0335.あたふたホノオ様
「四百メートルリレー、大玉転がし、玉入れ、障害物競争、パン食い競争、騎馬戦、綱引き、そんでもって組体操は白族だけでいいか?」
「そうですね。色々と用意しないといけませんが、鉢巻と玉入れの玉は各国で用意して貰いましょうか」
「そうだな。おい、ホノオは聞いているのか?」
「今メモってるんだよ。色々言われると頭がパンクする」
覗き込むと競技名を一生懸命に書いている。字が汚い……。後で読めるのかな?
「あれ? あとなんだっけ?」
「綱引きが抜けてる」
「ヴァン、ありがとな。あとは……そうっ、はちまき! ん? はちまきって何だ?」
「頭部に巻く細長い布ですよ。鉢巻と玉入れの玉の色ですが、ホノオ様の国は赤でお願いしますね。後で見本をお渡しするので、メイド達に作って貰って下さい」
「ミナモ、ありがと。後は何を準備すればいいんだ?」
「そうですね……。綱引きの綱は魔国で用意します。バトンと大玉、細々とした物は火の国でお願いしたいです」
「いや、よく分からない物ばかりなんだけど。カハル、教えてくれ」
頷いたかに見えたカハルちゃんは実は寝ただけでした。僕とヴァンちゃんが詳しい事を既に聞いているから、教えてあげよう。
「バトンはリレーで使う中が空洞の木の棒ですよ。これも三色用意したほうがいいと思います」
ヴァンちゃんが厚紙で作ったバトンを「こんな感じ」と見せている。
「ヴァン、これ貰っていいか? 職人に作って貰う」
「どうぞ。大玉はカハルちゃんが結界で作ってくれるそうです」
「後は必須の物あるか?」
「粉と飴とパン」
「粉? 粉なんて何に使うんだ?」
「障害物競争。粉の中に飴を入れて探すのに必要」
ヴァンちゃん、これに出るって気合入っていたもんね。僕は勿論パン食い競争です。
「後は玉入れのカゴ、障害物、パンをぶら下げる棒――」
「ニコ、ちょっと待った! ニコとヴァンさ、手伝ってくれねぇ? ちゃんと給料払うから」
「でも僕達は書類配達があります」
「ヒョウキ、貸して」
「ミナモ、忙しいか?」
「一日お貸しするのは難しいですね。半日でいかがですか?」
「それでいい。凄く助かる」
お手伝いが決定したようだ。カハルちゃんと一緒ならいっか。
「ヒョウキ様、鉢巻と玉入れの玉の見本をお持ちしました」
「サンキュ、メイド長。ホノオ、これを自分の国とダークの所に持って行ってやれ。それと、今の内容をダークに話してやれよ」
「分かった」
ホノオ様、メモを取る手が止まっているけど覚えられたのかな? ちょっと心配だ。
「読めないんだが……」
「そんな訳……あ、あれ? 俺も読めない……」
やはり読めなかったか。だが、助け舟を出さずに見守ろう。
「えっと、確か綱引きと玉入れとパンと飴と粉と……」
用意する物と混ざって来てますね。でも、助けを求められるまで黙っているようにって、ヒョウキ様に言われたもんね。
「あ、あれ? な、なんだっけ?」
「俺に聞かれても知らん。で、これをどうすればいいんだ?」
「えっと、鉢巻と玉を作るんだよ」
「幾つ作ればいいんだ? この色でいいのか?」
「えっ⁉ 分かんねぇ……」
ダーク様が溜息を飲み込む。沈黙が落ちる中、ホノオ様は頭を掻き毟ってなんとか思い出そうとしている。
「……くそっ、思い出せない! もう一度聞きに行くしかないか……」
焦れば焦るほどに頭って上手く動かないよね。落ち着いてって言っても無駄なんだろうなぁ。
「おい、何の為にこの子達が居るんだ? 協力して貰う為なんだろう?」
「……あっ、そうか! 悪い、内容は覚えているか?」
もう喋ってもいいよね。やきもきしながらのお口チャックは辛い。
「はい、覚えていますよ。まず、鉢巻の数は八十本、色は黒です。頭に巻く長さでお願いします。次に玉入れの玉も黒の布でお願いします。数は一人二個ずつ手に持って貰うので、八十個用意して下さい」
「百六十個じゃねぇの?」
「兵士さんと城勤めの人で二回に分けて行うので、八十個で大丈夫です。一緒に戦うと危ないですから」
「そっか~」
笑顔で頷くホノオ様をダーク様は困った奴だという目で見ている。そこへ、ヴァンちゃんが内容をまとめた紙を差し出す。
「詳細はここにまとめてある。ダーク様、見る見る」
「ありがとうな、ヴァン」
ダーク様がヴァンちゃんの頭を撫でてから読み始める。
「ヴァン、その紙まだあるか? 俺にも頂戴」
「一枚しかない。記録用水晶で撮影したのならある」
「コピーさせて」
「どうぞ」
読み終わったダーク様が呆れたように声を出す。
「お前が主催者みたいなものなんだぞ。プログラムくらい作れなくてどうする」
「プログラム? えっ、これ以上に何が必要なんだよ?」
「何時から何時までどの競技とか、持ち物は何とか、トイレの案内とか、場所取りの決め事とか色々とあるだろう」
ホノオ様の顔色がどんどん悪くなっていく。
「俺の国の兵士は競技の練習だけしていればいいが、お前達の国の兵士は会場を作る事もしないといけないんだぞ。分かっているのか?」
「そんな次から次に言われても……」
「開催日は二十五日だぞ。あと二十日もないんだから、しっかりしろ」
完全に涙目になってしまった。僕達よりも年上の筈なのに、まるで弟を見ているような気分になってしまう。
「ホノオ、宰相さんとまずはお話したら?」
「カ、カハル……そうだな。そうする……」
もっと辛辣に言われそうだが、まずはあの人を味方にするしかあるまい。
「それでノコノコと泣きっ面で帰って来たんですか? この阿呆! この前の意気はどうしたんですか⁉ 創造主様に良い所を見せるんじゃなかったんですか? 嘆く暇があったら行動しなさい! ニコちゃん達の大事な時間をあなたは無駄にしているんですよ!」
「ま、まぁまぁ。そんなに興奮しないで、冷静に話し合おう」
「ですが、カエン様! 短期間で用意しなくてはならないんですよ! この泣きそうな小僧の指揮で!」
あ~あ、小僧って王様の前でも言うようになっちゃった。よっぽど腹が立っているんだな。
「ホノオ、まずは何をすべきか紙に書き出してみなさい。それを一つずつこなして線を引いて行くのだよ。そうすれば必ず出来るからね」
「う、うん。でも、何をすればいいかさえよく分からなくてさ……」
「ぐちゃぐちゃ言わずにペンを持ちなさい! 本当に一つも分からないんですか⁉」
「え、えーと……」
そこでホノオ様の目が鉢巻の見本に向かう。
「あっ、そうだ! 鉢巻を八十本、玉を八十個、色は赤でメイド達に作って貰う」
「ホノオ、その調子だよ。頑張れ」
カハルちゃんの応援を受けて元気よく頷く。冷静さが戻って来たようだ。ダーク様に言われた事も思い出したのか次々と書き出していく。今度は綺麗な字で書いているから、後からでも読めるだろう。
「ホノオはやれば出来るのに、出来ないと思い込んじゃっている所があるよね」
「そうですね。パニックになりやすいみたいです」
話している間にヴァンちゃんが、カハルちゃんをすっぽり隠せそうな程の大きな紙を貰って来た。
「ポスター作るの?」
「うむ。玉入れしている絵を描く」
開催日や開始時間が九時というのは決まっているので書き込んでいく。三枚あるので役割分担だ。
「おや、ポスターを作っているのかい?」
ホノオ様は宰相様に任せる事にしたのか、カエン様が僕達の方にやってくる。頷くと順番に頭を撫でてくれる。
「色が必要だね。絵の具でいいかな?」
「カエン様、ありがとうございます」
ヴァンちゃんが嬉しそうにカエン様の手を掴まえて握手する。
「ははは、すぐに用意しよう」
メイドさんが用意してくれたので、三人でペタペタと色を塗っていく。ホノオ様の方はそろそろ終わるかな?
結局、いっぱい書き出す事があったので時間が掛かっている。ただ待っているのも暇なので、ポスターの絵の具をカハルちゃんに乾かして貰い、各国へ貼りに行く。
「お前達、どうした? 忘れ物か?」
「ダーク様、運動会のポスターです。どこに貼ったらいいですか?」
「そういう事か。じゃあ、食堂に貼りに行くか」
歩いている間にどんな様子か話すと溜息を吐いている。
「まぁ、今回の事が良い経験になるだろう。カエンにも釘を刺しておかないといけないな。――着いたぞ。どこにするか?」
全員が必ず通る入口の壁に貼る事にした。これで気分が盛り上がるよね。
「ダーク、大玉とバトンあげる」
「そうか、それの練習もしないとな」
外の訓練場に向かうと走っている兵士さんがいっぱい居て、興味津々で僕達を見て来る。人見知りなカハルちゃんを僕の後ろに隠してあげていると、将軍さんが走り寄って来る。
「ダーク様、見学にいらしたのですか?」
「いや、違う。運動会に使う物を持って来たんだが、どこへ置く?」
「でしたら、物置の方へお願いできますか?」
「ああ」
カハルちゃんが魔法を使おうとすると、ダーク様が胸に抱える。
「シリウス、お前も壁になれ。カハルが魔法を使う所はあまり見せたくない」
「畏まりました」
準備が整うと、カハルちゃんがいつもの黄緑色ではなく、透明感のある黒で大玉とバトンを作り出す。大玉に触ると弾力がある。色も変えられるし結界って自由自在なんだな。……ん? こんな事が出来るのはカハルちゃんだけかな?
「ダーク、玉入れのカゴも作る?」
「そうだな、頼む」
将軍さんが次々と出来上がる物をびっくりした目で見ている。こんな小さな子がって思うよね。
「出来たー。綱は魔国で用意してくれるらしいから、待っていてね」
「ああ。もう帰るか?」
「うん。ホノオのお手伝いは半日だから魔国に戻るよ。じゃあね~」
「待て、カハル。移動の魔法は使うな。俺が連れて行ってやる」
カハルちゃんが目を付けられると困るもんね。有り難く好意に甘えさせてもらった。
「いいじゃん、このポスター。気分が上がるよな」
「そうですね。玉入れもどのような物か分かります」
ヒョウキ様達にも好評だ。ここでも食堂に貼らして貰った。その後、闇の国と同様に大玉など一式をカハルちゃんが作り出す。
「助かるぜ。早速練習しないとな」
「ん? ヒョウキ様も出るんですか?」
「出るぜ。騎馬戦だけな」
「そうなんですか。ミナモ様は出るんですか?」
「私は城に残りますよ。問題が起こった時に困ってしまいますからね」
「じゃあ、俺が撮影して来てあげる」
「ふふふ、ヴァンちゃん、ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「ん。お任せ」
次の日に向かうとプログラムが出来上がっていた。ホノオ様がぐったりしているけど、徹夜だろうか?
「ホノオ、大丈夫?」
「……おー、カハル。ふわぁぁ、超眠い……」
「欠伸している場合じゃありませんよ。やる事はいっぱいあるんですからね」
僕達は指示があるまで、プログラムでも見ていようっと。
『運動会プログラム
一、開会式 九時~九時十分
二、大玉転がし 九時十五分~九時三十分
三、玉入れ 九時三十五分~九時五十五分
四、障害物競争 十時~十時十五分
五、パン食い競争 十時二十分~十時三十分
六、綱引き 十時三十五分~十一時
七、組体操 十一時五分~十一時十五分
八、四百メートルリレー 十一時二十分~十一時三十五分
九、騎馬戦 十一時四十分~十二時
十、閉会式 十二時五分~十二時十五分
十一、昼 十二時二十分~十三時二十分
得点 一位、三十点 二位、二十点 三位、十点
※騎馬戦のみ、一位、四十点 二位、三十点 三位、二十点
※組体操は白族のみ
※白族は全競技点数なし
※騎馬戦は兵士のみ
※昼は弁当とコップを持参の事
※場所取りは朝の七時からとする。特別パスを配布するので、魔法道の利用時や会場で見せる事
※閉会式終了後は帰宅自由』
「ヴァンちゃん、点数が貰えないって」
「むぅ、つまらん」
「すみません、お二人共。十人なので各国に振り分けも出来ませんし、全ての競技に参加する事は難しいとの判断から、このようにさせて頂きました」
残念だが仕方ない。「気にしないで下さい」と言っていると、カハルちゃんがツンツンと僕の肩をつついてくる。おんぶしていたカハルちゃんを下ろすとニコッと笑い掛けてくれる。
「白ちゃん達用の大玉とか作ってあげる」
「本当ですか⁉ やったね、ヴァンちゃん!」
「うむ。カハルちゃん、最高」
宰相様がホッとした様子で笑う。
「良かった。これで楽しんで頂けそうですね。白族の皆さんのお食事はこちらでご用意しますから、身ひとつで来て下さいね」
「応援に来てくれる人たちの分もですか?」
「はい。ですので、詳しい人数が分かったら教えて下さいね」
「はい!」
参加できない競技ばかりだったけど、これで応援に来てくれた村の皆も楽しめるかもしれない。
「申し訳ありませんが、プログラムを闇の国、魔国、白族の村へ配布して頂きたいのです」
「了解です」
村へはカハルちゃんが連れて行ってくれると言うので、最後に行く事になった。
「ミルンさーん、こんにちは」
「おや、今日はどうしたのですか?」
「運動会のプログラムを持って来ました。どうぞ」
「ありがとうございます。――成程、午前で競技は終了なのですね。組体操の練習をしないといけませんが、こちらへ練習に来られますか?」
「あ、そうだった。お仕事終わりに来ようか」
「そうだな。でも十人揃わない」
悩んでいるとカハルちゃんが首を傾げる。
「皆はピラミッドの練習をするの? もっと少ない人数で出来る技があるよ」
「そうなんですか? 取り敢えずピラミッドだけやって欲しいとしか言われなかったんです」
「十分もあるから時間が余っちゃうよ」
ピラミッドしか考えて無かった。どうしよう……。
「大丈夫だよ。白ちゃん達なら簡単に出来るよ」
まず教えて貰ったのは、『肩車』をしてから、上の人が下の人の太腿に立って、上の人が頭を抜くと出来る『サボテン』だ。
「シャキーン!」
ヴァンちゃんに支えて貰い、僕が腕を伸ばすと、集まって来ていた村の皆が拍手をしてくれる。ナナミ先生が絵に描いてくれているので、皆も練習できるだろう。
他にも膝を立てて寝た人の上で倒立する『帆掛け船』、肩の上に立つ『肩のせ』、腕立て伏せの状態で足を持って貰って、手を前に出していく『手押し車』や『補助倒立』、『V字バランス』、『斜め十字』、『扇』などを教えて貰う。
「危ないから『飛行機』とかは手を繋いだままでもいいよ。無理してやらないでね」
怪我をしたくないので難しい技は出来る人だけでいいか。
通信の鏡で宰相様に事情を話したら、組体操の方を優先していいと時間をくれたので少し練習していこう。
今日、村に居た子にも来て貰って何個か技をマスターした。この調子で頑張るぞ!
皆はワクワクの運動会ですが、ホノオはそれどころじゃありませんね。厳しい宰相様と共に頑張って貰いましょう。
作者にとって組体操は大変だったなぁ……。体が小さかったのに加えてやり方も下手だったのか、サボテンの時にどう頑張っても持ち上げられないんです。作者の時は下からのっていましたが、今のサボテンて肩車からやるパターンが多いみたいですね。あれなら出来たのかな? いや、無理か。潰れそうな気がする……。
でも、大人数でやる技は一番上にのるという貴重な体験も出来たので、今となっては良き思い出ですかね。
次話は、運動会に必要な物を色々と作成します。
お読み頂きありがとうございました。




