0257.混乱
お読み頂きありがとうございます。
今回のお話は視点が替わりながら進んでいきます(ニコちゃん→兵士さん→暗殺者ナンバーワンさん→ニコちゃんの順です)。
混乱を色々な角度から楽しんで頂けたらと思います。
「――お待たせ致しました」
「ありがとう。はい、お金。またね」
「はい、ありがとうございました」
『またね』、ですか? 暫くクマちゃんのお店に通うのだろうか?
「皆はご飯を食べたの?」
「まだです。適当に買って食べようかと」
「じゃあ、パン屋さんに行かない? お肉屋さんにも行って、コロッケパンにして貰うといいよ」
「おぉ、クマちゃんもお薦めの食べ方」
「ふふ、クマちゃんもそう言っていたんだ。ヴァンちゃん達も気に入ると思うよ」
ヴァンちゃんがぴょこんぴょこんとスキップし始めたので、僕も合わせて跳ねる。
「コロッケ~、サクサク、ハフハフ~。今日もベロ火傷~♪」
ヴァンちゃんの口ずさむ歌に転びそうになる。
「火傷しちゃ駄目だよ! セイさんにも注意されたでしょう?」
「うむ。だが、食べ物の誘惑の前には全て些末なこと」
「何か格好良く聞こえるけど、駄目だからね。また味が分からなくなっちゃうよ」
「ちぇー……」
このチャレンジャーめ……。断固阻止してやるのだ! ――ん、何だ? みんな咳払いが多いな。空気が乾燥しているのかな?
「んっ、んんっ。あのお店ですか?」
「はい」
ミナモ様も咳払いしているし、モモ様も言葉数が少ない。取り敢えず、飴をあげておこう。
「喉の調子が悪いようでしたら、お二人共、飴をどうぞ」
「いえ、喉の調子は悪くありませんが、ありがとうございます」
「ふにゅ?」
ミナモ様の答えに首を傾げているとモモ様に抱っこされてしまう。
「行こうね。ここのパン屋さんは、どのパンもおいしいよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「早く阻止しろ! ったく、人手が足りない時に!」
白族の子達が来た途端、混乱に拍車がかかる。さっきの会話で噴き出すのを堪えた者、ニヤケがとまらない者、手をワキワキとさせて鼻息荒くモフモフを見つめる者が、パン屋の扉に殺到しそうになっている。
「隊長、もう無理ですよ~(泣)」
「弱音を吐くな! あの子達に魔の手が迫ってもいいのか!」
「ぐぁーーーっ! 断固阻止であります!」
「よし、止めるぞっ」
そうは言ったが、あまりにも人が多過ぎる。これは、もう持たないか? 悔しさに歯噛みしそうになった途端、扉を背にしていた兵士以外の全員が、一斉に扇状に転ぶ。
「うわっ」
「きゃっ⁉」
何が起きたかよく分からないがチャンスだ。
「よし、全員お引き取り願え!」
「はっ!」
転んで少しは理性が戻ったのか、こちらの話を聞いてくれる状態になったので、さっさと散って貰う。
「隊長! 今度は花屋に集団が来ました!」
「何⁉ みんな戻るぞ。急げ!」
「はっ」
このお祭り騒ぎはいつ治まるのか。クマちゃんも向かってくる集団に頬を引き攣らせている。弱音を吐いている場合ではないな。なんとしてでも守ってあげなければ。よしっ、行くぞ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうしたのキュ?」
「はぁ。あっちで沢山の人が転んでるなぁと」
モモ様がやったな。相変わらず見事な腕前だよなと感心してしまう。私が暗殺者で一番なんて言われているけど、モモ様と私では大きな開きがあるだろう。あの方の本気が見られるなら、大金を払ってでも見たい。
「本当キュ。大丈夫でキュかね?」
「兵士の方々が助けているから大丈夫じゃないですかね。それよりも、あちらをご覧ください」
「キュイッ! 凄い人数が来るキュ……。このお店じゃないキュよね? そうでキュよね?」
ゆさゆさと私の腕を揺する姿が可愛い。でも、正直に言っておこう。どうせ、ダメージを受けるのだ。
「いやぁ、ははは。目がクマちゃんをロックオンしているので、明らかにこの店でしょう」
「キューーーッ! モモしゃーん、早く戻って来てキュー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヴァンちゃん、何を見ているの?」
「みんな転んでる」
「えっ⁉ あれ、本当だ。人が多いからドミノ倒しみたいになっちゃったのかな? これじゃ開けられないよね。兵士さんが助けてあげているから大丈夫かな?」
「うむ。モモ様、ピーナッツクリームのパンも欲しい」
ヴァンちゃん、切り替えが早いよ。僕が置いて行かれる形になってしまった。
「クマちゃんが私に助けを求めている気がする……」
「へっ?」
ピーナッツクリームのパンをトングで掴みながらのモモ様の呟きに、素っ頓狂な声が出てしまった。
「その予感は正しいかもしれませんよ。集団が見えます」
ミナモ様の側に行って抱き上げて貰うと、沢山の人が脇目も振らずに競歩のような速さで向かってくる。
「他国の方でしょうか? 土の国は茶色の髪や目の方が多いのですが、あの中にはいませんね」
「へぇ、そんな特徴があるんですね。あの人達のような金髪は、どの国に多いんですか?」
「光の国ですね。噂を聞きつけて来たのでしょうか?」
もう別の国までクマちゃんのお店が伝わっているの? 凄いなぁ。
「ごめんね。クマちゃんが泣きそうな顔をしているから、私は先に戻るね。ミナモ様、後はよろしくお願い致します」
「はい、頑張って来て下さいね」
モモ様が足早にお店に行ってしまった。
ヴァンちゃんとニコちゃんの話に聞き耳を立てていた人が暴走してます。笑うのを必死で堪えて誤魔化そうとしているので、咳払いが多めです。兵士さんが陰で必死に戦っております。頑張れ~。
モモの勘が冴え渡っていますね。クマちゃんの願いはしかと聞き届けられました。
次話は、おいしいコロッケパンを頬張ります。
お読み頂きありがとうございました。




