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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0347.シンの告白3

今話は、シン視点です。

 小学校の四年生になったカハルが、国語のテストで百点が取れたと喜んで帰って来た。


「フォレスト達にも自慢するんだ~」


 ランドセルを置いてソファーに座ると、すぐに意識を飛ばす。


「――フォレスト、ただいまー。あのね、テストで満点を取ったの」

「凄いね、カハル。じゃあ、お祝いしなきゃ」

「本当⁉ わーい、やったー」


「あ、そうだ。喜んでいる所なのに、ごめんね。『世界』が瘴気を処理して欲しいんだって」


「うん、すぐやるね」


 向こうでも意識を集中して魔力を土地に流し始めた。見守っていると、ノヴァから声が届く。


『主様、意識が無いと家族が慌てています』

「今は無理だ。魔力を流している」

『救急車で病院に運ばれるので付いて行きます』

「任せた」


 ばれてしまったか。少しずつ出来るようになっているが、これからも何度か同じ事が起こるだろう。でも、今は作業を終えて嬉しそうにお菓子を頬張っているカハルの邪魔をしたくない。今後はなるべく自室以外ではやらないように、ノヴァに注意して貰うしかないな。


「――あれ? ここ、どこ?」


「香春、良かった……。ここは病院よ。念の為に今日は入院して下さいって言われたの。ソファーで意識を失ったのを覚えていない?」


「――あ、そうか。ごめんなさい……」


「謝る必要は無いのよ。入院手続きをしてくるから、ちょっと居なくなるわね」


「うん、分かった」


 扉が閉まるとカハルが溜息を吐く。


「はぁ、失敗しちゃった。自分の部屋以外ではやらない方がいいね」

『はい。ですが、少しずつ出来ていますので焦らずやっていきましょう』


「うん……。夜の練習をもっと増やそうと思うんだ。早めに寝るのはおかしくないよね?」


『そうですね。でも、よろしいのですか? ご家族との団欒の時間が減ってしまいますよ?』


「今のままだと迷惑を掛けちゃうから、早く出来るようになりたいんだ」


 疲れたのか眠そうに目をこすっている。意識の移動は幼いカハルには負担だろうな。だが、これからは魔物とも戦わなければならない。何とか習得して貰うしか道は無い。


 俺は酷い父親だな……。だが、必ず今生でペルソナもカハルもセイ達もこの運命から解放してやる。どうか許してくれ、カハル……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 小学校の終わりには、きちんと意識を残したまま移動出来るようになった。その間にも何回か救急車で運ばれたので、家族がよく気にかけてくれている。未だに体は弱くて小さく、寝込む事も多いからな。


 今日もコンコンと苦しそうに咳をして真っ赤な顔で寝ている。


「香春、お買い物に行って来るけど食べたい物はある?」

「桃缶がいいな」

「ふふふ、好きね。買って来るから、ちゃんと寝ているのよ」

「はーい、ケホケホッ、ケホッ」


 心配そうにしながらも母親が出掛けて行くと、ぬいぐるみがむくりと起き上がる。


「にゃんちん、大丈夫キュ?」


「うん。ねぇ、前から不思議だったんだけど、くまちんは何で話せて動けるの? 他のぬいぐるみさんは動けないよ」


「ぬいぐるみだって他の物だって、丹精込めて作られた物には魂があるのキュ。クマの予想なんでキュけど、にゃんちんが魔力という物があるって教えてくれたキュ。それがクマを動かせるようにしたと思うのキュ」


「でも、ケホケホ……ケホン、ケホッ、ケホ……はぁー……。なんでくまちんだけ? 私は他にもぬいぐるみさん持ってるよ」


 うーんと腕を組んで悩んでいるぬいぐるみの代わりにノヴァが答える。そう言えば、このぬいぐるみはノヴァを見る事が出来るな。カハルの影響だろうか?


『相性の問題だと思います。白熊さんは魔法具のように創造主様の魔力を溜めていられます。馴染みがいいのでしょうね。ですが、他のぬいぐるみは流れていってしまう。なので、魂があっても動けないのだと思います』


「そっか、凄く仲良しって事かな。ベッドにいつも居るのも、くまちんだもんね」


「モキュ。クマもいつかイザルトに行きたいのキュ。毎日練習しているのキュ」


 ああ、だからか。カハルに詳しい話を聞いたり、意識を飛ばす練習をする時は必ず体に抱き付ついている。心配しているだけではなく、一緒に行きたかったのだな。


「ケホケホ、ケホッ……。じゃあ、寝るから一緒に行こう」

「モキュ。行けるといいんでキュけどね~」


 頬をくっつけ合って目を閉じる。白熊さんの願いはいつか叶うだろうか?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それで、いつクマちゃんは来られるようになったんですか?」


「カハルが成人したあたりかな。毎日フォレストの所に通ってお花の品種改良を頑張っていたよ」


 多分、その頃にカハルから移した力が体に馴染んだのだろう。


 ニコちゃんがクマちゃんを「凄いですね~」と撫でている。恥ずかしそうに耳を掻いている姿が可愛らしい。


「カハルちゃんはいつから魔物と戦ってた?」


 ヴァンちゃんが寝ているカハルの頭をそっと撫でてから聞いてくる。


「中学生になってからだよ。授業を聞きながらとか、読書しながらとか器用にこなしていたよ。その頃には息をするように行き来していたね」


 意識を途切れることなく送れるようになったらすぐ戦っていたな。その間はフォレスト、ダーク、精霊達、各国の兵士が頑張ってくれていた。


 ペルソナが人に手出しをしないようにきつく言い含めていたのか、大きな戦いは無かったようだ。きっと俺達の状態をよく分かって気を配ってくれていたのだろう。敵になりきれない、不器用で優しい奴だと苦笑した覚えがある。


「体の方は丈夫になりましたか?」


「少しだけね。寝込む回数は少なくなったけど、すぐに風邪をひいたり、熱が出たりしちゃうね」


「今は何をされているんですか?」


「高校を出てからは父親の仕事の手伝いを家でしているよ。パソコンていう機械を使って会計をしたり、文章やデータを纏めたりしているんだよ」


 ぱそこん? と首を傾げ合っている姿に笑みが浮かぶ。こちらには無い物が日本にはいっぱいあるからな。


「そういえばクマちゃんが帳簿を付けられるのは、カハルちゃんのお勉強を見ていたからだって言ってました」


「そうそう。商業高校に行ってお勉強していたんだよ」


 カハルに合った仕事があって良かった。倒れたり体が弱いと仕事の幅は一気に狭くなる。雇う方だって健康で毎日通ってくれる方が良いに決まっているからな。


 カハルが生まれた家はそれなりに裕福で事業をしているから、この先もなんとか暮らしていけるだろう。


「今は小さい姿で過ごしていますけど、こちらの体はちゃんと成長したんですか?」


「一応大人の女性にはなったんだけどね。魔力の消費量が多過ぎるから、どうしても必要な時以外は、小さい姿で過ごす事が自然と多くなっちゃってね」


 体が大きくなるごとに魔力の消費量が増していく。この仮の体はそういう欠点もあったのだ。


「鏡の魔物との戦いの時に大きくなっていましたよ。それで、魔法陣をいっぱい描いた後に、倒れて小さくなってしまったんです」


「魔力を消費し過ぎたんだね。カハルはいつも頑張り過ぎちゃうから」


 幸せそうに寝ているカハルに視線が集まる。本当にこの子は良く頑張ってくれた……。少しの間その寝顔を眺め、酒で喉を潤すと話を再開する。


「鏡の魔物との戦いが終わった後は、カハルに魔力が満ちて、セイも一緒に戦ってくれたから、何とかペルソナまで辿り着けた。でも、僕の予想通りにカハルはペルソナに負けた」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 カハルが崩れ落ち、ペルソナがその頬を優しく撫でると瞼が落ちた。俺は歯噛みしたい気持ちだった。カハルの意識が全て仮の体に残ってしまった。このままでは仮の体と共に輪廻の輪に戻ってしまう。


 ペルソナに切り離されてしまった魂を日本で一つにしたとしても、意識が無ければ二度と目覚める事無く、その生涯を終える。死んでしまった意識だけを『世界』は蘇らせる事が出来るだろうか?


 俺が抜けると留める力が無くなり魂が日本へ向かい出す。魂が日本に行ってしまう前に決着を付け、繋ぎ止めなければならない。リセットももうすぐ始まる。


 俺は強い決意でカハルの魂を出ると、セイに預けていた魂を自身に戻す。俺は自身の魂が存在する場所には、どんな障害があろうと行ける。例えペルソナの最強の結界だろうとだ。


 ペルソナはカハルの魂を切り離した後が最も無防備になる。空を仰いで涙するペルソナの前で魂を一つにすると、体を一気に再構築し剣を召喚する。


「――何て顔をしているんだ。俺が引導を渡してやる。お前もいい加減ゆっくり眠れ、ペルソナ」


 心臓を一突きにすると胸から背へと刃が抜けた。だが、俺達は心臓で動いている訳ではない。刺し貫いているのは魂だ。守りが強くて中々触れられなかった魂に、ようやく触れる事が出来た。魂を分解して輪廻の輪がある場所に移動させていく。


「かはっ……シン? 何処、から……」

「カハルの中で眠っていた。お前を解放する為にな。感謝しろよ」


「は、ははっ。そうか……その所為で……カハルの魂に、ごほっ……違和感があった……のか」


「気付いていたのか? 本当にカハルに関しては敏感だな……。さぁ、ペルソナ、ゆっくり休め」


 『世界』にも気付けなかった事を見抜いていた。カハルに関してなら、どんなに小さな変化でも気付く、誰よりも愛情深い男だ。もっと幸せな結末を用意してやれれば良かったんだがな……。


「ごほっ、ごほ、はぁ……はぁ。その前に……今動ける魔物は、はぁ……全て道連れに……して行こう。後は……頼む」


「任せておけ。……おやすみ、ペルソナ」

「おやすみ、シン。……カハルに……幸多からん事を……ねが、う……」


 ペルソナの力が一気に開放され、白い光は近くの魔物を次々と呑み込んでイザルト中を走り抜け、世界の周りの闇をも消し飛ばす。


 俺は急いで剣を消すとカハルの魂を仮の体に入れ、始まり掛けていた『リセット』を回避する。ペルソナへ視線を送ると俺に小さく頷いてみせ、笑みを浮かべながら消えゆく魔物達を見ている。


「おやすみ、私の愛した者達。共に永遠の眠りに落ちよう」


 最後にカハルを愛おしそうに見ると、真っ白な光を残して消えていった。


 これで一安心かと思ったがカハルの様子がおかしい。ぐったりと青い顔をして意識も朦朧としている。何故だ? 魂はきちんと中に入れた。意識の問題か?


「カハル、起きて。戦いは終わったよ。もうペルソナや魔物と戦わなくていいんだよ。カハル、お願いだから目を開けて」


 最初は手を握ると僅かに握り返してくれた。だが、どんどん力が抜けて呼び掛けにも応じてくれなくなる。ノヴァの目を通して日本のカハルを見るが、あちらも意識が無い。焦りが増し周りの音が遠ざかって行く。まさか、まさか……。


「――魂が……離れていく……嘘、だろ……」


 こんな結末があっていい訳がない。もう十分に苦しんだ。もういいだろう? これ以上俺達から何を奪おうというんだ。


 封印された魔物がまだ残っている。ここまでしたのに復活してしまう。カハルを異世界へ一人にして、ペルソナすらこの手に掛けたのに……。


「カハル、戻っておいで。やっと悲願が叶うんだよ。お願いだから行かないで……」


「――うっ……はっ……っ……」


 カハルの瞳から段々と光が失われて行く。完全に力が抜けてしまった手を強く握り必死に呼び掛ける。残りの人生を笑顔で過ごして欲しい。もう悲しまないで欲しい。苦しまないで欲しい。幸せだと心から思って欲しい。俺が全てなげうってでも叶えるから、どうか戻ってくれ。


 輪廻の輪に行こうとしているカハルの魂に呼び掛けていると、ペルソナが空から現れ、カハルの魂を抱き締めて仮の体へと導く。


「ペルソナ⁉ 何故、ここに……魂なのか?」


「シン、すまない、時間が無い。説明は『世界』に聞いてくれ。――カハル、しっかりしろ。今から私の魔力を渡すから体に取り込め」


 呆然と見ていると、カハルの焦点が徐々にペルソナに合っていく。その体に慎重に優しく魔力が渡されていく。


「ペ……ル…………ソ……ナ?」

「ああ、私だ。もう少しで終わる。――――完了だ。……元気でな、カハル」


 魔力を渡し終えたペルソナは、最後にギュッとカハルを抱き締めて体を離すと、急速に遠ざかって行く。


「おい、ペルソナ⁉ どこへ行くんだ!」


 焦って手を伸ばすが光に包まれて消えてしまった。


 ――そうだ、呆然としている場合ではない。カハルを慌てて確認すると、頬に赤みがさし、健やかな寝息が聞こえる。奇跡のような今に感謝してカハルを強く抱き締める。戻って来た。俺の腕に戻って来た……。


 必ず残りの魔物も全て倒す。これからは何度転生しても大切な家族と戦わずに済む未来を掴んでみせる。カハルの笑顔は、いつだって必ず俺が守る。


 ペルソナの事も気になるが、まずは倒れている仲間達を起こす。


「おい、ダーク起きろ」


 額を叩くとパチッと目が開いて大剣をグッと掴む。


「そんな物騒な物はしまえ。戦いは取り敢えず終了だ」

「シン⁉ いつ戻って来たんだ⁉ ――っ」


 素早く起きて、たたらを踏むダークを支える。


「ついさっきだ。話は一回で済ませたいから、全員起こしてフォレストの所で待っていろ。俺は少し『世界』の所に行って来る」


「あ、ああ、分かった」


 ダークはこういう時に無駄口を叩かないから助かる。少しフラフラとしていて心配だが、倒れる程ではないだろう。


カハルの日本の家族が良い人達で大安心のシンです。でも、ちょっと寂しいなぁとも思ってます。

自分の事は忘れさせていますし、自分以外をお父さんと呼ぶカハルに複雑な気持ちです。


次話は、仲間達との再会です。


お読み頂きありがとうございました。

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