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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0323.沢庵作り

 いつものように配達を終えて戻ってくると、シン様とメイド長さんが話しながら廊下を歩いて来る。


「シン様ーーー!」


 胸を目掛けてジャンプすると、しっかり抱き留めてくれる。


「元気だねぇ。カハルはヴァンちゃんと一緒なのかな?」

「はい。午前は僕で、午後はヴァンちゃんがおんぶしてます」

「そう。カハルは人見知りしていない?」


「最初はしていましたけど、今はすっかり慣れましたよ。各国の官吏の皆さんが心待ちにしている状態です」


「おや、人気者なんだね。でも、白ちゃん達も心待ちにされていると思うよ?」


「そうなんですかね? この書類をどうか持っていって~、という懇願はよくされますけど」


 メイド長さんが想像したのか、クスクスと笑っている。そうなんです。必死に持ってくるんですよ。


 体力のないお兄さんが追い掛けて来た時は怖かった。青白い顔で床に倒れながら手を伸ばし、「ま~て~」とおどろおどろしい声で言われた時は、百メートルくらいダッシュして逃げた。


 その後もズルズルと腕だけで這って来るので、涙目で兵士さんに助けを求めたら、代わりに書類を持って来てくれた。サインを見たら恐ろしい生き物ではなく会計部の人だった。あんな怖い登場の仕方は二度としないで欲しいと切に願う。


 思い出している間に執務室に着いていた。シン様の足は長いからすぐに着くよね。


「ただいま」

「ヴァンちゃん、お帰り。カハルはおねむだね」

「ん。配達中もほとんど寝てた」


 ヒョウキ様は居なかったので、ミナモ様に報告をして帰る。今日の晩御飯は栗だー!


 お風呂から戻ると、ふんわりと甘い匂いがする。


「今日は栗尽くしだよ」

「「バンザーイ!」」


 ヴァンちゃんと一緒にバンザイしていると、クマちゃんとドラちゃんも加わって来る。みんな楽しみにしていたんだな。


「ふふふ、そんなに喜んで貰えるなら作った甲斐があるよ。はい、栗ご飯を運んでね」


 おぼんに載せられたお茶碗には、黄色の栗とツヤツヤのお米が盛られている。見えている栗の数をかぞえながら運ぶ。一、二、三……四、五……。


「ニコ、そのまま進むと囲炉裏に落ちるぞ」


 セイさんに言われて足を止めると、あと一歩だった。はぁ、良かった……。栗が灰塗れになってしまう所だった。


 お礼を言ってお茶碗を置いていると、ヴァンちゃんが煮物を持って来る。あー、いい匂い……。


「これは茶碗蒸しね。ニコちゃんとヴァンちゃんは座ってていいよ」


 セイさんがお味噌汁を運んできて、残りをシン様が手早く運んでくる。


「じゃあ、食べようね、いただきます」


 唱和してまずは栗ご飯からだ。あーむっ、もぐもぐもぐ……。


「ご飯がもっちりしてますね」

「もち米を入れてあるからね」


 お出汁の旨味が染みたご飯と甘い栗。ごま塩を掛けると、より栗の甘みが引き立つ気がする。おかずが無くても、これだけで大満足の一品である。思わず半分も食べてしまった。


 白菜の浅漬けを食べてから煮物に箸を伸ばす。栗、サツマイモ、鶏肉、肉厚な椎茸が入っている。まずは栗からいこう。甘じょっぱい味付けで、干し椎茸の出汁が効いており、栗はホコホコしていてお醤油によく合っている。甘く煮た事しかなかったけど、おかずにもなるんだな。


 カハルちゃんは大好きな茶碗蒸しを食べている。まだ熱いのか、ふーふーと冷まして口に入れている。スプーンを器の奥まで入れると、大きな栗がゴロッと出て来た。


「わぁー、栗が入ってるよ。大きい栗だね」

「ふふふ、いつもは銀杏だけど、栗もいいでしょう」

「うん。あまーい」


 僕とヴァンちゃんも栗を探す。もっと下かな? お、あった、あった。ヴァンちゃんも見付けたのかニンマリしている。


「お宝発見」


 確かに。黄金でも見付けたような気分だ。えへへ、食べちゃおう。うん、甘い。


「この茶碗蒸しは少し甘めですね」

「栗を甘く煮た時の煮汁を少し入れてあるんだよ」

「成程。僕は甘めの茶碗蒸しも好きです」

「良かった。ご飯のお替りはいるかな?」

「お願いします」


 ブロッコリーをマヨネーズにつけて頬張っていると、ドラちゃんが近寄って来る。


「クワー」

「ん? ドラちゃんも食べますか?」


 頷くのでブロッコリーを差し出すと、喜んで食べている。あれ? 硬くないものでもいいんだ。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。ドラちゃんはブロッコリーが好きみたいです」


「蕾が集まっているから、食感が楽しいんじゃない? それにドラちゃんてマヨネーズが好きだよね」


「そうなのキュ。クマのブロッコリーを全部食べられちゃったのキュ……」


 クマちゃんが空っぽの器を切ない顔で見ている。


「俺の分けてあげる。――ニコ、そのままだとブロッコリーが全部食べられちゃう」


 視線をドラちゃんに戻すと、器に顔を入れるようにしてガツガツ食べている。


「あーーっ、後一個しかない!」


 ドラちゃんは夢中で聞いていないのか、パクンと食べてしまった。


「うぅっ、僕のブロッコリー……」


 僕は今、先程のクマちゃんと同じ顔をしているのだろう。


「大丈夫だよ、まだあるから。ドラちゃん、人の物を全部食べちゃ駄目でしょう。そういう事をすると、もうブロッコリーはあげないよ。ほら、ニコちゃんを見てごらん」


 落ち込む僕に気付いたドラちゃんが慌てて謝ってくれる。夢中になると周りが見えなくなっちゃうよね。


「今度から気を付けてくれればいいですよ。ブロッコリーはおいしいから夢中になるのも分かります」


 ドラちゃんはもう一度「ごめんなさい」と言って、クマちゃんの元に向かう。


「クワー……」


「いいっキュよ。今度は仲良く食べるのキュ。はい、あーんでキュ」


 シン様が新たに持って来てくれたものを食べさせてあげている。僕も食べようっと。――うん、おいしい!


「ヴァンちゃんもいるかな?」

「俺はもういい。シン様、明日お休み。沢庵作る?」

「うん、作ろうね。干し柿も作るからね」


 ヴァンちゃんはずっと楽しみにしていたので、「ひゃっほーい」と小さく呟いて、栗を口に放り込んでいる。


「デザートもあるから、お腹に余裕を残しておいてね」


 もう一杯、栗ご飯をお替りしようかと思っていたが止めておこう。どんなデザートが出てくるのかな? シン様が作るものだから、見た事が無い物に違いない。


 おかずのお皿やお茶碗を流しに運ぶと、デザートのお時間だ。


「はい、モンブランね。紅茶もどうぞ」


 何これ! こんなケーキは初めて見た。


「ヴァンちゃん、クリームが麺みたいだよ」

「うむ。黄色くてスパゲッティみたい」


 山のような形で先に行くほど細くなっている。螺旋状にクリームが絞られ、てっぺんには黄色い栗が丸ごと一個載っている。上を崩さないようにフォークを入れると、スポンジが土台になっており、その上に生クリームがこんもりと載っている。


「ニコ、中にも大きな栗が入ってる」


 ヴァンちゃんはてっぺんの栗を先に食べて、真ん中から割ったようだ。


「おぉー、豪華だね。いただきまーす♪」


 黄色のクリームをまずパクリ。


「――ん⁉ 栗だ!」


 スパゲッティみたいなクリームも栗で出来ていた。こんな贅沢なケーキがあっていいのだろうか。今度はてっぺんの栗を頬張る。


「んー、甘い……」


 甘く煮てあるようだ。このクリームはこれを潰した物なのかもしれない。


 ヴァンちゃんは黄と白色のクリーム、スポンジを合わせて口に入れている。目を細めて非常に幸せそうだ。その姿をカハルちゃんもニコニコしながら見ている。甘い物を食べると心が丸くなって自然と笑顔になっちゃうよね。


 シン様はそんな僕らを嬉しそうに見ながらコーヒーを飲んでいる。ブラックで飲むなんて大人ですね。


「――邪魔するぞ」

「ダーク、いらっしゃい」

「インフィオラータの報酬をクマグマ達に持って来たんだが」

「クマが連れて来てあげるキュ」


 クマちゃんが小さな扉に吸い込まれて行く。お家は被害が少なかったので復旧が早く、地下のお花畑で過ごす期間は短くて済んだ。シン様に色々と援助して貰いながら、綿作り以外は前と同じ生活に戻っている。


「一ヶ月やっていたんだね」


「ああ、各地で開くからな。あいつらが居てくれたお蔭で、例年よりも観光客が多かったから良い収益になった」


「そうなの。じゃあ、特別手当をよろしくね」

「ちゃんと入れてある。それに募金も多く集まったからな」


 それは良かった。これで安心して暮らせるだろう。


 綿の種はフォレスト様が増やしてくれた。精霊王は植物を急成長させたり新種を作ったりする事も出来るらしい。


 綿は順調に育っているし、工場もドンさん達が頑張って直してくれているので、近い内に全て元通りになるだろう。


「グマグマ」


 クマちゃんがリーダーを連れて戻って来た。


「これが報酬で、こちらが明細だ」


 封筒に入っているので小切手かな。きっと金額が大きいんだろうな。


 明細の紙はクマグマちゃんの身長よりも大きいので、中を見ないようにして広げてあげる。


「――グマ⁉」


 クマグマちゃんの息が止まっている。零れ落ちそうなほど目を見開いて棒立ちになっているので手を振ってみる。


「見てもいいですか?」


 僕が声を掛けるとハッとした様に激しく頷く。では、失礼して。


 五十人で頑張って働いてボーナスも加わっているので、六百万圓を越えている。うんうん、良かった。でも、これは驚くような事じゃないよね。


 ええと、お次は募金額を……。見た途端、僕も動きを止める。何、この金額……。


「みんなで見てもいいかな? ――ありがとう。おや、凄いね。募金が一千万圓だって」


「凄いだろう、俺もびっくりしたんだ。スタッフたちがクマグマ達には内緒で、各地に行くたびに募金箱を置いていたらしい」


 そんなに大規模なイベントだったのか。沢山の人の優しい心が詰まったお金だ。そりゃあ、クマグマちゃんも大号泣しますよね。


 ヴァンちゃんがよしよしと頭を撫で、クマちゃんがハンカチを渡してあげている。


「グマグマ――」


 何とお礼を言っていいのかと困り顔だ。でも、そんな大人数にお礼は難しいよね。


「そう思ってくれるのなら、次のインフィオラータの時にも来てくれ。お前達をまた見たいという声が多かったんだ」


「グマ、グマグマ――」

「是非行きますだそうです。ボランティアで参加するそうですよ」

「いいのか? 働いた分は払うぞ」


 ブンブンと激しく首を振って拒否している。


「ははっ、そうか。では、綿の栽培に影響が無い範囲で来てくれ。じゃあ、またな」


 ダーク様が帰ると、クマグマちゃんはシン様に小切手を渡している。


「いつものように僕がお金を管理すればいいんだね。了解」


 あんな大きな金額は怖いもんね。大きく胸を撫で下ろす姿に共感だ。


 ホッとしたクマグマちゃんがモンブランに目を留める。


「グマ?」

「モンブランなのキュ。栗で出来ているのキュ」


 栗で⁉ と驚いている。


「グマグマグマ?」

「随分と黄色いですねって言っていますよ」


「くちなしで色をつけているからね。モンブランはそれしかないけど、栗の甘露煮ならあるよ。持っていく?」


 大きく頷いているから持って行くのを手伝ってあげよう。


 いつもは冷静なリーダーも、お金の心配がなくなり甘露煮も手に入れたのでスキップして戻って行く。僕も一緒にしたい所だけど、破壊してしまうので我慢だ。


「グマー」

「どういたしまして。おやすみなさい」


 二人で深々とお辞儀し合って別れる。帰ったら明日の沢庵作りに備えて早めに寝よう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 今日はヴァンちゃんが待ちに待った、沢庵と干し柿を作る日だ。


「今日はお手伝いよろしくね」

「「はい!」」


 ヴァンちゃんは気合たっぷりで腕まくりをし、メモ帳とペンを握りしめている。あれは絶対に村で作るつもりだ。


「ふふふ、気合が入っているね。じゃあ、まずは大根を洗うよ」


 葉っぱの付いた細めの大根が何十本も積まれている。うわぁ~、あんなに漬けるんだ。畑中の大根を引き抜いて来たんじゃなかろうか?


 井戸の下に水を溜める所があるので、そこに大根を入れてタワシでゴシゴシ洗っていく。


「葉もよく洗ってね。洗ったのは僕に頂戴ね」


 シン様に渡すと風の魔法で水気を飛ばし、葉を包丁で切り落としている。そして、十本ほど並べ置くと、手をかざして大根の水分を抜いていく。


「ガーン……。俺、あんなの出来ない……」


 ヴァンちゃんが肩を落とすと、カハルちゃんがポンポンと背中を叩く。


「大丈夫だよ。紐で縛って軒下とか日が当たる風通しの良い場所に、雨とかで濡れないようにして二週間くらい干すといいよ。大根が柔らかくなって、ブーメーランみたいに曲がったら干すのは終了だよ。あ、そうだ、葉も使うから一緒に干してね。こっちは縛らないで広げて置いておけばいいよ」


 ヴァンちゃんはフンフンと頷いて一生懸命にメモを取っている。


「縛り方は決まりある?」


「うん。大根から水分が抜けていくから細くなるでしょう。それでも紐から落ちないような縛り方があるんだよ」


 セイさんが紐を持って来てくれたので皆でやってみる。


「いいか? まず紐をゴザの上に左右同じ長さになるように曲げるんだ。試験管の形をイメージするといい。曲がった所が手前に来るようにしてくれ」


「出来ましたー」


「よし、次に行くぞ。右の紐の端を手前に持って来て、大根が入る位の輪を一つ作れ。輪が崩れないように交差している部分を指で押さえておくんだぞ。――次に左手いくぞ。輪から拳一つ分くらいを開けて、手の甲を下にして左の紐を握れ。――持ったら手首を内側に返す。出来た二つの輪の交差部分を右手で押さえながら、輪を向かい合わせに重ね持ってくれ」


 ん? 手首を返す?


「ニコちゃん、また手の甲が上に来るようにすればいいんだよ」

「あー、そういう事ですか。カハルちゃん、ありがとうございます」

「うん。出来た輪を向かい合わせにしてね」


 輪を崩さないように向かい合わせるっと。よし、出来た。


「出来たみたいだな。押さえていた右手は離していいぞ。その出来た輪に大根を中ほどまで入れて輪を絞る」


 僕の作った輪は小さかったので、調節して大根を入れてキュッと絞る。


「うちは一カ所しか縛らないが、大根の両端を縛ってもいいぞ」


 ふむふむ。二カ所の方が安定するって事かな。


「一本目の大根の結び目の上に、二本目の大根を逆向きに置いてくれ」


 重さのバランスを取るのだろう。太い方と細い方を交互にですね~。


「紐を交差させて上の紐が手前に来るようにギュッと引っ張ってくれ。そうしたら、その部分を左手で押さえておく。次に上の紐で右側に輪を作り大根の間に通す。そうすると大根が二回縛れているからな」


 輪を作って間に通す。――あれ? 一回しか縛れていない。何で?


「ニコちゃん、今の輪の捻り方と反対にしてごらん。紐の端の方が下になるように。――そうそう、それで間に通して」


「――あっ、シン様、出来ました! 二回縛れていますよ!」


「ふふふ、良く出来ました。後はその繰り返しだよ。その紐なら五本くらい縛れるかな」


 慣れるまでは何回も輪の捻り方を間違えてしまった。一本目を通す輪も慣れてしまえば、右の紐の端を持ってこずとも指先で簡単に作れるらしい。僕達が分かり易いように、セイさんが一生懸命に考えてくれたようだ。優しいお兄様である。


 四人でやったので二十本縛れた。その間にシン様が三十本を魔法で加工し終わっている。


「次は混ぜ(ぬか)を作るよ。米糠、あら塩、ザラメ、乾燥した昆布の細切り、タカノツメの輪切り、クチナシの実かウコン、乾燥させたミカンやリンゴの皮を混ぜ合わせてね。ヴァンちゃん、細かい分量は大根の重さで変わるから、どれが重さの何パーセント必要か後でレシピを書いてあげるからね」


「おぉ、シン様、ありがとう。でも、米糠が手に入らないかも」

「あー、そっか。農家さんを紹介してあげるよ」

「ん、嬉しい。バンザイ」


 着々と村での沢庵作りが実現可能になっていく。ヴァンちゃん、マジですね。


「ふふふ、じゃあ続きね。混ぜ糠を樽の中に薄く撒いてね。底が所々見えていても大丈夫だよ。それが出来たら大根を樽の形に合わせて敷き詰めていくよ」


 おぉー、大根が曲がる~。凄いなぁ、硬い大根も乾燥させるとグニャングニャンになるんだ。


「隙間には乾燥させた大根の葉を押し込んでね。次に大根が見えなくなるまで混ぜ糠を入れて、後はこの繰り返しだよ」


 ガシガシと手順通りに上まで入れ終ると、大根の葉で覆っていく。


「葉っぱを敷いたら、残りの糠をドバーッと入れて平らにならしてね」


 それが終わると樽より少し小さめの丸くて平らな板を上に置いている。


「そして、大根の重さの三倍の重石を載せるよ。ゴミとか入らないように覆いをして冷暗所に置いてね」


「これでもう何もしない?」


「ううん。水が板の上まで上がってきたら重石を軽くしてね。多分十日前後くらいかな。一ヶ月くらいすれば食べられるよ。そうそう、糠は洗って落として食べるんだよ。それと、酸っぱくなる前に食べきってね」


 それは心配せずとも大丈夫な気がする。きっと、あっという間に食べきってしまうだろう。


「シン様は重石三つ載せた。何個に減らす? それと、水は捨てる?」

「僕は一つにしちゃうよ。お水は捨てないでいいよ」


 ヴァンちゃんが凄い勢いでペンを走らせている。そっと後ろから覗くと絵まで描いてあって、細かく文字が書き込まれている。


「村で作るのかな?」

「そうだと思いますよ。でも、匂いが大丈夫かな?」


 カハルちゃんとコソコソ話していると、ヴァンちゃんが勢いよく振り向く。


「その問題があった。みんな匂いに敏感。嫌われたら作れない……」


「フォレストに長期間使える消臭剤を作って貰えばいいよ。また、象さんかもしれないけど……」


 カハルちゃんの提案にヴァンちゃんが「それだ!」と頷く。僕達は魔力が弱いから象さんの被害には遭わないもんね。


「区切りがいいからお昼にしちゃおうか。セイ、樽を運んでくれる?」

「ああ、分かった」


 僕達は大根を抱えてシン様に付いて行く。


「それはいぶりがっこにしようか」

「それ何?」


「燻した沢庵だよ。囲炉裏の煙で燻す事も出来るよ。でも、今は囲炉裏を使っていないから、ナラとか桜の木を燃やして四日前後燻そうね。茶色で水分が抜けて細くなったらお水で洗って、米糠、あら塩、ザラメを混ぜてさっき説明した要領で漬け込むよ。こっちは二カ月くらいかな」


 燻製小屋なんてあったっけと思っていたら、庭に結界を作って中に吊るしている。吊るす棒まで結界で作るなんて器用ですね……。


「セイ、後はよろしくね」

「ああ。すぐ済むからお前達は中に入っていろ」


 ヴァンちゃんがそのまま見ているので、僕とカハルちゃんも一緒に眺める。


 結界の中に木を移動の魔法で入れて火を点けると、セイさんがこちらに向かって来た。え? もう終わり?


「ははは。だから、すぐ済むと言っただろう」


 ポカーンとしている姿が面白かったのか笑われてしまった。


 皆でサンドイッチを頬張り一休みしてから、午後の作業開始だ。


こんなに栗を大量に使えるのは栗の木が生えているお蔭ですね。ニコちゃんは栗ご飯がおいし過ぎて三杯食べるつもりでした。もち米も入っているから食べ過ぎ注意です。

ヴァンちゃんは沢庵なしの生活は考えられないので必死です。何が何でも習得して作るぞ! と思っています。魔法がいらないと分かって一安心のヴァンちゃんなのでした。


次話は、干し柿作りです。


お読み頂きありがとうございました。

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