0253.守りの魔法
「可愛い……じゃなくて、それでも許可なしには駄目なの」
「許可ねぇ……。触らせろ」
「嫌です」
速攻でお断りだ。
「ほう? カハルならいいのか?」
「はい。カハルちゃんなら安心です」
ダーク様がカハルちゃんの手を握り、僕のお腹を撫でさせる。この場合は怒るべきかが非常に難しい。あ~、こそばゆい~。
「どうだ? これでもカハルだけは安心なのか?」
「くっ、ずるいですよ、ダーク様!」
「ダーク、離して。怒るよ」
「ん? では、止めるか」
カハルちゃんの言葉はあっさり聞くよね。ジト目で見てやる。
「くっくっく。本当にお前は良い反応をするな。あー、いじめたい……」
「ひぃっ! カハルちゃん、聞きましたか⁉ もうっ、ダーク様はあっちに行って下さい!」
「そうよぉ。ダーク、あっち行って。ニコちゃんをいじめる人は許さないんだから」
ニヤニヤ笑っている。また騙された! きーっ、悔しい!
「まぁ、ニコで遊ぶのはこれくらいにしてと。クマの店はどうだった?」
「凄い人だったのキュ。これを見てキュ」
「――こんなに来たのか。ああ、だから、ヴァンがそれを作っているのか」
「そうなのキュ。いくらお客様でも、ベタベタ触られるのは嫌なのキュ」
「触りたくなる気持ちは分かるが、これは酷いな。営業妨害だろ」
セイさんが深く頷いている。カハルちゃんと一緒に肩をポンポンと叩く。お疲れ様です。
「俺も見に行って忙しかったら手伝ってやろうと思っていたが、耐えられそうもないな」
「ダークは特に触られるのが嫌いだもんね」
「ああ。攻撃してしまいそうだ」
そう言うシン様も、触られたら物凄く冷ややかな目で恐ろしい事を言いそうだ。
「じゃあ、私が守りの魔法をかけてあげるよ」
「どんな魔法なのキュ?」
「くまちん達が嫌がる事とか、店に悪い事してやろうとか、邪な気持ちっていうのかな? 悪意を持った人間を防ぐよ」
「具体的にはどうなる?」
ヴァンちゃんの質問で、皆の目がカハルちゃんに集まる。
「えっとね、私に守りの魔法をかけるから、ヴァンちゃんがお客さん役をしてくれる?」
「うむ」
カハルちゃんの体が光に包まれ、元の状態に戻る。
「ヴァンちゃん、本気で攻撃してくれる? セイは後ろでヴァンちゃんを受け止めてね」
頷いた二人がカハルちゃんの指示通りに動く。
「――ハッ! うぉっ」
ヴァンちゃんが後方に吹き飛び、セイさんが難なくキャッチする。
「――ん? 俺なんでセイさんに抱き留められてる?」
「成程ね。記憶も一部分消えるのか。今のは店内に入ってから邪な気持ちを持ったパターンだよね。入る前だと、どうなるの?」
「えっとね、店の少し前までしか近づいて来ないよ。興味が無くなるようにしてあるの」
人の興味や記憶とかをいじれちゃうのか。創造主様の力って、使い方を間違えたら大変な事になるよね。カハルちゃんだから大丈夫だって信じられるけど。そんな事を考えていると、泣きそうな顔をしているカハルちゃんと目が合う。
「気持ち悪い? 嫌になっちゃった?」
「えっ、そんな事は全然思っていませんよ。カハルちゃんなら悪用しないって、ちゃんと分かっていますから」
「ヴァンちゃんも?」
「俺はカハルちゃんを信じている。それに、カハルちゃんは悪い事が出来る様な性格じゃない。言い方は悪いけど臆病。それに、俺は悪者には容赦しないと決めているから良い策だと思う」
ヴァンちゃんの正直な意見に、カハルちゃんの体の強張りが消える。クマちゃんはどうかな?
「この魔法は何回もかける必要があるのキュ?」
「最初の一回だけだよ。条件を変える時は、また私が行かないと駄目だけどね」
「モキュ。働いてくれる皆が不快になるのは嫌なのキュ。お客さんも大事でキュけど、ビャッコちゃん達も同じように大事なのキュ。にゃんちん、魔法をお願いキュ」
「うん。明日、早速やるね」
「じゃあ、僕が連れて行ってあげるよ」
そんな僕達のやり取りを聞きながら、水晶の映像を見ていたダーク様がポツリと言う。
「大物が居るぞ」
「へっ? 誰ですか?」
「イザルトの中で一番と言われている暗殺者だ」
全員で慌てて映像を見る。
「どの人キュ? 誰なのキュ⁉」
「知らぬ間に目を付けられていたのでしょうか?」
「いや、クマもビャッコも落ち着け。この店の者とは限らないだろう?」
「はわわわ、どうしよう、ヴァンちゃん!」
「ニコも落ち着く。まだ、対処できる時間がある」
落ち着けと撫でてくれるセイさんに皆で群がる。
ダークが「いじめたい」発言です。見事に騙されてくれるニコちゃんの反応が楽しくてしょうがないダークなのでした。
カハルの魔法で不快な思いが減るといいですね。最後にダークが爆弾発言です。
次話は、大物は一人じゃありませんです。
お読み頂きありがとうございました。




