0301.ドラーーー!
今話は、ニコちゃん→コウキの視点に替わります。
「さて、一件落着したから帰ろうか。――ああ、そうだ、ドラちゃんはうちに住むの?」
「クワー」
「カハル、通訳してくれる?」
「うん、ずっとくまちんと一緒だって」
ご両親がその言葉でシン様の恐怖を振り切り、ドラちゃんを困った顔で抱き締める。よ、よし! 僕も頑張ろう。口調はいつものシン様だから、お家に戻る頃には優しいシン様に戻っている筈だ!
「こんな急に旅立つ事になるなんて……」
「坊や、うちから通いじゃ駄目なのかい?」
「クワー、クワー」
ふむ、守護龍になったから駄目なのか。
「――ん? でも、フェイさんは離れて暮らしていますよね?」
「昔はずっと一緒に居たよ。完全に主と力が馴染めば離れても平気だよ」
「へぇ、そうなんですか。じゃあ、お家に帰れる日も近いですね」
「う~ん、無理じゃないかな? ほら、見てよ。ドラちゃんがまたクマちゃんを抱き締めているよ」
翼で囲って誰も近付けない状態だ。独占欲みたいな感じかな? それとも警護しているのだろうか?
「ドラちゃん、離すキュ。――キュー! 頬擦りは止めるキュ~」
グイグイと頭が仰け反る頬擦りにクマちゃんが悲鳴を上げている。その内、力加減が出来るようになる、筈?
「……こんな姿を見せられたら反対なんて出来ないわね。この子のしたいようにやらせてあげましょう」
「そうだな。ようやく自分を生かせる場所を見付けたんだ。私達はそれを温かく見守って行こう。ドラ、頑張るんだよ」
「クワー!」
切なそうにしながらも最後は了承してくれたご両親に、ドラちゃんが元気に鳴いて応えている。まだ小さいのに親元から旅立つなんて凄いな。ドラちゃんが寂しい時は僕達で支えてあげよう。
「ドラ、家から持って行きたい物はあるかい? 大好きなボールは持って行くだろう?」
「クワー」
「ドラ、お母さんたちが鞍を贈ってあげる。小さい時でも大きい時でも使える、伸縮自在な魔法の鞍よ」
感激したドラちゃんに高い高いされているクマちゃんがワナワナしている。怖いのかなと思っていたら、「ドラ……ドラ? ドラ⁉」と呟いていたクマちゃんが、カッと目を見開いて叫ぶ。
「ドラーーー! た、大変キュ、ク、クマの二の舞に! い、今から替えるでキュからね! えーと、えーとでキュ……。そうキュ、シオンなんてどうでキュ? 格好良くないでキュか?」
何も起こらない。さっきはピカーッと光ったよね?
「あ、あれ? にゃんちん、どうなっているキュ? 鎖とか出ないキュ」
「もうドラで契約されちゃったんだよ。それに、ドラちゃんがドラという名前を気に入っちゃっているから。ねー?」
「クワー!」
勿論! と鳴く姿にくまちゃんがガクッと項垂れる。
「何て事キュ……。にゃんちんと同じ所業をしてしまうだなんて、悲しすぎるのキュ……」
「そんな事を言っているけど気に入っているんでしょ? だから、咄嗟に私と同じ事をしちゃったんだよ」
クマちゃんがカハルちゃんを睨むけど、全く堪えた様子はなくニコニコとしている。でも、その自信溢れる姿に納得だ。だって僕から見てもクマちゃんは名前を気に入っているように見える。
「違うキュ! にゃんちんに洗脳されたのキュ。けしからんのキュ! ドラちゃん、にゃんちんに攻撃キュ!」
「クワ?」
クマちゃんを抱っこしたままドラちゃんがパタパタと全く違う方向に飛んでいく。「そっちじゃないのキュ~!」と叫ぶクマちゃんが少し憐れだ。
「おお、うちの子が飛んでいるよ!」
「まぁっ、今日は何て嬉しい日なのかしら! お祝いしなくちゃね。好物の紫水晶がいいかしら?」
「じゃあ、うちに来る? 歓迎会も兼ねてご飯を作るよ」
「シン様がご飯を⁉ お、恐れ多い事です……」
「遠慮しないで。君達は何が好きなの?」
「え⁉ ええと、私は――」
新しい仲間を得た喜びと、ほのぼのとした会話と空気に包まれながら、皆でお家へ向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「シン様、怖かったですね……」
「そ、そうだな。やはり神の怒りは常人とは違うようだ。だが、我々がしっかりと長老を抑え込んでいれば免れた事だ。創造主様まで危険に晒してしまった」
「そうですね。このような失態が二度と起きないように、皆で体も心も強くしていきましょう」
苦々しい気持ちで頷き、長老や取り巻き達を見つめる。もっと早くに引き摺り下ろしておけば良かったと後悔が胸を支配する。そうすれば、助ける事が出来た命があった筈なのに……。
「コウキ様、創造主様は我々に任せると仰せになられました。我々を見放す事無くチャンスを下さったのです。今までの悪しき習慣は全て取り除き、誰もが怯える事無く自分の未来を選び取れる場所にして行きましょう」
「そうだな。もう二度と悲しい思いをしないように……。さて、長老の力を受け継いで来るか」
気絶している長老に近付いて行くと、瞼がゆっくりと持ち上がり憎悪に塗れた黄色の縦長の瞳孔が私を睨む。だが、それも一瞬の事。ビクッと大きく体を揺らし、「うぐぶふぉっ」と変な声を上げて白目を剥いてしまった。
「……腹ですかね?」
「……いや、顔じゃないか?」
ドラゴンの硬い鱗など何の意味もないのか、ひび割れたり凹み、そこら中にシン様の靴跡がある。
クマちゃん、大失敗で大慌てです。自分と同じ名前の付け方になるだなんて、と申し訳なさでいっぱいのクマちゃんです。でも、クマちゃんもドラちゃんも自分の名前を気に入っているからいいんです。人がなんと言おうが関係ないんです。大好きな人が付けてくれた大事な名前です。
長老はニコちゃんの予想通り起きた途端に気絶です。作者は腹に一票です(笑)。
次話は、ドラゴンの各属性の長たちが集まって来ます。
お読み頂きありがとうございました。




