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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
332/390

0331.ペルソナ5

今話はペルソナ視点です。

 引越をして、二日休みを貰ってから働き始める事となった。おじいさん達の畑を今日はあちら、今日はこちらと言われながら手伝っていく。


 草を抜いたり、肥料や水を撒いたり、畝を作ったりと丁寧に教えて貰いながらやっていく。植物に触れながら無心で出来るこの仕事は、私にはとても向いている気がする。


「今日はほうれん草を収穫しようかね」

「はい。全部でしょうか?」

「半分でいいよ。キャロさんが午後に来て貰いたいって言っていたからね」

「分かりました。午後はキャロさんの所ですね」

「ああ、頼むねぇ」


 作業にも徐々に慣れ、周りに知り合いも増えて来た。こんな穏やかな日々がまた来るとは思っていなかったな。だが、時々魔物やカハル達を思い出して胸が痛む。シンが頻繁に訪れては、「まだ無理なのか?」と聞いてくれるが、いつも謝る事しか出来ない。


 昼を食べてから、キャロさんの所に向かう。


「こんにちは。何をすればいいのでしょうか?」


「おー、来てくれたか! 土の国では毎年、焼き芋大会があるんだわ。知ってるか?」


「いえ、知らないです」


 人間は色々な行事を考えるのだな。魔物達と一緒に居た時は、祭りなんて全然頭に浮かばなかった。


「おっ、初か! じゃあ、明後日は俺達と行こうぜ。今日は焼き芋に使うサツマイモを運ぶのを手伝って欲しいんだわ」


「分かりました。どこに運ぶのでしょうか?」

「城の横にある広場までだ。そこら中から芋が集まって凄い光景だぜ」


 面白そうな催しだ。人間の祭りに行けるのかと段々楽しくなってくる。


 馬車に積み込み、キャロさんと共に向かう。遠出は初めてだな。いつもシンが色々と持って来てくれるから、買い物に行く必要が無かった。


「そういや、知ってるかい? 今よ、城下ですげえ人気の花屋さんがあるんだわ。帰りに寄って帰っていいか? 母ちゃんに頼まれたんだよ」


「はい、私も見てみたいです。うちにも買って帰ろうかと思います」


「そうか、そうか。何でもよ、熊の顔の形に見える花があるらしいぜ。しかも、それを可愛い熊さんが売ってるんだと。俺はもう楽しみでよ」


 土の国の人達は動物が好きだな。どの家に行っても何かを飼っている。私もと思い掛けて止める。愛着を持つ存在を作るのには、まだ躊躇いがある。


 ゆっくりと馬車で揺られながら進むと、一時間までは掛からずに町の入り口に着く。


「よぉ、キャロさん。芋を持って来てくれたのかい?」

「ああ。いつも通り広場でいいんだよな?」

「ああ。最近は人が多いから気を付けて進んでくれな」

「あいよ」


 兵士に会釈をすると、愛想よくニコリと笑ってくれた。町の中の大きな道を慎重に進んで行く。本当に人が多いな。馬車にぶつからないかヒヤヒヤしてしまう。


「おっ、ペルソナさん、花屋さんがあったぜ」

「凄い人ですね。行列が出来ていますよ」

「なぁ。こりゃ、気合入れて並ぶしかないな」


 横を通る時にちらりと見たが、熊さんは見当たらなかった。休憩中だろうか?



「こちらにお願いします」


 兵士の誘導に従って馬車を止めて芋を降ろしていると、次々とキャロさんに声が掛かる。


「おう、久し振り。元気そうじゃんか」

「おう、お前もな」

「キャロも来てたのか。あれ? 息子さん、じゃないよな?」


「ははは、俺の息子はこんな美形じゃねぇよ。住み込みで働いてくれているペルソナさんって言うんだ」


「よろしくお願いします」


「はぁ、こんなに若くて美形な人が来てくれたのかい。キャロさん、良かったねぇ」


「だろ。周りのじいちゃん達もすげぇ喜んでるんだよ」


 褒められる事などあまりなかったので、嬉しさと同時に恥ずかしさもある。人間に褒められる日が来るとはな。今生は予想もしていなかった事が次々と起こる。


「明後日、来るだろ?」

「勿論さ。土の国の人間が焼き芋大会に出ないなんて有り得ないだろう」

「ははは、そりゃそうだ。俺の自慢の芋に泣くことになるぞ」

「馬鹿言え、そりゃ、こっちの台詞だ。ほっぺたが落っこちるぞ」


 食べ比べもあるのだろうか? だが、こんなに大量にあると混ざってしまいそうだが……。


「兄さんは、焼き芋大会は初めてかい?」


「はい。とても楽しみです。芋は誰が作った物か分かるように焼くのでしょうか?」


「へ? ははは、そりゃ無理だよ。こんなにあるんだから……って、俺達が誤解させちまったのか。すまんすまん。種類ごとに焼く感じだな。俺の作っている芋は蜜芋っていうんだが、他の芋とは火の通り具合が違うからな」


 芋ひとつを焼くにも色々とあるのだな。


「農家の皆さんも焼くのを手伝うのですか?」


「いや、料理人達が指揮取って、兵士と協力してやるんだよ。あ、でも、ボランティアも募集してたよな?」


「ああ。でも、俺達は畑が終わってからじゃないと来られないから無理だな」


 残念そうに頷き合っている所を見ると、本当は焼くのもやりたいらしい。自分が育てた芋なら尚更か。目の前で食べて貰って、反応を直に見られるのだろうし。


「さーて、ペルソナさん、お次は花屋に並ぶぜ」

「そうですね。空いているといいのですが」

「花屋って『クマの花屋』かい?」

「おうよ。母ちゃんに買って来いって言われたんだよ」

「キャロさんもか。実は俺もなんだよ」

「じゃあ、一緒に行こうぜ」


 もう一人は用事があるからと急いで帰って行った。本当は行きたかったらしく、物凄く悔しそうだった。花がよほど好きなのかもしれない。


「あいつ、悔しそうだったな。モフモフ好きで有名だもんな」

「あいつの家には猫が十匹も居るんだぜ」

「それは凄いですね。土の国の方達は何故そんなに動物好きなのですか?」


「う~ん、俺の場合は、小さい頃から当たり前に動物が居て一緒に暮らしていたからな。辛い時に側に行って撫でるだけで随分と救われたりしてなぁ。まぁ、大事な仲間だな。他の家に遊びに行っても必ず居たから、もう自然にとしか言いようがねぇよ」


 キャロさんだけでなく、もう一人の方も同じ答えだった。どうやら生活環境が大きく関わっているようだ。


 魔物の存在もそうなのだろうか? 人間の親が忌避していなければ愛して貰えたのだろうか? 今となっては分からないが、優しい結末を考えるくらいは許されると思いたい。


 二台の馬車で町の入口まで戻り、馬車置き場に置いて徒歩で花屋に向かう。


「おっ、さっきよりも列が短いぜ。今の内に並ぼう」

「ついてるな。急げ、急げ」


 はしゃぐキャロさん達に続いて走って行く。この店は男性の客も多いな。だが、どの客にも一つ共通している事がある。ここに居る事が楽しくて嬉しくてしょうがないという顔だ。そんな人々を微笑ましく見ながら列に並んでいると、待ち時間が過ぎるのが早かった。


「いらっしゃいませキュ。ご注文はお決まりでキュか?」


 こんなに小さい熊さんだったのか。行きに気付かなかったのは、どこかの影に入っていたのかもしれないな。


「熊の顔の形をした花があるって聞いたんだが、あるかい?」

「こちらになりまキュ。花束にしまキュか?」


「おう、本当に顔に見えるな。ええと、花束は大中小とあるのか。うーん、中で頼むわ」


「ありがとうございまキュ。すぐにご用意しまキュね」


 隣に居た青年が素早く花束を作り始めると、熊さんの視線が私に向く。


「お客様、ご注文はお決まりでキュか?」

「青い薔薇があるのだな」


「そうなんでキュ。青い薔薇はここだけなんでキュよ。これになさいまキュか?」


「そうだな。その花を入れつつ、お任せで小さい花束にして貰えるか?」

「はいでキュ」


 小さな体で出来るのか心配だっだが、全身を使って花束を作っている。


「店長、代わります」

「ビャッコちゃん、ありがとキュ」


 お金を小さな手に渡そうとしていると、近くで人が吹っ飛んだ。ん? 今、何かが感覚に引っ掛かったな。何だ?


「おお、名物が見れたぜ」

「名物ですか?」

「おうよ。邪な奴はちゅどーんと吹っ飛ぶって有名なんだよ」


 見ていると兵士が諦め顔で運んでいく。そんなに多いのかと少し気の毒になってしまう。


「お待たせ致しました」

「ああ、ありがとう。良い香りだな」

「ありがとうございます。特にこの青い薔薇は香りが良いのですよ」

「うちに飾るのが今から楽しみだ」


「それは嬉しいお言葉です。この店のお花はとても長持ちしますので、お楽しみ下さいね」


 頷いた所で更に人が宙に飛ばされる。すると、再びチリッと神経に何かが引っ掛かる。店から少し離れてよく観察する。魔法が施されているのは分かるが、それ以外に変わった所など――。


「おおー、また飛んだぜ」

「――っ⁉」


 分かった! カハルの魔法の気配だ。だが、なぜ花屋にカハルの魔法が? 確かめようと一歩踏み出した所で腕を掴まれる。


「ペルソナさん、お待たせ。買えたから帰ろうぜ。母ちゃんが首を長くして待っているからよ」


「あっ、は、はい」


 振り払う事も出来ず、視線を何度も向けてしまう。


「ペルソナさんもクマちゃんが気に入ったのかい? 可愛いもんなぁ」


 キャロさんの知り合いの人が笑み崩れながら声を掛けて来る。正直に説明も出来ないので感想を伝える。


「小さな体で一生懸命に花束を作る姿が印象的でした」

「そうだよなぁ。ああ、毎日来たいねぇ」


 頷きながら頭の中は先程の気配の事でいっぱいだった。家に帰って来て花束を飾り、眺めながら考える。


 あの熊さんがカハルと繋がりがあると考えるべきか? それとも別の人物とだろうか……。駄目だな、いくら考えた所で答えが出る問いではない。夕飯を作るかと立ち上がった所でノックの音がする。キャロさんだろうか?


「はい、いま出ます」

「ペルソナ、元気か?」

「シンか。入ってくれ」


「ああ。おかずを持って来たぞ。――青い薔薇……。お前、クマちゃんの店に行ったのか?」


「ああ。用事のついでに、さっき寄って来たが」

「ふーん」


 シンに聞いてみようか。だが、聞いた所でどうするのだという思いもある。まだ会う勇気もないというのに……。


「何か気付かなかったか?」


 私の些細な表情の変化に気付くとは相変わらず鋭い男だ。


「はぁ、隠しても無駄か……。カハルの魔法の気配を感じた」

「ははは、お前なら気付くと思った。カハルの事なら何でも気付くものな」

「人を変人扱いするな。カハルの魔力は独特だろうが」


「いや、普通は気付けないレベルだ。変なお前に免じて教えてやるよ。クマちゃんは俺達と一緒に住んでいる子だ。カハルの本体がある日本で生まれ、向こうではぬいぐるみだ。カハルと長く居たからか、こちらに来られるようになった」


「そうか、そんな繋がりがあるのか。一生懸命で可愛らしい子だった」


「そうだろう、とても良い子なんだ。お前が意地を張らなければ、とっくに知り合えていたな。どうだ、悔しいだろう?」


 痛い所を突かれて言葉が出て来ない。確かに悔しいな……。


「いつまでも自分を責めているからそうなるんだ。お前はもう新しい人生を歩んでいるんだぞ。少しは前も見ろ。じゃあな、俺は帰る」


 おかずを手に押し付けて、声を掛ける間もなく帰ってしまった。怒ってしまったか? いや、ああいう態度の時は忙しいというだけだな。それなのに、こうして気遣ってくれる。本当は慈悲深くて優しいやつなのに、あいつも素直じゃない。やはり私とシンはよく似ている気がする。


 笑いながら行儀悪く手でおかずをつまむ。――うん、美味い。味がよく染み込んだ肉じゃがだ。後はシンに貰った漬物を切って、味噌汁を作ればいいか。本当にシンには世話になってばかりだな。食卓に料理を並べて実感した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ああ、もう身が入らねぇよ。焼き芋、楽しみだねぇ」

「キャロさん、そんなにサツマイモが好きでしたか?」


「うん? サツマイモも好きなんだけどよ、焼ける様子を眺めながら待つのが楽しいんだよ」


 そういうものなのか? いまいち分からないから体験するしかないな。


「ペルソナさん、お父さんは祭り好きなだけだよ。何かある度に血がたぎる~とか叫んでいるしね」


「いいじゃねぇか。祭りっていうのは人を興奮させる何かを出してるんだよ」

「意味分からないよ」


「こういうのはな、考えるんじゃなくて感じるもんなんだよ。なぁ、ペルソナさん」


「私も感じてみます」

「ほらな」


 息子さんが呆れた目でキャロさんを見てから、私に真剣な目を向けて来る。


「ペルソナさん、何でもお父さんの言う事を鵜呑みにしたら駄目だよ。お父さんも気を付けてよ? ペルソナさんは生まれたての赤ん坊みたいに素直なんだから」


 生まれたて……。まぁ、確かに生まれたてだな。だが、中身は千歳を軽く超えている。この人達から見たら素直なのか。シンには素直じゃないとよく言われるし、自分でもそう思っていたが。


「いいじゃねぇか、育てる楽しみがあるってもんよ。よーし、行く準備するぞ。今日は仕事終わり!」


 息子さんと苦笑しながら道具を片付ける。たまには、こういう日があってもいいだろう。





「ペルソナさん、この芋うめぇぞ。ホクホクだぜ」

「ありがとうございます」


 先程食べた、ねっとりとして甘みが強かったものとは、また違う食感だ。


「よし、次はじゃがいもに行こうぜ。甘い物の次にはしょっぱい物を食べねえと」


 あちこちでモクモクと煙をあげている小山と、それを囲む人達の間を抜けていく。皆、嬉しそうな顔で湯気をあげている黄色の芋に齧り付いている。


 「あち、あちっ」と言いながら真っ二つに折ると歓声が上がり、家族や恋人や友人と分け合って食べている。いい光景だな。


 その中の一人に目が吸い付けられるように動いた。思わず声を上げそうになって慌てて口元を手で覆い、じっと様子を見守る。


「お父さん、甘いねぇ」

「そうだね。こっちはもっと甘いよ」

「――本当だ。ねっとりしているね」

「カハル、これはホロホロとしているぞ」

「セイ、ありがとう。――凄いね、みんな違うよ」


 見入っていると、ふとこちらを見たセイと目が合ってしまった。目を瞠ったセイがこちらに向かってくる。慌てて逃げようとするが、人が多くて中々進めない。


「――ペルソナ! ペルソナだろ? 待ってくれ!」


 声が近付いて来てしまった。押し退けて進む訳にもいかず、どんどん距離が縮まって来る。


「待ってくれ!」


 とうとう腕を掴まれてしまった。


「――ペルソナだよね?」


 カハルの声に観念する。全員来てしまったか……。


「なぜ逃げるんだ? ……そんなに俺やカハルが疎ましいのか?」

「なっ⁉ そんな訳があるか! お前達は今でも私の最愛の子達だ」

「……本当? もう会いたくないんだと思ってた……」


 シンが、そら見た事かという顔で見て来る。私の焦りが頂点に達した所で救い主が現れた。


「ペルソナさん、見付けたぜ。気付いたら居なくて焦ったのなんのって。ほら、じゃがいも。――ありゃ、シンさん、こんばんは。家族みんなで来たのかい?」


「うん。ペルソナを見付けたから追い掛けて来たんだよ」

「そうなのかい。ここは人が多いからよ、あっちに移動しようぜ」


 セイとカハルが私をチラチラと見ながら、口を開きたそうにしている。その不安そうな顔に胸が痛む。


「俺は知り合いに挨拶してくるからよ、ここに居てくれな」

「あ、はい、分かりました」


 救い主が行ってしまった。広場の端にあるベンチは静かな空気で包まれている。いたたまれなくて腰を上げようとすると――。


「ペルソナ、もう観念しな。ここで逃げたら後悔する事になるよ。結界を張ってあげるから、きちんと話して」


「シン……。はぁ、分かった……」


 泣きそうな顔になっているカハルの背や頭を、白族の子が二人で撫でてあげている。


「その子達は?」

「ニコちゃんとヴァンちゃんだよ。カハルの面倒を見て貰う為に雇った子達だよ」


 ペコリと頭を下げてくれた二人に会釈を返し、セイとカハルを見る。


「いつ転生したんだ? まるっきり気配がしなかった」


 カハルは私が魔力を渡した時の記憶は無いだろう。この子に伝えると絶対に自分を責めてしまうだろうから、口を噤んでいた方がいいだろうな。


「シンが私を倒したのは知っているか?」

「ああ、聞いた」


「そのすぐ後に『世界』が散々辛い思いをさせたから、チャンスをくれると言って、私の魔力を利用する事で転生させてくれたんだ。その時に『世界』が新たな体をくれたんだが、それに魂が馴染むまで山奥のデラボニアで、つい最近まで眠っていたんだ。それに、完全に魔物が居なくなるまでは、私の気配が漏れると困るだろう? 多分『世界』が私の気配を隠してくれていたのだと思う」


 セイは一応頷いてくれたが、カハルは私をずっと見つめたままだ。


「……嘘を付いているでしょう? 大事な部分が抜けていると思う」


 やはり、この子は誤魔化せないか。だが、真実を伝える事に不安がある。


「ペルソナ、話してあげて。カハルに嘘は通用しないよ」


「……分かった。さっき言った事が全て嘘ではないよ。カハルに記憶はないだろうが、シンが私を倒したすぐ後に、仮の体が限界を迎えて魂が離れかけていたんだ。だが、『世界』に助かる方法が一つあると言われた」


 この先を言うのを躊躇っていると、カハルに目で懇願される。どうあっても聞く気か……。


「……私の魔力の半分をカハルに渡して命を繋いだ。神の能力はそのままだが、転生に使った魔力も含めると九割ほどが無くなった。だから、今の私は魔力が少し強いだけの人間だ。移動の魔法も使えない。……頼む、そんなに泣かないでくれ」


 指で涙を拭っても、次から次へと溢れてくる。……困ったな。昔から私は泣き止ますのが一番下手なのに。


「カハルを責めるつもりなど毛頭ない。助けられて本当に嬉しかったんだ。カハルが助かるなら、全てを投げ出しても惜しくないと今でも思っている」


「そ、そんなの、駄目だもん。……ぐすっ、ひっく……ペルソナが居ない世界なんて……私……耐えられ……ないよ」


 喜んではいけないのに、今の言葉は涙が出そうな程に嬉しい。どれだけ恨まれ嫌悪されても仕方がないと思っていたのに、ずっと私を大事に想ってくれていたのだと知る事が出来た。


「私もお前達と共に居たいとずっと願い続けてきた。長い間苦しめて本当に済まない」


「苦しい、のは……ぐすっ……ペルソナも、でしょ? わ、私ね、うっ、ひっく、もう一度……笑って、欲しかった、の。……悲しい目は、もう……見たくないの」


 思わず抱き締めていた。どれだけ望んでも、いつも最後の瞬間にしか抱き締めてやれなかった、私の愛し子。その分を埋めるように強く抱き締めると、カハルがギュッと抱き付いて来る。


 小さな手がもう二度と離れないというように服を強く握って来る。大人の体を維持する事が難しいのか……。こんな状態になっても私を諦めずにいてくれた事に深い感謝を覚える。思わず涙ぐんでいると、下から泣き声がする。


「うぅっ、良かったよぉぉ、ずずっ、ぐすっ」

「俺もちょっと貰い泣きした。ニコ、鼻紙あげる」

「ありがどう……うっ、うっ、うわーーーん」


「ふふふ。喜んでくれて、ありがとうね。――よしよし。ほら、ヴァンちゃんもおいで」


 シンが涙を拭いて鼻をかませてやると、二人まとめて抱き締めてやっている。


 白族の子達が私達の再会を喜んでくれているようだ。きっと、カハルが酷く落ち込んでいたのだろう。


 カハルを胸に抱いたままセイに向き直る。


「済まなかったな、長い間待たせて」

「長過ぎだ。もう待ちくたびれた」


 プイッと後ろを向いてしまう。こんな態度は昔から変わらないな。


「ふふ、ははは」

「な、何を笑っているんだ!」

「お前は拗ねるといつもそうだ。こちらへおいで。もっと顔を見せてくれ」

「さっきは逃げようとしたくせに……」


「本当に済まない。お前達に私はたくさん酷い事をしたから……会うのが怖かったんだ。だが、これだけは信じて欲しい。お前達を片時も忘れた事は無いよ」


 私は散々この子達の心を踏みにじって来た。いくら責められたとしても、それは仕方がない事だ。


「俺だって……」


 あまりにも小さな声で内容が分からなかった。


「済まない、なんと言ったんだ?」


「~~~っ、俺だってずっと会いたかったんだ! それに、いつか殴ってやろうと思っていたんだ! カハルに沢山辛い思いをさせて、一人で全部背負って! 俺達は家族じゃないのか⁉ 何で相談しないんだ!」


 照れているのか、真っ赤な顔で怒鳴ってくるセイにポカンとしてしまった。カハルも涙で濡れた顔を上げてびっくりしている。


 こんな大きな声を出すのは初めて聞いた。……そういえば、セイに怒鳴られたのは人生初だな。


「あはははっ。いいね、殴っちゃいなよ。もうボッコボッコにしてやって。後ろ向きの思考を幸せの方にボキッと曲げちゃっていいよ」


 シンが宥めるように背をポンポン叩くと、耳まで真っ赤なセイがまたそっぽを向いてしまう。恥ずかしがり屋の所は、いつまで経っても変わらないな……。


「気が済むまで殴ってくれていい。カハルもそうだ」


 カハルが膨れっ面になってしまった。何がいけなかったんだ?


「真面目?」

「真面目だね」


 白族の子達がコソコソと話しているので、聞き耳を立てる。


「こうすればいいと思う。セイ、これからはずっと一緒だ!」


「ペルソナさん! あ、『さん』を付けちゃった。えへへ、やり直しね。――ペルソナー!」


 そう言って抱き合っている。


「ほら、真似して」


 シンがカハルを代わりに抱っこすると、急かしてくる。今のを真似すれば正解なのか?


 セイの前に回り込むと怪訝そうな顔で見て来る。こんなに大きなセイを抱き締めるのは初めてだな。私と身長が変わらないか? あんなに小さかった子がこんなに大きくなるなんて、時の流れとは凄いものだ。


 恐る恐る抱き締めると、肩に顔を埋めてくる。良かった……。逃げられるかと思った。


「お前にも辛い思いをさせたな。これからはずっと側に居る。生涯に渡って罪を償――」


「違う。償って欲しいんじゃない。俺達はペルソナに幸せになって欲しいんだ。一人で勝手に諦めないでくれ。ヒョウキも言っていた。この世界に住む者は幸せになる義務があると。俺達にもペルソナが幸せになる為の手伝いをさせてくれ」


 幸せか……。随分と昔に置いて来てしまったな。私が望んではいけないものの代表だった。それをまたこの手に掴んでもいいと言うのか?


「殴るんじゃなかったのか?」

「……今のペルソナでは死んでしまうだろ」

「おいおい、そこまで柔じゃないぞ」

「駄目だ、今度こそ長生きして貰う。俺が守る」


 殴る気なんて最初から無いという事か。それを分かってあげられなかったのだから、カハルも膨れっ面になる訳だ。


 セイの機嫌が直った事で、白族の子達が正しいという事が証明された。私よりも色々と分かっているようだから、今後は相談役になって貰うか。


 無言になってしまったセイの頭を暫く撫ででやっていると、満足したのか顔を上げる。


「……言い忘れていた事があった。シン、カハル」

「ふふっ、了解」

「せーのっ!」


「「「おかえり、ペルソナ」」」


 心を鷲掴まれたような衝撃が走る。もう我慢できなかった。溢れる涙と共に言葉を押し出す。


「……ただいま、私の……家族……」


 後は言葉にならなかった。三人で横一列になって満面の笑みで言ってくれた言葉。きっとどれだけ記憶を失っても、必ずこの場面だけは鮮明に覚えているだろう。


 ただいま、私の愛する者達。そして、これからもよろしく。



ペルソナの新生活がスタートです。キャロさんが居れば大安心ですね。

ニコちゃんが盛大に泣いていますね。カハルがどれだけ悲しんでいたか知っているので、こみ上げてしまいました。

セイが幼い子供のようになっています。いつものお兄ちゃんらしさはどこかに行ってしまいました(笑)。みんな会えて良かったね。

これでペルソナ視点は終了です。


次話は、ニコちゃんに視点が戻り、みんなで焼き芋大会を満喫します。


お読み頂きありがとうございました。


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