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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0352.最後の書類配達

 やって来たパーティー当日。まだ午前中なのに、城の中も外も騒がしい。門から外を見ると、料理長さんが馬車に居る。そうか、沢山お客様が来るから、ヒョウキ様のお城の人達も手伝いに行くんだ。


 僕はいつも通りに配達をするので魔法道へ向かう。今日でこのお仕事も最後だ。皆の顔を目に焼き付けてこなければ。


 カハルちゃんは一緒ではなく、遺跡に魔力を充填しに行っている。帰って来たらおめかしで時間が取られるので、「ぶーっ」と頬を膨らませていた。勿論、僕とヴァンちゃんも「ぶーっ!」である。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ダイアナさん、書類です」

「はーい、ありがとう」


 サインして貰ったのを受け取り、頭を下げる。


「今日で僕が書類配達するのは最後です。お世話になりました」

「えっ、どういう事なの⁉」


 他の席の人もガタガタと立ち上がって集まって来る。


「何があったの? 誰かに文句を言われたとか?」

「いじめられたの?」


 皆の想像がどんどん悪いものになっていく。確かに個性的な人ばかりで大変な部分もあったけど、意地悪してくるのなんて勘違いなお貴族様だけだった。


「違いますよ。皆さんにはとても良くして頂きました。今日で雇用期間が終わるので、僕は村に帰るんです」


「えぇっ! そんな~、もっと居なよ~。ニコちゃんが来なくなったら仕事する気が起きないよ」


「そうだよ。雇い主さんに俺達もお願いしてあげるよ」


「ちょっと、皆、勝手な事を言わないの。ニコちゃんにはニコちゃんの事情があるのよ。今までありがとう。時々でいいから顔を見せに来て頂戴。いつでも歓迎するから」


「ダイアナさん、ありがとうございます。皆さんも今までありがとうございました」


 そんなに寂しがってもらえるとは思わなかった。皆の顔を一人ずつゆっくりと見てから深々と頭を下げる。


「お体に気を付けてお仕事を頑張って下さい。本当にありがとうございました」


 女性の中には泣いている人も居る。ありがたいな……。ここには僕を好きになって認めてくれた人がこんなに居る。誇らしい気持ちでその場を後にする事が出来た。


「――おーい、ニコ」


 魔法道の近くでツナギを来た土の国の王様が待っていた。ミナモ様から聞いて知っていたんだろうな。片手を上げて「よっ」と挨拶してくれるので、僕も手を振って駆け寄る。


「こんにちは。今日のパーティーはいらっしゃるんですか?」


「ああ。だが、お前と話せないかもしれないから、ここで渡しておく。餞別だ。お前の好きなエクレア」


「わぁ、ありがとうございます! えへへ、嬉しい~」

「喜んで貰えて良かったよ。ヴァンと一緒に食べてくれ」

「はい。こんな素敵な物をありがとうございます。今までお世話になりました」


 黙ってワシャワシャと頭を撫でてくれる。このちょっと強めの撫で方が好きだった。一位は勿論カハルちゃんに決まっている。あの手からは幸せの粉が撒かれているのかと思うほどだ。


「これで俺も雇えるチャンスが到来か?」

「そうですね。でも、必要なさそうですよ。ここは優秀な人材だらけですから」

「ははは、そうだな。だが、マスコットが居てもいいだろう」

「猫さんがいっぱい居るじゃないですか」


「人間は猫語が分からないからな。うちの国は獣族のマスコットが居たら、世界征服できる程の力を発揮できると思うぞ」


 後半はまずい内容なので、こしょこしょと耳打ちされる。確かに土の国の動物好きは常軌を逸している気がする。


「止めて下さいよ。そんな片棒は担ぎませんよ。クマちゃんだけで大変な事になっているじゃないですか」


「ははは、違いない。……元気でな」

「はい。またご縁があったらお願いします」

「任せておけ。お前達なら、いつでも歓迎する」


 最後だけ凛々しい王様の顔だった。しっかりと目に焼き付けた僕は、今日最後の配達場所に向かう。



「こんにちは。書類をお届けに参りました」

「――はーい、どうぞ」


 中に入るとヴァンちゃんが居た。


「あれ、ヴァンちゃんが居る」

「うむ。やっぱりニコも最後はここにした。俺の予想当たり」

「ふふふ。嬉しいな、最後に私を選んでくれて。さぁ、こちらへどうぞ」


 モモ様が抱き合げてソファーに座らせてくれると、お茶を淹れてくれる。


「どうぞ。お菓子は好きなものをつまんでね」


「はい。モモ様、僕達が書類配達に来るのは今日で最後です。今までありがとうございました」


 ヴァンちゃんと一緒に下りて頭を下げる。


「お疲れ様でした。うちの王様も挨拶したがっていたんだけど、ちょっと忙しくてね。パーティー会場で近付いて来ても悲鳴を上げないであげてね」


「えへへ、了解です。ダッシュで逃げます」


 モモ様がおどけた感じで言うので、僕も同じように返す。


「ふふふ。きっとムキになって追い掛けて行くよ。それはそれで面白いかもしれないね」


 皆で声を合わせて笑う。お茶を一口飲んでモモ様を見ると、真面目な顔で僕達を見ていた。


「――私はね、君達が本当に好きだよ。だから、バイバイはしない。私がいくらでも足を運ぶよ。どうか、私から離れて行かないで。……光を知ってしまったら闇には戻れない」


 この人の中には深い闇があると思う。能力や生きてきた環境の中で、人間の汚さや醜さをこの人は嫌という程に知っている筈だ。それでもなお信じたいと願っている。僕はそんな人の手を離そうとは思わない。


 モモ様は痛みに耐えるようにして息を吸うと話を再開する。


「君達の素直さは私を変えてくれたと思う。依存したい訳ではないのだよ? 私はもっと自分の変化を見てみたい。友とも家族とも違う、大事な君達の力を借りながらね。迷惑なら今そう言って欲しい。……私は怖くて君達の返答を待てそうにないから……」


 目を閉じると、祈るように指を組んで額に当てている。もう答えなんて出ている。ヴァンちゃんと頷き合ってニヤリとする。


 モモ様の座っているソファーに上ると、左右に立って僕達の頬をモモ様の頬にくっつける。


「僕達を甘く見て貰っちゃー困ります。僕達はしつこいんですよ。モモ様が逃げたくなっても逃がしてあげませんよ」


「そう。俺達と知り合ったのが運の尽き。どこまでも付き合って貰う」


 モモ様、そんなに目を開いたら落ちちゃいますよ。美形はどんな顔しても大抵美形ってどういう事?


「……本当にいいの? 後悔しない?」


「違いますよ。後悔しても遅いのはモモ様です。僕達はモモ様の言い分なんて聞いてあげませんからね」


「もう既にがんじがらめだー、わははは」


 ヴァンちゃん、今日も良い棒読み具合です。悪者感ゼロですよ。


「……ふふふ、ありがとう……」


 目に薄っすらと涙が浮かんでいる。そんなに僕達の返答に怯えていたのかな?


「よしよし、泣くでねぇ」


 ヴァンちゃんがハンカチで拭いてあげている。じゃあ僕は頭を撫でちゃおう。


「よしよし、良い子、良い子」

「ふふふ、私の方が年上だよ」

「今はいいんです。さぁ、存分に甘えなさい!」


 腰に手を当てて胸を張ってみせると、やんわり抱き締められる。


「もっと強くても大丈夫ですよ。僕はそんな簡単に壊れませんよ」

「ニコちゃん、私は結構力持ちだよ。抱き潰すなんて嫌だよ」


 ヴァンちゃんは暇なのか、モモ様のフワフワウェーブの髪を三つ編みにしている。二本作ると自分の耳の下あたりに持って行く。


「どう? 美人?」


 モモ様が噴き出しそうになって慌てて口元を手で抑える。良かった、僕が唾塗れになる所だった。


「微妙かな。前髪を作ろうよ」

「おー、楽しそう。お借りします」


 モモ様はプルプルしながら頷く。次もお気を付け下さいね~。


 長い髪の毛を纏めると先の部分を額に当てる。


「――どう?」

「僕は良いと思うな。可愛いよ。モモ様はどうですか?」

「……い……いいんじゃないかな」


 涙目ですよ。でも、ヴァンちゃんの満足気な表情に、それしか言えなかったらしい。


 そこにノックが響いて女官長さんが入って来る。今日はどんな衣装を着るのかな? 王様の片思いがどうなるかも見届けなければ。……いや、きっと何も無いんだろうな。全部笑顔でスルーされそう。


「失礼致します。モモ様、そろそろお支度をお願いします」

「うん、分かったよ。ありがとう、女官長」

「いいえ。お二人共、またいつでも遊びに来て下さいね」

「はい、ありがとうございます」

「お世話になりました」


 お辞儀し合うと忙しそうに出て行く。僕達も早く帰らなきゃね。


「はぁ、帰したくないけれど暫しのお別れだね。パーティーで会おうね」

「はい。僕達はいつでも会えますから」

「そう。俺達は幸せ探究者。共に最高の人生を送るのだー」


 ヴァンちゃんが手を出す。僕もその上に手をのせて、モモ様を笑顔で見る。


「仲間に入りますか?」

「……勿論。これからもよろしくね」

「では、共にいくぞー。おーっ!」


 僕とモモ様も「おーっ!」と言って手をグンと押す。離れようとすると、モモ様の手が僕達の手をサンドする。


「ありがとう。またね」


 力強く頷いて魔法道へ向かう。大事な人達への挨拶は、残すはあの人達だけだ。明日なんて来なければいいのに……。



 執務室に着いて報告を終えると、すぐさまシン様に捕まる。


「はい、おいで。時間が無いよ」


 二人まとめて抱えられメイドさん達が待つ部屋に運び込まれる。


「さぁ、脱いで下さい」


 そう言いつつ迫って来たメイドさん達に服を剥ぎ取られていく。皆さん、痛くはないけど力強いですね。


「あ~れ~、お嫁にいけない~」

「お助けをー」


 僕達の悲鳴に大笑いしながらも手際よく裸にされてしまった。タンクトップとパンツ姿の僕達に、今度は黒い燕尾服が着せられていく。


「はい、シャツに腕を通して下さい」

「次はズボンですよ」


 逆らっても何も良い事はないので大人しく従う。サスペンダー付きのズボンを履き、白の蝶ネクタイを着けて貰い、上着を着る。櫛で丁寧に毛を梳かれ、ピカピカの黒い靴を履いたら出来上がりだ。


「ニコちゃん、苦しくない? 大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。似合ってますか?」

「うん、ばっちりだよ。カハルの目も釘付けだよ」

「おー、やった。ニコ、これでちょっと踊る」

「そうだね」


 今の内にこれで上手く動けるか確認だ。


ミナモから他国の宰相達には、ニコちゃん達の雇用期間終了の連絡が行っていました。親しい王様や宰相達にお菓子をいっぱい貰った二人です。ニコちゃんのダイエットが遠のきましたね(笑)。


次話は、皆が着飾ります。


お読み頂きありがとうございました。

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