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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0350.クマの心は熊でしか癒せない

 クマちゃんが帰って来て寝室に置いてある熊さんに気付いた。


「キュ⁉ 大きいキュ。……失礼するキュ」


 ヴァンちゃんと一緒にこっそり見ていると、周りに誰も居ない事を確認して、足をよじ登りお腹に抱き付く。予想と大分反応が違うな。


「ふぅおーキュー! 埋もれるキュ~。なんて素晴らしい毛並みでキュか。キュ~」


 更に深く埋もれている。毛が長くて細いから、軽い手触りでフワフワなのだ。


 先に地下へ入ってお花を運んでいたビャッコちゃんが、ひょこっと顔を出してクマちゃんを凝視する。


「……親子?」


 全員が納得したように頷く。いつの間にか家中の人がこっそりと見ていた。クマちゃんは気付かずにモソモソと胸の辺りへ登って行く。頭まで行くつもりだろうか?


「キュッミ、キュッミ。キュ~、登るの大変キュ。もう疲れちゃったのキュ。お腹でいいのキュ」


 握っていた毛を離すと、ズルズル~とお腹までずり落ちて行く。


「はぁ、お腹最高キュ。もう動きたくないのキュ……」


 目を瞑って抱き付いている。今がばれずに抜け出せるチャンスだと思ったのか、ビャッコちゃんが地下の出口から走って来る。


「――っ、わっと」


 狐姿のビャッコちゃんが磨かれた床で滑る。慌てて支えに行ったので頭はぶつけずに済んだ。


 そろーっとビャッコちゃんと一緒にクマちゃんを見ると、呆然とした様子でこちらを見ている。


「……み」

「み?」

「見ちゃったキュ?」


 申し訳なく思いながらも頷くと、両頬を抑えて声無く叫び、熊のぬいぐるみの足の間に消えてしまった。


「消えた」


 ヴァンちゃんが呟くと、トコトコと見に行く。僕も行こうっと。


「見られてたキュ。恥ずかしいキュ。もうお外に行けないのキュ。もう一体化するしかないのキュ。中に乗り込めないでキュかね?」


 クマちゃんがブツブツと言いながら、お饅頭のように丸まって足の間に居る。もう一体化出来ている気がする。色が違うから駄目か。


「くまちん出ておいでよー」


 カハルちゃんが丸まっている背中をつつく。僕もやりたいな。ヴァンちゃんと一緒に人差し指をピンと立てて準備だ。


「や、止めるでキュ! クマはいま傷心なのキュ。クマの心は熊でしか癒せないのキュ!」


 ん? でも熊さんと戯れていた所為でクマちゃんの心は熊さんの……う~ん、ややこしいな……。


「よろしいのですか? 確かお花を火の国へ届けると言っていませんでしたか?」


 ビャッコちゃんが申し訳なさそうに言うと、クマちゃんがガバッと起き上がる。


「そっ、そうキュ、そうなのキュ! 忘れていたキュ。い、急いで準備なのキュ!」


 ちょこちょこと走り抜けると滑り台の穴に飛び込んで行く。


「キュ~ワ~⁉ キュゴゴゴ……」


 な、何が起きたんだ⁉ キュゴゴゴなんて初めて聞いた。覗き込んでいたセイさんが冷静に教えてくれた。


「入る時に蹴躓いて、ボールのように丸まって転がっていった。なかなかいい速度だったぞ」


 いや、感心している場合じゃ……。セイさんも天然さんですか?


 クマちゃんは間を置かずに帰って来た。きっと、すぐに持って行けるように準備してあったのだろう。


「――びっくりしたキュ……でも、行かなきゃでキュ。ドラちゃん、カモ~ンでキュ!」


「クワーッ!」


 クマちゃんが持つと巨大に見える、小さな鉢植えをよたよたと運んで来ると、気合十分のドラちゃんと共に消えた。


「くまちん、大丈夫かな?」

「心配なら行ってみる? 僕もお礼を言いに行くし」

「うん!」


 シン様にくっついて向かうと、無事到着はしていたけど、まだ動揺しているらしく、ドラちゃんから下りる時に転がり落ちて、顔面から絨毯に突っ込む。


「へぶっ……キュミ~……」


 慌てて起こすとびっくりして僕を見る。


「あれ、ニコちゃんでキュ。どうして居るのキュ?」

「だいぶ動揺していたので、心配で来ちゃいました」

「情けないのキュ。恥ずかしい所ばかり見られちゃったのキュ」

「今、声が……おや、皆さんで届けに来てくれたのですか?」


 宰相様が執務室から顔を出す。


「どうも。カエンもそこに居るのかな?」

「はい、いらっしゃいますよ。どうぞ」


 クマちゃんの代わりにヴァンちゃんが鉢植えを運んであげている。釣り竿がしなったような形の枝二本に、花が整列しているように並んでいる。白い花は左右対称で平たく、中心より少し下にある雄しべなどは赤い色だ。紅白でおめでたい色味だよね。


「おや、嬉しいね。また皆に会えたよ。それはクマちゃんが選んでくれたお花かな?」


「そうでキュ。お任せという事だったので、胡蝶蘭にしてみたのキュ。ミニサイズだから場所も取らないのキュ」


「綺麗な色だ。サイドテーブルの上に置こうかな?」


 ヴァンちゃんから受け取ると、楽しそうな足取りで自室に向かって行く。


「私がお持ちしますよ」

「軽いから大丈夫だよ。扉を開けて貰えるかな?」

「はい、畏まりました」


 ぞろぞろと付いて行くと、ベッドの頭近くにあるサイドテーブルの上に置いている。あそこなら良い匂いに包まれて眠る事が出来るよね。きっと疲れも取れて良い夢が見られるに違いない。


 でも、カエン様は匂いについて言わなかったな。甘過ぎず、リンゴに似たさっぱりした匂いなんだけどな……。ふんわりと香るくらいだから、人間の鼻だと分かり辛いのかもしれない。でも、きっと効果はある筈だ。


「うん、ばっちりだ。クマちゃん、ありがとうね」

「モキュ。喜んで貰えて嬉しいのキュ」


「カエン達、クマちゃんも熊のぬいぐるみが大層お気に入りだよ。この子達に贈り物をありがとうね。僕からもお礼を言わせて」


「どういたしまして。それは是非、クマちゃんがぬいぐるみに抱き付く姿を見に行かないと」


「そうですね。楽しみが増えました」

「恥ずかしいキュ~」


 先程の事を思い出したのか、ヴァンちゃんに抱き付いて顔を隠している。


「ふふふ、歓迎するよ。そうだ、ホノオは?」


「自室に居ますよ。大量の仕事を与えて押し込んであります。取り敢えず数をこなして慣れて貰わないといけませんからね」


 きっと泣きべそをかいているに違いない。脱走するか全然進んでいないかのどちらかだったりして。


「時々見に行ってあげなよ。全然進んでいないと思うから」


 シン様も同じ事を考えたらしい。本当にご褒美が必要なのはホノオ様じゃないだろうか?


「はぁ、仕方ありませんね。創造主様、この記録用水晶に励ましのお言葉を頂けませんか?」


「うん、いいよ。――ホノオ、頑張れ。ホノオは出来る子だー。ファイトー。――はい、どうぞ」


「ありがとうございます。これさえあれば……ふふふ……」


 悪いお顔だ。あれを使ってビシバシ鍛え上げるに違いない。去って行く背中を見送っていると、カエン様にひょいっと抱き上げられる。


「お菓子は買ったのかな?」


「まだです。でも、ヴァンちゃんの好きなイチゴ飴と、僕の好きな白ブドウの飴、カハルちゃんの好きなチョコレートは絶対に買うんです」


「どれもおいしそうだね。私のお勧めはイチゴとチョコのムースケーキだよ。イチゴのソースでグラサージュされて、とても綺麗だよ」


「シン様、グラサージュって何ですか?」


 食べ物の事はシン様に聞け! だ。きっと知っているに違いない。


「チョコレートやゼリーなどを上から掛けてコーティングする事だよ。表面が鏡みたいにツヤツヤで綺麗なんだよ」


 鏡みたいなチョコ? 透明なチョコレートをパリンパリンと食べている自分を想像してしまった。お口の中が痛そう……。


「ニコの想像は違うと思う」

「ヴァンちゃん、僕の頭の中が見えたの⁉」

「痛そうな顔した。鏡を食べてるみたいな想像に違いない」


 おぉ、ここに超人……いや、超白が居ますよ! 全部見えているのかと自分の体を抱き締める。ガード、ガード!


「ふふふ、全部見えてるよ~」


 シン様にお尻をツンツンとされる。


「カエン様、僕のお尻を隠して下さい!」

「おや、こんなに可愛いお尻を隠してしまうのかい? 勿体無いよ」


 そう言いながらも抱き直して、腕に座らせてくれていた僕のお尻をカエン様の体の方へ向けてくれる。足と手がダラーンとして楽しい。胸とお腹にカエン様の腕が回されているので、ガードもばっちりだ。


「甘いね、ヴァンちゃん」

「うむ。足と頭ががら空き」


 シン様と一緒にじっと見て来る。おぉ、視線が痛い。もうお布団の中に隠れるしかない。


「まぁ、ニコちゃんで遊ぶのはこれくらいにして、ケーキを買って帰ろうか」

「遊んでたんですか⁉ 酷いですよ~」

「ふふふ。カエン、ニコちゃんを頂戴」


「もう行ってしまうのかい? 可愛くて手放したくないな。温かくてずっと触っていたい柔らかな毛並み……。はぁ……また来てくれるかい?」


 ギュッと抱き締めてから僕を目の高さに持ち上げる。そんな寂しそうなお顔をされると罪悪感が……。


「勿論ですよ。もうっ、しつこい! っていうくらい来ちゃいますからね」

「ははは、それは嬉しいな。楽しみに待っているよ」

「はい。皆でお膝に乗りに来ますからね」


 ようやく笑顔で頷いてくれた。カエン様って思わず大事にしたくなるんだよね。年上なのに可愛らしい感じもするし、魅力的な方なのである。


「――カハル~」

「こら、待ちなさい小僧!」


 ホノオ様が脱走して来たようだ。だが、シン様は容赦なく、一歩前で移動の魔法を使う。「あーーーっ!」という叫び声を聞いてお家に帰った。頑張ってお仕事して下さいね~。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 パーティが近いので、しばらくの間は仕事終わりにダンスレッスンをする事になった。カハルちゃんをリードする為に頑張るのだ。僕達と身長が合う人が居ないので、ヴァンちゃんが今日は女の子役である。ピンクの布をスカートのように巻いて、楽しそうにクルクルと回っている。目が回らないとは羨ましい。


「それでは始めますね。男性は左手、女性は右手を出して握って下さいね」


 今日の先生役はメイド長さんである。ミナモ様と交替で教えてくれるそうだ。


「真正面に立っては駄目ですよ。半歩ずれて立って下さいね」


 僕達の様子を見ながらゆっくりと教えてくれるので、とても助かる。


「男性は女性の左手の下から肩甲骨に手の平を添えて下さい。女性は肩より少し下の上腕裏側に手を回して下さいね。肘は水平ですよ」


 こんな感じで合ってますか? と顔を見るとニコッと頷いてくれる。


「はい、離れて良いですよ。基本のステップから覚えましょうね。ワルツは三拍子なので、私が一、二、三と言うのに合わせて足を動かして下さいね」


 ボックスというのをまず教えて貰う。一で左足を前、二で右足を右斜め前、三で左足を右足の横に揃える。斜め前と言っても、先に出した左足の近くに右足を持って来て横に動かす感じだな。真っ直ぐ斜めではなく、四角を描いている線を足でなぞっている感覚だ。


「次に行きますよ。一で右足を後ろ、二で左足を左斜め後ろ、三で右足を左足の横に揃えて下さい。元の位置に戻れましたか?」


 おー、出来た。これでボックスの動作が一通り終わったらしい。


「では、注意点です。足を前に出す時は踵から着地して下さい。他の時は爪先で移動する感じですよ。三の時は、足を揃えたと同時に次に動かす踵を上げておけば左右間違えません」


 ふむふむ。全体をベタッと着けてはいけないらしい。左右交互に出すと脳内メモに書いておく。


「ではテンポを上げてやってみましょう。はい、一、二、三――」


 おぉー、速くなると頭が混乱する。えっと、前、斜め、チョン、後ろ、斜め、チョン。あー、爪先じゃないよ~。


「ふふふ、最初はそんなに意識せずにやってみましょうか。取り敢えず、前に足を出す時は踵だと覚えて下さいね」


「はーい」

「では続けましょうか。はい、一、二、三――」


 あまり間違えずに出来るようになったら、ヴァンちゃんと組んでやってみる。


「ヴァンちゃんは、一の時に足を後ろに下げてくださいね」

「了解」

「では、いきますよ。いーち、にー、さーん」


 順調だと思ったら僕の足の運びが遅くて、ヴァンちゃんにギュムッと踏まれてしまう。


「ニコ、すまん」

「ううん。僕が遅かったんだよ。軽減の札のお蔭で痛くないよ」

「おぉ、良かった。じゃあ、踏み放題」

「えー、そんなに踏まれたくないよ」


 クスクス笑うメイド長さんの他に複数の視線を感じる。バッと振り向くと、一斉に頭が引っ込む。


「誰ですか? 出て来ないとヴァンちゃんの首を絞めちゃいますよ!」

「ぐえー」


 絞めていないけどヴァンちゃんが棒読みで手伝ってくれる。全然苦しそうに聞こえない。いや、ヴァンちゃんなら本当にこうかも?


「きゃーっ、止めてあげて~」

「うわっ、押すなよ!」


 メイドさんと兵士さんがなだれ込んで来る。八人も居るよ。お仕事終わりだから問題無いだろうけど。


「覗き見とは感心しませんね。ですが、ダンスに興味があるのは良い事です。丁度ペアになれますから、一緒に練習しますか?」


「いいんですか⁉ 私、前からやってみたかったんです!」


 メイドさんが乗り気だ。普段はもてなす側だから参加出来ないもんね。


「じゃあ、俺がペアに立候補しちゃおうかな~」


 兵士さんもやる気があるらしく、メイドさんにチラチラと視線を送っている。そこにシン様が眠るカハルちゃんを抱っこして入って来る。


「順調かな? 白ちゃん達」

「何とか出来ましたよ。今はヴァンちゃんと組んでやり始めた所なんです」

「そう。じゃあ見学させて貰おうかな」


 そこに緊張した様子のメイドさんが声を掛ける。


「あ、あの、シン様! よ、良かったら私と一緒に踊って頂けませんか?」


 兵士さんが「やっぱり、世の中は顔なのか⁉」と嘆いている。それを突き飛ばすように残りのメイドさんもシン様を囲む。


「わ、私もお願いします!」

「それなら私だって!」


「ごめんね。僕はカハルを抱っこしているからパスさせてね。ほら、あそこに頼もしい男性達が居るから頼んでごらん」


 物凄く残念そうに「はーい……」と返事をして去って行く。そんな状態で頼まれているのに嬉しそうな兵士さん達。それでいいんですか? とも思うが、表情に嘘は無いので良いのだろう。


 メイド長さんが他の人達を指導しているので自主練だ。


「いーち、にー、さーん。いーち、にー、さーん」


 スローテンポで一つずつこなす。――おぉ、段々と慣れて来たかも。だが、油断はいけない。遅れた僕の足がまたギュムッと踏まれた。


「ニコ、すまん」

「ううん。また僕が悪かったんだよ。下がる時に遅いみたいだね」

「うむ。練習あるのみ」

「おーっ!」


 気合を入れ直して再開だ。黙々とやっていると声を掛けられる。


「白ちゃん達、今日はこれで終わりにしましょう。また、一緒に頑張りましょうね」


「はい」


 メイド長さんに上手になったと頭を撫でて貰い、待っていてくれたシン様の足に抱き付く。


「終了かな? ミナモ達に挨拶して帰ろうか」


 頷いて足元をトコトコと走りながら付いて行く。メイドさんも兵士さん達もやり始めたら楽しそうな顔をしていた。次の練習も参加するのかな?


慌てるとロクな事がありませんね~。クマちゃんがハプニング続きです。帰ったら、開き直って堂々と熊のぬいぐるみで癒されるのでしょうね。

ヴァンちゃんは、回るとスカートの布がふわっとなって楽しいので、ずっと回っています。見ているニコちゃんの方が、目が回りそうですね。


次話もダンスレッスンを頑張ります。


お読み頂きありがとうございました。

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