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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0328.ペルソナ2

今話はペルソナ視点です。

「小さい……。柔らかだ……」


 待ちに待った誕生の日。セイがシンの腕の中に居る赤ん坊に見惚れている。


 目すら開いていない誕生したばかりの命。シンが朝早くに迎えに行っている間、セイは落ち着かずにずっと歩き回っていた。念願のご対面だ。


「こんなに小さいんだねぇ。ほら、手もこんなに小さいよ」


 フォレストが感激した様に小さな手をそっと撫でている。


「セイ、名前を発表しないのか?」


 私の言葉に緊張した様子でセイが顔を上げる。


「俺にも聞かせてくれ」

「……カハルにした」

「カハルか……。綺麗な響きだな。気に入った。この子はこれから『カハル』だ」


 シンの承諾にホッとしたようにセイが息を吐く。散々悩んで決めた甲斐があった。だが、喜んでばかりも居られなくなる。急にカハルが火が付いたように泣き始めたのだ。私もシンも、セイの時はこんな状態を経験していない。どうすればと慌てる私達を尻目に、フォレストが抱き上げ、あやし始める。


「急に沢山の人でびっくりしちゃったのかな? 大丈夫だよー。皆、優しい人ばかりだよ」


 その優しい口調にハッとしたのは私だけではない。セイの時のような事は二度とあってはならない。シンが決意した様にカハルに話し掛ける。


「カハル、お父さんですよ。この子はセイと云って、カハルのお兄さんだよ」


 照れも多少混じっているが見事に口調が変わっている。泣き止み始めていたカハルをフォレストから受け取り胸に抱く。恐る恐る見守る私達の視線を受けながらカハルは眠りに就いた。


「――はぁ、焦った……。フォレスト、助かったよ。悪いけど暫く一緒に暮らしてくれない?」


「勿論。僕からお願いしようと思っていた所だったから凄く嬉しいよ」


 快諾して貰えた事にシンと共に安堵の息を吐く。助かった……。色々と学ばせて貰おう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食事などの世話は一切要らないので手は掛からないが、時々酷く泣いて手がつけられない。困り果てる私とシンを余所に、セイとフォレストのあやすレベルがどんどん上がって行く。焦りを覚えながら必死に泣き止ませようとする私とでは雲泥の差だ。そんな中、シンが宣言する。


「泣き止ませるのはセイの係ね。僕達ではレベルが足りない。でも、努力は続けるからね」


 変えた口調が板についたシンが、セイにカハルを渡す。セイは不満がる事も無く、大事そうにカハルを抱いている。すっかり良いお兄さんだ。


「ペルソナとフォレストは『世界』の所に行ってくれる? 何か話があるんだって」


 どうせ碌な事じゃないと呟いているシンを横目に見てから、フォレストと首を傾げる。


「何だろうね? まぁ、行けば分かるか」

「そうだな。では行って来る」

「うん。いってらっしゃい」


 『世界』と繋がる事が出来る空間に移動の魔法で向かう。



 要約すると、カハルによって世界が整備されたら、そこに『世界』が創った人間を住まわせる。私達は陰ながらに人間をサポートしろという事らしい。まずはフォレストに精霊たちを生み出して欲しいという話だった。


「はぁ⁉ 何様だよ。精霊なら自分で生み出せばいい。俺達は部下じゃないんだぞ!」


 シンがすっかり元の口調に戻り憤慨している。


「そうだね。部下じゃないけど、持ちつ持たれつって感じだよね。それに、僕が生み出せば、僕の言う事をきちんと聞いてくれるじゃない。メリットの方が大きいと思うよ」


「だけど、暫く居なくなるんだろう?」


「残念ながらね。でも、ちょくちょく様子を見に来るよ。カハルとセイの成長を見逃すなんて悲しすぎるもの」


 溜息を吐くシンの肩を叩き、フォレストは移動の魔法で消えた。


「ペルソナは何て言われたんだ?」

「私は人間が生まれたら陰ながらにサポートして欲しいと言われただけだ」


 不満そうな顔をするシンに小さく笑っていると、セイが私のズボンをツンツンと引っ張って来る。


「ペルソナは居てくれるのか?」

「勿論だ。セイ達と一緒に居る」


 フォレストが居なくなり、不安そうにしていたセイの顔が緩む。必要とされている事に嬉しさを覚えながら頭を撫でてやった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おとうちゃ、みてみて!」

「どうしたの、カハル? ……花? これ、どうしたの?」

「わたちがつくったのー。しゅごい? ほめてー」


 シンの顔に一瞬だけ険しさが走る。とうとう創造主の力が使えるようになったか……。これから『世界』の計画が進んでいく。果たして吉と出るか凶と出るか。嬉しそうなカハルとは正反対に不安を覚える。


「……凄いね。お父さん、びっくりしちゃって声が出てこなかったよ。偉いねぇ。よしよし」


 満面の笑みで撫でられているカハルをセイも不安そうに見ている。聡い子だから気付いてしまったのだろう。


「セイ、私と一緒にカハルを守っていこう。いいな?」

「ペルソナ……。分かった、これから強くなる」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから世界は刻々と姿を変えていった。森や川や海、草木や山脈や空などが次々と姿を現す。カハルの望む美しい世界が、砂漠しか無かった地に創られていく。このまま私達だけで生きていければ何も言う事は無い。


 だが、当初の予定通り、『世界』は人間をこの世界に創り出してしまった。そして、完璧な人間を創る副産物として魔物も生まれる事となる。


 これが長き時を掛けて戦い続ける事になった始まり。当時の私達では予想もつかなかった流れに巻き込まれた瞬間――。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この後、シンとセイとカハルは世界の細かい修正を行う為に旅に出る事となる。私はというと、人間と魔物の両方の世話を焼く事になった。


「おい、魔物をいじめるな。この子が何かしたのか?」


「だって気持ち悪いんだもん。目が赤くてギラギラしててさ。ほら、僕の事を睨んでいるし」


「それはお前が攻撃したからだろう。頼むから仲良くしてくれ」


 注意した人間の子供は不貞腐れたように離れて行く。木の棒で叩くなど全く酷い事をする。


「大丈夫か? 取り敢えず傷を水で洗おう。おいで」


 五十センチ位のネズミのような魔物は大人しく私の後を付いて来る。こんなに大人しい者をなぜ攻撃するのか? 人間とは思っていたよりも残酷な生き物なのか?


「痛かったな。少し染みるが我慢してくれ。――よし、良く我慢したな。薬を塗っておくが、また痛むようなら私の所に来るといい」


 頷いた魔物は、包帯を巻いてやった左腕を擦りながら、森へとトボトボ戻って行く。人間が増えてきた所為か、このような事が増えて来た。


 自分とは違う生き物、見た目の違う同族などを人間は容赦なく攻撃する。怯えがあるのか? それとも理解を拒んでいるのか?


 私にとっては新しく生まれた命は全て一緒だ。何かを考えたり思いながら息を吸い、食べ物を摂取して日々を一生懸命に生きて行く。どこに違いがあるのだろうか?


 確かに魔物の中には残忍な考えを持っているものや暴力的な者も居る。だが、そういう者が全てではないし、人間にも同じ事が言える。


 元々、大人しかった魔物も人間の執拗な攻撃から身を守る為に、反撃するようになってきている。当然の結果だろう。何の罪もないのだから。


 そして、恐れていた事は起こった。人間が魔物の子供を殺してしまったのだ。それに激怒した馬型の火の魔物が村に火を放ち、集落を一個壊滅させてしまった。


 この後、人と魔物の争いは激化していく。


 人間は知恵があっても数と武器が無い限り、酷く弱い生き物だ。切り裂く爪、高い身体能力、襲い掛かる為の牙。何もない彼等は、魔物や動物たちにとって至極簡単に命を奪える相手でしかない。最初は人間が押していたが、みるみる内に数を減らしていった。


 この流れを止められないと悟った私は、魔物達の統制を取る事で人間を守ろうと考えた。魔物全てを管理下に置けば戦いは止められる筈だ。


 次々と各地のリーダー格の魔物を従わせていく。言う事を聞かない者は止む無く輪廻の輪に戻す。元々、魔物の世話を良くしていたからか、素直に従ってくれるものが多いのが救いか。


 全てを支配下に入れ終わる頃には、人間達は酷く数を減らし端々に追いやられていた。これで戦いは収束するだろう。ホッと安堵して久し振りにシン達に会いに行く。



 気配を探ると、シン達は砂漠の中の洞窟に居るようだ。


「シン、久し振りだな」


「――ペルソナ? 無事だったか……。全く無茶をする。人間なんて放っておけばいいものを」


「そう言うな。この世界に生まれた大事な命だ。魔物も人も同じだろう?」


「その慈悲がお前の首を絞める事になるかもしれないだろう? まぁ、いい。今日はゆっくりしていけ。カハル達も首を長くして、お前を待っていたんだ」


 遠くからセイとカハルだろうか? が駆けて来る。


「ペルソナ、お帰り」

「ペルソナ、お帰りなさい!」


「――おっと、カハル大きくなったな。セイ、ただいま。そうか、そんなに年月が経っていたか……」


 抱き付いてきたカハルはすっかり背も大きくなり、少女から大人の女性に変わりつつある。セイの背もびっくりするほど大きくなっていた。ほぼ私と同じだな。


「フォレストはどうした?」

「人間の村に往診に行っているよ。全く、あいつもお人好しだから……」


 シンの不満が大分溜まっているようだ。


「これからは平和になるだろう。私もまた一緒に住めるようになる」


「本当⁉ やったー! 話したい事がいっぱいあるんだよ。旅の間の話とか、幻獣さんの話とか――」


「ああ。私も皆と一緒に過ごす事を励みにしてきたんだ。ゆっくり聞かせて貰おう」


「うんっ。セイ、良かったね。忘れられて無かったよ」

「カハル! それは……」


 セイが頬を赤く染め、そっぽを向く。


「そんな風に思っていたのか? 私はひと時もお前達を忘れた事は無いよ。これからだってそうだ。さぁ、話を聞かせてくれ」


「えーとね、今回の旅は最初に海に行ったんだよ。砂浜が続いていたんだけどね、ちょーっと失敗していて途中から芝生になっているの。びっくりしちゃったよね、セイ」


「ああ。カハルが創るときに思考が海から芝生になったんだろう?」

「そうなの! だってね、創っている時に馬が走って行ったから、ついね」


 旅の間のカハルの失敗談やセイの様子を聞いて、久し振りに心から笑った。また穏やかな日々が始まるのだなと幸せを胸に眠りに就いた。



「ペルソナ様、今すぐご帰還を!」


 鳥型の魔物が必死の形相をして朝一番でやって来た。


「どうした? 何が起きた?」


「人間達が徒党を組み我らの領地にやって参りました。この土地は我ら人間の物だと主張するので、ペルソナ様のご指示通りに話し合いの場を設けようとしたのですが……」


 そこまで聞いた所で移動の魔法を使った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「こちらへどうぞ。武力ではなく話し合いで解決致しましょう」


 不信感もあらわな人間が眉を顰め、案内しようとしていた仲間を背から斬り捨てる。


「――ぐぅっ、はっ……」


「はははっ、ふざけるな! 話し合いだと? 俺達の土地を盗んでよく言う。ほら、出てけ! 出ていけよ‼」


 剣を振り回して人間が暴れ始める。愚かな……。ペルソナ様の厚意を踏みにじるとは。あの方がどれだけ心を砕いて来たかまるで分かっていない。


「待って下さい、話し合いましょう! お互いにきちんと正しい理解を――ごふっ……な、ぜ……」


 必死に止めた仲間を槍が突き刺す。憐れな……。ここまでされて我慢する必要が本当にあるのだろうか? 幹部として話し合いの場に出ようとしていた私は足を止めた。


「――なんだ、これは……」


 呆然としたペルソナ様が私の横に現れた。


「自分たちの土地だと喚き立て、話し合いを主張する我らを手に掛けました。彼らは悔い改めるという事を知らないのですか? 何故、戦いの歴史を繰り返すのでしょうね? 申し訳ありませんが私は限界です。彼らはあなたの優しい心までをも踏みにじった。勝手な振舞いをお許し下さい」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 止める間もなく、幹部の放った大量の瘴気に包まれ、一瞬で全ての人間が息絶え灰となった。


 もっと早く私が駆け付けていればと考えて打ち消す。人間と魔物は相容れない。受け入れる素振りさえ見せない人間を魔物達は見限るだろう。この幹部のように。


 この先どちらかが消え去るまで戦いは続く。


 私は既にどちらを取るか決めてしまった。脳裏にシンやセイ、カハル達の顔が浮かぶ。彼らは私と同じ道を選ぶだろうか?


魔物は元々悪い存在ではなく、一部の残忍な奴を除き、人間と共に仲良く過ごそうと思っている者ばかりでした。人間の過剰な恐れが関係を壊していきます。ペルソナや魔物の努力も、人間が恐れを手放さない限り実る事はありません。シンはこの頃から徐々に人間を嫌い、見限り始めています。


次話は、ペルソナとシンです。


お読み頂きありがとうございました。

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