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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第四章 ペルソナ
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0268.カエン様の願い

「ニコちゃん、下ろしてくれる?」

「は、はい」


 慌てて下ろすとカハルちゃんがトコトコと近付き、胸を押さえている王様の手に、自分の手を重ねる。


「はっ、はぁっ――はぁ……。楽に、なった、な。お嬢ちゃんが……いえ、創造主様が助けて下さったのですか?」


 黄緑色の光が優しく王様を包み込むと徐々に顔が緩んでいく。はぁ、良かった……。でも、カハルちゃんの正体をあっさり見破った。王族で隠された歴史などにも詳しそうだから、癒しの光の事を知っていたのかもしれない。


「うん。でも、しーっなの。宰相さんも秘密ね」

「え、は、はい。治ったのでしょうか?」

「症状はしばらく抑えられるよ。ただ、治すのは……」


「正直に教えて下され。何を言われても驚きはしません」

「では、お部屋に参りましょう。ここでは誰に聞かれるか分かりません」

「そうだな」


 宰相さんが王様の体を抱き起こす。僕もお手伝いをしたいけど身長が足りないんだよね……。


「お医者様をお連れ致しました!」

「ありがとう。お部屋にお願い出来ますか」

「はい。カエン様、私にお掴まり下さい」

「すまんな。ありがたく借りよう」


 お医者様と宰相様が、がっちりと支えているので安心だ。


「診察致しますね。彼らは、このままお部屋に居ても?」

「ああ、そのままで大丈夫だ」


 診察を待っている間に、何度も宰相様がカハルちゃんを見て口を開きそうになる。だいぶ気が焦っているようだ。


「今は症状が落ち着いていますね。また苦しくなりましたら、このお薬をお飲み下さい」


「ああ、分かった。駆け付けてくれて、ありがとう」


「勿体無いお言葉でございます。いつでもお呼び下さい。それでは失礼致します」


 王様が深く息を吐いた後、ベッドから手招きしてくる。


「お待たせ致しました。お話の続きを致しましょう」


「言葉は前のままでいいよ。えっと、正直に言うね。――完治はしないが答えだよ」


「そ、そんなっ⁉ 創造主様のお力でも無理なのですか⁉」


「落ち着きなさい。いつかは皆、輪廻の輪に戻るものだ。私も例外ではないという事だよ」


「ですが……何か方法が……」


 崩れ落ちそうな宰相様の元へ急いで椅子を運ぶ。


「どうぞ。そのまま立っていると危ないですよ」

「あ、ああ。ありがとう……」


 無意識なのか僕の手を握って俯いてしまった。


「私は今どのような状態なのでしょうか?」


「病気の症状はお医者さんから聞いている通り、心臓が弱っているからだと思うよ。それよりも問題なのは……うーんと、私に見えている事を話すね。魂が徐々に輪廻の輪に行こうとしているよ」


 よく分からなくて首を傾げる。生きているのに輪廻の輪に近付いているの?


「あなたは自分で分かっているよね。そうなっている理由が」


「お見通しですな。ええ、創造主様の考えている通りだと思います。唯一の心残りはホノオですな。まだまだ未熟で覚悟も足りない。だが、頼りになる宰相が居てくれる。そうだろう?」


「そんな悲しい事を仰らないで下さい! 私はまだカエン様と一緒に働きたいのです……」


 慈しむような目で宰相様を見た王様が、カハルちゃんをじっと見つめる。


「ホノオには、この事は黙っていて頂けませんか? あの子は動揺して何も手に付かなくなってしまうでしょう。私は一日も早く、あの子に仕事を教え込みたい。あの子が王として立てるように協力して頂けますかな?」


 キュッと手を握られたカハルちゃんが困ったように下を向く。そして、深く息を吸うと、覚悟を決めた顔で頷く。


「あなたの願いを叶えます。でも、私からもお願いがあるの。これは私の勝手なお願いだから必ず聞かなくてもいいよ。――諦め悪く生きて。あなた自身とホノオの為に時間を作ってあげて」


 息をするのも憚られる沈黙が落ちる。このまま時が止まってしまうのではないかという錯覚を覚え出す頃に、王様の静かで深みのある声が小さな波紋の様に耳に届く。


「……分かりました。胸に刻みましょう」

「じゃあ、私が出来る限りの治療をするね」


 王様の体がまた黄緑色の光に包まれる。ゆらゆらと綺麗な光を見つめていると心が落ち着いて来るのが分かる。宰相様も同じなのか顔の強ばりが無くなってきた。


「――終了だよ。また、しばらくしたら来るね」

「ありがとうございました。こんなに体が軽いのは久し振りの事です」


 その言葉通り、青白かった王様の顔は頬に赤みが戻り、動きも緩慢さが無くなっているように見える。


「少し眠ってね。そしたら、もっと私の力が体に馴染んで楽になるよ」

「では、そうさせて頂きましょう。悪いが後を頼めるか?」

「はい、お任せ下さい。創造主様とニコちゃん、執務室に移動しましょう」


 カハルちゃんと手を繋いで後ろを付いて行く。落ち着いた雰囲気の部屋に入り、扉がパタンと閉まると宰相様が深く息を吐く。顔色が悪くて、この人まで病人のようだ。


「そちらのお席へどうぞ。今、お茶を淹れますね」


 お茶を出してくれた宰相様が向かいの椅子に座り、机の上で指を組んで下を向いている。心の整理が必要なのかもしれない。


宰相さんは予想もしなかった事態で動揺ですが、王様は自分の状態を正しく把握していますね。

ニコちゃんも動揺していますが、しっかり宰相さんをサポートです。


次話は、王の余命です。


お読み頂きありがとうございました。

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