0236.嫌いにはなりません
「……ねぇ、私の事を嫌いになってしまった?」
モモ様が僕達を見回して不安そうに聞いてくる。
「何でキュ? クマの恩人さんを嫌いになったりしないキュ。感謝でいっぱいなのキュ」
「一族の中で生きて行く為には掟みたいなのがあると思います。でも、モモ様は必死に抗って来たんですよね? 殺さずを貫いたモモ様を凄いと思いこそすれ、嫌いになんてなりませんよ。確かにビックリはしましたけど。ね、ヴァンちゃん」
「うむ。モモ様、俺達に優しい。それで十分。モモ様が思っているより、俺達は身勝手。それに、俺達は主様を守る為に戦う。命を奪い奪われる覚悟は、一般の人よりも理解出来ていると思う」
取り囲んで次々と声を掛ける僕達を不思議そうに見ている。そして、躊躇いがちに僕達の頭を撫でる。
「……そんな風に言って貰えるなんて思っていなかったよ。二度と君達とは会えなくなる事を覚悟して告白したのだけれど……。ヴァンちゃん、一つ訂正させて。君達は身勝手ではないよ。心が広くて優しく強い、素敵な子達だよ」
そうかなぁ? と顔を見合わせていると、モモ様がクスクス笑う。
「首の傾く角度が全員一緒だよ。ふふっ、仲良しだね」
「にゃかよしなのぉ」
カハルちゃんが起きて僕達に手を伸ばす。
「うわっ、動いちゃ駄目だよ! わっ、とっ」
抱きなれていない所為でモモ様がパニック状態だ。いつも優雅なモモ様がこんなに慌てるなんて珍しい。
「モモは下手だね。セイ、抱っこしてあげて」
「ああ。モモ、こちらに」
「そんな……。頑張るから、このままで居させて」
「おとうちゃ、せい。えーとね、こころがきじゅ、きちゅ、き! じゅ! にゃーーーっ、いえにゃーい!」
カハルちゃんがキレました。全員の口元がムズムズしている。
「う、ん。心が傷付い、ふふっ、ごほん……。心が傷付いているって言いたいんだよね?」
「そうにゃの! まだ、そばにぃ、いるのー」
咳払いして誤魔化したシン様には気付いていないようだ。セイさんはプルプルするのがばれないように、早々に伸ばした手を引っ込めている。
「連れて帰ってもいい?」
「調子に乗り過ぎ」
シン様に頭をペチッと叩かれている。取り敢えず、モモ様の苦しそうな様子が無くなったから良しとしよう。でも、隠すのが得意な人だから、今まで以上によく見ていようと思う。
「カハルちゃんは渡しませんよ!」
「そうキュ! 今日はまだ一回も鼻を叩いていないのキュよ!」
「たたかしぇないもん! くまちんめぇ」
「何をー、にゃんちんめぇ。こうしてやるでキュ。とりゃーでキュ!」
クマちゃんとカハルちゃんの攻防が始まる。お腹によじ登ったクマちゃんの肉球が鼻に振り下ろされ、カハルちゃんがそれを両手で挟む。
「離すのキュ~」
「はなしゅものか~」
お互いに気合が入っている顔をしているが大丈夫なのだろうか? シン様が笑って見ているから危なくないか。
「どっちが勝つかな?」
「たぶん引き分け」
モモ様とヴァンちゃんが見守る中、クマちゃんがスポッと手を抜く。あれ? 意外と簡単に抜けた。お互いに力を入れていなかったようだ。
「今日はこれぐらいにしておいてやるでキュ」
「しょれは、こっちのしぇりふだもん!」
「べーっ、でキュ」
「べーっ、だぁ」
何とも可愛らしい戦いだ。その時、立ち去ろうとしたクマちゃんが服に足を取られて転ぶ。
「――キュッ⁉」
「――くまちん! だいじょぶ?」
慌ててカハルちゃんが起こしてあげている。
「大丈夫キュ。ありがとキュ」
「うん。きをちゅけてね」
「モキュ」
「何だかんだ言いつつ、大の仲良し二人組なのだった……」
「えっ、ナレーション⁉」
ヴァンちゃんが満足気に頷きながら外へ歩いて行く。その姿を見てモモ様が悔しがっている。
「ヴァンちゃんの名言を撮り逃しちゃった。もういっそ、頭に水晶を固定しておくべきかな?」
「いや、危ない人だと思われるから、止めておいた方が……」
「セイは反対なの? ニコちゃんはどう思う?」
「髪飾りみたいのなら良いと思いますよ。丸いほうが容量は大きいですけど、流石にちょっと……」
「残念……。シン、ヴァンちゃんを――」
「却下。うちの子は誰にもあげません。あんまり我が侭を言うと放り出すよ」
「言ってみただけなのに。カハルちゃん、シンが冷たいよ。……あれ? 寝ている。悲しい……」
嬉々として話し掛けたら、寝ているという事が僕もよくある。悲しい……。
あっけらかんとした「嫌いになったりしない」にモモはびっくりです。真実を知っても離れない人が居るのだなと知る事が出来たモモでした。
自分のいう事をきかない口についにキレたカハルです。中身は赤ちゃんじゃないので、フラストレーション爆発です。周りからしたら、ただただ可愛いくて面白いです。
次話は、ヴァンちゃんの口調がおかしな事に……。
お読み頂きありがとうございました。




