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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0229.鯛の鯛

「ただいま戻りました」

「みんな、お帰り」


 家に着くと、クマちゃんがせっせと宣伝用の紙を作っている。ふーと息を吐いて顔を上げたクマちゃんが、セイさんを見付け、ギョッとしている。


「キュ⁉ キュ……。セ、セイしゃん、お話がありまキュ」

「ん? 改まってどうした?」

「あのでキュね……あの……」


 なかなか言葉が出てこないようだ。側に行って手を握る。


「頑張って下さい、クマちゃん」

「ニコちゃん……」


 決心した様に頷いたクマちゃんが話し始める。


「セイしゃんが作ってくれた棚なんでキュけど、壊されちゃったのキュ。一生懸命作ってくれたのに……。ごめんなさいキュ」


 深々と頭を下げるクマちゃんを、セイさんは目線が合うようにそっと持ち上げる。


「クマが責任を感じる事は無い。棚なら俺が幾らでも作ってやる。丁度いいのではないか? 腕が上がって」


 セイさんの冗談の様な言葉に、緊張していたクマちゃんが顔を上げる。


「許してくれるのキュ?」

「ああ。クマは前よりも良い棚が貰えると喜んでいればいい」


 泣き笑いのような表情になったクマちゃんを、セイさんが優しく抱き締める。


「良い男、ナンバーワン」


 セイさんの足をポシポシと叩きながらのヴァンちゃんの言葉に全員が笑う。本当にこの家族は素晴らしい。


「勇気を出してモモしゃんにも伝えるキュ」

「そうか。では、俺が抱っこしていてやろう」


 僕とヴァンちゃんもクマちゃんに寄り添うと、通信の鏡に緊張しながら声を掛けている。


「モモしゃん、出られまキュか? クマでキュ」

「――クマちゃん? 嬉しいな、クマちゃんから連絡をくれるなんて」


 満面の笑みのモモさんにクマちゃんの罪悪感が増したのか、ボロボロと涙が頬を伝っていく。


「えっ⁉ どうしたの? 私が何かしてしまった?」

「ち、違うのキュ。しちゃったのは、クマ、なのキュ。フ、フキュ、キュ……」


 慌てているモモ様に僕から事情を伝える。クマちゃんは、やはり空元気だったのだろう。ずっと我慢していた所為なのか、涙が止まらなくなってしまっている。それでも必死に謝ろうとする姿に胸がジクジクと痛む。


「クマちゃん、そんなに泣かないで。私がまた作ってあげる」

「ご、ごめ、フキュ、キュ、キュミー……」


「うん。もう十分にクマちゃんの謝罪の気持ちは受け取ったから、今日はゆっくり休んでね。そして、また元気な顔を私に見せて。それが私には一番嬉しい事だから。ね?」


 涙でぐしゃぐしゃのクマちゃんが小さく頷く。その手からシン様が優しく鏡を抜き取る。


「お風呂に行っておいで。さっぱりしたら、心も少し軽くなるよ」


 セイさんに連れられて皆でお風呂に向かう。その後ろではシン様がモモ様と話し込んでいる。お任せすれば大丈夫だよね。



「今日はクマちゃんの好きなお魚だよ」


 ドンと土鍋が目の前に置かれる。少し気分が浮上したクマちゃんと共にオープンの瞬間を待つ。


「よいしょっと――」


 湯気がぶわっと出て来る。あー、いい匂い。浴びたら幸せになれそう……。


「凄いキュ、お魚丸ごとでキュよ!」

「うわっ、大きい!」

「鯛めしだよ。ヴァンちゃん、そんなに鼻を近づけると火傷しちゃうよ?」


 ヴァンちゃんの腰を持ってセイさんが移動させている。本当に面倒見が良いよね。シン様がその姿に笑いながら、骨などを外してご飯と混ぜ合わせ、大葉が散らされる。


「はい、どうぞ。お腹いっぱいお食べ」

「ありがとキュ。いただきまキュ」


 口いっぱいに頬張って幸せそうに味わっている。美味しい物って心を慰めて丸くしてくれるよね。僕もゆっくり味わって食べよう。


「大葉が綺麗だな」

「そうでしょう。目でも楽しめるし、食欲を刺激してくれるからね」


 そう言ってシン様がクマちゃんをチラッと見る。そうだよね、心が落ち込むと食欲も落ちちゃったりするもんね。


「にゃんちんも鯛が好きでキュ? あーんでキュ」

「あー」


 座布団に寝かせられているカハルちゃんに、クマちゃんが食べさせている。何とも可愛い光景だ。


「クマちゃん、鯛の鯛だよ。縁起物らしいよ」

「キュ⁉ 骨が鯛の形キュ! 面白いキュ。にゃんちんも見るでキュ」

「おぉ、ちいちゃい、たいなのぉ」


 ヴァンちゃんと僕も近寄って見せて貰う。


「目がある」

「本当だ。これはどこの骨ですか?」

「胸びれを動かす為の骨だよ。目のように見えるのは神経が通っている穴だね」


 まじまじと見てから食事に戻る。僕のお茶椀にも入っていないかな? 隣ではヴァンちゃんも探している。


「ふふっ、お茶碗には入っていないよ。――はい、取れた」


 目の前の小皿に置いてくれる。


「もう一匹居た」

「ねぇ。これはクマちゃんにあげる?」

「そうだな。縁起物と言っていたからあげよう」


 ヴァンちゃんが渡すと慌てて断っている。


「二匹しか居ないのキュ。ヴァンちゃんが持っているキュ」

「クマちゃんが貰ってくれないと、俺とニコが喧嘩する事になる」


 うんうんと僕が頷いて見せると、ようやく受け取ってくれた。


「ありがとキュ。大事にするキュ」


 セイさんに洗浄と乾燥をして貰ってお財布に入れている。あれならいつでも縁起物を持ち歩けるよね。


クマちゃんが勇気を出してモモとセイに謝罪です。二人共、快くもう一度作る事を約束してくれました。

その優しさに、余計泣けてしまうクマちゃんです。

鯛めし、ドーンです。シンなりに精一杯の励ましです。縁起物を体の中に持っている鯛を選んでみました。


次話は、モモが活躍します。


お読み頂きありがとうございました。

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