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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0327.ペルソナ1

ここからは、しばらくペルソナの視点となります。

こんな風になってしまったのはいつからだろう? どうすれば正しかったのだろうか? 答えは出ない――。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 最初に『世界』と共に生まれたのは、神である私とシンの二柱。二人で一つのような存在。シンが光なら私は闇だろうか。


 百年程は二人きりの静かな時間が続いた。そんなある日――。


「ペルソナ、俺はこの身を割いて息子を得る。もう、こんな暮らしは耐えられない」


 私達以外の命は生まれず、灰色の何も無い世界に二人きり。最近はずっと苛立っていた事を知っている。


「そうか。だが、大幅に力が削がれるぞ。それでもいいのか?」

「ああ。覚悟の上だ」


「では、私の力も少し注ごう。二分しただけでは、ただの分身になる可能性がある」


「……そうだな。頼めるか?」

「ああ」


 私が見守る中、シンの力が二分され、空中に一抱えあるくらいの白い球体が浮かび上がる。そこに私の力を注ぎ込むと銀色に輝き始めた。

 ゆっくりとシンの目の前まで下りて来たそれが、差し出した手に触れるとパチンと弾けた。すると、シンの腕の中には、小さな男の赤子が親指を口に含みながら眠っていた。


「お前に良く似ている。名前はどうするのだ?」

「そうだな……。セイにしよう。どうだ?」

「いいのではないか? 赤子も気に入ったようだ」


 目を覚ました赤子がシンをじっと見上げた後、タイミング良く「あぶ」と言っている。嬉しそうに目を細めたシンが大事そうに抱き締める。これで少しは心が落ち着くといいのだが。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シンの半身だけあり、私達と同様に食事なども必要としないまま育っていく。面倒を見る必要が全く無いな。それでも嬉しそうに赤子をあやすシンに安堵する。


 赤子がハイハイを初めてした日に劇的な変化が起こった。荒涼とした砂漠が突然目の前に広がり、地の果てまで砂に変わって行く。そして、待ちに待った新たな住人が目の前に唐突に現れた。


「こんにちは、僕はフォレスト。僕も『世界』と共に生まれた存在だよ。と言っても、僕はずっと意識体でしかなかったけどね。力を付けた『世界』が僕に体をくれたんだよ」


 警戒するシンに笑顔を向け、「どうも」と挨拶している。特に悪意も嘘も感じない。


「ねぇ、その子は君の息子? 『世界』に作り出して貰ったの?」


 睨みつけたまま口を開かないシンの代わりに話す。


「私はペルソナ。そちらの男がシン。そして、その息子のセイ。セイはシンが生み出した」


 余計な事を言うなと睨まれるが、敵ではないし無言では話が進まない。


「そうなの。よく似ているね。僕にも抱っこさせてくれないかな?」

「何故、初対面のお前に? 図々しいにも程がある」


「こら、シン。その言い方はないだろう? フォレスト、済まない。大事な存在が出来たからピリピリしているのだ」


「いいよ、僕が無神経だった。徐々に僕と仲良くして貰えれば嬉しいよ。君達の事は意識体の時から知っていたから気安くなっちゃってね。取り敢えず僕は西の砂漠の泉の所に居るから、良かったら訪ねて来て。それじゃ」


 そのまま姿が掻き消える。シンのきつい口調に怒ることなく、優しさで返したあの男となら良い関係を築いていけそうな気がする。


「なぜ、あの男にベラベラと喋った?」

「ずっと私達を見ていた相手に嘘を言う必要があるのか?」

「あの男が真実を言っていた保証でもあるのか?」


「逆に聞くが何故分からない? やはり能力が落ちたか? それとも盲目的になったと言うべきか?」


 ギリッと歯を喰いしばるシンをじっと見る。後者か……。大事な存在を奪われまいとする頑なさが顕著だ。だから、判断を誤るのだ。


「お前はその子を誰にも会わせず縛り続けるのか? それでは何も無い世界に憤りを感じていたお前と、同じ目に遭わせる事になるぞ」


 シンが弾かれたように顔を上げて俺を見た後、戸惑ったようにセイに視線を落として溜息を吐く。


「……そうだな。改善するよう努力する」

「そうか。では、明日フォレストに会いに行こう」

「分かった」


 シンのピリピリしていた雰囲気に押し黙っていた赤子がやっと緊張を解く。頭を撫でてやると安堵した様に眠りに就いた。





「やぁ、良く来てくれたね。その辺りの岩にでも座ってくれる?」


 翌日、尋ねると好意的に迎えてくれた。昨日の事で気分を害していなくて良かった。


「フォレストは『世界』と接触したのだろう? 今後この世界をどのようにするか聞いているか?」


「ううん。でも、いま出来る事はある程度分かるよ。僕に体をくれたのから分かるように、『世界』は命を生み出す事が出来るようになったと思う。後はこの世界の魔力がどんどんと上がっているよね」


 命か……。いたずらに生み出しても今の環境では生き残れないだろうな。フォレストに体を与えたという事は、環境を整えさせる為か?


 シンに話し掛けようとしたが、決意した様に顔を上げたので止めた。


「……昨日は済まなかった」


「えっ⁉ いいよ、気にしないで。君を見ていれば、どれだけ大事に想っているか分かるから」


 シンが謝る事が出来たか。これなら問題無さそうだな。


「……抱っこするか?」


「ありがとう。――よいしょ。柔らかくて温かいね。僕はフォレストだよ。よろしくね、セイ」


 不思議そうにじっと見つめ、「あー」と手を伸ばす。


「ふふっ、握手だね。いつでもおいで。歓迎するから」


 その様子にシンの顔が緩む。これから楽しくなりそうだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 セイの成長速度は思ったよりも速い。歩けるようになったので最近は目が離せなくなった。寝ているからと暫く目を離していたら、かなり遠くまで歩いて行ってしまって焦った事がある。見て回るのが好きなのか、最近はシンや私と散歩に行きたがる。


「フォレストの所に行く?」


 コクリと頷いたセイを抱いて、移動の魔法でシンが消える。私も行くか。


「いらっしゃい。セイはまた大きくなったね。今更だけど食べ物はいるの?」

「いや、世界からエネルギーを吸収しているから問題ない」

「そう。ここには水しかないから良かったよ」


 シンの答えに安堵しているフォレストも私達と同じ状態か。生まれた時から私の頭の中には膨大な知識がある。通常は食べ物や水、その他にも暮らしていく為に必要なものが沢山ある。


 私達は自分の周りの温度も調節できるし、服も思い描けば作る事が出来る。だが、他の生命達は生きる事に非常に労力がいる。弱く懸命に生きる者達を守る為に私達は生まれたのだろうか?


 思考の海に沈んでいると、気になる言葉が聞こえてきた。


「歩くのは凄く上手だけど、セイはまだ喋らないね。いっぱい話し掛けている?」


「そうはしているんだが、未だに何も喋れないな。それとも、体に何か問題があるのだろうか……」


「うーん、ちょっと失礼。――特に体には問題なそうだけどね」


 何故そんな事が分かるのだろうか? 私の不思議そうな表情に気付いたフォレストが答えてくれる。


「僕は医者としての能力があるから。それと、ほら、あの植物。僕が創り出したんだよ」


 泉の周りに緑が増えている。フォレストから離れたセイが、気になるのか草を撫でている。


「セイ、泉があるから近付き過ぎるな」


 シンにコクリと頷き距離を取る。理解力には全く問題が無く、むしろ高い位だ。


「ねぇ、シン。気になっていたんだけど、セイに対していつもその口調なの?」

「何か問題があるのか?」


「正直に言うと、小さい子には厳しく聞こえると思うんだよね。僕達は全然平気だけど」


 そんな事をシンも私も考えた事が無かった。人が増えると多種多様な考えに触れる物だな。


「フォレストの様に喋ればいいのか?」


「僕のようでなくてもいいけど、柔らかい口調と言葉を選べば良いんじゃないかな?」


 シンが悩みながらセイに話し掛ける。


「セイ、こっちにおいで。僕の膝に乗るかい?」


 セイが戸惑ったように私を見る。そうか、手遅れか……。


「不審がっているね。ずっとその状態だったから普通になっちゃったのかな」

「俺もセイにこういう喋り方をすると、気持ち悪くてムズムズする。セイ、来い」


 今度は素直に近付いて来た。幼い頃の環境というのは、非常に大事だなと痛感する。


「セイ、俺の名前を言ってみろ」

「? シン」


 喋った⁉ 喋れたのかと全員が驚愕する。


「何で今まで喋らなかったんだ?」


「喋れって言わなかった。それに、あまり必要性も感じなかった。シンやペルソナの問いかけは首を振れば良い事ばかりだったから」


 シンが手で顔を覆っている。私達は子育てが向いていないのか?


「お父さんて呼ばないの?」


「誰もシンの事をオトウサンという名前で呼ばない。本当はオトウサンという名前なのか?」


 フォレストが微妙な顔で私達を見る。既に色々と手遅れだ。喋り方もまるで私達のように淡々として子供らしさが欠如している。


「――セイ、俺の名前はシンで間違いない。今まで通り、シンと呼べ」

「いいの? お父さんて言われたいでしょ?」


「手遅れだろう? 混乱させるよりもいい。はぁ……。もっと早くフォレストが来ていれば……」


 セイは不思議そうに見ていたが、植物の方が気になるのか、しゃがみ込んで観察している。


 ダメージを受けた私達は、そのままフォレストの所で一晩を明かした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 口数は少ないがセイが喋るようになり、体つきもしっかりしてきた頃。セイがポツリと呟く。


「兄弟が欲しい」


 私達は愕然とする。各々が、どうやって生み出そうかを必死で考える。シンはもう力を分ける事は出来ない。私の力を二分するか? だが、シンの力が弱くなってしまった今、何かあった時の為に温存しておきたい。隣ではシンとフォレストが頭を抱えている。


「無理?」


「いや、少し待て。俺も娘が欲しいと前々から思っていた。『世界』と交渉してくる」


 移動の魔法で消えたシンは中々戻って来ない。


「フォレスト、私の知識に『デラボニア』という命を産み出す木があるが、創れるか?」


「……ああ、知識の中にあるねぇ。でも、それは僕の管轄じゃなくて、『世界』の方だよ。それにシンや僕達には『デラボニア』が存在しないんじゃないかな? 僕達は『世界』が魂を創った存在じゃないからね」


 一瞬目を輝かせたセイが諦めたような顔になってしまった。シンに期待するしかないか。


「あの野郎……。人を下に見やがって……」


 シンが悪態を吐きながら戻って来た。顔が怖すぎてセイがビクッとしている。頭を撫でてやっていると、フォレストが成果を聞く。


「どうだった? その様子じゃ無理だった?」


 深呼吸をいくつか繰り返して気を落ちつけてから、シンが口を開く。


「今は無理だと言っていた。試験的に人間を創る方を優先すると言っている」

「新たな命が生まれるの? この環境だと直ぐに亡くなっちゃうよね」

「ああ。俺もそう言ったが聞きゃあしない。ったく、頭が固い!」


 苛立たしそうに言葉を吐き捨てる。


「シン、妹は?」


「悪い、セイ。暫くは我慢してくれるか? 俺が何度でも行って交渉してくるから。あの頑固頭を頷かせてやる」


 瞳に炎をともしたようなシンがセイに約束している。この男はやると言ったら絶対にやり遂げる。もう『世界』には諦めるという選択肢しかない。


「分かった、待つ。フォレスト、ペルソナ、一緒に妹の名前を考えて欲しい」

「うん、分かったよ。楽しみだね」

「私も一生懸命に考えよう」


 叶う事を確信している時点で、シンの子だなとしみじみ感じる。シンの性格を正し過ぎる程に理解している。


 この子に一日も早く妹がもたらされますように――。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シンは有言実行とばかりに、毎日『世界』の所に行っている。最早、嫌がらせの域だ。帰って来る度に悪態を一つ二つ吐き、気を取り直したようにまた向かう。今日も、いつものように帰ってくるのだろうと、セイと一緒に待つ。


「――やったぞ、ついに了承させた! セイ、喜べ!」


 シンは満面の笑みでセイを抱き上げ、高く天に掲げる。


「妹が来る?」


「ああ、そうだ。人間を創るのが上手くいかないらしい。俺が忠告した様にこの環境じゃ無駄だったようだ。俺の娘になる子を創造主として創り出すと言っていた」


「シン、ありがとう!」


 セイの満面の笑みを初めて見た。シンも胸を突かれたようにその顔に見入っている。良い変化がやって来たようだな。


「シン、創造主という事は私達と似た様な存在という事か?」


「ああ、そうなるな。まずは、その子に世界を整備して欲しいと言っていた。だが、俺の娘をいいように使うようだったら唯じゃおかない……」


 黒い笑顔だな……。だが、セイも頷いている。似た者親子か。


「フォレストにも知らせに行こう。セイ、ペルソナ、行くぞ」


 腕を掴まれ連行されていく。喜びで弾けそうだな。シンのこんな幸せそうな顔が見られるとは思っていなかった。『世界』に感謝を捧げよう。


 フォレストに伝えると、セイを抱き締めて頬擦りしながら、「良かったねぇ~」を連発していた。これから来るシンの娘は、暑苦しい程の愛情で包まれる事になるだろう。


やっとペルソナが語る所まで来れました。ここまで頑張れたのも読者様のお蔭です。本当にありがとうございます。ブックマークをして下さる方も増えて非常に嬉しく、感謝でいっぱいです。(∩´∀`)∩

セイがなぜ『シン』と呼ぶのか。それは、シン達の教育の賜物です(笑)。

フォレストはよく子育てのお悩みを聞いてあげます。


フォレスト 「僕も知識があるだけで経験はないよ」

シン    「俺達よりはマシだ」

フォレスト 「そ、そっか。それで、今日はどうしたの?」


みたいな会話をよくしています。頼りになるのはフォレストしかいない! 頑張れ~。


次話は、カハルの誕生と成長です。


お読み頂きありがとうございました。

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