


 カハルちゃんと出会ってから、僕達の人生は良い方に勢いよく転がっている気がする。立ち止まりそうになれば、シン様がグイグイ引っ張ってくれて、落ち込んでいる時はセイさんが優しさで包んでくれる。嬉しい時はクマちゃんが共にバンザイしてくれて、カハルちゃんはいつだって僕達の心を温かく癒してくれる。


 そんなお家から今日旅立つ。どうか皆の人生に沢山の光が降り注ぎますように。悲しみや苦しみを幸せに変えていけますように。願わくば、あの人達の笑顔を僕達に守らせて下さい。



 静かに涙を流しながら「またね」と言い、しがみつくように抱き付いて来たカハルちゃんを忘れない。


 寂しげに頭を撫でてくれながら、「体を大事にしろよ。またな」と言ってくれたセイさんを忘れない。


 村まで送り届けてくれた後に、「『ただいま』とあの家に戻っておいで。いいね?」と僕達に言い聞かせて、強く抱き締めてくれたシン様を忘れない。


 僕達は今日、大事な人達とお別れした。お互いに『またね』を胸に秘めて――。


まだ一緒にやりたい事もいっぱいあった二人も、とうとう皆とお別れです。ちょっと寂しくなってしまった今話で第四章は終了です。読者様にはいつも感謝でいっぱいです。本当にありがとうございます。

読んで下さるという事は皆様もモフモフ好きですか? このお話はモフモフを悲しませたままでは終わりませんよ(笑)。ハッピーエンドに向けてまだ続きますので、今後もよろしくお願い致します。

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