0227.黄色も危険⁉
「本日のメニューはカレーになります。沢山召し上がって下さいね」
香辛料の匂いが食欲を刺激する。早速スプーンをグサッと入れようとするとシン様に止められる。
「辛いかチェックするね」
黄色も危険⁉ 麻婆豆腐の時のようにはなりたくないので大人しく待つ。
「――うん、大丈夫。甘いカレーだったよ」
「わーい、いただきまーす」
クマちゃんと一緒に口の周りを黄色に染めながら食べていると、女将さんがサラダを運んで来てくれた。
「リンゴとハチミツで甘くしたんだけど、どうだい?」
「とーっても美味しいです」
「おいふぃキュー」
「はははっ、そうかい。いっぱいあるから、お替りしておくれ」
クマちゃんの元気な姿に女将さんが相好を崩しながら厨房に戻って行く。しっかりとお替りもしてお腹を撫でていると、ビャッコちゃんが机にやって来た。
「相席させて下さい」
「どうぞ、どうぞ。今から休憩ですか?」
「はい。次の波が来る前にお昼です」
食事風景を眺めながら、カハルちゃんとシン様の会話を聞く。シン様が指をパチンと鳴らしたので、結界を張ったのだろう。
「あれねぇ、ふちゅうはでまわってにゃいまほーなのぉ」
「そうだよね。裏で手に入れたのかな?」
「たぶん。かぜのまほーこもぉ、にゃんかやなかんじーなのぉ」
普通に出回っていない魔法に嫌な感じの魔法粉か。全く、どこにでも悪い事をする人が居るものだな。
「目隠しの魔法と言っていましたよね。難しい物なのですか?」
「幻影の魔法を使えるのはカハルだけだからね。他の魔法でもある程度は隠せるけど、おじいさんは『何もなかった』と言っていたでしょう。そこまでのレベルだと、手に入りにくい材料を集めて魔法粉を作る事になるかな。後はカハルのレベルには及ばないけど、術が使える種族も居るね」
「――私のように、ですね」
「そう。でも、僕は君を疑ってなんかいないよ」
食べ終えたビャッコちゃんが会話に加わる。僕もビャッコちゃんが悪い事をするとは思えない。
「ですが、私の他にも一族は居ますから。一応、探りを入れて来ます」
「うん、よろしく。後はフォレストに聞いてみるかな」
「フォレスト様ですか? 魔法粉に詳しいんですか?」
「うーん、材料に詳しいかな。使われている物の一つが、精霊の羽根の粉だから」
それは確かに手に入りにくいよね。――ん?
「捕まっている精霊さんが居るかもしれないという事ですか⁉」
「最悪ね。そうじゃなくても被害に遭った精霊が居るかもしれない」
何て事だ! 居ても立っても居られずに椅子から飛び降りると、女将さんに捕まる。
「あら、口の周りがカレー色だよ。クマちゃんもおいで」
メイド長さんだけではなく女将さんにも捕まるとは……。綺麗になる頃には冷静さが少し戻って来た。
通信の鏡で話していたシン様が、僕達が戻って来たのを見て立ち上がる。
「帰る前に表を片付けちゃおうか」
そうだった。あの悲しい場所を綺麗にしなくては。クマちゃんは大丈夫かなと顔を覗き込むと、大きく頷いてくれる。
「頑張りましょうね」
「キュー!」
バラバラの木材や布などは袋に集めるだけで、捨てずに路地に置いておいた。まだ何か分かる事があるかもしれない。
「新しいオーニングテントを買わないとね」
「そうでキュね。棚も……」
悲しそうに目を伏せたクマちゃんの頭をシン様が撫でる。
「また作って貰おうね。セイ達なら、ぱぱっと作ってくれるよ」
「モキュ……」
まだ不安そうなクマちゃんがハッとしたように顔を上げる。
「ビャッコちゃんの面接をしていなかったでキュ」
「そうだったね。あまりにも馴染んでいるから忘れていたよ」
そこへ本人が現れる。
「お待たせしました。片付けはもう終わりですか?」
「うん。クマちゃん、面接する?」
「モキュ。ビャッコちゃん、いいでキュか?」
「ははは、そうでした。すっかり忘れていました。お願いします」
宿に戻ると女将さんが遅い昼食を食べていた。
「あら、みんなでどうしたんだい?」
「面接を忘れていたでキュ」
「あら、そうだったねぇ。すっかり頭から抜けていたよ。そこのテーブルを使っておくれ」
カラカラ笑う女将さんの隣に僕はストンと座る。
女将さんが元気が出るようにと用意してくれたのは甘いカレーでした。
メイド長さんがカレーの汚れを見たら、物凄い速さで連れ去りそうですね。
皆で面接を忘れていました。結局、ビャッコちゃん一人になってしまいましたね……。
次話は、花束作りに挑戦です。
お読み頂きありがとうございました。




