0238.救出作業
「――地下は煙が凄いな。しょうがない、破壊するしかないか……」
バキバキと地下の天井にあたる部分をセイさんが剥がしていく。
「――お待たせキュ。この中でキュね!」
「クマ、待て。煙を先に出さないと何も見えないぞ」
セイさんが一時的に鏡を仕舞ってしまったらしく、声だけしか聞こえない。
「――クマ、届いたか?」
「あと少しキュ。――もうちょいキュ。床に着いたキュ。――――あっ、居たキュ! しっかりするキュ! クマの声が聞こえまキュか⁉ セイしゃん、意識が無いキュ……」
「クマ、二人にしっかり触れていろ。――出来たか?」
「いいでキュ!」
「居間に飛ばすぞ」
戸口に二人を抱きかかえているクマちゃんが飛ばされてくる。急いでハイハイして近付いたカハルちゃんが癒しの光を与える。
「――グ……マ?」
「――グマ?」
良かった、目が覚めた……。全員無事だった事に胸を撫で下ろしていると、消火を終えたセイさんが戻って来る。
「全員居るか?」
ヴァンちゃんがクマグマちゃん達のリーダーに確認している。
「居る」
「そうか。火は消したが、火の回りが早くて綿はほとんど駄目だと思う。残っている物も煙の匂いが染みついてしまっているだろうな……。寝起きしている家はそれ程でもないが、綿の工場は被害が大きいな」
悄然として俯くクマグマちゃん達に、何と声を掛けてあげればいいのだろう? 撫でてあげる事しか出来ず、無力感に襲われる。
「――グマ、グマグマグマ、グマー」
リーダーが、全員の命が助かって良かったと言っている。確かに命があればやり直す事が出来る。でも、失くした物の大きさに心が打ちのめされてしまっているのが、よく分かる。
「グマー、グマグマグマ……(これから、どうやって暮らしていけば……)」
「グマ、グマグマ、グマグマグマ……(ただでさえ、今年は収穫量が減っていたのに……)」
暗い言葉が、その場を支配していく。
「はい、今は考えるのはヤメ。お風呂に入るよ。さぁ、みんな立って」
シン様に急き立てられて思わず立ち上がり、その勢いのままタライに入れられてしまった。
「お風呂は深すぎて無理だから、これで我慢してね。ニコちゃん、お風呂場から石鹸を取って来て」
「はい!」
急いで戻ると、びしょ濡れになったクマグマちゃん達が待っていた。
「ニコちゃん、ありがとう。みんなも手伝って洗ってあげてくれるかな」
泡を手に付けて、潰さないように優しく洗ってあげる。洗い終わった子はセイさんへ。泡を流し終わったらシン様が乾燥させている。流れ作業で効率よく終える事が出来た。
「流石に百人だと時間が掛かったね。セイ、この子達にお茶とおやつをあげてね。僕とクマちゃんはビャッコちゃんを迎えに行って来るから」
「ああ。俺がクマグマ達とコップを持って来るから、ニコ達はお菓子を先に配っていてくれ」
「はい。ボーロでいいですかね?」
「それで頼む。クマグマ、何人か一緒に来てくれ」
比較的、背の大きい子達が一緒に行くようだ。
居間では狭いので、寝る時に使っている部屋に移動して貰う。十人ずつで車座になって貰い、中心に紙を敷いてボーロを置いて行く。モモ様がその間にお茶の準備をしてくれた。
「紅茶は甘い方がいいかな?」
クマグマちゃん達が一斉に頷く。
「甘い物が好きなんですか?」
「グマ。グママグマ」
「あー、僕と同じで、お子ちゃま舌なんですね。ヴァンちゃん、仲間が増えたよ」
「フッ。俺はストレートで飲める!」
「えっ、いつの間にっ⁉ じゃ、じゃあ、コーヒーは飲めるようになった?」
「無理!」
速攻で答えが返って来た。「ですよね~」と全員で頷いていると、コップを各家から回収してきたセイさん達が戻って来る。
「お待たせ。モモ、頼むな」
「うん、任せて」
モモ様が注ぐと、バケツリレーのように、クマグマちゃんがコップを渡し合っていく。
「見事」
「そうだね。ヴァンちゃん、混ざりたいんでしょう?」
「うむ。混ざって来る」
モモ様から受け取り、次の子へ。身長差があるから途中に入るとお互いが大変だもんね。
お茶が全て行き渡った所で、シン様達が帰って来た。
「ただいまキュー」
「お帰りなさい」
「失礼します。皆さん、今日からよろしくお願いしますね。この熊さん達も住人ですか?」
まだ、何も説明を受けていないのか目を丸くしている。百人の白いモコモコ達、壮観です。
全員無事でしたが、被害が大きかったですね。
落ち込むと良い事がないですからね。さっさと気分を変えましょうという事で、お風呂とお茶とお菓子です。
ヴァンちゃんがいつの間にかストレートで飲めるように! ヴァンちゃんが大人になっていく(笑)。
でも、コーヒーは無理なので、ニコちゃんは置いて行かれずに済みそうです。
次話は、相談受付中です。
お読み頂きありがとうございました。




