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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0307.カハルちゃんの嫌いなもの

「――うぉわーっ! ふんっ!」


 顔面に迫って来た、全身をほぼ覆えてしまいそうな手を慌てて横に転がって避け、苦無で攻撃する。ズシャーッと切り裂いた感覚が手に伝わるが、血が流れた様子は無い。ん? じゃあ何を切ったの? まぁ、いいか。考えるのは後だ。道中で楽した分、ここで活躍せねば。


「うぅ……気持ち悪い~」


 カハルちゃんが魔物の姿を見て体をブルリと震わせ、自分の体を抱き締めている。僕も同じ岩に登って、ダーク様達が次々と攻撃を仕掛けている魔物の全体を眺める。


 頭の上に載っているようなギョロリとした二つのお目目、丸呑みが上手そうな大きい口、背中には水玉模様みたいに茶色い点がいっぱいある。後ろ足が大きく発達していて、今も高く跳ね上がって攻撃をかわしている。


「確かに気持ち悪いですね。ヌメヌメが黄緑色の体を覆っていますよ」

「そうなんだよ。だから武器が滑って効きにくいんだよね」

「ああ! じゃあ、さっき僕が切り裂いたのはヌメヌメだったんですね」

「そうそう。う~、蛙は嫌~」

「帰るの嫌?」


「ヴァンちゃん、違うよ、蛙だよ。あの生き物は蛙って言うの。そう言えば、こっちの世界には居なかったっけ」


「ん。初めて見た」


 こっちに跳ねて来たので棒手裏剣を次々に投げる。だが、ヌメヌメで阻まれて、あまりダメージを与えられないようだ。一緒に戦っている三人の精霊さんが三角形の頂点に立つようにカエルを囲み、それぞれ蔦を放って縛り上げようとするが、覆い尽くす前にジャンプされて引き千切られてしまった。


 蔦を離すのが遅かったのか、引き摺られて倒れてしまった精霊さんに、カエルの桃色で長い舌が素早く伸ばされる。させるか! と円月輪を投げて舌にざっくりと傷を付けてやる。


 痛さに首や手足を振って暴れている間に、フォレスト様が精霊さんを助け起こして遠くに避難する。カエルが口を開けると血が溢れ出し、小さな池が出来る。痛さに息を荒くしながら、憎々し気な目で僕を探すカエル。取り敢えず岩陰に隠れておこう。


「――皆、離れて!」


 機会を狙っていたカハルちゃんが、稲妻を寸分違わず二つの目に落とす。稲妻が体中のヌメヌメを伝わり全身を痺れさせていく。ああ、そっか! ヌメヌメを逆手に取ればいいんだ!


 痺れて動けない間に、ダーク様が闇の糸で編んだ網で、カエルをばさりと包んでしまう。


「よーし、たっぷりその身の魔力を頂くとしようか」


 ニヤリと笑った顔は、ダーク様の方が悪役かと思える程に真っ黒だ。グングン魔力を吸われてカエルが縮んで行く。それに合わせて網も小さくなるので、いくら暴れても逃げられない。「グエーッ」と苦しそうに叫ぶ声は、いっそ一思(ひとおも)いにやってくれと言っているようだ。


 カハルちゃんは声を聞くと泣きそうに顔を歪めて、鳥肌をたてている腕を擦っている。よっぽど嫌いなんだな。これは、僕達のモフモフ毛皮で癒してあげなければ。


「ヴァンちゃん、カモーン!」

「よしきた、任せろ!」


 二人で抱き付いて頬をぴったりとくっつける。びっくりした顔をしていたけど、すぐにヘニャンと顔が緩み、体から力が抜けていく。


「はぁ……。モフモフ最高~」

「んっふっふっふ。ご満足頂けましたか?」

「勿論! はぁ~、あいつはもう二度と見たくないよ……」


 目を瞑って見ないようにしながら、僕達の手も握ってモフモフを堪能している。僕とヴァンちゃんは、そこまで嫌悪感は無いのでダーク様の作業を見守る。


 ついに魔力を全て搾り取られてしまったのか、干物の様になってしまったカエルを結界内で燃やし、ダーク様が小瓶を持ってやって来る。焼けたカエルが良い匂いだったのは余談だ。


「カハル、魔力は要るか?」

「嫌っ、いらない、いらない、ぜーったい欲しくない! どんだけ魔力が少なくなっても飲みたくない! わーっ、私に近付けちゃ駄目だよ~(泣)」


 ダーク様の差し出す、高級そうで透明度が高いガラスで作られた小瓶には見覚えがある。魔国の城で触手の魔物と戦った時に、カハルちゃんがこの瓶の中身を飲み干していた。もしかして、その時も魔物の魔力だったのだろうか?


「あのー、因みにこの前、カハルちゃんが飲み干した魔力は誰のですか?」


 カハルちゃんは少しでも小瓶から離れたいのか、僕が質問をしている間にヴァンちゃんを胸の前にしっかりと抱え、移動の魔法で遠くまで飛んでしまった。……僕は置いてけぼりですか? と考えて打ち消す。質問しているから気を遣ってくれたのだと思いたい……。


 カハルちゃんはヴァンちゃんの背に隠して貰いながら、ダーク様の一挙手一投足を見逃すまいと睨むようにして見ている。毛を逆立てて「フシャーッ!」と威嚇している猫さんの様な姿を、頭の後ろに右手をやりながら、困り果てた様子で見ていたダーク様が僕へと向き直る。


「あの時は俺の魔力だぞ。なぁ、何でカハルはあんなに嫌がっているんだ?」


「何でも、あの魔物が日本に居る『カエル』という生き物と同じ姿らしいです。とても嫌いだと言っていましたよ」


「あー、成程。カエル成分は入っていなくて純粋な魔力なんだがな。このまま持っていると俺まで嫌われそうだな」


 苦笑したダーク様が小瓶を移動の魔法で飛ばす。


「カハル、戻って来い。もう、瓶は無いぞ」

「……本当?」

「本当ですよ。僕の目の前で消えましたよ~」


 ヴァンちゃんを盾にしつつ、そろそろと近付いて来る。あー、ヴァンちゃんが凄く嬉しそうな顔をしている。頼って貰えたのが嬉しいのだろう。


「カハル、何から隠れているの?」


 精霊さんとお話しを終えたフォレスト様が、不思議そうにカハルちゃんを見やる。


「だって、蛙がね……ダークが持ってるかもしれないんだよ」

「カエル? ……ああ、もしかしてさっきの魔物?」

「そう。気持ち悪いの……」


 ダーク様が何も持っていないと、両掌をカハルちゃんに向けてアピールしても警戒を解いていない。服の中に隠し持っていると思っているようだ。


「そんなに疑うなら、服を一枚残らず脱いでやるぞ」

「え⁉ 脱がなくていいよ、わーっ、脱がないで! 信じるから!」


 早速、マントを脱ごうとしている姿に、カハルちゃんが慌てて駆け寄って止めている。


「くくくっ、良い反応だな。遠慮しなくても余す所なく見せてやるぞ」

「ダーク様、セクハラですよ! カハルちゃんが恥ずかしがっているじゃないですか!」


 ヴァンちゃんが、よしよしと頭を撫でて宥めているが、顔が赤くなってしまっている。


「何でそこまで赤くなるんだ? セイやシンとは一緒に風呂に入っているだろう?」


「それはそうだけど、お風呂じゃない所では恥ずかしいの! ……それにダークは余計恥ずかしい。何でだろ……」


 後半はとても小さい声だったので、どうやらダーク様は聞こえないらしく首を傾げている。


「なぁ、後半がよく聞き取れなかったんだが、何と言ったんだ?」

「ダー、もがっ⁉」


 ヴァンちゃんが答えようとすると、カハルちゃんが両手で口を覆う。


「しーっ、ヴァンちゃん、しーっ、なの」

「?」


 不思議そうにしながらもヴァンちゃんが頷くと、ホッとした様に手を離している。……ははぁ、分かったぞ。ダーク様は揶揄うのが大好きな人だから阻止したいんだな。良く分かります、その気持ち。


「何だかよく分からないが、話す気になったら教えてくれ。魔力を流したら帰るか?」


「僕達はお弁当があるんです。探検してから帰りたいです」


「弁当? 随分と準備が良いな。あー、そう言えば精霊の森を周る予定だったか。探検は良いが、大精霊の森はこれ以上めぼしい所は無いぞ」


「えっ、そうなんですか? うーん、じゃあ、帰ろうかな……」


 僕とヴァンちゃんの落ち込んだ様子を見て、カハルちゃんが背をポンポンと叩いてくれながら何かを考えている。


「――じゃあ、当初の予定通り精霊の森を周ろうよ。フォレスト、いい?」

「今日一日は予定を開けておいたからいいよ。ダークは帰る?」


「俺だけ今更除け者にしないでくれ。俺も料理長に弁当を作って貰うから後で合流しよう。どこから周るんだ?」


「どこからでもいいんだけどね。全部繋がっているし……。うん、決めた。フォレストの所から行こう」


「ああ、了解。それじゃあ、後でな」


 ダーク様が移動の魔法で消えると、カハルちゃんが魔法陣を使って魔力を流している。いつ見ても綺麗な光だ。


 終わった所でフォレスト様がカハルちゃんを抱き上げる。


「二人は足にくっついてくれるかな」

「「はい」」


 フォレスト様はローブのような服なので、ちょっと足へ抱き付きにくい。


「あ、ごめんね、掴まりにくかったね。――これで大丈夫?」


 裾を持ち上げてくれたので有り難く抱き付く。下にズボンを履いていたんだ。素足だと僕達の毛が当たるから、くすぐったくなって落とされてしまう可能性が上がるもんね。いやー、良かった。遠慮なく抱き付かせて貰おう。


「ふふふ、シンの言う通りだ。これは病みつきになるかも」


 やみつき? 何に? と首を傾げている間にフォレスト様の実験室に居た。


「お帰りなさいませ。あら、ヴァンちゃん達も一緒だったのね!」

「精霊さん! あ、また精霊さんって言っちゃった……。すみません、バニアさん。お邪魔してます」


 鏡の魔物の時に僕達を担当してくれた精霊さんの名前はバニアさん。言い聞かせないと、つい精霊さんって呼んじゃうんだよね。今も部屋に居た全員が振り返ってしまった。


「ふふふ、いいのよ。いらっしゃい、みんな。お茶でも飲まない?」

「僕が淹れるよ。バニア、急患は来なかった?」

「はい、大丈夫です。我々だけで対応できています」

「そう。――あ、カハルが寝ちゃった。ベッドに寝かせてあげてくれるかな」

「はい、畏まりました」


 あ~、行っちゃう……。でも、ベッドの方がゆっくり休めるもんね。ちょっとの我慢だ。


 お茶を淹れると言っていたけど、実験器具をいじり始めたフォレスト様。急いで作る薬とかがあるのかな? 僕達は水筒を持っているから問題無しだ。


 ヴァンちゃんと一緒に足をプラプラさせて高い椅子に座りながら、フォレスト様の作業を見守る。


 フラスコに瓶から白い液体を注いで沸かしながら、棚から銀色の缶と白い粉が入った瓶を取り出している。次に二百ミリリットルのビーカーを二つ用意し、缶から茶色い粉を薬匙で山盛り四杯、白い粉は二杯入れている。そして、沸騰した液体を注いで、かくはん棒で混ぜている。ん? 良い匂いがするけど、甘いお薬なのかな? そう思っていたら、笑顔のフォレスト様がビーカーを僕とヴァンちゃんの前にコトリと置く。


「熱いから気を付けて飲んでね。あ、ミトン使う? ――あれ? ここら辺にあった筈なんだけどな……」


 湯気の立つ茶色い液体に顔を引き攣らせる僕達。もしや、実験に付き合えという事ですか? 僕達、そんなに嫌われていたの?


「ニコちゃん達、リンゴも食べ……」


 僕達の目の前に置かれているビーカーを見て言葉を詰まらせたバニアさんが、フォレスト様を叱り始める。


「フォレスト様、これはどういう事ですか⁉ お茶を淹れるのではなかったんですか? お客様にビーカーを出してどうするんですか!」


「え、バニア、なんでそんなに怒っているの? お茶ならちゃんと淹れたよ。ほら、ココアのいい匂いがするでしょう?」


 心底不思議そうな顔でビーカーを示すフォレスト様。そう言われてもう一度嗅ぐと、確かにココアの匂いがする。実験器具で作っているから、薬だという先入観があって気付けなかったようだ。


「ここにマグカップなどがあるのに、なぜビーカーに入れるんですか!」

「え、いつも僕がそうやって飲んでいるからだけど……。それ、実験に使った事がないから綺麗だよ」


 バニアさんが更に何か言おうとして、無駄だと悟ったのか天を仰いでいる。うん、フォレスト様、無自覚だもんね。普段通りにしただけで何の悪気も無い。


「えっと、そんなに気になるならマグカップに移すよ。ちょっと待ってね」


 ビーカーを回収し、マグカップを新たに用意する。そして、手に持ったのはロート。


「何故、それを選択するんですか……」

「えっ、これも駄目なの? 注ぐときに便利でしょう?」

「……こりゃあかん」


 ヴァンちゃんが小さく呟く声に僕は深く頷く。まともな人だと思っていたけど、ちょっと何かがずれている。


カハルは蛙が大嫌いです。特にここへ出て来ているのは超巨大なので泣きたい気持ちです。

知らないダークが非常に戸惑っていますね。こんなに拒否されたのは初めてなので、地味に傷付いています。理由が分かったら、勿論からかいますよ。本気度80%くらいですが(笑)。


次話は、精霊の森を周ります。


今日は『NICO & VAN(ヴァン視点)』も2話更新します。タイトルは『運命の道が重なった日』と『俺が耳を隠す訳』です。時系列順にしようと思っているのですが、後で順番を変える術がないようなので、差し込み投稿になるかと思います。お手数をお掛け致しますが、日付やタイトルでご確認下さい。ヴァン視点は頭にポンと浮かんだ所を書くので今後もこんな感じでの更新となります。ご不便をお掛けしますがよろしくお願いしますm(__)m


お読み頂きありがとうございました。

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