0242.俺は悪い男
「変化の術なのですよ。驚いたりした時などに、耳や尻尾がピョンと一瞬出てしまう事があります。以前、セイさんには見られてしまいました。まだまだ修行が必要ですね」
「十分に見事な変化だと思うよ。私にも狐さんの姿を見せてくれる?」
「はい。クマグマちゃん、離れていて下さいね」
後方宙返りをしたビャッコちゃんが真っ白な狐さんに変わると、一斉にモフモフ好きが近付いて来た。
「にゃ~、もふもふ!」
「ん? 狐? 触っていいか?」
「グマーーー!」
完全にモモ様が出遅れた。シッポにはカハルちゃんが抱き付き、ダーク様は前足をニギニギしている。クマグマちゃん達は目をキラキラさせながら取り囲んでいる。
「私が頼んだのに……」
ガックリと項垂れた哀愁漂うモモ様の前に、再度、ヴァンちゃんがバンザイして立つ。
「俺、空いてます」
「ヴァンちゃん!」
物凄く感激しております。僕もヴァンちゃんに抱き付いちゃおう。
「とりゃっ」
「出たな、ひっつきニコ。飴玉を一つ要求する」
「えっ、僕は有料なの⁉」
ガーンとしている僕の言葉に頷いたヴァンちゃんが、少ししてからニヤリと笑う。
「――――冗談」
「ふふっ。ニコちゃん、騙されちゃったね」
「本当ですよ! ヴァンちゃん、ひどい~」
「フッフッフッ。俺は悪い男」
そう言って、ビャッコちゃんにガバッと抱き付いている。
「うわっ、ヴァンちゃん⁉」
「素晴らしい毛並み……スリスリスリ」
止まる事の無い頬ずりに、ビャッコちゃんが助けを求めるようにこちらを見る。モモ様は笑いながら撮影に夢中だ。ここは僕が助けるしかないか。
「寂しいなぁ……。ヴァンちゃんが行っちゃって寂しいな……」
そう言って、チラッと目線をヴァンちゃんに投げると、頬擦りが止まってこちらを見ている。よし、後一押し。
「僕にはもう飽きちゃったんだ。はぁ、悲しい……」
「――ニコ、飽きて無い。一生大事。安心する」
ヴァンちゃんが急いでやって来て、僕の肩に手を置き真摯に言ってくれる。嬉し過ぎる言葉に罪悪感が生まれる。
「――僕もヴァンちゃんを一生大事にするからね!」
謝罪の気持ちも込めてガバッと抱き付くと、背中をポンポンと叩いてくれる。気付くと全員が温かな目で僕達を見ている。
「ラブラブでキュ~」
「そうだねぇ。愛だよ」
「あ~い~ちてる~♪」
「カハル、それを俺にも言ってくれ」
「おい、ダーク、何を言っているんだ!」
「グ~マ~♪ (あ~い~♪)」
クマグマちゃん達まで! 誰か、穴を用意して下さい……。
「最高傑作が撮れたよ! 永久保存版だね!」
モモ様が欲望に忠実過ぎる。ビャッコちゃんは良い笑顔で一緒になって映像を再生している。
「俺にも頂戴。ニコが良いこと言った」
ガクッと項垂れる。味方は居ないのか、味方は! こういう時は食べるに限る。丁度良い温度になったシュウマイに齧り付く。
「はぐはぐはぐ……。あー、おいしいなー」
取って付けた様な言葉に全員が笑って、シュウマイを食べ始める。棒読みになっちゃったけど、本当においしい。あ~、恥ずかしさよ、早く去れ~。
「モモ、からし要る?」
「うん。頂戴」
シン様とモモ様の辛い物好きコンビが黄色い物を付けている。黄色は危険。僕は学習しましたよ!
「俺にもくれ」
「ダーク様も辛い物が好きなんですか?」
「それ程でもないぞ。シンみたいな超激辛好きと一緒にされては困る」
「失礼だね。無理やり勧めたりはしてないでしょう。ねぇ?」
急に振られたヴァンちゃんが、パンパンなほっぺで目をぱちくりさせている。
「ふうぉ?」
「ほら、ヴァンちゃんも同意しているよ」
「嘘つけ」
苦笑しながら食べるダーク様をモモ様が不思議そうに見ている。
「シンとダーク様はどうのような関係なのですか?」
「腐れ縁だ。カハルが居なかったらとっくに切れている」
「セイ、聞いた? 酷いよね。反論していいよ」
「あー、まぁ、ダークはいつも苦労しているからな。気持ちは分かる……」
声がどんどん小さくなっていく。明らかにダーク様の味方だ。
「お前達の暴走を止めるこっちの身にもなれ。セイと俺はいつも苦労しっぱなしだ。なぁ?」
「……」
シン様が居るので無言を貫いたようだ。ヒョウキ様、ホノオ様、シン様を止めるだなんて考えたくもない。僕だったら精神があっという間に擦り切れてしまうだろう。
ニコちゃんが一番悪い男な気が(笑)。結局、罪悪感を感じてしまう良い子です。
いつもラブラブな二人です。恥ずかしいのはニコちゃんだけで、ヴァンちゃんは堂々としています。恥じる所は無しなのです。
セイは懸命に無言を貫きました。でも、心の中でダークに激しく同意です。
次話は、ニコちゃんが秘儀を使います。
お読み頂きありがとうございました。




