0237.アケビちゃんの代弁?
「よし、よし、泣くでねぇ。おらがいいもん持って来てやったから。ほーら、あけびだよぉ」
外から戻って来たヴァンちゃんの口調がおかしな事になっている。
「ヴァンちゃん、どうしたの?」
「ん? アケビちゃんの代弁」
外ではアケビちゃんがフルフル首を振っている。
「違うみたいだよ?」
「気にするなぁ。大体こんなもんだべ。なぁ?」
そう? そうなのかな? とアケビちゃんの思考が、「はい」に傾いていく。
「ガ、ガウ? (た、たぶん?)」
「んだべぇ。さぁ、食べろぉ」
受け取ってモグモグ食べる。うん、おいしい。他の人が俯いて誰も受け取ってくれないらしく、ヴァンちゃんが覗き込んでいる。
「セイさん、あけび嫌い?」
「……いや、貰う。ありがとな」
次はシン様を覗き込みに行ったようだ。
「――ヴァンは淡々とああいう事をしてくるな」
「そうですね。真面目でクールで、あんな事しそうにないって思われているらしく、ダメージがでかい! ってよく聞きますね。僕にとっては当たり前の事なので、面白いなぁで済みますけど。もぐもぐもぐ……」
セイさんが半分差し出してくれたのを有り難く頂いていると、モモ様が会話に混ざって来る。
「ヴァンちゃんて面白いね。天然?」
「村では僕よりも上だって言われていますよ。でも、自分ではどんな行動が天然なのか、さっぱり分からないんですよねぇ」
ああ、シン様が苦しそう。この家で最もヴァンちゃんにはまっているのはシン様だもんねぇ。
「シン様、おらが森で一番うんめぇの取って来てやったから、食べろぉ。と、アケビちゃんが思っている筈」
アケビちゃんが頭を傾げかけて、頷きに変えている。大筋は合っているけど、何かが違うと思っているのだろう。
「あ、あり、ぶふっ、ありが、――っ!」
駄目だな。暫くあけびは受け取れないだろう。ヴァンちゃんは受け取って貰えるまで待つ事にしたのか、シン様の前に正座している。無意識でプレッシャーを掛けるとは、流石ヴァンちゃんである。
あけびの皮を片付けようとした所で、何かの匂いに気付く。……クンクン。ん? 何だか焦げ臭い気が。どこが発生源だ?
「――⁉ 大変です! 煙が!」
クマグマちゃん達のお家へと続く扉の隙間から煙が漏れてきている。
「――おっと。皆、離れて」
瞬時に笑いを収めたシン様が扉を開けると、クマグマちゃん達が一斉に走り出て来た。
「グマ、グマー!」
「グ、グマー!」
混乱しているクマグマちゃんを、セイさんが移動の魔法で座布団の上に飛ばす。
「ヴァン、見てやってくれ」
「了解。――みんな、もう大丈夫。シン様達が何とかしてくれる」
水魔法が得意なセイさんが扉に吸い込まれて行く。その後ろをクマちゃんが追う。
「あっ、クマちゃん⁉」
「大丈夫、結界の札を持っているから。セイだけだと救出が困難だからね」
それでも心配でソワソワしてしまう。
「シン様、中にまだ五人残っているらしい」
「ありがとう、ヴァンちゃん。――セイ、残り五人だよ」
通信の鏡で教えてあげている。後ろから覗き込むと、クマグマちゃん達のメルヘンな空間のあちこちで火が上がり、綿畑が勢いよく燃えている。丹精して育てた綿が……。そこに、セイさんが雨を降らせて消火している。水を大量に使うと、空間が水で満たされてしまうのかもしれない。
「――クマ、どうだ、居たか?」
「居たキュ! ――クマが支えているから、こっちに来るキュ。もう大丈夫でキュよ。扉に向かってキュ」
上から落ちて来た木材の所為で閉じ込められていた子が二人救出された。
「どこに居るでキュか? 返事をしてキュ!」
「――グマァ……」
か細い声が聞こえる。どこだ? どこに居る?
「――クマちゃん、上です! 虹の上で倒れています!」
「モキュ! 今、行くでキュよ! セイしゃん、お願いキュ」
セイさんが倒れているクマグマちゃんを手の平でそっと掬い、クマちゃんに渡す。
「動けない様だから、運んでやってくれ」
「了解でキュ」
セイさんは残って声を掛けているが、全く反応が無い。気絶しているのだろうか?
「――にゃんちん、助けてあげてキュ!」
走り出て来たクマちゃんから、そっと受け取ったカハルちゃんが癒しの光を使う。体が小さいからなのか、あっという間に全快したようだ。
「――グ、グマ? グマ! グマグマ、グママーグマグマ! グマグマー」
「セイさん、地下の綿の倉庫に二人残っているそうです!」
「了解。クマ、戻って来てくれ」
頷いたクマちゃんが勢いよく走って行く。
ヴァンちゃん、自由ですね~。苦しそうなシンに追い打ちを掛けます。
アケビちゃんが、「あれ、自分が間違っている??」となっている所が可愛いです。
火事です! クマちゃんがカッコイイですね。やっぱり、クマグマちゃん達の兄貴ですね。
次話は、クマグマちゃんをお風呂に入れます。
お読み頂きありがとうございました。




