0002.出会い
「この子は、カハルと云う。魔法に長けていて、魔族にも詳しい」
「……こんにちは」
現在お仕えしている闇の国王であるダーク様に紹介された小さな女の子が、緊張しながらペコリとお辞儀する。
「鏡の魔物の封印がそろそろヤバイのは、皆も気付いているだろう?」
コクコクと僕たちは頷く。僕達は封印を保つ為、毎日儀式をしている。だが、最近になって黒い影が部屋を飛び回ったり、鏡がガタガタ動いたりする現象が起きていた。
「俺でも、そろそろ抑えるのが限界だから、一度見て貰おうと思ってな」
肩に付きそうなくらいの黒髪ショートで、瞳は同じく黒。唇が少し厚めなのが特徴かな。色白で線が細くて身長は僕より少し小さいから、六十センチくらい。人は見た目通りじゃないだろうけど、本当に戦力になるのかな?
僕は手を挙げた。
「ん? どうした?」
「失礼を承知でお願い致します。僕達にその力を見っ⁉」
その時、部屋全体が大きく振動し始めた。
「チッ、カハルに反応したか?」
ダーク様の呟きの直後、鏡から黒い蔦が何十本も矢のように飛び出してくる。それに誰よりも早く女の子が反応した。手の平を床に付け出現させた半円形の結界が全てを弾く。
「おい、鏡に布を掛けろ」
ダーク様の指示に、僕達は頷いて一斉に動き出そうとする。が、更なる揺れに立つことも出来ない。その時、腹這いになったヴァンちゃんがナイフを鏡に向かって放った。
揺れが少し収まった隙をついて、僕とヴァンちゃんが走り出す。同時に鏡の一番近くにいた子が祭壇の布を掴んで供物の下から引き抜く。三人で布を被せようとした瞬間、鏡が浮き衝撃波が僕達を吹き飛ばす。
「――――っ」
僕は痛みを覚悟したが、柔らかい風に包まれ、そっと地面に降ろされる。急いであたりを見回すと、ヴァンちゃん達も無事の様だ。ダーク様が助けてくれたのかと思ったけど、僕達には背を向けている。もしかして、さっきの子が? と目を向けると――。
女の子が黒い蔦を紅蓮の炎で焼きながら、鏡に向かって走って行く。倒れている仲間達を襲う黒い蔦は、地面から突き出した分厚い土の壁に次々と阻まれる。
僕は驚嘆していた。何種類の魔法を同時に発動させているんだ? しかも、魔法陣が出現していない! そんな僕の背中をヴァンちゃんがポムッと叩く。
「行くぞ。リベンジだ」
「おうっ」
僕達は吹き飛ばされた布まで一気に距離を詰め拾い上げる――と、その襟首をダーク様にヒョイっと掴まれる。揃って土の壁に隠れると作戦を説明される。
「いいか? 今からその布に、俺の血を使って封印の魔法陣を描くから、時間を稼げ。そこに守りの魔法陣を作ったから、皆で集まって、いつも通り『祈りの歌』を歌えばいい。出来るな?」
僕達は大きく頷くと二手に分かれ、皆に声を掛けつつ助け起こしていく。歌いながら結界に向かう最後の子を見送り、女の子を探す。
そこには、鏡に蔦を出す事も許さない程の猛攻が繰り広げられていた。次々と繰り出される、僕を包み込めそうな程の炎の玉。並みの魔法使いなら、とっくに魔力が切れている。
……ん? もしかして、そろそろ限界だったりして⁉
僕が慌てて女の子に近寄って行こうとすると――。
「大丈夫」
へっ? 耳元で女の子の声が聞こえた。空耳……じゃないよね? じっと見つめると、鏡に向き合ったまま女の子が頷く。
もしかして、後ろに目がついている方ですか? なんて場違いな事を考えつつ、後頭部を凝視していたら、ヴァンちゃんがやって来た。
「ニコ、行くぞ。助けたいなら、歌うしかない」
「ヴァンちゃん……うん、急ごう!」
魔法をガンガン使う小さなヒロインは、火魔法が得意な子です。
そうそう、大事な説明を。カハルの後頭部に目はついていません(笑)。
次話はニコちゃんが激しく勘違いします。
お読み頂きありがとうございました。