0230.犯行の動機
「――お替り」
「ヴァンちゃん、いくねぇ。三杯目でしょ?」
「うむ。鯛めし、うまい。ニコもいっぱい食べる」
シン様が大盛で持って来てくれた。おこげが美味しそうだ。
「ニコちゃんも食べる? 後少しだけあるよ」
「お吸い物もまだ残っていますし、僕はもう十分です」
「そう。セイは?」
「俺も十分だ」
「じゃあ、僕とカハルで食べちゃおうかな」
土鍋が綺麗に空になってしまった。何だか元気を沢山食べたような気分だ。クマちゃんもだいぶリラックスした表情になって一安心だ。今日はこの幸せな気分の内に眠ってしまおう。夜に考え事をすると暗くなりがちだもんね。おやすみなさい……。
翌朝、シン様の通信の鏡がピカピカと光る事で目が覚めた。
「シン様、通信の鏡が光っていますよ。ふあ~……」
「こんな早くに誰だろう?」
あくびを連発しながら様子を窺う。
「――はい。あれ、ヒョウキ。緊急?」
「ああ、悪い。クマの店の棚を壊した奴と、そいつが使った札とかを作った裏の奴らが捕まった。今から来られるか?」
目がパッチリと覚めた。途中から起きて話を聞いていた、ヴァンちゃんとクマちゃんと共に飛び起きる。
「僕達も連れて行って下さい!」
「うん。僕は先に行っているから、セイと一緒においで」
慌てて服を着替えて、カハルちゃんとお散歩しているセイさんを呼びに行く。
「あれ? モモ様」
「みんな、おはよう」
意外な顔を見付けて走り寄る。シン様を見ても肩を竦めているので、事情は知らないという事か。
「全員集まってから話そうと思って待ってたんだよ。モモが話してくれるか?」
「畏まりました。シンから判明している情報を聞き、私が独自に調査致しました。まず、木片や防水の布などから僅かな魔力を見付けました。魔力というものは一人ひとり違いがあり、同じ人は存在しません。特に強い感情を持って行動した際に魔力が濃く残ります。私の一族はそれを増幅させ、追う事を得意としています」
ヴァンちゃんがウズウズとしている。何か質問がしたいらしい。
「あの、質問してもいいですか?」
「勿論。なぁに、ニコちゃん?」
「えっと、僕ではなくてですね。ヴァンちゃん、していいって」
「ニコ、ありがとう。魔法が使えない人は?」
「魔法が使えない人でも必ず魔力は持っているよ。この世界で魔力を持たない者は存在しないからね」
ほぉー、とヴァンちゃんと一緒に頷く。僕にもヴァンちゃんにも固有の魔力があるという事か。
「クマにもあるキュ?」
「うん、あるよ。私には白くて柔らかい光の様に感じるよ」
クマちゃんが「あるっキュよ!」と興奮して、抱っこしている僕の手をポシポシと叩く。僕も後でどんな魔力なのか聞いてみよう。
「続けるね。それを追った所、シンが目を付けていた花屋の男のものでした。少し強めに問い質しただけでボロが出て来たので、土の国の兵士に引き渡し家を調べました。そして、所々塗料が剥げているバールと現場に残っていた塗料が一致しました。それと、犯行に使われた魔法粉の残りと、それが付着したナイフも見付けました」
ヒョウキ様が途中で「少し?」と呟いているけど、どうしたのだろう?
「その後、魔法粉の魔力を追って行き、裏の組織を壊滅させ、捕らえられていた精霊を保護致しました。そして、目隠しの魔法粉で犯罪を行っていた者や、繋がっていた奴らも一人残らず捕らえました。製法に関しては魔国で処理して下さるとの事なので、報告は以上ですね」
随分あっさりと締め括られたな。本当に精霊さんが捕まっていたのか。可哀想に……。
「保護した精霊はフォレストの所に居る。精神的に参っていて、証言が聞ける状態じゃない」
ヒョウキ様の言葉に皆が目を伏せていると、カハルちゃんが手を挙げる。
「わたちがしょばにいってくるね」
「そうだね。行こうか」
そうか、カハルちゃんの癒しの力が効くんだ。シン様と共に移動の魔法で消える。
「クマは何かあるか?」
「何で……何であんな事をしたか聞きたいのキュ」
聞きたいと聞きたくないの間で揺れているクマちゃんの前に、モモ様が膝を付く。
「私が答えるね。彼の店は徐々にお客さんが減って来ていたらしくてね。そこへ、クマちゃんの出店の情報を聞いて、かなり焦りを覚えたのだって。このままでは暮らしていけなくなる、何とか阻止したいって」
徐々に減って来ていたのなら、クマちゃんの事が無くても、遅かれ早かれ店を閉める事態になっていたのではないだろうか?
「悪い奴等から借金もしていたらしいぞ」
「お店の経営状態が悪かったからですか?」
「うんにゃ、ギャンブルだと。酒のトラブルもあったらしい」
黙って聞いているクマちゃんに目をやる。今、どんな気持ちなのだろう……。
モモがクマちゃんの為に動きました。優秀な男です。
犯人は花屋の男でした。ビャッコちゃん、良い所までいけていましたね。
お店の経営状態が悪くなったのは本人の所為でした。酔って暴言を吐いたり、お店をちょくちょく休んだりなどした結果です。
次話は、皆でもう一度、棚を作ります。
お読み頂きありがとうございました。




