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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0339.運動会前の混乱

 やって来ました、運動会当日! 白い鉢巻をキリリと結んでいると、セイさんに笑われてしまう。


「先に顔を洗おうな」

「はい……」


 気合が空回りだ。パジャマを脱いで顔を洗い、朝ご飯をしっかり食べる。今日も卵かけご飯がおいしい。


 シン様はお弁当の準備で忙しいので、カハルちゃんの着替えは僕とヴァンちゃんで手伝ってあげる。用意されていた洋服は見慣れない物だった。


「スカート短めだね」

「うむ。でも下に短いスパッツが用意されている」


 裾に白い線が二本入った青いプリーツスカート、同色だけど胸の上の方だけが白いノースリーブ、白いソックスを着せてあげる。


「チアリーダーの衣装だよ。ふふっ、可愛いね。髪の毛を二つに結ぼうか」


 シン様が手早く編み込みをして二つ結びを作る。カハルちゃんはショートなので、結び目から髪の毛がちょこんとしか出ないが、そこがまた可愛い。これはモモ様に絶対見せてあげなければと撮影しておく。


 カハルちゃんは眠そうに目をこすって起きると、不思議そうに衣装を見ている。


「今日はこれを着るの?」

「うん。寒くないようにパーカーを羽織ろうか」

「うん。応援頑張らないとね」


 カハルちゃんは両拳を握り、気合十分なお顔だ。ポンポンは火の国へ行けばあるので調達してこよう。この服だと黄色いのがいいかな。


「シン、そろそろペルソナを迎えに行く時間だぞ」

「おっと、いけない。セイ、手伝って」


 僕達もリュックにタオルや水筒を入れるお手伝いをしていると、クマちゃんが僕に袋を差し出してくる。


「これも入れてキュ。おやつなのキュ」


 中を見るとピーナッツやカシューナッツが入っている。観戦しながら食べるのだろう。


「よし、お弁当も果物も入れたでしょう。後は、コップとお箸と取皿と……」


 シン様の用意する姿を大人しく座って見ていたカハルちゃんが、眠さで左右に揺れている。ガクンと後ろに体が倒れるのを、近くを通り掛かったビャッコちゃんが慌てて受け止める。今日は狐さんの姿で行くらしく、モフモフシッポを枕代わりに貸してあげている。


「ビャッコちゃん、ちょっとそのまま見てあげていてね」

「はい。シン様、おしぼりが置かれたままですが……」

「あ、本当だ! ありがとう、ビャッコちゃん」


 シン様は入れ忘れが無いか再度確認している。僕も確認しよう。鉢巻、ハンカチ、鼻紙、特別パス、プログラム、上着。……あっ、記録用水晶を持っていない! 慌てて引き出しから持って来て入れる。カハルちゃんの可愛い姿を取り逃す訳にはいかないのだ! ――後は大丈夫かな。


「みんな準備出来た? 行くよー」

「はーい」


 ヴァンちゃんは昨日の夜にとっくに準備を終えているので、クマちゃんを抱っこして外でお話しながら待っている。僕もあの余裕さが欲しい……。


 セイさんが大きなバックを持ち、シン様はカハルちゃんとビャッコちゃんを抱っこする。最後にもう一度忘れ物が無いか確認して出発だ。





「ペルソナ、おはよう。迎えに来たよ」


 ノックをするとすぐに出て来てくれた。きっと今か今かと待っていたのだろう。


「――おはよう。カハルは可愛い恰好をしているな」

「えへへ、チアリーダーなの」

「チアリーダー?」

「応援する人なの。ニコちゃん達に頑張れーって言うんだよ」

「そうか。髪型も可愛いな」


 愛しくて仕方がないという顔で見ている。娘大好きなお父さんが二人に増えました。


「セイ、荷物を持つぞ」

「そんなに重い物じゃないから平気だ。ペルソナはコップを持ったか?」

「ああ、きちんと準備してある」


 ペルソナさんもヴァンちゃんのように、事前にきちんと準備するタイプと見た。見上げているとニコリと微笑んでくれる。


「おはよう。気合は十分のようだな」

「はい! 絶対一位になるんです!」


 頭を撫でてくれる手は非常に優しい。きっと魔物達もこの人を慕っていたんだろうな。ペルソナさんに会うたびに、ちょっと複雑な気持ちになる。この人を知れば知るほどに罪悪感が増していく。きっと、僕の感情を知ったら気にするなと優しく言ってくれるのだろうな……。


「獣族が沢山居るのだな」


「そうだよ、モフモフパラダイスなんだから。お前も今度触れ合いに来るといい。癒し効果抜群だよ」


 カハルちゃんも期待した目で見ている。これを断る事なんて出来る筈が無い。


「ああ。絶対に行くと約束する。だから、皆でそんなに強い視線を向けないでくれ。穴が開きそうだ」


 どうやら全員が凝視していたようだ。えへへ、逃がしませんよ~。


 ヴァンちゃんだけは、じーーーっと見つめ続けている。顔に何か付いているのかな?


「どうした? 何か気になる事があるのか?」


 しゃがみ込んでヴァンちゃんと視線を合わせてあげている。頷いたヴァンちゃんは躊躇いがちに口を開く。


「……寝てない?」

「……どうして分かったんだ?」

「何となく。ワクワクドキドキな雰囲気がする」


「……参ったな、お見通しか。実は待ち遠しくて嬉しくて眠れなかったんだ。こんなに気分が高揚している事に自分でも驚いている」


 カハルちゃん達に会えることが嬉しくて堪らなかったんだな。今までどうやって我慢して来たんだろう? 暫く考えてなんとなくの答えに辿り着く。きっと、罪悪感や魔物を裏切れないという感情が鎖になって、この人を縛り付けていたのだろう。


「いい兆候じゃない。自分をどんどん解放していくといいよ。お前は自分を縛り付け過ぎだ。今日は存分に楽しむといい」


「ああ、そうする。では早速望みを聞いて貰おうか。カハルを抱っこしたいのだが?」


 おどけた感じで言うペルソナさんに皆が笑う。こんな可愛らしいお願いをシン様が断る筈がない。


「ふふっ、了解。――はい、どうぞ」

「――軽いな。軽減の札を持っているのか?」

「うん。それにペルソナが力持ちなんだよ」

「そうか? ちゃんと食べているのか?」


 カハルちゃんが頷いた所で、シン様がペルソナさんの肩を叩く。


「ほら、積もる話は会場に着いてからね。遅れちゃうよ」



 魔国の魔法道へ向かうと凄く混んでいた。観戦する人達なのかな? その中に兵士さんや城の人達を見送るミナモ様の姿もある。


「ミナモ様、おはようございます」

「おはようございます。今日は存分に楽しんで来て下さいね」

「はい。ヒョウキ様は居ないんですか?」


「はい。既に火の国へ向かっていますよ。魔法道が混み合っているので、皆さんも早めに並ばれた方が良いかと思います」


 そうだよね、遅れたら大変だ。列の最後尾に向かうとメイド長さんが居た。


「メイド長さん、おはようございます」

「皆さん、おはようございます。まぁ、カハルちゃん、可愛いわ」


 カハルちゃんは頬を赤く染めて恥ずかしがっている。周りの人達も思わず微笑み、混みあって苛ついていた空気が霧散する。


「メイド長さんも恰好良いですよ。ズボンを履いているのを初めて見ました」


「これは女性兵士用の服なのですよ。今日参加する城の者達は全員同じ恰好です」


 男性とデザインも一緒の緑の迷彩服だ。訓練する時に着ている物なので動きやすいだろう。でも、他の国も迷彩服だらけだと、鉢巻をしてくれないと分からない。色やデザインが微妙に違うだろうか? 誘導する火の国の人達が混乱しないといいけど。


「ニコちゃん達、おはよう」

「キドさん、おはようございます。凄い人ですね」

「そうでしょう。百人まとめて送っているから、一気に居なくなるよ」


 メイド長さんの前で区切られて、集団を見送るとシーンとしてしまう。


「皆さんで最後ですね。いってらっしゃい」


 ミナモ様達に見送られて火の国へ向かうと、途端に喧騒が耳に飛び込んで来る。凄い人数で場が少し混乱しているようで、押し合いへし合いしたり、子供が泣いていたりする。係の人も声を上げているが、掻き消されてしまっているようだ。


「カハルちゃん、あの操作卓のマイクって、ただ声を大きくするのにも使えますか?」


「うん、大丈夫だよ。マイクに付いているボタンを押してね」


「――皆さん、落ち着いて下さい。係の者が順番に誘導致しますので、指示に従って下さい。こちらのお子さんの親御さんはいらっしゃいますか?」


 僕の声が空間に響き渡ると喧騒が一瞬静まる。その期を逃さないように係の人が大きな声を上げる。


「順番に出口へ向かって下さい。この先にも係の者が居ますので案内に従って下さい」


 ようやく人が減り始めた。親御さんは近くに居ないのかな?


「緑の帽子、黄色のシャツを着た男の子の親御さんはいらっしゃいませんか?」


「――はい、ここに!」


 お母さんが慌てて走って来る。人が多過ぎて近づけなかったようだ。


「すみません、ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして。バイバイ」

「バイバイ」


 はにかむ笑顔が可愛い。カハルちゃんよりはお兄さんな感じだな。


「ニコちゃん、ありがとう。助かったよ~」

「大変でしたね。マイクで喋った方がいいかもしれません」

「うん。もう喉が痛いよ」


 既にお疲れの様子だ。係の人数が足りていないのかな?


「僕、ちょっと運営側を見て来ます」

「俺も」

「待って。マイクを作ってあげる」


 シン様達が隠してカハルちゃんがこっそりと作ってくれる。


「取り敢えず十本ね。足りなかったら言ってね」

「はい、ありがとうございます。行こう、ヴァンちゃん」


 セイさんに荷物を預けて廊下を走って行く。あ~、凄い人だよ~。


「押さないで下さい! まだ時間に余裕はあります。押さないで!」


 係の人が必死だが、全然伝わっていない。


「これ使って下さい」

「ニコちゃん! ありがとう、凄く助かるよ」


 その後も配り歩いて本部にやって来る。


「おはようございます」

「ニコちゃん、ヴァンちゃん!」


 一人しか残っていないので、後は出払ってしまったのだろう。やはり人数が足りていないな。


「ホノオ様から指示は?」

「任せると言われただけです。今は他国の方達に挨拶しているようで……」


 宰相様に人を貸して貰うしかないな。通信の鏡で連絡だ。


「――はい、ファードです」


「お忙しい所をすみません。係の人数が足りないんです。誰か貸して頂けませんか?」


「何故、ニコちゃんが……。はぁ、分かりました。私が指示を出しますので、お二人は会場に向かって下さい」


 それなら安心だと急いで走る。そろそろ開会式が始まってしまう。


「二人共、こっち、こっち~」


 入場門前の列に着くと、村の仲間がブンブンと手を振って来る。慌てて並ぶとヒソヒソ声で話す。


「来ないかと思ったよ。何か問題?」


「運営の人数が足りなかったんだよ。慣れない事をしているから上手くいかない部分もあるよね」


「そっか。ここに居て大丈夫?」

「うん。宰相様が動いてくれるって」

「それなら安心だね。二人の荷物はシン様がこっちに運んで来てくれたよ」


 答えようとした所で入場の音楽が流れだす。トコトコと歩きながら、カハルちゃん達を見付けて手を振った所で思い出す。ポンポンをゲットしてくるのを忘れた……。よし、これが終わったらすぐに貰って来よう。


イベントがあると、お家でも会場でもドタバタですね。

ペルソナは人の体になってからは眠るようにしていましたが、カハルと約束した日からほとんど眠っていませんでした。どれだけワクワクしているんですかね。可愛らしい人です(笑)。


次話は、競技開始です。


お読み頂きありがとうございました。

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