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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0336.運動会を作り上げたのは?

「宰相様、お時間を頂きありがとうございました」


「いえ、こちらの指示が悪すぎたのです。ピラミッドだけで十分も持つ筈が無いでしょう、ホノオ様」


「だって見応えあるじゃんか。それに他の技なんて知らねぇもん」


 あ、口ごたえしちゃった。僕達はそろそろと後退る。


「この甘ちゃんが! 何の為に書物があるのですか! 分からないのなら調べるなり、人に聞くなりしなさい!」


「でも、そんな時間無かったし……」


「言い訳は結構です。あなたは時間のやりくりが下手過ぎます。無駄に悩んでいる時間が多い、休憩が多い、無駄口が多い、泣きごとが多い。ほら、時間なんてこれらを失くせばいくらでも作れますよ。私もずっとあなたに付き合ってはいられないのです。通常業務をカエン様が手伝ってくれているのですから、しっかりやって下さい」


 フンと腹立たしそうに鼻を鳴らした宰相さんが手招いて来る。落ち込んでいるけど、置いて行ってもいいのかな? でも、取り敢えず従おう。


 空いている会議室に着くと謝られる。


「すみません。あなた達にまで迷惑をお掛けして」

「いえ、お気になさらないで下さい」


「初めての事には失敗や無駄が付きものだと思います。あまり責めると、もっと萎縮してしまうと思います」


「ヴァンちゃん……。分かってはいるのですが、歯痒くて」


「宰相さん、カエンとホノオを比べていない? あの二人は全然違う生き物だよ。親子だからって能力を引継ぐなんて無理だよ。本人が経験と努力を重ねて手に入れるものでしょう」


 宰相さんがびっくりした顔をする。そんな風に考えた事がないのかもしれない。


「……私はカエン様の子供なのだから出来て当然、王になる覚悟があって当然という目で見て来ました。それは国民も同じでしょう。私は彼らの落胆した顔を見たくありません」


「イザルトは世襲制じゃないでしょう。民はちゃんと知っているよ。優秀な王の次が必ず優秀じゃない事も、愚かな王の息子が優秀な場合もある事を」


「――そうだ。あまり民を甘くみるもんじゃないぞ。それに、彼らはきちんと治めてくれるなら、正直誰でもいいと思っている。まぁ、火の国の王は代々、民に愛されているがな」


 出たな、ダーク様。抱っこを希望します! と手を広げてみせる。


「可愛いやつめ。ヴァンも来るか?」

「俺はカハルちゃんをおんぶ中。ラブラブしているから、このままを希望」


 カハルちゃんが眠ってしまったからだな。僕もダーク様を独り占めしちゃおう。


「ホノオから作業の指示を受けたか?」


「いえ、全然です。なので、やる事リストを見つつ、進められる所は進めてしまおうかなと思っています。それにリストから抜けている重要な事もいくつかありますし」


「ニコ達が指揮した方が上手く行きそうだな」


「私もそう思います。この子達の素晴らしい能力をホノオ様は少しも引き出せていません。はぁ……私は戻ります。必要な物があったら言って下さいね」


 では、早速と兵士さんを二人お借りする。ダーク様がついてきたから働いて貰おう。


「ダーク様はカハルちゃんを見ていて下さいね」

「ああ」

「では、入場門作り開始!」

「おー!」


 ノリが良い兵士さんで助かる。


 木材をダーク様に移動の魔法で運んで貰い、サイズを決めて風の魔法で切断して貰う。後は釘を打ち込めば簡単に形は出来上がる。


「こんなに簡単に作れると思わなかったな」

「ああ。俺は何時間も掛かると思ってた」


 地面に土魔法で穴を開けて貰い、軽減の札を兵士さん達に貸して門を埋めて貰う。そうしたら、土魔法で倒れないように土を固めて貰えば設置完了だ。


 ヴァンちゃんの指示のもと、アーチ形の門に皆でペンキをペタペタと塗って行く。


 ヴァンちゃんはと言うと、『運動会』という文字をカハルちゃんから教えて貰い、板を丸く切った所に一文字ずつ書いている。そして、それを虹色でカラフルになった門に貼り付ける。


 後はメイドさん達が作ってくれた、白い紙のお花を縁にペタペタと貼っていけば――。


「完成!」


 全員でバンザイだ。兵士さんはまだ時間があると言うので、トイレへの案内看板を作って貰う。僕たちはもう戻らなきゃ。


「後はお願いします」

「あいよ。次に作業する時も呼んでね~」

「喜んで~。それでは」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「今日は何をしたの?」

「入場門作りです」

「ホノオの指示で?」

「自分の判断です。やる事リストは色々と抜けているんです」


 シン様と僕の会話を聞いてヒョウキ様がガクッと項垂れる。


「……駄目じゃん。もうニコが指揮しろよ」

「嫌ですよ。カハルちゃんと遊ぶ時間が無くなっちゃいます」

「出来ないとは言わないのかよ?」


「何で出来ないんですか? 手伝ってくれる人があれだけ居るのに、有り得ませんよ」


「その台詞はホノオの口から聞きたかったぜ……。あ~あ、このままじゃ本当にすげ替えるしかねぇじゃん」


 頭をガシガシと掻きながらぼやいている。カハルちゃんを見ると、いつものようにキョトンと見返してくる。


「どうしたの、ニコちゃん?」

「カハルちゃんはどう思っているんですか?」


「ホノオはやれば出来る子だから心配してないよ。ただ、動くまでに少し時間が掛かっちゃうけどね。一度走り始めれば、どんどんスピードにのっていくよ」


 その動くまでにが、どれくらい時間を必要とするんだろう? まぁ、いっか。僕はカハルちゃんを信じていよう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その後も毎日毎日、ピストル、ゴールテープ、ポンポン、得点表示ボード、パンを吊るす棒などを細々と作ったり調達していく。メイドさんや兵士さんも面白がって参加してくれるので、すぐに出来てしまう。


 ホノオ様は僕達に進み具合を時々聞くだけで指示してこないけど、いいのだろうか? 城の人達も一緒に作業しているから、指示出しの良い練習になると思うんだけどな。


 待っていたら間に合わないから進めているけど、手出ししない方が正解だったのかなと不安になる時もある。でも、城の人達が僕達に色々と聞きに来るので、今更止められない。悩んだ末に、お給料を貰うのだから一生懸命やろうと、ヴァンちゃんと共に結論付けた。





 火の国の訓練場は観客席があるので、国ごとにロープで大まかに区切っていく。白族は貴賓席のすぐ近くにしなさいと宰相様に言われたので、とても良い席だ。


「今日はコースの線を引きます。ご協力してくれるのは、ドラゴンのフェイさんです!」


「うぉぉーーーっ!」


 兵士さんから大歓声が上がる。火竜が来てくれたとテンションが凄い事になっている。火の国の人は、やっぱり火竜が好きなんだな。


「何やら照れてしまいますね。魔法陣の要領で撃ち出して、薄っすらと線を付ければいいのですね?」


「はい。この形で撃ち出して下さい」


 楕円形の四百メートルあるコースの形を頭に刻み込むように、じっと見てから空へ飛んでいく。


「うぉーっ、人型のまま羽根が背中から生えた!」

「すっげぇ!」

「皆さん、退避して下さい!」


 急いで観客席の方へ走って行く。見上げると翼をバサリと一回大きく羽ばたかせ、手の平を下に向ける。すると、お願いした通りの線が、青い空に映える赤で引かれて行く。


 ワクワクと見守っていた兵士さん達が、またもやドッと沸く。


「うわぁ、凄いもの見てるよな、俺たち! じいちゃんに自慢しよう」

「ドラゴンの魔法だぜ。あぁ~、兵士になって良かった~」


 微笑んでそれを見ていたカハルちゃんが、フェイさんをじっと見上げると、細かい修正が加えられていく。会話しているのかな?


 やがてカハルちゃんがニコリと笑うと、線が煌々と輝き出しドンッと音を立てて撃ち出される。


 地面に到達した途端、土煙がブワッと舞い上がり線を隠す。フェイさんがゆっくりと下りて来たのを合図に皆で向かう。


「うわぁ、ちゃんと線が付いているよ。凄いなぁ」

「こんなに巨大な物を一瞬でだもんな。ドラゴンってやっぱりすげぇな」


 フェイさんがもみくちゃにされる前に声を上げる。


「皆さん、消えない内にライン引きでなぞって下さい」

「おっと、そうだった。急げ、急げ」


 テキパキと動き始めてくれたので一安心だ。


 それが終わったらテントを作っていく。金属の棒を組み立てて天幕をかけ、足を起こす。紐をしっかりと棒に縛り付けたら、フェイさんに土魔法で金属を地中にしっかりと固定して貰う。


 お次はコースが湾曲している所から少し離れた所に棒を挿し、大きな旗をフェイさんと兵士さんに渡す。左右に挿したから計二十六本だ。


 三カ国だけだと色が少ないので、十三の国すべての旗を結ぶ事にした。


「フェイさんと皆さんは、この国旗をいま挿した棒に結んで下さい」

「了解」


 国旗の基本デザインは、輪廻の輪を表している横に引き延ばされたドーナツのような輪と、神様と創造主様を表す十字の手裏剣のような形の星が二つ、輪の右上に寄り添っている。どちらとも色は黄色だ。後は布の色が国ごとに変わる。


 訓練場は四百メートルのコースが、あと十五個位は作れるんじゃないかという程に大きかったので、運動会で使うのは貴賓席の真ん前の一部だけだ。ちょっと寂しい感じだったが、結んで貰うとほんの少し華やかになった。

 

「まだお手伝いはありますか?」


「後は兵士さんが黒と紫と赤のドラゴンさんと、白族を大きな板にそれぞれ描いてくれたのを飾ります」


「選手側に置くとすると、固定する物がありませんね。四メートル近くありますから風が吹いた時に危険です」


「金属か土で階段状に選手席を作ればいいんじゃない?」


 カハルちゃんの提案が実現可能か考える。金属だともう注文している時間が無いな。土なら皆で作れるかな? でも、雨が降ると駄目になっちゃうな。


「――凄いじゃないか。立派な会場が出来たな」

「ダーク様!」

「皆、ダーク様がいらっしゃったぞ!」


 兵士さんが駆け寄って来て囲む。でも、嫌そうな顔をしている。


「寄るな、男ども。俺は癒しを求めて来たんだ」

「俺達だって癒しますよ! 肩でも足でもマッサージしますよ~」

「折れたらどうしてくれるんだ。あっちに行け」

「ダーク様が冷たい~」


 それでも大人しく離れて行く。しつこいと嫌われるって分かっているんだな。


 ヴァンちゃんが走り寄ると笑顔で抱っこしている。


「やはりお前達じゃないとな。可愛い奴め」


 ツンと鼻を触られたヴァンちゃんがキュッと目を瞑る。


「か~わ~い~い~」


 野太い声が合わさると凄い威力があるな……。しかも、クネクネしている。


「気持ち悪い。クネクネするな。シッ、シッ」


 ダーク様の正直な感想に泣き真似しながら散って行く。仲良しですね。


「ダーク、お願いがあるの」

「どうした、カハル? いくらでも叶えてやるぞ」


「えへへ、ありがとう。選手席を土で階段状に作って欲しいの。上の方にはあの大きな板をはめて欲しいな」


「ああ、構わないぞ。フェイ、手伝ってくれ」

「畏まりました」


 次々と六段の階段が作られ、板はその上の土の壁に嵌め込まれる。あれなら強い風でも外れないだろう。


 左奥から闇、火の二国。次に得点表示板を真ん中に配置し、魔国、白族の順番に席が作られる。


「これでいいか? まだ作る物があるなら協力するぞ」


「ありがとうございます。机とか細々したものはお城の方が設置してくれるそうなので、これで大丈夫です。あれは雨でも大丈夫ですか?」


「ああ。――カハルがこっそり薄い結界で包み込んでくれた」


 耳打ちされた後にカハルちゃんを見ると、笑顔でピースされる。いつの間にやったんですか?


「皆さん、お疲れ様です。――これは凄い! 君達は本当に素晴らしいですね!」


 宰相様に抱き上げられて、高い高いされる。あー、兵士さんがびっくりして見ている。宰相様は、いつもはクールなお方ですからね。


「外の準備はほぼ終了ですね。はぁ、間に合って良かった……」

「ホノオの方はどうなんだ?」


「ダーク様、いつの間に来ているんですか。……はぁ、いつもの事ですね。詳しい事は中でお話します」


 片眉を上げたダーク様が歩いて行く。フェイさんがカハルちゃんを抱っこしたのを確認してから、兵士さんに声を掛ける。


「今日の作業は終了です。ご協力ありがとうございました」

「おう、またね~。みんな旗作ろうぜ。応援も気合入れないとな」

「いいね~、やろうぜ!」


 兵士さんのやる気はばっちりだな。率先して動いてくれるので、ほぼお任せだ。


 会議室に入ると宰相様が深い溜息を吐く。


「あの小僧はほとんど役に立ちませんでした。城の者達は白ちゃん達が運動会を作り上げたと思っています。現にその通りだと私も思っていますがね」


「だが、リストを作ってやっていたのだろう?」


「そうですね、少しはこなしましたよ。ですが、白ちゃん達は城の者達を巻き込むのが非常に上手で、自主的に動いてくれるようになったので、指示する前にどんどん事が進んで行くんですよ。順調だなと喜んでいましたが、彼らの心を掌握したのは小僧ではありません」


 僕達はまずい事をしてしまったのだろうかと、不安になって顔を見合わせていると、宰相様が微笑んで首を横に振る。はぁ、良かった……。


「分からなかった事が多かったとはいえ、この城の中では白ちゃん達の何歩も前を行っていた筈なんです。長く一緒に居て、現王なのだから……。でも、彼らとの間にあったのは忠誠でも信頼感でもありませんでした。未だに彼らの中では王はカエン様で、ホノオ様は頼りない子供。命令されれば聞きはしますが、心は伴っていません。誰もホノオ様を王とは認めていない。それは民にも言える事でしょう」


「僕達が挽回の機会を奪ってしまったんですか?」


 恐る恐る尋ねるとダーク様に頭を撫でられる。


「それ以前の話だ。挽回も何も無いんだよ。ホノオは王として、彼らや民にまだ何も見せていない。何の結果も出していないんだ」


 ホノオ様は何も期待されていないって事なのかな。親しいと思っていたのはホノオ様だけで、カエン様の息子だから優しくしていただけ。そこまで考えて頭を振る。それはあまりにも悲し過ぎる。暗く考えすぎだよね。


「小さい頃からの成長をずっと見ていて、愛してくれている者も中には居るが、あまりにも数が少ない。ホノオと接点がある者は少ないからな」


「でも魔物と戦ってた。それは評価されない?」


 ダーク様の膝に座っていたヴァンちゃんが仰向いて聞く。


「俺やヒョウキという、魔物と戦い政務もこなす王が居るからな。それに民たちが目にしていたのは、必死に国を守っていたカエンや城の者達だ。いくら幹部と戦っていたと言ったところで、ホノオは民の前に居なかった」


 皆が見ていたのは、傷付きながら前に立ち続けてくれた兵士さん達の背中だ。そして、その人たちを指揮していたのはカエン様。


 幹部や魔物の王という遠い存在より、いま目の前にいる魔物を倒して欲しいと、身を守る術が無い人達は思うだろう。


「落ち込んでいても仕方ありませんし、何とか成長して貰いましょう。これからどんどん行事を押し付ければ、嫌でも成長するでしょう」


 そうだよね。まだ一人でやってみようの一回目だ。これからいくらでも成長出来るよね。


「白ちゃん達の組体操の進み具合はいかがですか?」


「んふふ、ばっちりですよ! でも、難しい技は出来る子しかやりません。安全第一ですよ」


 軽減のお札を使っているので、ピラミッドも軽々出来る。終わったら派遣先に戻る子も居るので、怪我する訳にはいかないのだ。


「それがいいと思います。お楽しみの行事で怪我なんて悲しいですからね。明日は魔法道の調整が行われる予定ですが、お二人は来ますか? 今日で準備に参加するのは最後ですよね?」


「はい、来ますよ。僕達はカハルちゃんと共に行動しますから」


「では楽しみにお待ちしていますね。今日まで準備を手伝って頂きありがとうございました。白ちゃん達が居なかったら開催出来ない所でした」


「大袈裟ですよ。僕達は出来る事を一生懸命にやっただけです」


「それが素晴らしいのですよ。自分に出来る事を出し惜しみせず、精一杯出し切る。そうすれば人はどこまでも成長していけます。そういう姿は自然と人を動かす力を持っていると私は思いますよ」


 褒められた。モジモジしていると抱っこされる。


「うちの城でずっと働いて欲しいです。これからは毎日会えなくなってしまうなんて辛い!」


 力強い抱擁ですね……。文官さん、侮り難し……ぐふっ……。


「わっ、ニコちゃん、すみません! しっかりして下さいっ」


 あ~、胴体を持って揺らさないで~。首がガクガクするよ~。


「おい、止めてやれ。頭までグワングワンさせる気か」


 ダーク様、ナイス! 僕に癒しを~、カハルちゃんをプリーズ!


 渋々離してくれたので、フェイさんのお膝で寝ているカハルちゃんの頭をそっと撫でる。あどけない顔で寝ているな。はぁ、可愛い。


 カハルちゃんをナデナデして気力を充電したら、配達の時間だ。早く終わらせて組体操の練習に行かなければ。


白ちゃん達はお城の人達とすっかり仲良しです。宰相さん達の計画では、ホノオが受け入れられる予定だったのですが、上手くいきませんでしたね。それでも、皆の頑張りで準備はほぼ終了です。競技の練習や応援にも気合が入っているので、良い運動会になりそうです。


次話は、カハルが運動会にペルソナを誘います。


お読み頂きありがとうございました。

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