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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0342.結果発表

「ヴァンちゃんは誰が勝つと思う?」

「うーん……ダーク様。髪の毛を触られるのが嫌いだから奮闘すると思う」

「あー、確かに。僕はヒョウキ様にしようかな」


 三人が馬になり、その上に一人が乗るようだ。服は心配したようにかぶってはいなかった。闇の国は黒一色で、火の国は茶色っぽい迷彩服だ。


「んん? ダーク様は頭に鉢巻している?」

「――してる。服も髪も黒いから分かり難い」


 王様を真ん中に国ごとが一列になり、各国で三角形を作るように並ぶ。騎馬戦は兵士さんのみなので、各国十騎で計三十騎だ。


「準備が整ったようです。――始め!」


 各国の馬が激突し、馬上では騎手も腕を掴み合ったりしている。


 今回のルールは、騎手の落下や馬が崩れてしまった場合は、スタート地点に戻って体勢を立て直す事が出来る。とにかく鉢巻を取られなければ、何回でも戦える。


 ダーク様は気配に敏感なのか、後ろを取らせない。伸びて来る腕もスイスイと躱して、的確に鉢巻を奪っていく。


 ホノオ様は元気いっぱいに突っ込んで行って、取っ組み合いをして奪うスタイルだ。馬の人達もスタミナがありそうなマッチョさん達である。


 ヒョウキ様が一番静かだ。後方に陣取って抜けて来た人だけ相手にしている。でも、すぐさまワコウ将軍が来て、その人達から奪い取る。ヒョウキ様は力を温存しているのかな?


「うおりゃあーーーっ!」


 ホノオ様が叫びを上げながら、ワコウ将軍に突っ込んで行く。マッチョさんの体当たりに、魔国の兵士さんが大きくバランスを崩す。


「うわっ!」


 ワコウ将軍がバランスを崩した所にホノオ様が手を伸ばす。だが、体を反らして避ける。それが最後の決定打になったのか馬が大きく揺れる。


「貰った!」


 崩れ落ちる直前にホノオ様が鉢巻を奪い取る。


「いよっしゃーーー!」

「――ご苦労さん」


 その声と共に、ホノオ様の鉢巻が背後からひょいっと取られる。


「あーーーっ! ダーク、ずりぃぞ!」


 どうやらダーク様の接近に全く気付いていなかったようだ。待て! という感じで手を伸ばすが、馬役の人達がトボトボと戻って行くので届かない。


「油断するのが悪い。じゃあな」


 残るはヒョウキ様とダーク様の二騎だ。


「やっぱ、ダークが残ったか」

「お前もな」


 ニヤリとお互いに笑い、ジリジリと回り合いながら距離を詰めて行く。そこへ可愛らしい声が響く。


「ヒョウキ、頑張れー! ダーク、ファイトー!」


 ヒョウキ様の意識が一瞬そちらへ向いた瞬間を逃さずに、ダーク様が馬をぶつける。


「うぉわっ!」


 激しく揺れる馬上でヒョウキ様が大きく仰け反る。だが、ぐっと力を入れて体勢を戻し、伸ばされた手を弾く。


「粘るじゃないか」

「当たり前だろ。カハルが応援してくれたんだぞ。お前より先になっ!」


 ぐっと上半身を伸ばして鉢巻を狙う。その手を弾くか避けるかすると思ったら、ガシッと掴んで自身の方へ引っ張る。ヒョウキ様の体重が前の人だけに集中して、馬が大きくよろける。


「うわっ、わっ」


 何とか立て直そうとするが、ヒョウキ様が頭にしがみつくので右に左に体が揺れる。


「カハルはそんな事は意識していないさ。祝福を受けるのは俺だ!」


 余裕たっぷりでダーク様が鉢巻を奪い取ると、魔国の馬が崩れた。


「終了です。結果発表まで暫しお待ち下さい」


 係の人達が鉢巻を数えている間、ダーク様の後ろ姿を眺めていたら、気付いたのかこちらを向いて片手を上げてくれる。ピースサインを返すと嬉しそうに笑ってくれた。


「きゃーっ、素敵! ダーク様、格好良すぎるわ!」

「見た⁉ 今の笑顔! 私、闇の国で働きたい!」


 そこら中から黄色い声が上がる。だが、時々野太い声も混じる。


「一生付いて行きます!」

「お側に置いて下さ~い!」


 ダーク様は嫌そうな顔をすると、ヒョウキ様を前に差し出す。


「ちょっ、止めろ! 俺を盾にするな!」

「お前なら、あいつらとやっていける筈だ。俺は繊細だから無理だ」

「はぁ⁉ 俺だって繊細だ! うわっ、筋肉共、寄って来るんじゃねぇ!」

「ヒョウキ様⁉ や、止めて下さい! うわーーーっ!」


 最終的にワコウ将軍が差し出されてしまう。涙目になりながら、「はぁ、はぁ」と荒い息で寄って来る筋肉さん達を投げ飛ばしていく。おぉー、あんなに重たそうな人を投げるとはやりますな。


 ワコウ将軍が投げに投げて脅威を全て退け、ゼーハーと肩で息をしながら額の冷汗? を拭う。観客の人達は同情するよりも、この一幕を楽しんだようで、指笛や拍手をしている。それにワコウ将軍がペコペコとお辞儀しながら応えていると――。


「あ、あのー、結果発表をしても……」

「え? あ、ど、どうぞ!」


 どうやら結果が出たようだ。ワクワクしながら係の人を見つめる。


「一位、闇の国が十一本。二位、火の国で十本。三位、魔国で九本でした。総合結果は閉会式で発表となります。皆さん、コースにお集まり下さい」


 開会式と同じように並ぶと、カエン様がまた壇上に立つ。


「皆さん、お疲れ様でした。今回の運動会は、見る側も参加した側の皆さんも楽しめたのではないだろうか。どうかな?」


 皆が拍手をして質問に「はい」と答える。僕も非常に楽しめた。


「ははは、それを聞けて私も嬉しいよ。大きな怪我も無く終れて本当に良かった。私が開会式で言った事を実現してくれた皆さん、本当にありがとう。こうやって違う国の者同士が手を取り合って、一つの事を成し遂げる事が出来た。私はこの先に待っている未来が非常に楽しみで仕方がない」


 僕達をゆっくり見渡す目には、尊重と尊敬、愛情が見える。この方が他者をどれだけ大事に深く想っているかが分かり、感動を覚える。深い想いには、深い想いを返したくなる。尊いこの人の為なら、どこまでも付いて行って力になりたいと自然に思える。


 他の人もそれぞれに何かを感じたのか、じっとカエン様を見つめ返す。


「また、やりたいね。楽しみながらお互いを成長させていける、こういう行事をもっと増やせたらいいと私は思うよ。未来を担う皆さんに私ももっと会いたい。……ははは、名残惜しくて長くなってしまいそうだから、結果発表をしようか」


 今回の事で長く生きたいと思ってくれたような気がして嬉しくなる。平和な時代を少しでも長く味わって欲しいと強く願う。


 カエン様は係の人から紙を受け取ると、朗々と読み上げる。


「第三位、火の国。得点は二百四十点。皆、良く頑張ったね。まだまだ伸びしろがあるのを感じられたよ。パン食いが一般も兵士も一位とは、我が国には食いしん坊が多いようだ。――ははは、そうか、美味しかったのか。それは良かった。ははは、おめでとう、追う立場は楽しいよ。また頑張ろうね」


 カエン様の言葉に思わず笑ってしまう。火の国の人達の顔が一気に緩む姿が印象的だった。


 その中でホノオ様は非常に悔しそうに拳を握っている。自国で開いたものだから、一位になりたい思いが強かったのだろう。負けん気が強そうだもんね。


「第二位、闇の国。得点は二百六十点。皆、お疲れ様。私が一番感じたのは、皆さんのチームワークの良さだ。非常に和気あいあいとしていて、見ていて楽しかったよ。おめでとう、二位は追うのも追われるのも同時に味わえる楽しい順位だよ。次回が待ち遠しいね」


 「血がたぎるぜ!」、「今すぐにでも再戦したい!」と叫ぶ兵士さん達に、あちこちから賛同の声が上がる。


「ははは、みんな元気が有り余っているね。十七時までは開放しているから、怪我が無いように遊ぶといい。あー、そうそう。片付けを手伝ってくれないと遊ぶ権利はあげないよ?」


 ドッと笑いが起きて、「はーい、カエン様」という良い返事があちこちから聞こえる。これは片付けが捗りそうだ。


「ははは、良い返事だ。では、第一位の発表にいこうか。二位と三位の皆、ブーイングの準備はいいかな? 残念ながら魔国だよ」


「ブーブー」

「ずるい~」


 ノリの良い人達が次々に笑いを堪えながら言う。でも、すぐに我慢出来なくなって、あちこちで噴き出している。


「ははは、意地悪をしてごめんよ。これが一位の醍醐味、羨望を浴びるだよ。中々体験できないから、満喫しておくんだよ。こんな風に顎をツンと上げて見下ろすのだよ。『ふん、二位どもめ』という感じでね」


 大爆笑が起きる。カエン様にかかれば全ての順位が素晴らしいものに変わる。


「ははは、よし、そろそろ真面目にいこうか。第一位、おめでとう。得点は大差をつけて三百十点だ。一般の人達は団体戦で力を発揮していたね。障害とパン食い以外は全て一位だ。拍手を贈らせてね」


 カエン様に続いて皆が手を叩く。本当に凄い結果だよね。


「兵士の皆さんは、パワーにスピード、粘り強さがあった。これは火の国でも見習っていきたいと思った。とてもいい勉強をさせて貰った。どうもありがとう」


 兵士さん達が一斉に頭を下げる。こういう時にも動きが合っている所が素晴らしいよね。


「実はまだ続きがあってね。私が個人的に一位だと思っている事を発表しよう。――可愛さ一位、白族の子達だ。君達の運動会も非常に楽しませて貰ったよ。会場の皆さん、白族の子達に盛大な拍手を」


 思わず固まってしまった。会場に鳴り響く拍手の大きさに度肝を抜かれる。これは僕達の為の拍手なんだよね? こんなに凄いのが?


「組体操は非常に感動した。技が決まる度に思わず感嘆の声が出てしまった程だよ。それに、障害物でもパン食いでも、真の一位は君達だ。獣族の身体能力は、ここまで高いのだという事を知れた良い機会だった。また『モフモフ運動会』を見せておくれ」


 な、なんで『モフモフ運動会』を知っているの⁉ 王様の情報収集能力、恐るべし。


 拍手をしてくれる皆さんにペコペコとお辞儀する。こんな大きな拍手は受けた事が無く、ありがたさで胸がいっぱいになる。拍手はされる方も、する方も『ありがとう』なんだというのを知る事が出来た。


 そんな僕達をニコニコと見ていたカエン様が前に向き直る。


「拍手をありがとう。皆さんもお腹が空いただろうから、そろそろ閉めようか。今日集まってくれた皆さん、どうもありがとう。この素晴らしい行事をまた開こうね。解散!」


 拍手の中、カエン様が退場すると、係の人が壇上にやって来る。


「カエン様、ありがとうございました。この後は昼食となります。お茶をコース中央にご用意致しますので、コップをお持ち下さい。それと、先程カエン様が仰っていたように、十七時までは訓練場を開放しています。ご自由にお過ごし下さい」


 荷物を纏めていると、火の国のメイドさんが近づいてくる。メイド服だから参加しなかった人だな。


「ご昼食のご用意が出来ております。私がご案内させて頂きます」


 カハルちゃん達の居た所を見ると、そちらにもメイドさんが居る。お部屋で会う事になるようだ。


 後ろを付いて行くと、次々に声を掛けられる。


「パン食い凄かったね。一発で取るなんて思わなかったよ」

「障害物の子は身軽だったね。見ていて楽しかったよ」

「モフモフ運動会、また見せてね~」


 会釈しながら笑顔で手を振り合う。楽しむだけでなく、僕達も人を楽しませる事が出来たようだ。満足感を味わいながら開けて貰った扉の中へ入ると、カハルちゃんが走り寄って来る。


「お疲れ様。怪我していない?」


「はい、元気いっぱいですよ。カハルちゃんの応援嬉しかったです。力が漲りましたよ」


「俺もそう」

「えへへ、良かった。皆もお疲れ様」


 小さい子達がカハルちゃんに群がる。あ~、僕だってくっつきたい! いや、我慢だ。僕はお兄さんなのだ。


「お疲れ。よく頑張ったな」


 セイさんが、そんな僕達の気持ちに気付いたのか抱き上げてくれる。高くなった視線にはしゃいでいると、ヒョウキ様とダーク様もやって来た。


「お疲れ。おい、カハル大丈夫かよ?」

「な、何とか……」


 全く身動きが取れないようだ。小さい子達が目を瞑って幸せそうにくっついているので、誰も引き剥がせない。


「俺もカハルを撫でたいんだが、譲ってくれないか?」

「ん? ダーク様だ~。後で遊んでくれるならいいよ~」

「ああ、いいぞ。すまんな」


 自分を餌に解放させている。でも、口元のニヤリとした笑みが気になる。


「ダーク、ありがとう。でも、いいの? 満足するまで解放してくれないよ?」


「ホノオを生贄に差し出すから平気だ」


 さっきの笑みはそういう事か。何も知らないホノオ様が「腹減った~」と言いながら入って来る。


「ホノオ、あの子達が遊んで欲しいそうだ」

「え、マジで⁉ モフモフと遊べる……」


 嬉しそうだ。でも、後片付けの指示出しをして貰わなければ。


「遊ぶのは後です。お食事が済んだら、後片付けの指示を出して下さいよ」


 宰相様が言ってくれた。やっぱり頼りになるな。


 そのまま村の仲間と宰相さん達は奥の部屋に向かって行くが、僕とヴァンちゃんはペルソナさんを探して辺りを見回す。そんな僕達の様子に、ホノオ様は行かないのか? という感じで足を止める。


魔国がぶっちぎりの一位でした。トップに立つ国には優秀な人達が集まっていますね。

ワコウ将軍が不憫ですね(笑)。怒り狂ったシンに差し出されたり、筋肉さんに差し出されたり。

それでも何とか出来ちゃう所が凄いです。

この運動会でカエンのファンが激増です。メイドさん達に全く相手にされない兵士さんは、男同士で友情を深めて貰いましょう。


次話は、波乱の昼食会です。


お読み頂きありがとうございました。

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