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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0303.滅びに向かわない内に

「やぁ、さっきぶりだね。確かにコウキの言う事は正しいよ。そこから導き出される答えは何だと思う?」


「シ、シン様! なぜ、ここに……」


「いいから、質問に答えてくれるかな? じゃあ、そっちの火竜の子でいいよ。答えて」


 私からあっさり視線を逸らすと火竜の長に声を掛ける。


「え、俺⁉ え、えっとですね……。一生罪を償い続けろ。クマちゃんには誰も会わせないぞって事でしょうか?」


「うーん、完全な正解じゃないけどいいか。まず、君達自身が変わってくれるかな。居るでしょう? 小さな熊がドラゴンマスター? はぁ? 何かの間違いだろうって思った人」


 全員が思わず目を泳がせる。……確かに思った。


「上の人間がそう思っていたら、下にも伝わるものだよ。それが第二のお馬鹿さんを作る。そうしたら、僕は容赦なくドラゴンの一族を潰すよ。方法は幾つもあるけど、簡単なのは結界でインフェテラを丸ごと包んで酸素を抜く。いいと思わない?」


 口元は笑っているが、目は本気だ。この方ならやれるだけの実力はあるだろう。完全に血の気の失せた我々の目をじっと見てから再び口を開く。


「カハルはね、クマちゃんをとても大事に想っていて、本当は関わらせたくないと思っている。でも、クマちゃんは自らの役割を放棄するような子じゃないからね。ドラゴンマスターに危害を加えられないのは知っているよ。でもね、暴言やお願いに逆らおうと思えば出来るだけの自由もドラゴン達には与えられている。分かるね?」


 心無い言葉で小さな白熊の心を傷付ける事など簡単に出来るだろう。今、この一族には他者を慈しめる者が何人いるのだろうか?


 私の思いを見抜いたのか、優し気なシン様の顔と雰囲気がガラリと変わり、刃で背を撫でられたような戦慄が走る。


「いいか、今から言う事を頭に刻み込め。全ての者に敬いを持て。自分たちが全ての生き物の頂点などどいう驕りを捨てろ。一人の熊にさえ優しく出来ないものが誰に優しく出来る? 絶えず己を見て改善しろ。常に自分は未熟だという事を忘れるな。今度はお前達が滅びる番になるぞ」


 そこまで言われて、ようやく創造主様が何を言おうとしているかを理解した。今までは魔物が敵として君臨し、我らを隠してくれていた。だが、このまま他種族を下に見るような態度を続けていけば、彼らは次に我々を敵とみなして潰しに掛かってくるだろう。一人一人は脆弱だが、彼らは数と様々な知恵を有している。そして、創造主様達を味方にする事も出来るに違いない。


 一族全ての者達が、たった一人に対する態度さえ改められなければ、我らは近い内にイザルトから消える。厳しい事実を突きつけられた影響なのか、口も喉もカラカラで唾を飲み込む事すら出来ない。


 隣でじっと考え込んでいた火竜の長が顔を上げて、シン様の目を見つめる。


「……好きだろうが嫌いだろうが他者への優しさや敬いを忘れるな。出来る出来ないじゃない、猶予は無いから兎に角やれって事ですね……。俺達が滅びに向かわない内に」


 火竜の長の答えにシン様から厳格な雰囲気が消え、ニコリと笑う。


「はい、良く出来ました。他の人達も正しく理解できたみたいだね。さぁ、フェイ、帰ろうか。今日はお祝いだからね」


「はい。ケーキでも買って参りましょうか?」

「あ、それ、いいね。ショートケーキをホールで買ってきてくれるかな」


「畏まりました。カハル様とヴァンちゃん用にチョコレートのカットケーキも買って参ります」


「フェイ、分かっているじゃない。よろしくね」


 楽しそうに話しながら帰る姿を見送ると、私達全員は力が抜けて地面にドカッと座り込む。


「はぁ……。やるしかないよな」

「ああ。まずは発表するしかないな。どれだけの人数が大人しく聞き入れてくれるのか見当もつかん……」


 火竜の長と言葉を交わしていると、土竜と風竜の長の声が重なる。


「「だが、やるしかあるまい」」


「……ふっ、ははは、そうだな、やるしかあるまい」

「おう、やろうぜ! はははっ」


 恥ずかし気にしていた二人も声を上げて笑い始める。ここから、新しいスタートを切ろう。昔の物語のように、皆に憧れられる誇り高く優しいドラゴンになれるように。笑顔でクマちゃんが訪ねて来てくれる場所になるように……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「カハル、明日は精霊の森を回るの?」

「うん。フォレストにもお願いして来たよ」

「僕にもお手伝い出来る事はあるかな?」

「あ、そうだ! お弁当が欲しいな」


「うん、任せて。おかずは何がいいかな?」

「うーん、鳥の唐揚げがいいなぁ。今日のお夕飯の残りでいいよ」

「残りでいいの? 他に何か食べたい物はあるかな?」


 う~ん、と悩むカハルちゃんを見つつ、唐揚げを口に放り込む。んふふ、ジューシー♪ お醤油とにんにくで漬け込んだお肉は味がよく染みていて、周りの衣はザクッとしている。後引く美味しさで、あと一つだけと手が伸びてしまう。


「ヴァンちゃん達もリクエストがあるなら受けるよ」

「沢庵」


 ぶれないねぇ、ヴァンちゃん。シン様は予想していた通りの答えだったのか、クスクスと笑っている。


「ふふふ、好きだねぇ、ヴァンちゃん。ニコちゃんは?」


「あの、キャラ弁と言うのがあるとカハルちゃんから聞いたんです。僕達の顔で出来ますか?」


「白ちゃんの顔か~。うーん……出来ると思うけど、初めてやる事だからあまり期待しないでおいて」


 えへへ、作ってくれるらしい。明日のお楽しみだ。


正しく理解しないだろうなぁと思ったシンが、しょうがなく来ました。面倒見が良いというよりカハルの為に動いています。

カハルが何を言おうとしているか、ようやく理解した長たちです。自分たちの危機的状況にいま気付けて良かったね。


次話は、「ヒヒ~ン♪」です。


今日は予告なしになってしまいましたが、明日も2話投稿する予定です。

お読み頂きありがとうございました。


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