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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0345.シンの告白1

今話は、シン視点となります。

 全員がそろそろ限界だな。このままでは俺の家族の精神が崩壊する。


 千年は長過ぎた。イチかバチかやってみるしかない。どうせ、俺達以外にやれる者は居ないのだから。



 計画を立てた俺は着々と準備を進めて行く。


「ノヴァ、今からお前に俺の魂の一部とカハルの魂の一部を預けるから、平和で治安の良い日本と呼ばれる世界へ行き、自身を封印しろ」


『異世界ですか……。主様はどうされるのですか?』

「俺の残りの魂をカハルとセイの中に入れる」


 カハルが好きだと言ってくれた容姿のまま、体も預けておこうかと迷ったが止めた。ノヴァの負担は少しでも減らした方がいい。


 再度構成した時に多少顔形が違うかもしれないが仕方ない。全てはエネルギーだから、魂だけの状態になる事も、体を作る事も息をするように自然と出来る。人間や動植物はそれが出来ないので、『世界』が代わりにやっているが。


『そ、それはあまりに危険です。どうかお考え直しを。下手をすると皆様が共に消滅する事になります』


「このまま何もしなくても全員が狂う事になるさ。これは最後の賭けだ。頼む、聞き入れてくれ。魂をこんな風に動かせるのは、神である俺だけなんだ」


 酷く狼狽して葛藤する姿を見ても俺の意志が変わる事はない。これが全員を救う最後の方法だ。ノヴァは拳を握りながら俯いて考えた後、俺の顔をじっと見て決意が変わらないのを確認する。そして、目を伏せて息を長く吐くと、観念したように口を開く。


『……承知致しました。私も覚悟を決めましょう。計画を教えて頂けますか?』


「ああ。既に影響のない範囲でカハルの魂の一部と俺の魂の一部を入れ替えてある。僅か過ぎて誰にも分からないレベルだ。幹部をあらかた倒したら、次元の間に俺が作った空間があるだろう? その洞窟に俺自身を一旦封印する。あそこはリセットの影響を受けないからな」


 これによって『世界』にもペルソナにも仲間にも俺は見付けられない。俺はきっと死亡したと思われるだろう。


 俺が自身を封印したと同時に、カハルが持っている俺の記憶も封印する。きっと、ペルソナに加えて俺まで居なくなったら、あの子は壊れてしまうから……。


「目覚められるのはいつなのでしょうか?」


「転生が行われる時だ。カハルの中に僅かに入れてある俺の魂がその時を教えてくれる。そして、『世界』が体に魂を入れる瞬間、カハルの魂の大部分と俺の魂を交換する。カハルの魂の一部をお前が持っていれば、押し出されたカハルの魂と肉体と意識は必ず日本へ転生する。そして、残った魂はイザルトで転生させるしかないから、『世界』が仮の体を用意するだろう」


 まぁ、その前にカハルの魂で俺の魂を包み込む事を成功させないといけないがな。そうしないと、『世界』に気付かれてしまう。


 そして、仮の体作りも非常に難易度が高い。カハルの魔力と魂を内包出来る器を作るだけでも一苦労なのに、神である俺の魂までをも体に押し込めなければならないのだから。


『セイ様はどうされるのですか?』


「セイは元々俺の半身だから、カハルに入りきらない俺の魂が更に増えた所で受け入れる事が可能だし、悪影響はそれ程ないだろう。あったとしても赤子ではなく大人の姿で転生するくらいか」


 それよりも心配なのは心の方だ。俺達に落ち込む姿を見せないようにしているが、あの子は数え切れないカハルの死に、酷く疲れて心に闇が広がるようになってきている。


 今は俺が側に居る事で抑えてあげているが、次に生まれた時には手を差し伸べてあげられない。絶望が心に満ちてしまった時、あの子はどんな行動を取るのだろうか?


『私は創造主様が日本へいらしたら、自身の封印を解けばよろしいのですね?』


「ああ。お前が持っているカハルの魂は、自然と転生した体に吸い込まれるから、それを合図に起きろ。そして、そのままカハルの成長を見守れ」


 日本に転生したカハルにはイザルトの記憶もあるし、こちらにも魂があるから意識を持ってこられるだろう。そうしたら、ペルソナに辿り着くまで待つだけだ。


『畏まりました。主様の魂は私がお預かりしたままで宜しいのですか?』

「ああ。お前が持っていてくれれば状況を把握できるし、指示も与えられる」


 僅かな魂だから封印が解けた所で誰にも気付かれない。俺の守護龍からは俺の力を感じるものだしな。


『創造主様の仮の体は、意識が無い間はどのようになるのでしょうか? 主様が動かされるのですか?』


「いや、そういう干渉はしない。意識が無い間はカハル共々眠っているだろうな。他に質問はあるか?」


『他の方々にお伝えしなくても宜しいのですか?』


「敵を欺くにはまず味方からと言うだろう。同じ手は二度と使えないのだから、完璧に遂行しないとな」


 苦笑するノヴァに俺とカハルの魂の一部を渡す。


『全く主様らしい決断だ……。確かにお預かり致しました。それでは、私は行きます』


「ああ、頼む」


 移動の魔法で消えるノヴァを見送る。暫し俺の守護龍とはお別れだ。さて、俺も魔物退治に行って来るか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 順調に魔物を倒し、少しずつセイに俺の魂を移動させていく。三割近く魂を移動させ、残りの者達だけでペルソナに辿り着けるのを確信した俺は、予定通り自身を封印した。後は転生の時を待つだけだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 転生させるには順番がある。



 まずは俺とフォレストが戻る。


 俺は『世界』に作り出された存在ではないので、輪廻の輪は関係ない。輪がある場所で眠るだけなので、リセットが終わると自分の意志で戻る。


 フォレストも眠るだけだが、元々は意識体で『世界』に体を貰った存在なので、体だけ『世界』に調整して貰っている。



 次に一定数の人間と動植物などだ。


 一定数の人間達はリセットの時の年齢で転生させ、普通に生きていたような記憶を植え付けられている。そして、この者達がデラボニアに祈ると、第二陣の人間を赤子として転生させる。


 他の仲間は人間なので、『世界』が親と定めた人間が祈ると、赤子として誕生する。なので、生まれる時期はバラバラだ。



 お次はセイだ。セイも俺と同様に眠るだけだが、傷付いた体を自身では治せないので、『世界』が調整している。その際に赤子になってしまうが、俺が作り出した存在なので、デラボニアを通さず俺の元に戻される。



 それが終わると、カハル、ペルソナ、魔物が同時に戻って来る。


 カハルはセイと同様に俺の元に戻される。ただ、カハルの転生は時間が掛かる。体の調整に時間が掛かるし、魂を馴染ませるのにも長い時を必要とするのだ。その為、魂は戻って来る大分前に体に入れられている。


 魔物はペルソナの守りがあって輪廻の輪に戻せないので、眠らせて異空間に入れておいたのを解き放つ。例え『世界』がやらなかったとしても、ペルソナが解き放つのだが、『世界』自身がやれば異空間が壊されずに済むからな。


 ペルソナも魔物と同じ空間で眠っているが、俺と同じく『世界』に作り出された存在ではないので、自分の意志で戻って来る。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 無事に転生を果たしたセイの目を通して、人間の転生がまた失敗をしたのを眺める。この子にはそれが見えないので、誰も生まれない事に苛立ちを感じ始めているようだ。


 今回の転生はイレギュラー続きだ。俺が居ない事で世界の均衡が崩れたのか、魂が上手くイザルトに向かわず、輪廻の輪がある場所に戻ってしまう。


 今回はフォレストの調整にも時間が掛かっているのか、まだ気配を感じない。そして、他の転生も失敗続きだった為か、『世界』が手当り次第に戻しているようだ。いつもならカハルと同時に目覚めさせていた魔物が既に居るのを見た時は、『世界』を罵ってやりたくなったものだ。


 セイは予想通り体が大人の状態で転生した。魔物も居る上に面倒を見る者が居なかったので、良かったというべきか。だが、心配していた通り、心の闇が急速に広がってしまい、最悪の結末を迎える。セイは自身を泉の底に封印してしまったのだ。何もしてやれない自分に苛立つが、ここで表に出ては何もかもが水の泡だ。すまない、セイ。待っていてくれ……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 セイが自身を封印してしまう少し前――。


 カハルの転生が行われる時がようやくやって来た。魂が完全に取り込まれる一瞬が勝負だ。


 『世界』がカハルの魂を宙に浮かせ、体を用意すると徐々に二つが近付いて行く。完全に入りきる瞬間に自身の封印を解き、カハルの魂の中心に移動させてある俺の僅かな魂を目印にして、凝縮させておいた残りの魂を一瞬で移動させる。そして、中心に入ったと同時に、弾けないようにグッとカハルの魂を押し広げる。頼む、なんとか堪えてくれ……。ちょっと触れただけで弾けそうな感覚にヒヤヒヤする。


 ――ふぅ……。よし、第一段階成功だ。饅頭のように上手く包まれているので、『世界』は気付いていない。失敗すれば諸共に消滅する危険な行為だったが、安堵するにはまだ早い。


 容量を超えた魂が入った瞬間に、カハルの体が拒否反応を起こす。押し出そうとする力を利用して、周りの七割ほどを体に残して外に飛び出る。これで純粋にカハルの魂だけとなったな。残りだけで俺の魂を包めるか不安だったが、薄い膜できちんと覆われている。綱渡りのような作業の連続に、体があったら冷や汗を拭っているところだ。


 先にカハルの魂を七割ほど取り出してから、俺の魂を入れるのが一番簡単だが、それだと魂だけが日本へ行ってしまう。カハルの魂に耐えられる肉体が向こうにはないので、例え宿ったとしても即死して転生失敗となる。それに、何もなく魂が別れれば、『世界』に怪しまれるからな。拒否反応を利用するのが一番無理なく作業が行える。


「拒否反応だと⁉ カハル、待てっ!」


 『世界』が驚愕の声を上げるがもう遅い。魂の大部分が入れば転生は開始される。日本に向けて体は消えた。


 いつもなら体に魂を入れても、力が馴染むまではこの空間から居なくなる事はない。だが、今回は日本にある魂と呼び合う力が働き、完全に馴染む前に旅立った。俺が少し馴染ませはしたが付け焼刃だ。下手をすれば肉体が異次元に落ち、魂だけが日本へ辿り着く可能性がある。俺の危険な賭けは、まだまだ続く。


「何という事だ! どこへ行ってしまったのだ⁉ まだ馴染んでもいないのに!」


 『世界』が慌てて意識を伸ばして調査している。その間にノヴァが目覚めた。見守ってくれと頼むと『畏まりました』と返答が戻って来る。ノヴァが居れば危害を加える奴を全て排除出来るだろう。


「――日本か。我の元から離れてしまったから、魂が体に馴染むまで長く時間が掛かるだろうな……。――ん? 待てよ。赤子になった訳ではないのか?」


 『世界』が訝し気な声を出す。何か問題があったのか? 肉体もきちんと到着したようだが……。


「――そうか、あの赤子が大きくなってカハルを生むのか! 既にカハルの母となる人間の体内に居るが、いつ生まれるか予測が付かぬ……。あの人間がカハルの強大な魔力と魂で壊れないようにサポートしなくてはならぬな。……はぁ、何故こうも問題ばかりが起こるのだ。体も意識も記憶も全てあちらに行ってしまった。こちらに残っている魂をどうするか……。シンが居れば魂を一つにしてもらえたのだが……」


 『世界』の声に苦悩が滲む。俺以外にそれを出来る奴が居ないからな。それにしても、カハルが日本で生まれるには時間が掛かりそうだ。『世界』はきっと、あちらではカハルの魔力を使えないようにするだろう。ノヴァを行かせておいて良かった。


「消滅させる訳にもいかぬとなれば、仮の体を作るしかないか……。上手くいけば、向こうから意識を移動させる事が出来るだろう。生きる屍にならぬと良いが……。ああ、そうだ。先に日本のカハルの魔力が使えないようにしなければ……」


 ブツブツと言いながら魂を大事に包み込む。


「暫し我の魔力で包んでおくしかあるまい。全く手の掛かる我が子だ」


 そのあまりにも優しい声音に驚く。こんな声は初めて聞いた。冷血で頑固で嫌な奴の筈なのに……。カハルを道具の一つとしか見ていないと思っていた。だが、いま確かに『世界』の愛情を感じた。


 カハルがどうして『世界』を忌避しないのか分かってしまった。知っていたのだな、こういう一面があると……。


 喜ばしいが腹立たしい思いもある。こんな奴が愛情だと? 散々戦わせてと次々に言葉と感情が浮かぶ。


「それとも、このままここに居るか? もう戦いたくないだろう? 我の所為ですまぬ……。どうしても人を生み出したいという欲求を我慢出来なかった。神であるシン達に、沢山の愛しいと思える存在を一刻も早く作ってやりたかった。我の力が足りず、空虚に長く置いてしまったからな……。だが、結果は惨憺たるものだった……」


 意外な言葉に思考が暫し止まる。だから、整っていない世界に無理やり命を生み出そうとしていたのか。一刻も早く俺達に沢山の愛しい存在を授ける為に。散々、娘を一人生み出すだけでは駄目なのだと言われた事に合点がいく。


 今更そんな言葉を聞かされても困る。俺は『世界』も人間も嫌いで疎ましい。一度抱いてしまった感情は中々消えない。


「今回の転生はイレギュラーばかりだから、カハル達に喜んで貰える世界にしてしまおうと思ったが、上手くいかないものだな。動植物、害意の無い魔物、セイ、カハル、フォレスト、親しい人間。これだけを転生させようと思ったが失敗の連続だ。シンの存在がどれだけ重要か思い知らされた」


 そういう意図でだったのか。こいつがやりそうな事とはかけ離れていて、手当り次第だとしか思えなかった。俺はずっと思い違いをしていたのか? お互いに主張を通そうとするだけで、碌な会話をしてこなかったからな……。


「結局、セイには悲しい思いをさせてしまった。もっと早くに他の者も戻る筈だったのだが……。すまないな、カハルはいつも話を聞いてくれるから、愚痴っぽくなってしまった。意識がないから答えてはくれぬのにな……」


 カハルが地上に下りる前に、いつもこうして話していたのか。俺は真っ先に地上に戻るから全然知らなかった。こいつもカハル相手だと饒舌なのだな。


しばらくシンが語ります。シンの守護龍が登場してすぐにイザルトを旅立ちます。

シンの賭けにのるのは勇気がいりますね。ノヴァは長年仕えているので、主がこうと決めたら説得が無駄なのはよく分かっていますし、苦悩も知っています。ノヴァ自身も現状を何とかしたいと思っていたので、結局は従う事にしました。

『世界』が大変そうですね。頑張って働いて貰いましょう(笑)。


次話は、日本に転生したカハルです。


お読み頂きありがとうございました。

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