0246.アジフライ
最後に宿屋の女将さんの所に向かう。
「女将さん、こんにちはでキュ~」
「あら、クマちゃん、よく来たね。あら、ビャッコちゃんも!」
「お邪魔します」
「皆、お昼は食べたのかい? 良かったら食べていっておくれ」
「ああ、頼む。今日のメニューでいいか?」
「はい!」
全員それでいいらしい。あ~、色んな匂いが食欲を刺激する。隣の人のお肉おいしそう……じゅるり。あ、目が合っちゃった。てへへ(汗)と笑って誤魔化す。
「何だか昼時にここに座るのは変な気分ですね」
「店員さんでしたもんね。開店したら、ここで毎日ご飯ですかね?」
「確か、賄いを頂けると伺いました」
「モキュ。昼食代はクマが持つでキュから、ビャッコちゃんの好きな物を食べて貰っていいでキュよ。パン屋さんで買ってきてもいいでキュし、お肉屋さんでも市場でもいいのキュ」
話していたら、きつね色に揚がったアジフライが目の前に置かれる。
「はい、お待たせ! 熱々だから気を付けるんだよ」
山盛りキャベツとフライにソースをたら~っと掛ける。
「いただきます!」
フォークで刺すとザクッと良い音がする。あ~、堪りませんね、この音!
「はぐっ。――はふっ、はふ、はふぁ~」
「ほら、水」
お水で衣がふにゃんとなるのは悲しいので、セイさんにコクコクと頷いてみせて咀嚼していく。外はザックザックで中はふんわりなお魚。ソースが合うなぁ~。でも、醤油でもおいしいかもしれない。お魚と醤油って合うもんね。水をゴクゴクと飲んで、クルミパンをガブリ。うん、カリカリで香ばしい。
「クマ、食べられたか?」
「まだでキュ~」
セイさんが冷まして食べさせている。クマちゃんのふーふーでは中々冷めなかったようだ。
「おいふぃでキュ~。お魚、最高キュ~」
魚好きのクマちゃんも大満足のようだ。一方、ビャッコちゃんは熱さをものともせずに食べている。
「猫舌じゃないんですか?」
「はい。私は熱い物も平気ですよ」
「凄いです! きっとヴァンちゃんが羨ましがりますよ」
「ああ、この前も熱々の料理に挑んでいましたよね。負けてしまいましたが……」
「そうなんです。毎回挑むのでベロを火傷して、よく味が分からない時があると言っていました」
「いや、それは駄目だろう。今度から止めるか……」
セイさんが痛そうな顔で言っている。本当に優しくて面倒見が良い。カハルちゃんが自慢に思うのもよく分かる。
「はい、海老も食べな」
「ありがとうございます!」
女将さんが海老をサービスしてくれた。早速食べようとすると、お隣のテーブルのおじさんが頬を膨らませる。
「女将、俺にもくれよ~」
「なに、頬を膨らませているんだい。あんたがやっても可愛くないんだよ」
お仲間さんが噴き出している。
「確かに可愛くねぇよな。お前はおとなしくキャベツ食っとけ。俺のミニトマトもやるから」
「お前がトマト嫌いなだけじゃねぇか!」
「全くうるさいねぇ。グダグダ言うと放り出すよ!」
ここでは女将さんが最強らしい。全員、息子の様な扱いだ。
残念そうにしているおじさんをチラッとみてから、エビフライを半分にカットする。
「おじさん、半分ですけど、どうぞ」
「なっ⁉ なんて良い子なんだ! 俺は感動したぜ! おっちゃんの事は気にせず全部食べな」
「いいんですか? 海老好きなんですよね?」
「いいんだよ~。俺はもう胸がいっぱいで食えないからな」
う~ん、じゃあ、食べちゃおう。はむっ。んふふふ、プリプリだ~♪
「あー、可愛いなぁ」
「デレデレするんじゃないよ。そんな顔していると捕まるよ!」
お客さん達が爆笑している。お酒を飲んでいないのにテンションが高いなぁ。もぐもぐもぐ……。
その後も笑い声が絶えることの無い、楽しい昼食となった。
「お待たせしたね。今日はどんな用で来たんだい?」
「開店日が決まったのキュ。このチラシを貼って欲しいのキュ」
「あら、そうなのかい。――十五日だね。この日はケーキを用意してあげるからね。お祝いしないと」
「やったキュー!」
「お昼もうちで食べるかい?」
「お願いしまキュ。それとオーニングテントの事なんでキュけど」
「ああ、そうそう。業者には連絡済みだよ。あれはうちの物だから、クマちゃんはお金を気にしなくていいんだよ」
「キュ⁉ でも、クマの所為で――」
「なに言ってるんだい。クマちゃんに貸すって決めたのは、あたしだよ。覚悟なんて、その時に決めてあるんだから、遠慮するのは無しだよ」
「あ、ありがとキュ……」
泣くのを必死に堪えている。そんなクマちゃんの頭を撫でながら、女将さんが何かを閃く。
揚げたてのアジフライは大人気です。あ~、ザックザックの揚げ物が食べたい……。
隣の人の物が食べているものはより美味しそうに感じる不思議。ニコちゃんは気持ちが良く分かるので、半分こしてあげました。
次話は、押し花の栞を作ります。
お読み頂きありがとうございました。




