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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0340.『ツル運』と『モフ運』

 指定の位置に立つと、カエン様が壇上に立って開会の挨拶だ。


「皆さん、おはよう。今日は運動会に相応しい快晴だね。私もこの日が来るのをとても楽しみにしていたよ。まずは、この日の為に一生懸命用意してくれた皆に感謝を。どうもありがとう」


 そこで、ニコニコとしながら会場を見回す。おっと、僕にも笑ってくれた。えへへ、ありがとうございますと会釈を返す。


「初の試みだから、来てくれた方々に不便を掛けてしまう事もあるだろう。だが、温かい目で見てくれると嬉しい」


 カエン様は最初から、混乱や人手が足りない事なんて分かっていたらしい。それでも今回は、ホノオ様の成長の為に口を噤んでいたのだろう。


「今日、私が皆にお願いしたい事は二つだ。心から楽しむ事。それと、安全第一で頼むよ。それでは、運動会を始めよう」


 ワーッと大きな歓声が上がる。偉い人ってもっと長くて眠くなりそうな話をするというイメージがあったけど、とても温かい言葉だった。そりゃあ、慕われますよね。


 開会式が早く終わったから、今の内にポンポンを渡しに行かなければ。


「――カハルちゃ~ん」

「ニコちゃん! ここに来て大丈夫なの?」

「はい。大玉転がしまで時間がありますから。ポンポンをどうぞ」

「ありがとう。黄色で可愛いね」

「そうなんです。そのお洋服とよく合いますね」

「うん。――ニコちゃん、白族の皆が呼んでるよ」


 おっと、大変だ。白族で集まって、カハルちゃんが作ってくれた、僕達用の大玉を転がすのだ。訓練場は広いし、僕達の席は端っこなので暴れ放題だ。


 白族は貴賓席の近くに席を貰ったけど、結局は全員が選手席に居るので、こちらには誰も居ない。


「それじゃあ、また後で」


 戻ると全員準備万端だ。ライン引きでコースが描かれ、ヴァンちゃんがグサッと地面に挿した棒を回って、元の位置に早く戻った方が勝ちだ。応援に来てくれた人と合せて三十人居るので、二チーム作って、三人ずつで押して交替していく。じっさまも一緒にやる事になったけど大丈夫かな?


 向こうの大玉転がしの開始のピストルに合わせてスタートだ。


「うりゃうりゃー!」


 だが、気合だけでは上手く進まない。あっちへ行き、こっちへ行きながら、なんとか棒までやって来る。ぐるーっと回って勢いよく走り出すと、何故か二人だけで押している。あと一人はどこにいったの⁉


「さ、先に行って~」


 後ろから追い掛けて来るので、このまま行こう。残った子と息を合わせてゴールまで戻って来たら、次の人にバトンタッチだ。


 ヴァンちゃんが居るチームは結構上手いな。僕達のチームと差が開き始めている。


「ぎゃーっ!」


 悲鳴に驚いて自分のチームを見ると、大玉の回転に巻き込まれるように上へ乗ってしまい、ボテッと地面に落ちている。痛そう……。


 それでも諦めずに立ち上がって押してくる。怪我しているといけないので、選手席に置いておいた救急箱を持ってくる。


「お帰り」

「派手に転んじゃったよ~。はぁ、恥ずかしい……」

「怪我は無い?」

「うん。砂が付いただけ」


 その後も転んだりする人が続出したが、怪我人は今のところ出ていない。日々の訓練の成果だな。


 お次はじっさま達だ。ハラハラしながら見ていると意外と上手で、最小限の動きだけで玉を動かしている。


「上手ね」

「こっちのモフモフ運動会もいいわね」


 いつの間にかギャラリーがいっぱい居る。皆さん、自国を応援しなくていいんですか?


 じっさまからおばちゃん達に玉が渡されたら、大玉転がしも終わりだ。


「頑張れ!」

「ファイトー!」


 おばちゃん達はパワフルで、強く押してから走ってというのを繰り返している。果たしてどちらが勝つか⁉


「勝者、ニコチーム!」

「やった~!」


 側に居る子と抱き合ってピョンピョン跳ねる。僕達の方が大分離されていたけど、最後のおばちゃんパワーのお蔭だ。


「ずっとこっちを見ていたいわ」

「そうよね。筋肉のぶつかり合いを見てもね」


 兵士さん達が少し憐れだ。お姉さん達、兵士さんが一生懸命に視線を送ってきていますよ。振り向いてあげて~。


 お姉さん達が、『ツルツル運動会』と『モフモフ運動会』と言っているので、こっそり僕もそう呼ぼうと思う。


 現在の『ツル運』は、こんな感じだ。


 第一位、魔国で六十点。第二位、闇の国で三十点。第二位、火の国で三十点。


 お次は玉入れの時間だ。今度は『ツル運』を観戦しよう。選手席に皆で座っていると、ヒョウキ様がやって来る。


「よう。俺も混ぜて。メイド長が出るからしっかり見てろよ」

「はい、応援します」


 係の人が急いで大玉を片付けて、カゴを設置する。良い動きなので手伝わなくても大丈夫そうだ。


「これより玉入れを開始します。まずは一般から行います」


 メイドさんや庭師さんなどの混合チームが一般と呼ばれている。兵士さんと一緒にやると危険なので、完全に分けて行われているのだ。


「玉を手に持って下さいね。――それでは、始め!」


 紫、黒、赤の玉が次々と宙を舞う。でも、思ったように入らないらしく、落ちた物を拾って投げてを繰り返している。


 その中で異様な一角があった。魔国のメイドさん達は落ちた玉を拾うとメイド長さんに渡す。それを百発百中でカゴに入れているのだ。会場がザワザワとなる中、僕の目は釘付けだ。特に力みもなくリズム良く投げている。たまに三個同時に投げても入るとは、凄いコントロールですね……。


「凄いだろ。これもうちの国が一位だな」


 ヒョウキ様がニヤニヤとしているが、その通りだ。だって、終了の笛が鳴る前に全部入ってしまったのだ。


「ピィーッ! ――はい、止めて下さい」


 鋭い笛の音が鳴ったら玉を数える。闇の国は五十八個、火の国は四十二個だった。


「一位は、全て入った魔国です。皆様、盛大な拍手をお願いします」


 僕達の手ではボフボフとしか鳴らないのをヒョウキ様が面白がっている。ヒョウキ様が手を差し出して来たので、ていっと叩く。


「鳴らないな。全く可愛い手だぜ」


 ニギニギしないで下さい。カハルちゃんならプニプニお手々だから楽しいけど、ヒョウキ様じゃ残念感しかない。


「お前はまた失礼な事を考えたな?」

「ふーんだ。思うのは自由ですよ~だ」

「生意気な口だな。こうしてやる」


 びろーんと頬を引っ張られる。まだ伸びるもんね~。


「次は兵士の方々です。玉を手に持って下さいね。――それでは、始め!」

「うおぉーーーっ!」


 玉入れってあんなに気合を入れるものなの? そんなに高く投げなくても……。


「あいつら何やってんだ……。どこまで投げられるかの競争をしているんじゃないんだぞ。ったく、しょうがねぇな。――お前ら、全部入れなかったら昼飯抜きだからな!」


「ええーーーっ⁉」


 必死で投げ始めたのは良いが、味方の人に剛速球が当たっている。一番可哀想なのはカゴを支えている人だ。雨のように玉が降り注いでいる。が、頑張れ~。


「上に投げりゃ彼方まで飛んで、軽く握れば玉がすっぽ抜けて人に当たるし。あいつら力加減が出来ないのかよ……」


 駄目だこりゃという感じで額を押さえている。他の国は普通に投げているのに、この違いは何だろう。筋肉がありすぎなのかな?


「ヒョウキ様、特別なご褒美を用意するとか言ったんですか?」


「いや、言わないぞ。一番活躍するのは俺だ~みたいな感じで言い合っていたから、チーム内で争ってんじゃねぇの?」


 競い合うのが好きなんだな。でも、メイドさん達の目が物凄く冷たくなっている事に、そろそろ気付いた方がいいと思う。


「ピィーッ! ――はい、止めて下さい」


 結果、玉は二十個しか入らなかった。遠くまで取りに行っていたもんね……。


「信じられない! メイド長が頑張ってくれたのに、それをふいにして!」


「いいのよ。カエン様も仰っていたでしょう、楽しみなさいって。私は十分に楽しかったわ」


 大人だ。あの筋肉さん達にも見習って欲しい。


「障害物競争に参加される方達は入場門に集まって下さい」


 おっと、ヴァンちゃんの出番だ。応援せねば!


「行って来る」

「うん、頑張って!」


 ヴァンちゃんは身体能力が高いので、兵士さん達と一緒にやる事になっている。


「それでは位置について、よーい、ドン!」


 紅白帽を被って、その上に鉢巻を巻いているヴァンちゃんが、ドンッと凄い勢いで走り出す。


 まずは網の下を潜っていく。他の人の体によって網が持ち上がっているので、あまり苦労せずに抜け出している。


 少し走った先にあるのは木の棒だ。あれを地面について回るらしい。ヴァンちゃん用に短い棒が用意されているのを掴むと、高速でクルクルと十回まわり、そのまま普通に走り出す。


「ヴァンは目が回っていないみたいだな」

「そうですね。スイカ割りの時に回った時も、全然目を回していませんでしたよ」

「すげぇな。ニコはどうなんだ?」

「僕は目が回りますよ」

「白族が強いって訳じゃないんだな」

「ヴァンちゃんは凄い子ですから」


 あらぬ方向へ走る兵士さんを尻目に、袋に両足を入れてピョンピョン跳んでいき、脱ぎ捨てた後は平均台を走り抜ける。


 貴賓席の近くに行くと、カハルちゃんがポンポンを振りながら「頑張れ~、ヴァンちゃ~ん」と応援している。


「ありゃ、頑張るな」

「そうですね。やる気全開ですよ」


 ヴァンちゃんが現在トップだが、速度が更に上がって後続を引き離していく。


 ハードルを倒す事なく跳び、高い壁も助走をつけると軽々と越えていく。お次はヴァンちゃんが一番楽しみにしていた、粉に顔を入れて飴を探すやつだ。嬉々とした感じでボフッと顔を入れると、一発で見つかったのか、口をモゴモゴとさせながらゴールテープを切る。


 因みに飴はヴァンちゃんの好きなイチゴ味だ。皆が僕達の好きな味にして良いと言ってくれたので、ご厚意に甘えさせて貰った。


「一着じゃん。おぉ、カハルが跳んで喜んでるぜ」


 白い毛なので笑える顔にはなっていないヴァンちゃんが、笑顔で手を振っている。――あれ、ペルソナさんが居ない。どこに行っちゃったんだろう?


「――ただいま」

「お帰り、ヴァンちゃん。一位おめでとう」

「うむ。顔洗って来るから乾かす魔石を取って欲しい」


 ヴァンちゃんのリュックから取り出して渡すと、城の方へ走って行く。ヴァンちゃんが戻って来たら、『モフ運』は大縄跳びをするのだ。


「あら、今度は大縄跳びをするのね。楽しみ~」

「さっきの子は凄かったわね。白族って身軽なのね」

「はぁ、連れ帰りたい……」


 またもや集まって来たお姉さん達の中には、若干危ない発言が混じっている。まぁ、本気じゃなさそうだから聞かなかった事にしよう。


 じっさま達はさすがに大縄跳びはパスするとの事なので、引き続き障害物競争を見ている。


「お待たせ」

「うん。ヴァンちゃんと僕は回す係ね」

「うむ。目指せ、三十回」

「――せーの!」


 掛け声に合わせて順調に跳んでいく。だが、小さい子の足に引っ掛かった。


「ごめんさない……」

「気にしなくていいのよ。もう一回やりましょう」


 お母さんに励まされて、また頑張って跳び始める。


「十五、十六、十七――」


 目標の半分を超えた。この調子だ、頑張れ~。


「二十二――」

「あっ!」


 おっと、おばちゃんが引っ掛かった。疲れて来ちゃったかな?


「もう一回やってみましょう。その前に休憩挟みましょうか?」


 まだいけるとの事なので回そうとすると、『モフ運』を見ている人が凄く増えている。本当に自国の応援はいいんですか⁉ 兵士さんが気を引こうと大きな声を出している姿が悲しい。


「うるさいわね。もう、なんなの⁉」

「可愛い声が聞こえないじゃない!」


 ヒョウキ様が涙を拭うフリをしている。僕も同情が禁じ得ません。


「さ、さぁ、もう一回行きますよ。せーのっ!」


 ピコン、ピコンと順調に回数を重ね、あと二回で達成だ。


「二十九、三十、三十一――、三十五!」

「うわっ」


 何人もの足にビシッと当たってしまったようだ。


「おぉー、目標を越えた。バンザイ」


 ヴァンちゃんの嬉しそうな声につられて、皆もバンザイしてハイタッチし合う。


「イエーイ」


 ヒョウキ様が両手を出して来たのでハイタッチする。


「イエーイ!」


 おっと、隣のお姉さんもですか? その後もそこら中の人とハイタッチする羽目になった。皆、自国の人としてあげて!


『モフ運』の人気が高いですね。メイドさん達、兵士さんに優しくしてあげて(笑)。

大玉転がしって中々思った方にいかないですよね。白族の子達もハプニング続出です。

魔国のメイド長の意外な実力が明らかになって来ましたね。その代わりに兵士さんがグダグダ過ぎるという結果に。メイドさん達の目が更に冷たくなってしまいました。


次話は、ニコちゃんが参加する「パン食い競争」です。


お読み頂きありがとうございました。

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