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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0296.ドラゴンの名前

「すみません、うちの子が。大分興奮しているようで……」


「大丈夫キュ。お布団があるから痛くないのキュ。質問なんでキュけど、この子の名前はまだお悩み中なのキュ?」


「それは……」


 言い淀む姿にクマちゃんが慌てる。


「ごめんなさいキュ。ぶしつけな事を言っちゃったのキュ」

「いえ、クマちゃんが悪い訳ではありません。フェイさん、話してしまってもよろしいですか?」


 どうやら、他種族にはあまり知られたくない事があるようだ。心配そうに見上げるクマちゃんや僕達にフェイさんが静かな視線を向けて来たので、「大丈夫です、僕達は他言しません」という思いを込めて頷いて見せる。


「――では、私が話そう。私は主様から名前を頂きましたが、ドラゴンの名前というのは長老が付けるのが決まりなのです」


「長老でキュか? その人がお悩み中なのキュ?」


 ラーハムさんが会話を聞きながら拳をギュッと握っている。憤りを感じる表情をヴァンちゃんが心配そうに見上げている。


「悩んでいるのではありません。付ける気がないのです。彼らは頭が固く、スタードラゴンという存在と、その子を生み出した親を疎んでいます。この夫妻がここに住んでいるのも、禁忌を破ったなどと理由を付けられて、一族を追い出されたからです」


 何だそれ。自分が気に入らないからって追い出したの? お互いを大事に想い合う事の何が禁忌なのだ。シン様も他の人も不快そうな表情で聞いている。


「フェイさんは我々のような夫婦を保護してくれているのです。本当にどれだけ感謝しても足りません。それに、今回のお話も大変ありがたいです。この子は満足に動くことが出来ないので、仕事に就く事が出来ません。ですが、唯一出来る移動の魔法が役に立つかもしれないと聞いて、私達がどれほど嬉しかったか……。もし、選ばれなくても、クマちゃんのように必要としてくれる人が居ると分かっただけで十分です」


 エイブリンさんが深く頷いて、ラーハムさんの背を撫でてあげている。こんなに慈しみ合っているのに許されないだなんて……。ドラゴンさんへのイメージが大分変わってしまった。


「クマちゃん、あと二人候補が居ます。お会いになられますか?」


「そうでキュね……。せっかくフェイさんが選んでくれたから会ってみたいのキュ」


「では、ここに呼びますね。どちらも火竜ですよ」


 待っている間にウッドデッキでお茶を頂く。深い森の中で綺麗な空気に囲まれて飲むお茶はとても癒され、贅沢な気分を味わえる。


 今の僕は、まるで別荘でゆったり過ごす貴族か王族のよう。「うむ、予は満足じゃ。皆も畏まるでない」とふんぞり返ってみたのが悪かったのか、お茶が変な所に入った。ゲフゲフ……。


「ニコちゃん、大丈夫?」

「は、はい。大丈夫ですよ、カハルちゃん」


 良かった……。背を撫でてくれるカハルちゃんに、僕の変な想像は気付かれていないようだ。そっと胸を撫で下ろして視線を上げると、ヴァンちゃんが「はぁ、やれやれ……。全部お見通し」という呆れ顔で僕を見ている。なぜ、ばれたの⁉ く、口には出していない筈……。


「――フェイさん、お待たせしました」

「どうも」


 人型の青年が二人、ドラゴンの翼を背中に生やし空からやって来る。はあぁぁ~、やっとヴァンちゃんの痛い視線から解放された……。貴族ごっこはもう止めよう。色々とダメージがあり過ぎる。


「来て貰って感謝する。この子が話していたクマちゃんだ」

「こんにちはキュ。来てくれてありがとなのキュ」

「思っていたよりもずっと小さい熊さんだね。よろしく」

「可愛いな……」


 そーっと握手してから二人も座る。えへへ、ドラゴンさんがいっぱいだ。こんな機会は滅多にないだろうから、よく目に焼き付けておかないと。 


「ラーハムさん家の坊やとは仲良くなった?」

「モキュ。とっても良い子なのキュ」


「そう、それを聞いて安心したよ。じゃあ、当初の予定通り、坊やに権利を譲ろうか」


「ああ。俺達は別の仕事が出来るからな」


 どうやら、お二人は最初から譲るつもりだったらしい。きっと、このご夫妻の事情をよく理解して応援しているのだろう。


「お前達、少し待て。クマちゃんの意思を確認してからだ」

「お二人が納得しているなら、クマもそれでいいでキュよ、フェイしゃん」

「では、うちの子を雇って頂けるのですか?」

「モキュ。そうと決まれば名前が必要でキュよね。呼ぶ時に困っちゃうのキュ」


 エイブリンさんに抱っこされて、キョトンとしている小さなドラゴンさん。自分の状況がよく分かっていないようだ。


「じゃあ、くまちんが付けてあげれば」

「モキュ⁉ にゃんちん、そんな急に言われても困るのキュよ。ドラちゃんぐらいしか思いつか――」


 クマちゃんが言い切る前に、小さなドラゴンさんの体が白く光り輝き始め、『ドラ』という文字が連なって出来た黒い鎖が体に巻き付いて行く。


「なっ、まさか、名前が承認された⁉ どういう事だ⁉」


 ラーハムさんが驚愕した声をあげている間に、エイブリンさんの腕からふわりと浮いた小さな体は、体が引き延ばされた様に大きさがグングン増していく。バサリと振るわれた大きな翼が森の木々を激しく揺らすが、僕達は結界に守られているらしく、なんの影響もない。


 三メートルぐらいの大きさになった所で光は徐々に失われていき、名前の鎖が染み込むように入っていった大きな体がゆっくりと地面に下りて来る。


 自分の体を不思議そうに見ていたドラゴンさんが、変化を確かめるように翼を動かし大きな声で鳴く。


「グワーーーッ!」


 その声で、混乱や戸惑いから我に返ったご両親が駆け寄って行く。


ドラちゃんを気に入ったので、後から来たドラゴンさん達には、きちんと自分から断ろうと思っていたクマちゃんですが、二人も事前に話しあって相性が良いようなら断ろうと思っていました。

フェイと候補の二人は、見回りに来る度にドラちゃんを構っていたので仲良しです。


次話は、クマちゃんの意外な事実が判明です。


お読み頂きありがとうございました。

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