0290.微妙な憧れ
「他の子にも何かあげた方がいいのかな?」
「う~ん……。キリがないのでいいと思いますよ」
「その通りです。今日のお料理や魔法で十分ですよ」
ミルンさんが安心させるように微笑む。
「そう? ――あ、トウマ君が戻って来た」
きっちり全員捕まえてお仕置きしたトウマが駆け寄って来る。
「すみません、お待たせしました」
「気にしないで。怪我していない?」
「はい。俺も他の奴らも大丈夫です」
「そっか。どれにするか決まった?」
「その前に質問があるんです。あの飛ぶ馬って、背中に乗れるんですか?」
「風で出来ている体だから乗れないんだよ」
「あー、そうなんですか。うーん……じゃあ、火の鳥にします」
「うん。ちょっと待ってね」
魔法を込める為なのか、空っぽの弾を握り、じっと拳を見つめている。
「――出来たよ。他のと区別がつくように、金色にしてみたよ」
「ありがとうございます。さっきの鳥って、俺のお願いも聞いてくれるんですか?」
「トウマ君の魔力量だと厳しいかな。撃ち出すと、敵の中で一番強い奴に自動で向かって行くよ。それと、この弾は一回しか使えないからね」
「分かりました。貰えたのは凄く嬉しいですけど、そこまで強い奴が出て来ないのを祈ります」
皆で「そりゃそうだ」と笑い合う。これは、お宝として扱うのがちょうどいいよね。
残り少なくなっていた料理を平らげて、そろそろお開きの時間だ。
「今日はありがとうね。可愛い子達に囲まれて幸せだったよ。ね、カハル?」
「うんっ、大満足だよ! 干し芋もありがとう」
「そこまで喜んで頂けたのなら、嬉しい限りです。しかも、こんなに美味しい物まで食べられて、私も幸せです」
ミルンさんと挨拶していると、小さい子達がワラワラと寄って来る。
「えー、もう帰っちゃうの? 泊まっていきなよー」
「そうだよ。もっとお話したいよ」
「ヴァン兄ちゃん達、帰っちゃ駄目だよ」
腕を巻き付けて、「逃すものか!」と見つめてくるので困ってしまう。
「困らせては駄目ですよ。また来てくれますからね」
「でも、でもぉ~」
ヴァンちゃんの手をギュッと握った子が涙目だ。うぅ、罪悪感が……。
「俺と同じように強くなりたいと言っていた。あれは嘘?」
「そ、それは嘘じゃないよ!」
「こういう時に気持ちよく送り出せる子が、俺は強いと思う」
うっ、となった子が手を離すが、ヴァンちゃんの手を見つめたまま動けない。
「良く頑張った。俺もお前も村の子。ちゃんと、また会える」
俯いている頭をヴァンちゃんが撫でると、「うん」と小さく頷き、ギュッと強く抱き付いてから走って行く。その姿を見た他の子達もだんだんと離れて行く。
「僕、課題を頑張るね!」
「ヴァンちゃんより強くなるんだもんね」
「僕だって負けないもん!」
「うむ、頑張れ」
ヴァンちゃんの励ましに満面の笑みを浮かべて走って行く。良い光景だと思うと同時に少し寂しい。誰か僕にも憧れてくれないかな……。落ち込んでいると、小さな手が僕の手を握る。
「僕、ニコちゃんぐらい頬をパンパンに出来るようになるね! またね」
駆けて行く背中を呆然と見つめていると、あちこちで皆が噴き出したり、残念そうな目で見てくる。な、何故だ……よりにもよって、頬をパンパン……。
「――こほんっ。えっと、帰ろうか」
傷心の僕は無言でシン様の足に抱き付く。いつか、僕だって……皆の頼れる兄貴に……。ぐすっ、想像が付かないよぉ~(泣)。
「ニコちゃん、元気出して。私は愛嬌のあるニコちゃんが好きだよ」
「俺も。ニコらしさを失っちゃいけない」
感激して二人を見つめる。なんて優しいんだ! このままの僕でいいんですね? そうなんですね! わーい、わーい!
浮かれながらお家に帰り、その日は気分が良いまま眠りに就いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海の社は、切り立った崖のゴツゴツとした岩肌を下りた所にあるらしい。ここからじゃ見えないけど洞窟があるそうだ。身を乗り出して下を覗くと、結構な高さがあり、落ちたら海に浮かぶ岩で止めを刺されそうだ。
さて、下りるかと鉤縄を取り出していると、カハルちゃんに止められる。
「私がエレベーターを作るよ」
「えべれたー?」
「ふふっ、ヴァンちゃん、エレベーターだよ。箱が上下に動いて運んでくれるんだよ」
「ほぉー」
見守っていると、どこまで続いているか分からない縦穴を岩に開け、土の魔法で縦長の四角い箱を穴の上に作り出す。浮いているのかな? と僅かな隙間を覗いていると、扉を作ったカハルちゃんが僕達を手招く。
「乗って乗って」
中は空洞になっていて、僕達全員が乗ってもまだ余裕がある。扉を閉めると、カハルちゃんが『海の社』と書かれているボタンを押した後に、三角が下を向ているボタンを押す。
「では、これより海の社に参りまーす」
「「はーい」」
外が見えないけど下に動いて行くのを感じる事は出来る。う~ん? どういう仕組み?
「その光るボタンで動くんですか?」
「ううん。ただの演出」
「へ? 演出?」
「到着でーす」
ポカーンとしている間に到着してしまった。カハルちゃんに続いて降りると、どうやら洞窟の中のようだ。暗いけど全然見えない程ではないかな。入口が近いのか、海の匂いと風が頬を撫でていき、湿度が高めでちょっと不快だ。聖域は快適だといいなぁ。
ヴァンちゃんは、小さい子達の目標です。
ニコちゃんは、ちょっと残念な憧れを抱かれていましたね。愕然としますが、すぐに復活です。
誰か、この立ち直りのはやさを見習ってくれたらいいですね。……無理かな。超速ですもんね。
ボタンは押せば光る凝りようですが、ただの演出です(笑)。
次話は、海の社で魔力を流します。
お読み頂きありがとうございました。




