0282.村の案内
集会所に自然と人が集まって来て、その中には村長の姿もある。
「二人共、お帰り。シン様、息子たちがお世話になっております」
「こちらこそ、いつもお世話になっているよ。こんな良い子達をうちに迎えられて凄く嬉しいよ。ありがとうね」
「そう言って頂けるのは、白族として最高の誉れです。良い主様と出会えたようだね」
ヴァンちゃんと二人で大きく頷く。こんなに最高な人達はそうそう居ない。ずっと側に居たいと願う程に……。
「お時間があるようでしたら、ささやかながら宴を開きたいと思います。いかがでしょうか?」
「嬉しいな、是非参加させて貰うよ。良かったねぇ、カハル」
「うんっ。ありがとう」
カハルちゃんは沢山の子達にまとわりつかれて身動きが取れない状態だが、良い笑顔だ。大好きなモフモフまみれで幸せなのだろう。んん? あれはヴァンちゃん⁉ さりげなく混ざって背中に抱き付いている。本当にいつ移動しているのだろう?
「こちら、頼まれていた干し芋です。あまり量はないのですが、召し上がって下さい」
「ミルン、ありがとう。カハルが大絶賛していたから食べてみたかったんだよ。あ、そうだ。宴の準備に僕を混ぜてくれない? 味噌と醤油の使い方を教えるよ」
おばちゃん達の目がキラーンと光り、良い身のこなしでシン様の側をキープしている。おばちゃん達、あんなに動けるんだ。悪い奴が居たら、ほうきだけでボコボコに出来そうだ。僕は逆らわないようにしよう……。
「では、その間に二人で村を案内してあげなさい。おや、ヴァンはどこだい?」
「村長、ここ。俺、案内する」
ヴァンちゃんはカハルちゃんを抱っこして囲みの中からずぼっと引き抜き、こちらにやってくる。
「頼むよ。みんな、カハル様が来て嬉しいのは分かるが、迷惑を掛けてはいけないよ」
しっかりと釘を刺してくれたので、普通に歩く事が出来そうだ。
「どこから行きましょうかね? 入口から時計回りに来たので、このまま進みましょうか?」
「うん。ニコちゃんにお任せするよ」
しっかりと手を繋いで、のんびり歩いて行く。そんなに広い村では無いから、さほど時間は掛からないだろう。
「ここは機織り小屋です。行商人さんに売ったりもするんですよ」
「そうなんだ。中を見てもいい?」
「はい、どうぞ」
六台の機織り機が中にあり、作業の途中だ。経糸がセットされ、少しだけ緯糸が通されているので模様が何となく分かる。
「糸を通して、これでカシャンカシャンするんだっけ?」
「はい。杼という道具で緯糸を通して、筬という櫛状の道具で糸をトントンして織り込んでいきます」
「俺、機織り好き」
「ヴァンちゃんは作るの好きだね」
「うむ。集中出来て楽しい」
会話の間に布は無いかなと探してみたけど、見付からない。倉庫に持って行ってしまったのだろうか?
「カハルちゃん、すみません。布はここにはないみたいです。後でお見せしますね。次に行きましょうか」
「うん、お願いします」
次は工芸品を作っている建物だ。声を掛けながら中に入るが、ここにも誰も居なかった。でも、黄色がベースの赤い格子柄の布を発見する。えへへ、ついてる。
「カハルちゃん、布がありましたよ。どうぞ」
「ありがとう。――格子柄だね。着物の柄みたい」
「きものですか? それはどういう物ですか?」
「日本に昔からある服だよ。今は日常で着ている人が少ないんだけど、結婚式とか成人式とかの行事の時に着たりする事があるね」
「へぇ、民族衣装みたいな感じですかね」
「うん、そうかも。――この置物は可愛いね。バッグや木工品も作っているんだね」
「はい、村の収入源の一つですね。お外で働く事も出来ますし、村で働くのを希望する事も出来ます。依頼を受けるのから引退した人が作ったりもしていますね」
久し振りに来たので、ヴァンちゃんが作品を見て回っている。リボンを二つ手にすると自分の耳に当てて振り向く。結構似合っているので、指で丸を作ってみせる。
「ふふっ、ヴァンちゃん、可愛いね。ニコちゃん達もバッグとか作った事があるの?」
「ありますよ。でも、僕達は織物のお手伝いが多かったです」
「カハルちゃん、これ似合いそう」
白いマフラーを手にヴァンちゃんが戻って来た。
「編み物もあるんだ。みんな器用だね」
「うむ。巻き巻き」
「おお、似合いますね」
照れるカハルちゃんを見て、ヴァンちゃんも満足気だ。帽子と手袋も無いかな? う~ん、無い……。完全装備の姿を見たかったが仕方ない。
「一通り見たので、次に行きましょうかね」
集会所から聞こえてくる賑やかな声を聞きながら、緩やかな傾斜を上り、木造の大きな建物に入って行く。今日のメインだ。
「靴はここで脱いで靴箱に入れて下さいね」
「はーい」
他に靴が無いのを確認し、カハルちゃんの目を手で覆いながら歩いて貰う。きっと、驚くぞ~。
「到着でーす。いきますよー」
ヴァンちゃんが大きく扉を開く。よし、今だ! 大量の湯気が押し寄せる中、手を離す。
「――うわぁ、大きなお風呂~」
びっくりする姿に、ヴァンちゃんと一緒にニンマリと笑う。えへへ、サプライズ成功!
「プールみたいだよ。泳げちゃうね」
「はい。小さい頃は、ここで泳ぎの練習をしていましたよ」
今は宴の準備で居ないけど、朝と昼にじっさま達がよく来ていて、小さい頃は泳ぎを教えて貰っていた。夜になると男女で時間を分けて入るようになっている。
檜の風呂桶と椅子が洗い場の端に積まれ、御影石で作られた二十五メートルくらいある巨大風呂は、かけ流しの透明なお湯で満たされている。タプンタプンと揺れて、「入っていきなよ」と誘惑してくるお湯は、疲れも取れて毛がツヤツヤになる。村で一番ツヤツヤなのは、よく入りに来ている最高齢のじっさまだ。
ヴァンちゃん、リボンも似合っちゃいます。白族は、あまり男女差がないので、
女性ものでも違和感がありません。
巨大風呂です。じっさま達はいつもツヤツヤな毛で元気いっぱいです。
「若い者にはまだまだ負けんぞ~」とよく言っています。
次話は、長年、気付かなかった事です。
お読み頂きありがとうございました。




