0256.モモ様と休憩
「――出来た。――ん? 皆、俺を見てる。んん?」
「クマちゃんの所に行きましょうね」
「はい。これ、クマちゃんにあげる」
皆で覗くと、お店での注文の仕方が描かれている。
「良く出来ていますね。まず、お花を決めるのですね」
「ん。一本からでも売ってくれる。その後は花束の大きさを選ぶ。大中小とあって、見本が店頭に置いてある」
「成程。その後は、包装やリボンの色を指定する事も出来るのですね」
「そう。イメージを伝えて全部お任せも出来る」
ヴァンちゃんがすっかり詳しくなっている。何も聞かなくても、よく観察しているから自然と頭に入ったのだろう。
「では、実際に見てみましょうかね。カハルさんはどうしますか?」
「私はヒョウキとお留守番してまーす。リリーちゃんと一緒にお昼を食べる約束なの」
「ふふ、メイド長とすっかり仲良しですね。では、お土産を買って来ますね」
「はーい。いってらっしゃーい」
カハルちゃんが一緒で機嫌が良くなったヒョウキ様が、ニヤニヤしながら手を振っている。ヴァンちゃんが急いで戻って、新作の小さなハリセンをカハルちゃんの手に握らせる。
「危なくなったら叩く。遠慮しちゃいけない」
「うん。バッコーンするね」
「ん。ヒョウキ様、カハルちゃんに何かしたら噛み付く」
「俺のイメージ悪すぎだろ! もっと信用しろよ、なっ?」
「それは無理かと存じます。日頃のイメージが悪すぎます。ヴァンちゃん、この大きなハリセンは私が装備しておきます」
「リリーちゃん、お願いします」
静々と部屋に来たメイド長さんが請け負ってくれた。これで安心して出掛けられる。「マジか⁉」と叫ぶヒョウキ様の声を聞きながら魔法道に向かった。
目の前で人が派手に吹っ飛ぶ。上に高く吹き飛び、路地にベシャッと落ちるので誰の邪魔にもならない。普通なら大怪我を負っていそうなものだけど、傷一つ無いようだ
「ああ、またですか。まったく邪な人が多過ぎる……」
兵士さんが慣れた様子で吹っ飛んだ人を馬車の荷台に乗せる。
「……あれは?」
「カハルちゃんが守りの魔法をかけてくれたんです。邪な思いを持った人とか悪い人を排除するんです」
「便利ですね。色々と使い道がありそうです」
ミナモ様が真剣な顔で考え始めてしまった。その横で、また吹っ飛ぶ人。クマちゃん達は慣れてしまったのか、すぐに次の注文を聞いている。目線すら動かさない事から、どれだけ居たのだと呆れる。
「――あっ、ニコちゃん達でキュ。いらっしゃいなのキュ~」
「お疲れ様です。モモ様、こんにちは」
「ニコちゃん、ヴァンちゃん、よく来てくれたね。ゆっくり見て行ってね、私の為に」
『私の為に』を強調された。笑顔を浮かべているけど、人間のお客さんばっかりだから、人嫌いなモモ様はモフモフに飢えているのだろう。
「モモしゃん、休憩して来ても良いキュよ。そして、ジュースを休憩終わりに買って来て欲しいのキュ。これでお願いしまキュ」
「うん、お言葉に甘えさせて貰うね。さぁ、行こうね。――ミナモ様は動かないけど、どうしたの?」
「はぁ、有効な活用方法を考えているみたいです」
モモ様が肩を叩くと、驚いた顔で僕達を見る。よっぽど考え事に夢中だったんだな。
「すみません。どちらに行くのですか?」
「あちらにあるジュース屋さんです。この入れ物で売って貰う事も出来るのですよ」
二リットルは入りそうな容器をモモ様が手に持っている。
「人数が多いとこちらの方が便利ですね」
いくつも器を運ばずに済むとは有り難いと頷いていると、ヴァンちゃんが僕を見ている。
「どうしたの?」
「ニコなら確実に転んでバシャーになって、『うわーん(泣)』になるなと」
自分でもそう思っていたので、すぐに反論の声が出ない。
「――か、可能性の話だよね? 僕はちゃんと運べる。運べる……」
自分に言い聞かせる。よし、大丈夫に決まっている。
「ポジティブでいいと思いますよ。口にする言葉は、毎日の自分に影響を与えますからね」
「おぉ! という事は、おっちょこちょい大魔王から卒業出来ますね!」
「ええと、私もそうなるように祈っておきますね」
「はい! 僕はしっかり者~♪ しっ、かーっ!」
言っている側から躓き、ヴァンちゃんに支えられる。
「……頑張れ」
「……はい」
そのまま、ヴァンちゃんに手を引かれてトボトボと歩く。モモ様がクスクスと笑っているのは気付かないふりだ。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。朝と同じ物をお願い出来る?」
「はい。今日も凄いお客様ですね。うちのお店も、そのお蔭で大忙しですよ」
クマちゃんのお店に来て、周辺のお店もついでに見て行ってくれるらしく、どのお店も慌ただしい雰囲気がある。
僕達も別の店員さんにアイスティーを注文して受け取る。でも、ミナモ様が笑顔で僕の手からコップを抜き取る。そうですよね、さっきも躓きましたよね。はぁ……大人しく持って貰おう。あ、ヴァンちゃんも持って貰ってる。えへへ、仲間が出来た~。
リリーちゃんがハリセンを装備したら最強なので、心おきなくお出掛けです。
鼻息荒く店にやって来た、度を超えたモフモフ好きは必ず触ろうとするか、連れ帰りたいという思いが強いので、もれなく吹っ飛びます。モフモフ好きの愛が暴走しております(笑)。
ニコちゃんのしっかり者への道は長く険しい……。頑張れ。
次話は、裏のドタバタもお楽しみください。
お読み頂きありがとうございました。




