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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0346.シンの告白2

今話は、シン視点です。

 その後、前と同じ体や、ヒョウキ達の体の構造と同じで、より魔力を多く収められる体など、『世界』が何度もカハルの体を作るが、魂が入った途端に弾き出されてしまう。


「また駄目か……。何が問題なのだろうな? 他に取れる方法はカハルに負担が掛かる方法しか残されていない。だが、そろそろ瘴気の処理をして貰わなければならないな。……仕方ない。リスクが高いがやるしかないな」


 瘴気が満ち、このままリセットを迎えると、『世界』の魔力が足りなくなって転生がだいぶ先になってしまう。ただでさえ、転生が失敗続きで魔力を多く消費してしまっているからな。ここらで妥協するしかあるまい。


 そして、出来上がった体は、魂を二つ収められるような容量はあるが、魔力を多く必要とするものだった。魔力が少なくなると、体の機能が停止してしまう恐れがある。俺がカハルの体から抜け出した時にどうなるか……。だが、これ以上のものを作るのは無理だろうな。


 いつものように体と魂を近付けると、今度はするりと中に入った。


「やっと成功か。無事に育ってくれればよいが」


 魂が体に馴染むと、俺が居ないのでフォレストの元に送られる。


 セイにはカハルの仮の体を作ってから、他の生物を転生させると伝えていたが、あまりにも難航した為、作業を途中で何回か中断し、フォレストと人間を先に転生させていた。


「――カハル、お帰り。今回は色々と起きるね」


 淡く輝く光球に包まれたカハルが目の前に現れると、手慣れた様子で抱っこしている。フォレストが居れば安心だな。


 これでペルソナと残りの魔物もこの地に戻って来るだろう。


「セイもシンも居ないのは初めてだね。これから戻って来るのかな?」


 カハルは何の反応も示さない。笑う事も泣く事もせず、無表情にフォレストを見てから目を閉じた。


「様子がおかしいな……。転生したばかりで、ぼんやりしているのかな?」


 その後もあまりに無反応で心配になったのか、フォレストが『世界』の元へ向かう。


「ちょっといいかな? カハルの様子がおかしいのだけれど」

「――お前には伝えておこう。他の者に話すかはお前が決めるがいい」

「それはいいけど、何か問題が起きているの?」


「ああ。転生の際に拒否反応が起こり、カハルの魂の大部分と肉体、意識、記憶などは日本へ転生した。お前の腕に居るカハルは、こちらに残った僅かな魂に仮の肉体を与えたものだ」


「転生するのを嫌がったという事かな……。こちらには意識や記憶が全く無いという事で合っている?」


「そうだ。息をしているだけに過ぎない。仮の体もなかなか受け付けなくて、ようやくその体で成功した」


 フォレストが言葉を失くしてカハルの顔を見つめる。血の気の失せた顔に胸が痛むが、計画を止める気は無い。


「大きくなってもこのままなの?」


「日本のカハルが大きくなれば、こちらに意識を飛ばせる筈だ。そうすれば、その体を動かせる」


「でも、拒否反応があったのでしょう? ……もし、カハルの意識がいつまでも戻って来なかったら、ここに居るカハルはどうなるの?」


「ただ息を吸って生きていくだけだ。そして、リセットになり我の元へ戻る。日本のカハルが亡くなると全てが戻って来る。うまく融合してくれれば良いが、そうでない場合はシンが居ないと難しいだろうな」


「でも、シンは消えてしまったよね……」


「ああ。だが、今はそれを考えても仕方が無い。日本でも漸くカハルが赤子として生まれた。成長に期待するしかあるまい。――ああ、そうだ。シンの守護龍のノヴァが側に居る。きっとカハルを守ってくれるだろう」


「そう、ノヴァが……。彼は生きていたんだね。きっと、シンの意志を継いでくれているのだろうね」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの時に赤子だった人間がカハルを生んだ。それまでには何とか魂と体が馴染んでいたので無事に生まれる事が出来た。だが、魂が足りない所為か酷く体が弱い。すぐに熱を出したり、入退院を繰り返したりしている。


「ノヴァ、カハルはお前の事が分かるか?」


『時々、目で追われているのを感じます。ただ、日本ではあまりそういう事を口に出すと、おかしな人という目で見られてしまいますから……』


「そうか……。夢に干渉できるか? 記憶を持っているか確認して欲しい」

『畏まりました』


 ノヴァが幾度か確認した所、おぼろげな状態という事が分かった。徐々に思い出してくれるといいが……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 仮の体のカハルはほとんど眠っている。起きていても何の反応も示さないが、フォレストは変わらずに愛情を注いでくれている。本当にフォレストが居てくれて良かったとしみじみ思う。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 カハルは休みがちながらも保育園を卒園し、日本で小学校に入った。少しだけ体は強くなり入院する事は減ったが、すぐに風邪をひいたりして寝込んでしまう。体も中々大きくならず、他の子と比べると細くて小さい。


 そんなカハルが九歳になったある日の事。高熱を出して何日も下がらず、意識も朦朧として生死の境を彷徨う状態になった。


 日本の親が小学校の入学祝に贈ってくれた白熊のぬいぐるみを顔の側に置き、苦しそうに寝ている。何も出来ずノヴァを通して見守っていると、スッと目が開く。ようやく意識が戻ったと安堵するが、それは大きな勘違いだった。


 カハルの魔力が暴走しだした。命の危機に瀕した所為で、『世界』が施したタガが外れたようだ。病室のカーテンがバタバタとはためき、ティッシュ箱やスリッパなどが宙を舞う。そして、カハルの体が起き上がって宙に浮き、天を見つめる。まずい! 移動の魔法の気配だ。今のままでは異次元で彷徨い続ける事になる。


「ノヴァ、抑えろ!」

『はい! ――ぐっ、創造主様、お静まり下さい!』


 ノヴァが必死に自身の魔力で覆うが威力は増すばかりだ。まずい、命が魔力に変わっていっている! 何か手がないか? このままでは死んでしまう……。


「にゃんちん! しっかりするキュ!」


 聞き間違いかと思った。意識体が中に入っているのか? 白熊のぬいぐるみが大きく揺れるカハルの病衣の左裾にしがみついて、飛ばされそうになりながら声を上げている。それへ僅かにカハルが反応した。


 その光景を見て心を決める。この二人には深い結び付きがある。カハルの魔力が染みこんだ、ぬいぐるみなら可能かもしれない。


「ノヴァ、カハルの力の一部をぬいぐるみに流し込め」

『主様⁉ それはあまりに危険です! 下手をすればこの地が吹き飛びます!』

「今はそれしかない。やれ!」

『――っ、畏まりました。譲渡を開始します』


 カハルの力を誘導して、ぬいぐるみの中に流し込む。赤い輝きが胸に飛び込んでいった。


「――キュッ⁉」


 苦し気に一つ鳴くとベッドにポトリと落ちる。それを静かにカハルが見下ろした所で力の暴走が止まった。気絶してベッドに勢いよく落ちるカハルをノヴァが受け止めて静かに下ろす。何とかなったか……。


 ベッドサイドのモニターがアラーム音を大きく響かせている。多分、魔力の影響でそこら中の機器に異常が出ている事だろう。廊下を走る音がいくつも聞こえて来た。


「――急いで各部屋を見て! あなたはそちらの部屋をお願いね」

「はい!」


 病院の人達が来たか。後は任せるしかないな。


「ノヴァ、窓を開けたら姿を隠して見守れ」

『畏まりました』


 カハルの病室に入って来た女性が、荒れた室内を見て悲鳴を呑み込む。


「――っ、何があったの⁉ 窓が開いている……突風かしら? いえ、そんな事は後よ。――香春(かはる)ちゃん、香春ちゃん、声が聞こえる? 香春ちゃん!」


 呼び掛けに応じないカハルに血の気が引いて行く。俺はここでカハルを失ってしまうのか?


 医師が呼ばれて処置がなされたが、そのまま意識が戻らない状態が続く。ぬいぐるみも動きを止めたままだ。


「香春、起きて。お外は綺麗な桜が満開なのよ。香春……」


 カハルを生んでくれた女性が泣きながら布団に突っ伏す。見守る事しか出来ない歯痒さに耐えるしか、今の俺には出来ない。



 一週間経ち病室に誰も居なくなった時、ぬいぐるみがピクッと動く。周りに目を配りながら、そろそろと起き上がると、カハルの頬を撫でる。良かった、無事だったようだな。


「にゃんちん、起きるキュ。にゃんちん」


 頬を軽くペチペチと叩くと、カハルの瞼が僅かに動いた気がした。


「にゃんちん、桜が綺麗でキュよ。お外もいいお天気なのキュ」


 そう言いながら今度は鼻を軽く叩く。フワフワの手を振り下ろす度に、その体からカハルの魔力がふわっと揺らめく。魔力を渡しているのか? 赤と黄緑色の魔力が、カハルの顔を風のように優しく撫でる。


「にゃんちん、お鼻を低くしちゃうキュよ。いいのキュ?」


 もう一度鼻を軽く叩くと、カハルの目がゆっくりと開いていく。焦点を合わせるようにじっと見てから瞬く。


「……くまちん? あれ、ここどこ? セイは?」


 ノヴァが息を呑む。完全に記憶が戻ったようだ。そこに足音が近付いて来て、ぬいぐるみが慌てて横になる。


 扉が開いて花瓶を持った母親が入って来る。ベッドに目をやると花瓶が手からすり抜け、激しい音を立てて花がばら撒かれる。


「――香春⁉ 香春! 目が覚めたのね……香春……あぁ、良かった……」


 抱き締め嗚咽している。カハルは記憶が混乱しているのか、目を見開いて固まっている。


「――今の音は、どうされ……香春ちゃん! 今、先生をお呼びします!」


 看護師が急いで部屋を出て行く。その後、検査をしたが異常はなく、暫くして退院する事が出来た。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 魔力暴走が起きた日から完全に記憶が戻り、イザルトの事も思い出した。カハルは徐々に意識を向こうに飛ばす練習をしている。


「……はぁ、上手くいかないなぁ。ノヴァ、どうしたらいいの?」


 ノヴァの事も思い出したのか、最近は話をするようになった。


『どなたかのお顔を思い浮かべてみてはいかがでしょうか?』

「顔? セイとか?」

『セイ様は……いらっしゃらないのです』

「居ない? 転生がまだなの?」

『……事情が色々とありまして……』

「そうなんだ……。じゃあ、フォレストにするね。う~ん……」


 眉間に皺を寄せて指を組んで祈っているような恰好をしている。そのままパタリと横に倒れる。


『創造主様⁉ しっかりなさって下さい!』

「ノヴァ、待て。成功した」

『え? あちらに意識が行ったのですか?』

「ああ」


 仮の体のカハルを通して見ると、フォレストがギュッとカハルを抱き締める所だった。


「良かった……本当に良かった。カハル、お話出来るかな?」

「うん。でも、まだ慣れてなくて――」


 眠ってしまった。今度はノヴァを通して見ると、カハルが体を起こしている所だった。


「ちょっと出来たよ。ノヴァのお蔭だね。もっと練習するね」

『はい。ご無理はなさらないで下さいね』

「うん。あのね――」


 ノックの音が聞こえてカハルが言葉を呑み込む。


「香春、ご飯よ」

「はーい」


 扉を開けてカハルが出て行くと、母親が少し困ったような顔で室内を見やる。


「独り言かしら? 昔からあの熊のぬいぐるみによく話し掛けていたものね。でも、そろそろ止めさせた方がいいかしら……。――やっぱり止めておこうかしら。家の中でなら自由にさせてあげてもいいわよね?」


 思案気な顔で扉を閉めて去って行く。こちらの世界では魔力や竜など存在しないと思われている。ノヴァはカハル以外には見えていないので、空中をじっと見ているおかしな子だと言うものも居る。


「ノヴァ、念話にした方がいいな」

『そう致しましょう。人間は変わった同族を嫌いますから……』


 イザルトでも日本でも、人間のありようはあまり変わらないらしい。



 ノヴァが念話にする事を話すと、すぐに使いこなしている。だが、視線は動いてしまう。


『私が創造主様の視界の中へ移動しますので、お呼び下さい』

「うん、ごめんね……。私は変な子なんだって……」


 同じクラスの子達に何か言われたようだったからな……。大人は面と向かって言わないが、コソコソと言っているのを知っている。


『変ではありませんよ。創造主様はお優しいのです。見えている私を無視する事は、悪い事だと思われているのでしょう?』


「うん。だってノヴァはいつも見守ってくれているもの。ありがとうね」


『どういたしまして。ですが、私は創造主様が悪く言われるのは悲しいです。ですので、先程の約束をお守り下さい』


「はーい……。じゃあ、今日も頑張って練習するね」


 今は全ての意識をイザルトに送ってしまうので、こちらの体が目を覚まさなくなってしまう。これに家族が気付いてしまったら大騒ぎになるので、こちらに意識を残したまま、あちらにも飛ばせるように練習している。


 だが、すぐには上手くはいかないので、ベッドに横たわって行う。パッと見はただ眠っているように見えるからな。


「……――」


 今日も全意識がイザルトへ行ってしまった。フォレストと楽し気に話す姿に和んでいると、日本の母親が洗濯物を持って部屋に入ってくる。


「香春は最近眠っている事が多いわね。背が大きくなるかしら? ふふふ」


 意識が無い事には気付かず、頭を撫でるとそっと部屋を出て行く。家族はカハルを忌避する事なく接してくれている。ありがたい事だ。


「心臓は無いが、心臓に悪い」

『ははは、まことに。ですが、早く習得しないと気付かれてしまうでしょう』

「そうだな。夜に多く練習するしかあるまい」


日本に生まれたカハルの様子でした。同じ名前ですが、こちらは『香春』です。シンの心配が尽きませんね。

クマちゃんは昔から、ただのぬいぐるみとして振舞うのが上手です。ビジュ・コパンでも見事にぬいぐるみのふりをしていましたが、日々の訓練の賜物です(笑)。


次話は、ペルソナとの戦いです。


お読み頂きありがとうございました。


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