表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
345/390

0344.負の連鎖を断ち切る時

 メンバーが揃うと、お酒やおつまみが並べられる。大人の時間ですね。でも、そのチーズを僕にも下さい。


 そーっと手を伸ばすとダーク様に捕まってしまった。


「悪い奴だ。俺のつまみをとる気か?」

「チーズが欲しいんです! ねっ、ヴァンちゃん!」

「うむ。アーモンドも下さい」

「ははは。よし、食べろ」


 全員に笑われてしまった。だって、おつまみっておいしよね。塩気があってやみつきになる。


「ブドウジュースに合うのか?」

「合わなくてもいいんでーす。カハルちゃんはどれがいいですか?」

「イカが欲しいな」

「クマもでキュ」


 大変だ、ダーク様のおつまみが無くなってしまう。


「ふふふ、もっと出してあげるよ。ドラちゃんはお豆を煎ったやつが好きだよね」


「クワー」


 ビャッコちゃんは何が好きかなと見ると、ナッツ入りのチョコレートを見ている。


「どうぞ。甘いのが好きですか?」

「はい。この干し柿も好きです」


 干し柿を食べやすいように小さく切ってあるのをつまんでいる。僕も自分で作ったやつなので、より一層おいしく感じる。


「シン様、梅ジュース?」

「これは梅酒だよ、ヴァンちゃん。飲んでみる?」


 悪戯っぽい表情で言われて、慌てて首を横に振っている。甘い匂いだけどジュースじゃなかったのか。残念……。


「それじゃあ、乾杯しよう。――いいかな? 乾杯」


 グラスを掲げてジュースをグビグビと飲む。


「――ぷっはぁ」

「ビールを飲んだ親父か」


 ダーク様に突っ込まれた。シン様、肩が揺れているのは分かっているんですよ!


「僕は若者ですよーだ。それに、ビールを飲むと口の上に白いおひげが出来るんですよ!」


「出来ているじゃないか。白いひげ」


 口元の毛をつままれる。その手をペチッと叩いて抗議する。


「地毛ですよ! もう酔っているんですか⁉」

「一口で酔うか。本当にお前は楽しいな」


 膝に抱き上げられてしまった。まぁ、おつまみが取りやすい位置だからいいか。


 ヒョウキ様が立膝でイカをガジガジと噛みながら、お酒を示す。


「それさ、俺の国で作られたウイスキー」

「お城の近くにあった所で作ったやつですか?」

「そうそう。綺麗な琥珀色だろ」

「はい。瓶も綺麗ですね」


 香水の瓶みたいだな。瓶自体は丸くて、蓋はカットされたダイヤみたいな形をしている。


「それ高いんでしょう。そんな良い物を貰ってもいいの?」

「あ、ああ、まぁな……」


 歯切れが悪いな。ヒョウキ様は言っちゃいけない事もビシッと言う人なのに。


「俺が代わりに言ってやろうか? ペルソナの帰還祝いだろう?」


「ち、違…………あ~、畜生! そうだよ、悪いか。カハルが喜んでいるから良い事だろう」


 ペルソナさんがびっくりして目を見開き、抱っこしているカハルちゃんと顔を見合わせる。


「カハルを持ち出さなくてもいいんだぞ。素直になれ」

「うるせぇよ、ダーク。話次第では持って帰るんだからな」


 ダーク様がニヤニヤとしているので、持って帰るというのは嘘なのだろう。ヒョウキ様の照れて怒ったような顔を見ながら、ペルソナさんが質問する。


「怒っていたのではないのか?」


「怒ってるよ。でも、カハルを泣かすのは嫌なんだよ。ほら、さっさと真相を喋れ」


 ペルソナさんを嫌いだとは言わないのか。完全に突き放す事も受け入れる事も出来ない、中途半端な状態のようだ。


「シンが私を倒した後、カハルの仮の体が限界を迎えた」

「はぁっ⁉ 初耳なんだけど⁉」

「ヒョウキ、話の腰を折るな。取り敢えず聞け」

「わ、分かった。続けてくれ」


 ダーク様に窘められて、お酒をグビッと飲んで気を落ち着けている。


「ヒョウキ達は気絶していたから知らなくて当然だ。カハルを助ける方法はただ一つ。私の魔力をカハルに渡す事だった。だが、ここで一つ問題があった。『世界』では私の魔力を制御できない」


 ペルソナさんはお酒で喉を潤してから、また話し始める。僕たち飲めない組は、忙しく煎り豆を口に頬張りながら続きを聞く。ポリポリポリ……。


「だから、私が転生して直接渡すしかなかった。助けるのを成功させた後に人間の体を与えられ、神の魂がそれに馴染むまで山奥のデラボニアで眠っていた」


「質問してもいいか?」


 あぐらをかいて黙って聞いていたヒョウキ様が、頭をポリポリ掻きながら、ペルソナさんを見る。


「ああ」


「何で魔物の魂を『世界』が消滅させられたんだ? 封印された魔物にはお前の守りがある筈だよな?」


「ああ、そうだ。だが、私の転生には私の魔力を使った。カハルに渡した分もあるから、『世界』が私の力を打ち消す事が出来るようになった」


「成程な……。じゃあ、今それしか魔力が無いのも、隠している訳じゃないんだな?」


「ああ。私はいま移動の魔法も使えない」


 大事にしていた魔物を救う事を諦め、命懸けでカハルちゃんを救って人間になってしまったペルソナさんに、ヒョウキ様は何も言えなくなってしまったようだ。代わりにダーク様が口を開く。


「神の魂と言っていたが、能力は残っているのか?」


「ああ。だが、もう使う機会は無いと思いたい。魂を強引に切り離すなど、もうしたくない……」


 抱き締めているカハルちゃんの背に顔を埋めるようにしている。髪の毛がサラサラと流れてその表情を完全に隠してしまった。でも、きっと泣きそうな顔に違いない。


「シン様はどんな能力?」


 ヴァンちゃんが慰めるようにペルソナさんの背を撫でながら聞く。


「僕は魂を操れるよ」

「俺を自由自在に出来る?」


「んー、そうする事も出来るけどね。粘土を想像してくれるかな。ちぎって別の形にしたり、元の一塊に戻せたり出来るでしょう。それと同じ感じかな」


「俺を二人に出来るっていう事?」


「条件が揃えばね。普通の人間の魂をいじると人形に成り果ててしまうか、壊れてしまうから、やらないけどね。こんな可愛いヴァンちゃんを失うなんて嫌だもの」


 頬や頭を撫でられてヴァンちゃんが嬉しそうだ。ダーク様、僕もお願いしますと見上げると、笑って撫でてくれる。


「あ~あ~、ここで責めたら俺が悪者じゃんか。やっぱ、聞く前に殴っときゃ良かったぜ……」


 ヒョウキ様が不貞腐れたように寝転がると、シン様が足を叩く。


「こっちに足を向けないでくれるかな。ヴァンちゃん、臭いよね~」

「はぁ⁉ 臭くねえよ! いや、ちょっと待て、臭いのか⁉」


 起き上がると自分で足裏を嗅いでいる。ヴァンちゃんも鼻をヒクヒクさせているが、果たして――。


「ノーコメント」

「えーーーっ⁉ 教えてくれよ! なぁっ!」


 自分で嗅いだ限りは臭くないようだ。獣族の鼻では駄目だったのだろうか? ヴァンちゃんをゆさゆさ揺するが、楽しそうに揺れていて答えてくれない。


 クマちゃんとドラちゃんが興味津々で嗅ぎに行っている。


「クンクン。――ノーコメントキュ」

「クワー」


 二人もニヤニヤとしている。揶揄っているのかな?


「お前達も⁉ ど、どうなんだよ~。そうだ、正直者のニコ来い!」

「えー、臭かったら嫌ですもん」


「そう言わず! 俺の一大事だぞ。臭い王様だって広まったらどうするんだよ!」


 渋々と立ち上がって、そろそろと鼻を近付ける。


「……ん~、薔薇みたいな匂いがします。石鹸の匂いですかね?」

「マジで⁉ ニコ~、お前は良い奴だ~」


 ギュッと抱き締められてしまった。服も同じ匂いだから、魔国の城で洗濯の時に使っている石鹸なのだろう。


「ニコちゃん、こういう時は『ノーコメント』って言って焦らすのキュ~」

「そうなのキュ~」


 ヴァンちゃんが「キュ~」って言った。可愛い奴めと皆が撫でる。


「あ~、可愛くて小憎らしい奴らめ~。でも、ホッとした。カハルに臭いって言われたら、俺立ち直れない……」


 カハルちゃんの側に居る男性は皆いい匂いがするけどな。カハルちゃんは自分も心配になったのか、腕をクンクン嗅いでいる。


「自分じゃ分からない……。ペルソナ、どう?」

「カハルは甘い匂いがするな。香水などとも違う良い匂いだ」

「そうなの? うーん、分からない……。でも、臭くないならいいや」


 ペルソナさん、分かります。甘過ぎず飽きの来ない匂いだ。匂いが可愛いと言うとおかしいかもしれないが、僕はそう感じる。


 カハルちゃんの頭を撫でると、ペルソナさんがヒョウキ様と目を合わす。


「すっかり話が逸れたが、ヒョウキは私をどう思っているんだ?」


「んー……。俺達もお前が大事にしていた魔物を散々倒したからな。今でもお前がカハルを大事に想っているなら良しとしたい。……でもさ、正直言うと、こんなのは綺麗事だろうな。俺はお前がカハルにした事を一生許せないかもしれない。お前を見たら怒りが胸に満ちる事もあるだろう。それに、お前だって失った痛みに胸が焼かれて、俺達を憎く思う日があるかもしれない」


 ペルソナさんが静かに見返す。お互いに割り切れない思いが、記憶や胸の中に満ちているのだろう。


「でもさ、これから何を大事にしたいかって考えたら答えはすぐに出るんだ。俺は国を発展させて民に笑顔で暮らして欲しい。それにカハルをもう悲しませたくないんだ。そうすると、お前達も幸せじゃなきゃいけない。その為に、負の連鎖はここで断ち切る。お前はもう別人だ。人間として生まれたなら、お前は俺の守るべき民の一人だ。だから、俺が殴っていいのは、お前が幸せを諦めた時となる。それはこの国で一番重い罪だと思え。分かったか?」


「ああ、分かった。王の中の王よ。ははは、大人になったな、ヒョウキ」


「うるせぇ。俺だってな、まだ完全に気持ちの整理は付いてないんだよ。でも、お前を責めたらカハルが泣くし、カハルが許している事を俺が責めるのは違うし……。あ~、くっそ、イライラする! 今日はとことん飲んでやる! お前、付き合えよ」


「分かった。でも、明日の朝は早いから、ほどほどで頼む」

「どういう事だよ? ここに居るんじゃないのか?」


「シンに紹介して貰った土の国の農家で、住み込みで働かせて貰っているんだ」


「へぇ。明日は何するんだよ?」

「ほうれん草や芋の収穫じゃないか?」


 二人の会話を黙って聞きながら飲んでいるダーク様の袖を引っ張る。


「どうした?」

「ダーク様は怒っていないんですか?」


「そうだな……。俺はペルソナの気持ちが何となく分かるから、怒りはあまり湧かないな。俺が同じ立場だった時、取る行動は似た様なものだろうしな。それに、カハルにはペルソナが必要だ。……俺ではその穴は埋められないからな」


 何だか寂しそうだ。ダーク様だって、カハルちゃんにとっては代わりなんて居ないと思うけどな。そこに危なっかしい足取りで、カハルちゃんがやって来て抱き付く。


「ダーク、大好き~」

「どうした? 顔が赤いが熱か?」

「あっ、カハル、梅を食べたの⁉」


 氷を取りに行っていたシン様が、お皿に載っている種を見て、焦ったようにカハルちゃんの頬を包み込む。


「あ~、顔が真っ赤だ。梅酒に入っていた梅を食べちゃったのか……。カハル、お水を飲もうね」


 左右に揺れながら「えへへ~」と笑っている。言葉を理解できているか怪しい。


「にゃんちんが酔っ払いになったキュ。お水飲むキュ」


 クマちゃんが差し出したグラスではなく、クマちゃん自身をガシッと掴む。


「キュッ⁉ にゃんちん、クマはグラスじゃないのキュ」

「ん~? フワフワしてる……。グラスってこんなだっけ?」

「くすっぐったいキュ~! 耳を引っ張っちゃ駄目キュ~」

「グラスが喋った……。食べちゃおう。あ~ん」

「キュ⁉ ヘルプミーでキュ~」


 頭を食べようとする口の前に、ダーク様がさっと手の平を入れる。


「こら、カハル。口をもぐもぐさせるな。くすぐったいだろう」


 その間に、シン様がカハルちゃんの手からクマちゃんを抜き取る。


「あ、焦ったでキュ……。にゃんちんめ、後でお仕置きなのキュ!」

「ふにゅ~。お水、どこ行ったの?」

「カハル、ここだよ。飲んでね」


 飲むと満足そうにまた左右に揺れている。


「えへへ、楽しい~。ヒョウキの馬鹿~」

「何でだよ! ダークみたいに大好きって言ってくれよ!」

「良かったじゃない。罵詈雑言じゃなくて」

「シンの教育の所為じゃねぇのか? なぁ、セイ」

「いや、俺に言われても……。酔っているから大目に見てやってくれ」


 カハルちゃんの目がセイさんに向かう。


「セイ、カッコイイね~。大好き~」

「俺は、俺!」

「えへへ、馬鹿~」

「カハル、ひでぇよ。俺の心を弄ぶなんて……」


 面白い。僕は何て言って貰えるのかな? お次はペルソナさんを見る。


「ペルソナ、ご飯食べた?」

「ああ、食べたよ」

「一緒に寝てね。約束だよ~」

「ああ、約束だ」


「破ったら、お顔をペチペチ叩いちゃうからね」

「ああ。カハルも離れないでいてくれるか?」

「うん。ずーっと一緒なの。ヒョウキはバイバイ」

「ぐふっ!」


 ダメージが入りました。酔うとヒョウキ様に冷たくするスイッチが入るのだろうか?


「カハルちゃん、俺は?」

「ヴァンちゃん、可愛い。モフモフ……」


 幸せそうな顔で抱き付いていたが、キョロキョロと見回し始める。


「足りない……。モフモフが足りない……」


 もしや、僕ですか? 後ろから抱き締めると満足そうに目を閉じる。


「ほぁ~、モフモフ。白ちゃん、大好き…………」


 静かになった。顔を覗き込むと笑顔で眠っている。


「ひでぇ、俺を傷付けたまま寝るなんて……。何でだよ、カハル~」


 憐れに思ったのかビャッコちゃんがお酒を注いであげている。


「お前良い奴だな。そのシッポを触らせてくれ」

「えーと、それはお断りします……」

「何で⁉ じゃあ、耳とか手とか!」


「お触り禁止だよ、ヒョウキ。ビャッコちゃんは僕達にだってあまり触らせてくれない、恥ずかしがり屋さんなんだからね」


 唯一思うがままに触っているのはカハルちゃんくらいだろう。僕達モフモフ仲間は問題無いらしく、お互いにブラッシングしたりしている。


「目の前に居るのに……。傷心なのに……」


 ビャッコちゃんは、じっと見つめられる事に耐えられなくなったのか、ペルソナさんとセイさんの間に隠れるように座る。


「ビャッコちゃんをいじめちゃ駄目キュ! それ以上何かしたら楊枝で刺すっキュよ!」


 クマちゃんが楊枝を持つとナイフを持っているみたいだよね。小さい体で守ろうとする姿に感激したのか、ペルソナさんが後ろから持ち上げる。


「キュ? キュミ? 誰の手でキュか?」

「私の手だ。日本でのカハルはどんな様子か教えてくれるか?」


「ペルソナさんでキュか。にゃんちんは、こっちに居る時の方がのびのびとしている感じでキュ。それ以外はあんまり変わらないキュ」


「そうなのか。向こうの環境が合わないのか?」

「にゃんちんは体が弱いでキュ。思うように動けない時が多いのキュ」

「それは……多分、こちらとあちらの体が影響し合っているからだろうな」


 ペルソナさんが痛ましそうにカハルちゃんを見る。


「あのー、僕達はその辺の詳しい事情を知らないのですが、ペルソナさんは知っているんですか?」


「いや、それに関してはシンに聞いた方がいいだろう」


 シン様を期待に満ちた目で見ると、唇が弧を描く。


「知りたいの?」

「はい!」

「俺も知りたい。チーズも下さい」


「ふふふ、チーズね。お替りを持って来たら話してあげてもいいけど、面白くないと思うよ?」


「いいんです。カハルちゃん達の事は、些細な事でも知りたいんです」

「そう。俺達はマニア」


 指を組んで「お願いします!」と目を瞬かせると、笑って頷いてくれた。どんな話が聞けるか非常に楽しみだ。


おつまみ美味しいですよね。食べ始めると止まらないニコちゃん達です。酔っ払いカハルは、ヒョウキだけに厳しいですね。普段優しくしてあげている反動かもしれません(笑)。

ペルソナもヒョウキ達も完全に憎めず許せず、複雑な気持ちです。カハルが居なかったら、とっくに壊れている関係かもしれませんね。


次話は、シンが詳しい真相を語ります。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ