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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0351.ズン、チャ、チャ、チャ?

「今日は私が先生役です。よろしくお願いしますね」

「はーい、ミナモ先生」


「ふふふ、良いお返事です。メイド長に聞いていたより人数が多いですが、皆さんも練習希望ですか?」


「お願いします!」


 兵士さんが十人か。女性が六名だから足りないよね。


「どうしましょうか。女性が少ないので声を掛けてみましょうか」


 ミナモ様が部屋を出て行くと、メイドさんを二人連れて来た。


「まだ男性の方が多いですね。申し訳ありませんが、男性同士で組んで下さい」


「じゃあ拳で――」

「決めようとしたら追い出しますよ」


 ミナモ様が笑顔で被せる。果たして、あの笑顔に逆らう猛者はいるのか⁉


「……は、はは、はははっ、じょ、冗談ですよ。さぁ、皆でじゃんけんしようか!」


「お、おうっ!」


 あっさり負けると、端っこに集まって真剣な顔で手を出す。あんなに熱くなるものなの? 僕はヴァンちゃんと練習するの嫌じゃないけどな。


「私は細身の人が好きなのよね」

「ねぇ。私もこの城の人と結婚する気はないわ」


 あー、成程。彼女が欲しいのか。そりゃあ、熱くもなりますよね。でも、眼中に無いようです。悲しい……。


「ぽんっ、ぽんっ! あーーーっ! 負けた……」


 負けてしまった人が泣きそうだ。でも、最初から可能性が無いようなので問題無しだろうか。


「決まったようですね。私が適当にペアを決めてしまいますよ。はい、あなたとあなた――」


 ミナモ様がテキパキと決めていく。時間が限られているので仕方ないのだ。僕もピンクの布を巻かないと。今日は僕が女の子役である。


「では、第二回ダンスレッスンを始めます。今日は回転をしますよ。まずはおさらいをしましょうか。組み方は分かりますか?」


 ちゃんと覚えていますよと組んで見せると微笑んでくれる。


「良く出来ました。次はボックスをやってみましょう」


 今日は僕が女の子だから、まずは後退からだな。


「では行きますよ。はい、一、二、三――」


 おー、少し頭が混乱する。でも、男の子パートの後退する時と同じだなと思ったら、結構スムーズに動けるようになった。


「はい、お二人共良く出来ました。では、左回転のリバース・ターンというのをまずやりましょうか。男性側で説明しますね」


 一で左足を前に出す。二で左足を軸に百三十五度左回転をして、右足を離れた所に着く。三で右足の横に左足を揃える。


「次に、一で右足を後ろ。二で右足を軸に百三十五度左回転して、離れた所に左足を着き、三で左足の横に右足を揃えます。これで一通りの動作は終わりで、また左足から前に出しますよ」


 ふんふん。最初は外回りの回転で、足を下げる時は内回りの回転をするんだな。僕達は部屋の隅っこでちょっと踊るだけなので、角度などはあまり細かく気にしなくて良いらしい。


「次は右回転のナチュラル・ターンをやります。先程と逆になるだけですよ。まずは右足から出します」


 一で右足を出す。二で右足を軸に百三十五度右回転をして左足を着く。三で左足の横に右足を揃える。


「今度は左足が後ろですよ」


 下げて、回って、チョンと揃えるっと。


「暫く一人で練習してから組んでやりましょうね」


 頷くと、ミナモ様はメイドさん達を見に行く。今日から始めた人が居るもんね。


「いーち、にーい、さーん」


 僕の声に合わせてヴァンちゃんと回りながら移動していく。女の子はこの逆だから、組んだ時に気を付けないとね。


「すみません、お二人はもう組んでやってみて下さい」


 ミナモ様が途中でそう言いに来ると、急いで戻って行く。あー、兵士さん達の頭の上にハテナマークが見えるようだ。しきりに首を傾げて足を出しては、メイドさん達に違うと怒られている。


「ニコ、レッツ、ダンシング」

「おー」


 僕達は僕達で頑張ろう。


「いーち、にーい、さーん」


 つい男の子の足運びでやりそうになってしまう。ぎゃーっ、踏んでしまった!


「ヴァンちゃん、ごめんね」

「大丈夫、痛くない。慣れれば出来るようになる」

「うん、ありがとう」


 ヒョウキ様がいつの間にかカハルちゃんを抱っこして見ている。執務室に居るのが寂しくなってしまったのだろうか?


「カハル、踊ってるぞ」

「うん。ニコちゃん、ヴァンちゃん、頑張れー」


 そこにシン様もやって来て、カハルちゃんをさっと抱っこする。


「あ~、何するんだよ。俺のカハル~」


「いつからヒョウキのものになったのさ。変な妄想は止めてくれる? カハル、近くで見ようね」


 ヒョウキ様は諦めずにシン様の後を付いて来る。ミナモ様に怒られないのだろうか?


「ヒョウキ様、良い所に。申し訳ありませんが、見本を見せる為に組んで頂けますか?」


「いいぜ。どっちをやればいいんだ?」

「女性の方でお願いします」

「オッケー」


 おー、流石は王様だ。ちゃんと踊れている。やっぱり黙っていれば物凄く恰好良い。優雅さまであるとは驚きだ。


「……口を縫い付けちゃおうか」


 シン様、今日も絶好調ですね。ボソッと言われた言葉が恐ろしい……。


「ニコ、やる」

「あ、うん」


 カハルちゃんが楽しそうに口ずさみ始める。


「ズン、チャッ、チャー。ズン、チャッ、チャー♪」


 おお、やる気が漲って来ましたよ。お任せあれとヴァンちゃんと一緒にひたすら左回転していく。


「あれ? クローズド・チェンジを教えて貰ってないの?」

「チェンジですか? まだ教わってないです」


「じゃあ、僕が教えてあげるよ。今のようにリバース・ターンをします。その後に左足から出すボックスの前半をやるよ」


 リバース・ターンを一通りやって、また左足から出す、右足を斜め前、右足の横に左足を揃える。


「そうすると右足を次に出すから、ナチュラル・ターンが出来るんだよ。それで、ナチュラル・ターンからチェンジする時は、右足を前、左足を斜め前、左足の横に右足を揃えるから、次に出すのは左でリバース・ターンに戻れるという訳」


 シン様がカハルちゃんを抱っこしながら実演してくれた。足が細くて長いこと……。つい見惚れていると顔を覗き込まれる。


「分からなかった? もう一回やろうか?」

「はい、お願いします」


 足の運び方は大体分かったけど、百三十五度って言われてもピンとこないんだよね。


「もしかして角度がよく分からないのかな?」

「そうなんです。えーと、どのくらい? って考えて動きが止まっちゃうんです」


 シン様が扇を開いて見せてくれる。


「このくらいかな。大きな扇の縁に沿って回るって考えれば、分かり易いかもしれないね。それか、二で九十度、三で四十五度回るみたいな感覚でいるとか」


 実際に角度を見せて貰うと分かり易い。イメージが掴めるとあまり迷わず足を出せる。


「いいんじゃないかな。端っこで少し踊るだけなら、これを続けていれば踊れるよ」


 カハルちゃんも練習が一緒に出来ればいいけど、今も起きたり眠ったりが激しいから厳しいかな。今もむくりと起きて僕達をぼーっと見ている。


「ふにゅ……。ズン、チャッ、チャー。ズン、チャッ、チャー♪」


 おっと、音楽が始まりましたよ。慌ててヴァンちゃんと組んで踊り出す。


「ズン、チャッ、チャー。ズン、チャッ、チャー。ズン、チャ、チャ、チャ。ズン、チャチチャー……」


 途中からリズムが四拍子に変わって、ヴァンちゃんと一緒に「おっとっと」とたたらを踏む。


「ふふふ。カハルは途中から眠くなっちゃったんだね」


 見るとスヤスヤと寝ている。シン様と一緒になって笑っていると、ミナモ様がこちらに向かって来る。


「すみません、放置してしまって」

「大丈夫ですよ。シン様にチェンジの仕方を教わりましたよ」

「シン様、ありがとうございます。お二人は順調ですね」


 兵士さんの方を見るミナモ様は疲れた顔をしている。きちんと全員が出来るようにしたらしい。お疲れ様です。


 ヒョウキ様はメイドさんと順番に踊ってあげている。兵士さんとは中々うまくいかなかったようだけど、上手なヒョウキ様が相手だとニコニコで踊っている。間違ってもフォローしてくれるし、ストレスが無いのだろう。


「今日はこれで終了です。お疲れ様でした」

「お疲れ様です」


 部屋を出ようとすると、ヒョウキ様が声を掛けて来る。


「シン、俺と踊ろうぜ」

「嫌だ」


 速攻でお断りだ。無理に誘っても足先をギュムギュム踏まれるに決まっている。


「じゃあ、ミナモでいいや。最近踊って無かったから、本気で相手してくれよ」

「でしたら、メイド長とどうぞ。丁度いらっしゃいましたよ」


 様子を見に来たらしいメイド長さんが入って来る。


「メイド長、頼めるか?」

「畏まりました」


 練習内容は決まっているらしく、さっと組んで始まる。


 フロアを大きく動きながら、メイド長さんのスカートがふわりと広がる。僕達とは違い、一歩ごとに体が上下動している感じがする。溜めてから一気に動いてピタッと止まるので、とても綺麗に見える。


「今のが、オーバーターンド・ナチュラル・スピンターン。次がターニング・ロック・トゥ・ライト。――コントラチェック。次はウィング。――アウトサイド・チェンジで終わり」


 シン様が名前を教えてくれたけど、ナチュラル・スピンターンしか覚えられなかった。十個以上は言った筈だけど、まるで呪文のようでした……。


 暫く見入った後に、自然と拍手が起きる。


「メイド長、凄く綺麗でした!」

「ふふふ、ありがとう」

「ヒョウキ様って格好良かったんですね!」

「おい、何だよ、その感想は。俺はいつでも恰好良いだろうが」

「口を開かなければね」


 シン様がヒョウキ様の頭に手をポンと置いてクシャクシャと撫でると、僕達を手招いて来る。シン様なりに褒めているのかな?


「おいで、帰るよ」

「はーい。お二人共すごく動きが綺麗でした。感動しちゃいましたよ」

「ふふふ、ありがとうございます」

「ダンス、バンザイ」


 ヴァンちゃんがバンザイをしながらシン様の元へ走って行く。


「あ~、待って~」


 追い付くとヴァンちゃんに抱き上げられる。


「ほーれ、クルクル」

「おー、何ていう技?」

「クルクル?」

「え、疑問形? ま、いっか。クルクル~」


 ヴァンちゃんはお家へ帰った後も、ビャッコちゃんやクマちゃんを持ち上げて回っていた。そこへクマグマちゃんが列を作って見上げる。


「俺だけじゃ無理。ニコ、手伝って」

「了解!」


 クマグマちゃんは小さいので、体中にくっついて貰って回る。


「グマー♪」

「グマ、グマー」


 楽しんで貰えるのは嬉しいが、連続して回っていると目も回る。


「うぅ、もう無理。セイさん、後はお願いします」

「俺か? ほら、来い」


 身長が高いので、一度で全員くっつけられた。面白いから写真を撮っておこう。知らずに遠くからみたら奇抜な服に見えるかな?


「振り落としそうなんだが……。よく掴まっていろよ」


 ゆーっくりと回る。それでも十分に楽しいらしく、はしゃいだ声を上げている。


「くまちんはどーこだ?」


 カハルちゃんの言葉で、ヴァンちゃんと一緒にあちこちに目を走らせる。


「右肩?」

「グマー」

「違った」


 お返事が「グマー」だもんね。じゃあ、お次は僕が。


「左膝」

「グマー」

「あれ? じゃあ、どこ?」


 もう一度回るセイさんをじっと見る。大きめの熊さん、熊さん……。


「居た! 腰のベルトの所」


「ふっふっふ、ばれたのキュ~。正解したヴァンちゃんには、リンゴを贈呈するのキュ」


「バンザイ」


 上着がベルト部分を隠していたから、分かり難かったんだな。……そうだ、大きな違いがあったじゃないか。クマちゃんはシッポの無い可愛らしいお尻だ。


「あー、残念……」

「残念賞でリンゴを贈呈キュ」

「やったー!」


 満足したクマちゃんとクマグマちゃん達が離れると、セイさんがやれやれという感じで座る。


「結局あげるのか。太っ腹だな」

「そうなのキュ。お疲れセイしゃんにもあげるのキュー」


 太っ腹……。良い言葉なのだけれど、ちょっとドキッとする。僕のお腹も太っ腹……。い、いや、被害妄想だ。勘違いだ。


「ニコ、肥えた?」

「あがっ」


 ヴァンちゃんからの最終宣告に顎が外れそうになった。へ、へへへ。そうです、分かっていましたよ。秋の美味しい食べ物を、これでもかと詰め込みましたからね。僕は太っ腹ですよ(泣)。


「さっき持ち上げて気付いた。ダンスで減量する」

「そ、そうだよね! よーし、猛特訓だ!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 後日のダンスレッスンの休憩時間。痩せるためにヒョウキ様の片足を持ち上げようとしたら、逆に面白がられて持ち上げられてしまった。


「それじゃあ僕が痩――」

「や?」

「……何でもありません」

「おい、何だよー。気になるだろう。なぁ、ニコ、教えろよー」


 肩をゆさゆさされるが無視だ。失敗した。新たな策を考えよう。





 いつもなら楽しい夕ご飯の時間だが、今日の僕には少し憂鬱だ。あぁ、このお肉を残さなければならないのか……。


「お父さん、ニコちゃん達のタキシード出来た?」

「出来てるよ。カハルもおしゃれしようね」

「うん。セイのお洋服は?」

「あるから大丈夫だ」

「どうせならペアルックみたいにすれば良かったね」


 シン様の言葉に頷きながら、内心ドキドキだ。お洋服入るかな? ボタンがパーンってなったらどうしよう……。


 心配になってお箸を置くと顔を覗き込まれる。


「お腹が痛い? それとも美味しくなかった?」

「いえ、どちらでもないです」


 心配そうに皆が寄って来てしまった。おでこに手を当てられたり、体をさすってくれたりする。


「うーん、熱は無いみたいだけど。疲れが出ちゃったのかな?」


 心苦しくなってしまったので、正直に言う事にした。


「あの、太ってしまったんです。秋の味覚をこれでもかと詰め込んだので、折角作って頂いたお洋服が入らないかもしれないんです」


「そう? どれどれ……」


 シン様が全身をワシャワシャと触る。最後にお腹を撫でるとニコッと笑う。


「このくらいなら大丈夫だよ。ある程度の余裕はもたせてあるしね。ただ、首が少し苦しいかもしれないね」


「そうですか……。僕は顎の下にお肉が付きやすいんです」

「――えへへ、気持ちいい~」


 カハルちゃんが触って来る。怒ったらいいのか、喜んでいいのかが分からない……。


「カハルちゃん、俺もやって欲しい」

「うん。モシャモシャ~」

「うえっへっへっへ」

「あははは、ヴァンちゃん、怪しいよ。何その笑い方」


 シン様が笑いだすと皆に笑顔が広がっていく。僕もやっちゃおう。


「うりゃー!」

「おぉ、今度はニコかい。ほっほっほっ」

「おじいちゃんみたいだよ、ヴァンちゃん」

「ニコやい、儂にオカワリをおくれ」


 お替り? ご飯茶碗にはまだあるよね。おかずかな?


「ニコちゃん、ご飯の事じゃないのキュ。もう一度撫でて欲しいって事でキュ」

「あ~、そうなんですね。モシャモシャ~」

「うむ、満足じゃ。ニコもしっかり食べるが良い」

「はーい。森の皆にまた協力して貰うね」


 仲良く遊べば脂肪とバイバイでき……。いや、もうそんな時間はない。パーティーの日に僕達の雇用期間が終わる。ここの皆とはお別れだ。


 寂しさを誤魔化すように笑顔で話して食事を味わう。もうすぐシン様のご飯も食べられなくなるんだな……。涙が出そうになり、慌ててお味噌汁を口に運ぶ。お椀の影に隠れている内に落ち着くといいけど。


ニコちゃん達もこれでダンスを楽しめそうですね。カハルが起きていられる時間は短いので、これだけ覚えれば十分でしょう。後は出来る人に活躍して貰いましょう。

ニコちゃんがまた肥えてしまいました(笑)。食欲の秋な上に、色んな人からお菓子を貰っています。ヴァンちゃんは同じ量を食べているのに太らない不思議。羨ましいニコちゃんなのでした。


次話は、各国でお別れの挨拶回りです。


お読み頂きありがとうございました。

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