0276.秋刀魚が焼けました
「シン様、僕もお手伝いありますか?」
「ヴァンちゃんだけで大丈夫だよ。ニコちゃんはカハルと一緒に居てくれる?」
「はーい。――カハルちゃん、何をしているんですか?」
「うん? ニコちゃんだ。隣に座って」
ぺしぺしと叩いて示された座布団に座り、画面を一緒に覗くと水の中のようだ。
「これは何処ですか?」
「精霊の森を探っているの。ダーク達が行ってくれるって言うから、どんな状態か見ておこうと思って」
これはどうやって見ているんだろう? 記録用水晶が水の中にあるのかな?
「首を傾げてどうしたの?」
「はぁ。水の中をどうやって見ているのかなぁと思いまして」
「ああ、召喚獣だよ」
「へっ、召喚獣⁉」
「同じのをここに出してあげるよ」
カハルちゃんが両手を添えている四角い結界の中で、水で出来たシッポの長いお魚さんがクルンと回る。鱗が無くて表面の形が常に変わっていく。獣といっても僕達とは体の作りが全く違う。魔力だけでその身を作り、支えている感じがする。
「この水色のお魚さんが、カハルちゃんの指示を聞いて精霊の森を泳いでいるんですか?」
「そう。水の中だけではなくて、どこへでも行けちゃうよ」
カハルちゃんなら、もうなんでもありな気がしてきた。お魚さんを消すと画面へと向き直る。
「この子の目を通して景色が見えるんだよ。では、森の奥へ向かって出発!」
一気に速度が上がり、景色がどんどん後方へ流れて行く。こんなに早く動けるなんて凄いなぁ。水の泡がボコボコと画面を埋める。
「特に引っ掛かる気配は無いかな。もっと奥に行こうか」
段々と水が黒く染まっていく。何だか見ていると不安になる光景だ。
「あー、瘴気が凄いな……。こんなに一生懸命取り込んでくれたんだ。早めに処理しないと精霊達が住めなくなっちゃうな」
「――それは精霊の森か?」
「あ、ダーク。そう、森の奥だよ。ダーク達は近付かない方がいいかも」
「ここまでとは思わなかったな。俺達はリストの残り二体を倒したら待機しておくか」
「それなら海の社へ行って欲しいな。何体も封印されていて、それなりの強さのが居るから。ダーク達が倒してくれると、私は魔力を流すだけで済むから、とても助かるよ」
「分かった。他に俺達が手伝えそうな所はあるか?」
「精霊の森に魔力を流してからかな。そしたら、周りの精霊達も元気になって力を貸して貰えるから、大精霊の森の魔物が倒しやすくなるよ」
「了解。ん、魚の匂いがしてきたな。手伝って来るか」
カハルちゃんと僕も付いて行く。あ~、いい匂いがするよ~。背伸びして見てみると、皮にいい焼け目がついている。脂が滴ってジュッというたびに期待が増していく。
「おー、美味そう」
「ヴァンちゃん、お手伝い終わったの?」
「うむ。たっぷり大根おろし擂った。準備万端」
シン様も焼け具合を見に来たようだ。
「そろそろ焼けるかな?」
「ああ。だが、クマ達が帰って来ないな」
「様子を見に行った方が良いかな」
「――ただいまキュー。あれ、誰も居ないのキュ? ……いい匂いがするキュ~。お魚でキュね!」
「皆様、あちらにいらっしゃいますよ」
「あ、本当キュ。ただいまキュ~」
「噂をすればだね。――お帰り、クマちゃん達」
ピョンとシン様に飛び付いたクマちゃんが今日のメニューを聞いている。秋刀魚だと教えて貰うと、ウキウキと体を揺らし始めた。
「――よし、焼けたぞ。ヴァン達、運んでくれ」
「はーい」
落とさないように慎重に歩く。僕の秋刀魚さんを落としてなるものか!
「――はぁ、無事到着」
「ニコちゃん、今日は慎重だね」
「だって、洗って食べる事になったら悲しいですよ」
「くくっ、洗うのか。旨味が全部逃げそうだな」
「ダーク様、笑い事じゃないですよ。そうなったら一大事ですよ」
クンクンと匂いを嗅ぎつつ席に座る。秋刀魚って匂いが強いんだな。焼いていると、遠くからでも今日のおかずが何か気付かれちゃうよね。
クマグマちゃん達には小さく切り分けて、数人で食べて貰うようだ。あれ? クマちゃんは一匹丸ごとだ。
「それじゃあ、いただきます」
唱和して、大根おろしとポン酢で頂く。――はむっ。おお、脂がのってる! 皮目がパリパリして身もほど良い硬さだ。脂があるからさっぱりした大根おろしが合う。これは、どんどん箸が進んでしまう。ご飯をガバッと口に入れて、秋刀魚をパクリ。ああ、幸せ~。
「おいふぃキュ。最高キュ~」
クマちゃんは、ご飯を食べずに秋刀魚だけでお腹をいっぱいにするようだ。今まで、ご飯を食べなかった事なんて無かったよね。あっ、もしかして!
「クマちゃんは秋刀魚が一番好きなお魚なんですか?」
「キュ~、悩ましいキュ。青魚が特に好きなのキュ。旬の魚は特に美味しさが増すのキュ。あー、でも、この前の鯛も素晴らしかったキュ~」
どうやら一つに絞れないほどにお魚全般が好きらしい。お魚に集中している所為か、今日の皆は会話が少ない。静かな部屋だったので、戸口でした小さなカサッという音がよく聞こえた。皆の目が一斉に戸口を見る。
「…………」
勢揃いしている森の動物さん達と暫し見つめ合う。
皆様は秋刀魚を食べる時は、どのように食べますか?
作者は醤油と大根おろしの組み合わせが多いです。
秋刀魚の方がクマちゃんより大きいです。
お魚大好きな熊さんなので、ワイルドに一匹丸ごとです。食べきれるかな?
次話は、秋刀魚につきものの匂いを撃退です。
お読み頂きありがとうございました。




